2021年、新型コロナウイルス感染拡大に伴うパンデミック中、独学でアニメ制作を開始し、そこで生み出した短編作品『MAHOROBA』、『無法の愛』が数々の映画祭を席巻した鈴木竜也監督。そんな同氏が、1年半もの月日を費やし、たった1人で描き上げた長編デビュー作『無名の人生』が、新宿武蔵野館ほかで現在全国公開中だ。

鈴木監督は、先述した2つの短編作品に続き、本作においても“不条理な世の中に生きる者たちの生き様”をシニカルなタッチで描写。物語は、宮城県仙台市に暮らすいじめられっ子の孤独な少年が、父親の背中を追ってアイドルを目指すところから始まる。高齢ドライバーや芸能界の闇、若年層の不詳死、戦争など、数々の社会問題を背景に、生まれてから死ぬまでにいくつもの呼称で呼ばれた主人公の波乱に満ちた生涯をセンセーショナルに描く。全10章からなる本作は、あえて脚本を準備せず、章ごとにタッチも色彩も変化させてているという。
鈴木竜也監督が単独で描き上げた劇場長編デビュー作『無名の人生』が全国公開中 mumei_sub1-1920x1443
また、鈴木監督たっての希望により、広島県呉市出身のラッパー ACE COOLが主人公の声を担当。同氏は、本作が映画初出演かつ声優初挑戦となるが、少ない台詞ながらも主人公の心の揺らぎと悲哀を繊細に表現している。加えて、プロデューサーには、2019年公開の長編アニメ作品『音楽』、2021年公開のストップモーションアニメ『JUNK HEAD』で大きな話題をさらった岩井澤健治監督を迎え入れていることも注目ポイントのうちのひとつだ。

僕は絵が特別上手いわけでもないし、アニメの技術にもあまり自信はありません。それでも、自由な物語を、面白い構図を、新しい演出を追求して、スクリーンに夢を見ながら1年強、ずっと1人で作ってきました。図らずも成り上がってゆく主人公と、彼を通過する多くの人物・事象を通して、人生というものの悲哀に満ちた美しさを描きたい。そういった思いから、僕はこの作品を作りました。男性アイドルが大好きな団地っ子だった自分の憧れや、世の中に対する危機感、讃えたいことや、ぶち壊したいもの…全て詰め込みました。無名の自分だからこそ、この映画で挑みたい。そう思っています。

鈴木竜也監督

『無名の人生』は、5月16日(金)より全国公開中。鈴木監督による渾身の作品を、是非劇場でチェックしてみてほしい。

配給:ロックンロール・マウンテン
配給協力:インターフィルム
©鈴木竜也