キョウ ナニカガ オコル?

この世の中、意識的に気づこうとしても、なかなか気づけない“モノ”や“コト”が溢れすぎではないだろうか。その大概が、気づいたときにはもう“始まり”を迎えていて、あとは流れに身を委ねるように、その波に飲まれていくしかない。

「繧ュ繝ァ繧ヲ 繝翫ル繧ォ繧ャ 繧ェ繧ウ繝ォ?」

2024年1月16日、午前9時。Xを開き、寝ぼけ眼でタイムラインを転がしていたところ、こんな文字列が目に入った。投稿主は、新世代シンガー・yamaのスタッフ公式アカウント。筆者はいわゆる“ネット民”、かつ、仕事でもこうした“文字コード”由来の文字化けに触れる機会も多い。初めは「公式アカウントでもこんなミスするんだ」程度の気持ちで、起きがけながらも文字コードの設定を変更し、文字化け前のテキストの意味を確かめてみた。

【レポート】yamaが5人!?──yama「暗号を解いた人」限定ゲリラライブを“解読”

「キョウ ナニカガ オコル?」──はて? まったく検討がつかない。yamaが来る1月24日に新アルバム『awake&build』を発売すること。そのうち、この日の翌日にあたる1月17日に収録曲“偽顔”が先行リリースされることは、うっすらとだが頭にはあった。が、このとき、なにが起きていたのか。おもしろい企画に、偽物に、サプライズ。そのいずれの片鱗にすらも、まだ気がつくことができなかった。一体、なんのこと?

ただ、若干の違和感があったのも事実。いつもとなにかが違う。そう思いながら、とあるアーティストの取材のため、渋谷の街を歩いていたのが午前10時すぎ。約束の時間まで少し余裕があるため、優雅に朝食でも…と思っていると、普段でも異様さを感じる渋谷に、普段以上に異様な光景が目に飛び込んできた。yamaがいたのだ。しかも、5人も。

【レポート】yamaが5人!?──yama「暗号を解いた人」限定ゲリラライブを“解読” report240118-yama-008

渋谷の街に出現した5人のyama 通行人の反応はいかに?

奇妙さを抱いていたのは、筆者だけではない。「変な奴がいる」「髪色がさ〜」など、通りすがりの人々から、ちらほらと心の声が風にのって届いてくる。たとえyamaを知らずとも、さすがに注目の的にならざるを得ないだろう。先頭から順に、グリーン、パープル、ピンク、イエロー、レッドと、ビビッドな髪色。全員が純白かつ、胸元に“Deepfaker”とプリントされたフーディで衣装を揃え、仮面を付けている。いくら渋谷といえ、朝の網膜にはインパクト大だ。

【レポート】yamaが5人!?──yama「暗号を解いた人」限定ゲリラライブを“解読” report240118-yama-006

日本の一大観光地=渋谷のスクランブル交差点で信号待ちの先頭に立ちながら、明らかに周囲の人間が寄りつこうとしていない。どこか神聖で、どこか不思議で、微妙な距離感。そんな集団に、海外観光客もしきりにカメラを向けていた。日本旅行の土産話にでもなるのだろうか。動画サイトの“実況主”らも、突然の“ネタ投下”に駆けつけて、自身と同じフレームにyamaの集団を収めようとする。いずれにせよ、まだ時間に余裕はある。おもしろそうなので、遠巻きに見守る形で、yama隊列の後ろをつけてみた。

【レポート】yamaが5人!?──yama「暗号を解いた人」限定ゲリラライブを“解読” report240118-yama-0012
【レポート】yamaが5人!?──yama「暗号を解いた人」限定ゲリラライブを“解読” report240118-yama-0013

5人のyamaが巡ったコースは、改装中のSHIBUYA TSUTAYAをはじめ、渋谷センター街と、同エリア内のマクドナルド、CLUB QUATTROなど。各スポットではわずかな時間ながら立ち止まり、建物を見上げながら、一人ひとりが胸の前で三角形を作るyamaポーズを見せていた。マクドナルドでは、2階席窓側の客が一斉にスマホでカメラ撮影を始めたのが、遠くから眺めていておもしろかったし、CLUB QUATTROは、かつて対バンライブなどでも訪れた思い出の地。あのサインにも、なにか意味があったのだろうか。

