満員のオーディエンスで身動きが取れないほど混雑したステージ前は汗とウィードの臭いで充満していた。4月7日、ニューヨークの老舗ライブスペースSOB’sで行われたパーティーは2組のライブを終え、その盛り上がりは頂点に達していた。すると突然、入り口から数十人に及ぶ集団が満員のフロアに勢い良くなだれ込んできた。混雑する客と煙をかき分けて次々とステージになだれ込む集団に会場は一時騒然となる。そして物々しい雰囲気の中、集団と共に一人の男がステージに立つと満員のオーディエンスは狂喜乱舞した。金髪に染めた髪をなびかせ、顔をマスクで覆うミステリアスな男。アジアのヒップホップをネクストステージに上げた韓国出身のラッパーKeith Apeの登場だ。まずはフロア中にどよめきが走った衝撃のライブ映像を見て頂きたい。
“It G Ma” In NYC
今、アジアのヒップホップシーンに留まらずUSのヒップホップシーンにもその名を轟かすラッパーKeith Ape。映像を見ての通り、ステージ上もフロアに負けないくらいの人口密度(これでも危険と判断した店側の要請で少なくなった方)で酸欠寸前の大盛り上がりとなった。そしてこのライブで特筆すべきは会場中のオーディエンスが合唱している言語が韓国語であるところだ。いまだかつて英語以外の言語を使った異国のラッパーがアメリカでここまでの熱狂の渦を巻き起こした事はあっただろうか。今回のコラムでは、今大注目のラッパーKeith Apeに迫る!
元々、Kid Ashの名でソウルを拠点に活動をしていたKeith Ape(21)は、韓国アンダーグラウンドシーンで絶大な支持を集めているクルー“The Cohort”のメンバーであるOkasianによって見いだされ、同クルーに加入。加入当初からクルーの最年少でありながらメンバーからは”天才”と称されるほどの実力と存在感を放っていた。そして昨年9月に韓国のレーベルHI-LITE RECORDSと契約した頃に現在の名前に改名。幼少の頃からキース・ヘリングに夢中だった事からキースという名に洗練されたイメージを持ち続けたKeith Apeはその名を拝借。そしてその“洗練”されたイメージの反対の意味を持つ言葉として猿人類(APE)を選び現在のKeith Apeの名は完成したという。レーベルに加入した事で金銭面を気にせず楽曲制作に打ち込むことがでできるようになったというKeith Apeは、より精力的に活動を開始。また、ラップだけではなくMVなどのアートディレクションでもその才能を発揮。昨年YouTubeに投稿された楽曲“Hot Ninja(Hot Nigga Remix)”のMVでは、その卓越センスを披露した。
KEITH APE – Hot Ninja(Hot Nigga Remix)
韓国のアンダーグラウンドシーンでその存在感を示し始めたKeith Ape。その運命を大きく動かしたのは一本のMVだった。今年元旦に自らの楽曲“It G Ma”(イッジマは韓国語で“忘れるな”の意味)のMVをYouTubeに投稿。同楽曲にはThe Cohortのメンバーである韓国のラッパーJayAlldayと Okasian、そして日本からは Loota、 Kohhも参加しており、それぞれが素晴らしいラップを披露。この日韓共演の楽曲が制作された経緯は、日本での活動経験を持つJayAlldayによる人脈の上で実現したという。
Keith Ape – (It G Ma)ft. JayAllday, loota, Okasian, Kohh