80年代にSFの世界で話題を呼んだ「サイバーパンク」は、人間と機械の融合をテーマにした新ジャンル。その影響を受けて、90年代のSF映画にもサイバーパンクを取り入れた作品が次々と登場して新しい未来のイメージが生み出された。CGやアニメ技術の進化も著しかった90年代のSF映画を振り返る3作を紹介。
マトリックス
SF映画で重要なのは斬新なヴィジュアル。『2001年宇宙の旅』『ブレードランナー』など、時代毎に新しい未来のイメージを生み出す作品が登場したが、90年代にヴィジュアル面で衝撃を与えたのが本作だ。ソフトウェア会社に勤務するプログラマー、トーマス・アンダーソンは、天才ハッカー、ネオという裏の顔を持っていた。そんな彼のもとに「目を覚ませ、ネオ」という謎めいたメールが送られてくる。そして、彼の前に現れた謎めいた女、トリニティは、トーマスが生きている世界はコンピュータが作った仮想現実で、現実世界ではコンピュータが人間を支配している驚くべき事実を告げる。監督のウォシャウスキー兄弟は、サイバーパンク小説、香港のカンフー映画、日本のアニメ、ロックなど、様々な影響を吸収。哲学や神学的なテーマも盛り込んで謎めいた「マトリックス・ワールド」を創りあげた。なかでも話題を呼んだのが、CGやワイアーアクションを駆使した斬新な映像で、キャラクターが静止してカメラが360度回る「バレットタイム」と呼ばれる手法は、映画という枠を越えて大きな影響を与えた。
GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊
士郎正宗の同名コミックをアニメ化して、日本のアニメ=ジャパニメーションのクオリティを世界に知らしめた記念すべき作品。誰もが脳に機械を埋め込んで「電脳」化して、義体と呼ばれる機械の身体を使っている近未来の世界。日本政府の秘密機関、公安9課に所属する草薙素子と仲間たちは、他人の脳をハッキングして自由に操る凄腕のハッカー、「人形使い」の捜査に乗り出す。そんななか、政府が契約している義体メーカーが女性型の義体を製造。その義体に使われている電脳こそ人形使いのものだった。工場から逃亡した人形使いは草薙に近づいていく。「人間と機械の境界とは何か」という大きなテーマを、派手なアクションも織り交ぜてサスペンスフルに描き出したのは、『うる星やつら ビューティフル・ドリーマー』『機動警察パトレイバー the Movie』の押井守監督。サイバーパンク小説や、SFとハードボイルドを融合させた『ブレードランナー』的世界を独自に消化して生み出した映像世界は、ジャームス・キャメロン監督が絶賛するなど大きな反響を呼んだ。
スターシップ・トゥルーパーズ
SF界の巨匠、ロバート・A・ハインラインの小説『宇宙の戦士』を、『ロボコップ』のポール・バーホーベン監督が映画化。舞台は遥か未来の地球。軍が強い力を持つ政府が生まれ、軍に入らないと市民権がもらえない社会になっていた。ハイスクールを卒業したジョニー・リコは、宇宙戦艦のパイロットを夢見る恋人、カルメンに刺激されて軍隊入りを志願。リコが配属されたのは、軍でもっとも過酷といわれる機動歩兵部隊だった。鬼軍曹のズィムにシゴかれながらリコは一人前の兵士に成長していくが、異星生物バグスとの戦争が勃発。リコは戦地へと送られる。映画の前半は、どこかで見たことあるような愛と友情の学園ドラマが能天気に展開。しかし、この映画の最大の見どころは戦場シーン。迫り来る巨大なバグスと人類が延々と血みどろの闘いを繰り広げ、その残虐描写はグロテスク過ぎて笑ってしまうほど。この映画は政府による戦意高揚映画として作られていて、その馬鹿さ加減を強烈な戦場シーンで笑い飛ばすバーホーベンの悪意が見え隠れする。学園映画、戦争映画、SF映画など、様々なフォーマットを詰め込んだ本作は、ハリウッド映画の毒気たっぷりのパロディーとしても楽しめる。
Text by Yasuo Murao