【レポート】yamaが5人!?──yama「暗号を解いた人」限定ゲリラライブを“解読” report240118-yama-009
【レポート】yamaが5人!?──yama「暗号を解いた人」限定ゲリラライブを“解読” report240118-yama-0010
【レポート】yamaが5人!?──yama「暗号を解いた人」限定ゲリラライブを“解読” report240118-yama-007
【レポート】yamaが5人!?──yama「暗号を解いた人」限定ゲリラライブを“解読” report240118-yama-0011

さて、前提の話に戻るが、yamaの集団の正体と、その目的は一体? 通りすがりの人々が“んんっ?”と、お手本のような二度見を繰り返すなかでも、若者が出会い頭に「yamaやん」とツッコミを入れていたり、反対に「yamaかと思ったら“偽物”だわ」と残念そうに呟いたりと反応はさまざまだったが、やはりわかる人は、yama、あるいはyamaに近しいなにかだと認識するらしい。たしかに、あの5人のうちに“本物”が紛れているにしても、全員が同じような身長。歩き出す際にも一列に並び、隊形は乱れない。唯一違うのは、トレードマークの髪色のみ。

結果的に、あの集団の正体、ならびに本物のyamaがいたのかはわからず終いだった。不思議なオーラを感じたのだろう。30分間ほど渋谷の街を歩いたにも関わらず、話しかける人間はほとんどおらず。唯一、筆者が見かけたのは、センター街にいたギャル集団。通りすがりに「やぁ!」と投げかけていたが、yama軍団は華麗にスルー。その反応に爆笑を見せる一同。ギャルの辞書に、“物怖じ”の3文字はない。

YouTubeのコメント欄に投稿された19個の暗号 辿り着いた答えは?

【レポート】yamaが5人!?──yama「暗号を解いた人」限定ゲリラライブを“解読” report240118-yama-002

その後、昼頃まで仕事に臨んだわけだが、正直に言うと、明け方に見た光景を忘れられず、yamaの存在が頭から離れなかった。気になって、改めてyamaのスタッフ公式Xを眺めていると、明け方に感じた“違和感”の答えにようやく気がついた。というか、なぜ最初に気がつかなかったのか。アイコンに映るyamaの髪色が、渋谷で目撃した集団のように、ブルーからグリーンに変わっている。

【レポート】yamaが5人!?──yama「暗号を解いた人」限定ゲリラライブを“解読” report240118-yama-001

加えて、これまで投稿されてきたYouTube映像のキャプチャ画面もタイムラインに流れてきた(しかも、YouTubeのアイコンをはじめ、動画サムネイルも髪色がピンクやグリーンなど“あべこべ”になっている)。また「[dialogue 1/3] yamaって、何?」に「#Deepfaker」、「[dialogue 2/3] 孤独な過去、本当のyama」には「バグだらけのアルゴリズム」など、数えてみると全部で19本の動画に、yamaが当日に投稿したばかりのコメントが固定表示されている。いくつか抜粋してみよう。

【レポート】yamaが5人!?──yama「暗号を解いた人」限定ゲリラライブを“解読” report240118-yama-0014
【レポート】yamaが5人!?──yama「暗号を解いた人」限定ゲリラライブを“解読” report240118-yama-003

UNIX=1705402800

なるほど、前述した「バグだらけのアルゴリズム」とは、こうした暗号を指し示していたのか。ひとつずつ見ていこう。まずこれは、“UNIX時間”を使えば簡単だ。UNIX時間とは、UTC時刻における、1970年1月1日午前0時0分0秒からの経過秒数を表すもの。この数字が示すところは、2024/01/16 20:00:00だった。

【レポート】yamaが5人!?──yama「暗号を解いた人」限定ゲリラライブを“解読” report240118-yama-006
【レポート】yamaが5人!?──yama「暗号を解いた人」限定ゲリラライブを“解読” report240118-yama-005

