今週、「InterFM 897 Tokyo Brilliantrips」と連動してお伝えするのは、FBI史上最も黒い歴史と言われた、実話を基にした物語『ブラック・スキャンダル』です。
世界を震撼させた、あるギャングの半生。
オサマ・ビンラディンに次ぐ、“最重要指名手配犯”とも言われたジェームズ・バルジャーの半生を描いた今作。FBI史上、もっとも“黒い闇”と呼ばれるほどに、この物語は人の生死に関して、正義に関して、容赦ない決断を下す。血が苦手な人には思わず目を背けたくなる描写もあるかもしれない。
何より、ジョニー・デップが彼のキャリア史上、もっとも恐ろしい役を演じたのではないか。奇人変人役が多いジョニー・デップも今回ばかりは劇中ニコリともせず、強面ギャングを演じきった。バルジャーの目は青々としていて、彼と目が合った者は全てを見透かされ、「これに見つめられたら最後」、そんな気持ちにさせられる。その他のキャストに主人公・ジェームズの実の弟であり、政治家のビリー役に、イギリスの人気俳優ベネディクト・カンバーバッチ。ビリーの幼なじみであり、兄弟との絆が深いFBIのコノリー役にジョエル・エドガートン。とにかく、この3人の悪人顔たるや。普段は英国紳士さながら、エレガントでスマートな役が多いカンバーバッチ。今回も世間に人気のある上院議員の役ではありながら、本心で何を思っているかが少しも分からない。この3人が織り成す人間模様は、すぐにでも崩れていきそうな不安定さが隣り合わせにある。
彼らがこのような人生を歩むようになったのは、生まれ育った町にも起因している。1970年–80年代の代のサウス・ボストン。「サウシー」と呼ばれるこの地域では、アイルランド系アメリカ人のコミュニティがあり、軽犯罪が繰り返されたりと、腐敗が根強く残っていた。
そして製作者側も意図的に織り交ぜたという、バルジャーとコノリーが、それぞれの恋人や妻に相対するシーン。このシーンは唯一、彼らが他人に対して人間味をみせる箇所でぜひとも注目してほしい。実際に「彼女たちがいなければ、彼らの人間らしい情を絡ませることはできなかった」という。しかし、そんな彼らの心休まる場所は、彼らの暴走で徐々に崩れていくのであった。
「邪魔者は消す」という考えが当たり前の世界に生きているギャングと「情報を手に入れるためならば手を汚す」という誤った判断を下してしまったFBI捜査官。さらには「自分とは何ら関係ないのだから、関わることはなにもない」と兄の悪事を見て見ぬふりする弟の政治家。この3人が関わっては生きていくことは不可能であり、関わったら最後、行き着く先は刑務所、ズルズルと悪い方向へと進んでいく。分かってはいるけれど、どうしようもないこの閉塞感に、恐ろしさと同時にもの悲しさも感じた。
この、世界を震撼させた最大の悪事。気になる人はぜひ劇場へ。
ブラック・スキャンダル
1月30日(土)、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
監督・製作:スコット・クーパー
出演:ジョニー・デップ、ジョエル・エドガートン(『ゼロ・ダーク・サーティ』)、ベネディクト・カンバーバッチ他
123分/R15+
配給:ワーナー・ブラザース映画
text by Qetic・Rina Kawarai