今週、「InterFM 897 Tokyo Brilliantrips」と連動してお伝えするのは、「今年最も美しい映画」と謳われている、ケイト・ブランシェットとルーニー・マーラ出演の映画『キャロル』。
『見知らぬ乗客』や『太陽がいっぱい』など、映画ファンを唸らせてきた作品の原作者、パトリシア・ハイスミスが別名義で世に発表した作品『キャロル』。当時としてはタブーであった、惹かれ合う女性同士を描いた物語である。恋人からの好意をなかなか受けいれることが出来ていなかった主人公・テレーズは、ある日デパートにてキャロルとの運命の出会いをする。
あの日の視線が、今日も彼女をとらえている。
ひとは、誰に認められることによって満足を覚え、何を認められることによって、充足感が満たされるのだろうか。視線を交わしたことによって総てが始まった二人の関係に分別をつけるには、我々の視線は遠すぎる。時に鋭く、時に暴力的に向けられるそれは好意も悪意も一緒くたで、受け取る側である彼女たちにはどうしようもできない。
そのためか、彼女たちは“赤”を身にまとう。それは己の身を保つか、はたまた存在を主張する為か。今作ではその赤を基調に、年代に合わせた綺麗な画面構成がなされていて、主演の二人が身にまとう衣装も惚れ惚れとする程に上品で美しい。この二人の儚い恋の行方を彩りを与える、非常に重要な演出である。
テレーズとキャロルは近づき、二人の関係性は徐々に変化する。そして、ラストにかけてのホームパーティーのシーン。この場面で、テレーズは強く決意する。なぜなら、このパーティで皆が自分に振り返らなくなった瞬間、テレーズは自分が何も手に入れていなかったことに気付くからだ。愛を告げられた恋人も、自分の知らない女とムーディなダンスを踊り、突如口づけを交わされた異性も、知らない誰かに肩を貸している。意味有りげに視線を送ってくる同性も、蓋を開けばその視線に何の意味もなかった。簡単に人の気なんて、まるで視線のように、すぐに宙に舞う。そのことに気付いたテレーズは、“あの日”の視線だけは特別であったと、あの恋い焦がれた視線の元へと急ぐ。しかしもう、魔法は解けている。視線を向けただけではキャロルは気付かない。テレーズ自身が受け取る側ではいられないと気付く。そしてテレーズはゆっくりと、キャロルへの方へ歩み寄るのだ。
キャロル
大ヒット公開中
監督:トッド・ヘインズ
原作:パトリシア・ハイスミス
出演:ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラ 他
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text by Rina Kawarai