139.698995」「35.66254

これは簡単。日本の緯度経度を知っていれば、130×30台の数字の組み合わせでピンとくるはず。Google マップなどの検索窓に数字をコピペすれば、この緯度経度にある場所がヒットする。

【レポート】yamaが5人!?──yama「暗号を解いた人」限定ゲリラライブを“解読” report240118-yama-004

「🟢🔴🟢🟢 🔴🔴 🔴🟢🔴🟢🔴 🔴🟢🔴🟢🟢 🔴🟢」

少し難しかった。モールス信号の短点(・)と長点(ー)を絵文字で表したのだろう。信号の意味は「ゲンテイ」。

暗号すべての解法は割愛するが、要するに、だ。

2024年1月16日の20時、yamaは渋谷のライブハウス・TOKIO TOKYOにて、先着限定100名でゲリラライブ<yama Special Live “Deepfaker”>を敢行する。さらにその模様は、YouTubeでも生配信がなされる(xqnhmaeygNc->d8aIrbYAcE4の暗号は、YouTubeのURLにある動画IDを置き換えると、その先に配信リンクが待っているというものだった)。なんとも手の込んだ、それでいて非常におもしろいサプライズ。

陽も傾いてきた頃合い、Xでもyamaのファンである同志たちの反応を眺めていると、この暗号に気がついた切れ者を中心に、暗号の答えが徐々に解き明かされていた。また、yamaの集団が渋谷を歩いていることも拡散され、同時多発的に“おもしろいこと”が巻き起こっている。

このふたつを同時体験するには、たまたま渋谷に居合わせて、かつyamaのSNSをチェックするほかない。少なくもなく、多くもない人間しか当てはまらないだろう。つまり、離れた場所にいる渋谷サイド、そしてSNSサイドの人間が、yamaという同一の話題を挙げながら、お互いに“どういうこと?”や“そっちはなにが起きてるの?”と、疑問をぶつけ合う感覚。これこそ、冒頭に記したような、我々の手ではもう制御できない、気づいたときにはもう“始まり”を迎えているということにほかならない。本当におもしろすぎる……とか言ってないで、TOKIO TOKYOまで急いで向かわねば!

「偽顔」「沫雪」をライブ初披露
全7曲を歌唱した超至近距離の贅沢なステージ

【レポート】yamaが5人!?──yama「暗号を解いた人」限定ゲリラライブを“解読” report240118-yama-002

約束の午後8時(20時)。あの暗号を解いてきた強者たちがすでに、フロアを満杯にしていた。到着から間もなく、“本物”のyamaがステージに。1日がかりのサプライズ。その“答え合わせ”と言わんばかりに、開幕から新曲“偽顔”をライブ初披露する。曲中には《Deepfaker》という、この日何度も見かけたフレーズや、《バグだらけアルゴリズム》のフレーズも。やはり、この楽曲に絡めた暗号企画だったのだと、ようやく納得感を抱くことができた。

よくも悪くも、世間で取り沙汰される“ディープフェイク”。この楽曲では、自身の本心と裏腹に、都合のよい表情を演じることで、皮肉にも“コト”が上手く運ばれてしまう。そしてそのうち、本当の自分と、見破るのが難しい“ディープフェイク”な感情の境目が薄れ、どちらが“本物”なのかわからなくなってしまうという感情が歌われる。静かながらもグルーブ感は抜群なトラックに、yamaのボーカルが一音一音、細かなタッチで重なり合う。

【レポート】yamaが5人!?──yama「暗号を解いた人」限定ゲリラライブを“解読” report240118-yama-003
【レポート】yamaが5人!?──yama「暗号を解いた人」限定ゲリラライブを“解読” report240118-yama-004

1番の間奏では、音に合わせて腕を流す形で踊らせたり、終盤に挿入されるボーカルサンプルのカットアップでは、まさかの生歌で再現をしてみせたりと、初披露とは思えぬチャレンジングな場面も。その様子を目と耳に焼き付けようと、フロアが真剣に聞き入っていたのが印象的だった。

MCを挟みつつ、楽曲が進むにつれて、フロアからyamaの方にどんどん手が伸びていった “slash”や、カラフルなエレクトロポップ“色彩”を歌い終えると、またしてもライブ初披露曲が続く。“沫雪”は、この日最も低音の鳴りが桁違いだったガラージ調の一曲で、歌い出しから普段のyamaとはよい意味で異なるイメージを与えるのも大きなポイント。終盤に、シーケンサーと生声でのフェイクが絡み合うところまで、真っ白で、タイトル通り“沫雪”な表現だったといえる。

【レポート】yamaが5人!?──yama「暗号を解いた人」限定ゲリラライブを“解読” report240118-yama-001

そのほか“新星”、“パレットは透明”、“ストロボ”の3曲をもって、合計7曲でライブは終了。1時間に満たない、“もう少し観たくなる”ライブだったものの、yama自身もそのくらいが最も綺麗に記憶に残ってくれると、微笑みながら語っていた。当日発表のゲリラライブ。本人にとっても、あまりに突然のイベントすぎて、会場が埋まるとは思っていなかったとのこと。「本当に自分で解いてきた?」と、いたずらっぽく笑いながら、フロアに集まったのが5名ほどだったら、一人ひとりに暗号の解法を尋ねて回ろうと本気で決めていたという。

また、この日は普段のステージと異なり、歌っているyamaが誇張抜きで至近距離にいたことまでを総括して、さまざまな特別感によって、新アルバム『awake&build』の発売当日に向けて、期待感を煽ってくれた贅沢なゲリラライブだった。まだ解禁していない“あんな曲”や“こんな曲”を楽しみにしつつ、どれだけ疑っても“フェイク”じゃない、本物の興奮を覚えた渋谷の夜の余韻に、しばらくは浸っていようと思う。

【レポート】yamaが5人!?──yama「暗号を解いた人」限定ゲリラライブを“解読” report240118-yama-005

yama『偽顔』MV(3rd ALBUM「awake&build」)

Text:一条皓太
Photo:yu matsumoto
Live Photo:ヤマダマサヒロ

INFORMATION

awake&build

2024.1.24(水)
yama
 
・完全生産限定盤 SRCL-12754~6 ¥12,273(+tax) 特典BD(”yama acoustic live tour 2023 「夜と閃き」”大阪公演ライブ映像)
付属グッズ(「夜と閃き」ライブ写真集/ともわかデザイントートバック/ピンズ&ステッカーセット)
 
・初回盤 SRCL-12757~8 ¥8,000(+tax)
特典BD(”yama acoustic live tour 2023 「夜と閃き」”大阪公演ライブ映像)
 
・通常盤(CD only) SRCL-12759  ¥3,000(+tax)
 
【収録曲】 DISC / CD
1.色彩 TVアニメ「SPYxFAMILY」第2クールエンディング主題歌
2.偽顔 
3.沫雪 
4.日々 
5.slash  TVアニメ「機動戦士ガンダム 水星の魔女」Season2オープニングテーマ
6.灰炎 
7.独白 
8.パレットは透明 中外製薬 NMOSD啓発プロジェクトタイアップソング
9.新星 
10.イノセント 
11.ストロボ 
12.陽だまり
 
collaboration tracks
1.憧れのままに(yama × キタニタツヤ) Hyundai CROSSOVER SUV 「KONA」 TVCMソング
2.ハロ (yama × ぼっちぼろまる) テレビアニメ「ポケットモンスター」オープニングテーマ
 
【特典BD】
acoustic live tour 2023 「夜と閃き」(2023.5.12 @GORILLA HALL OSAKA)
真っ白
新星
いぶき
桃源郷
春を告げる
あるいは映画のような
色彩
優しい人
Lost
光の夜
世界は美しいはずなんだ
slash
ストロボ

『偽顔』/nisekao ダウンロード/ストリーミングCD予約はこちら