『ブレード・ランナー』のIMAX上映、『マトリックス』のMX4D上映も記憶に新しい中、ブラッド・ピット主演の『アド・アストラ』が9月20日に公開され更なる盛り上がりを見せるSF映画。現在に至るまでのSF映画のルーツとも言える不朽の3本をセレクト。

メトロポリス

8月から配信が始まったロシア制作のNetflixドラマ『アリサ・ヒューマノイド』は、ひょんなことから美しき殺人アンドロイドのアリサを迎え入れることとなった凡庸な一家が大企業の陰謀や反ロボットのテロ組織の抗争に巻き込まれてゆくという話なのだが、絶世の美女を型どったアンドロイドが社会を翻弄するという筋書きからはこの映画を彷彿とさせる。舞台は2026年、未来都市メトロポリスには富裕層が暮らす巨大な塔がそびえ立ち、その地下では労働者たちが過酷な作業を強いられる超格差社会。権力者は地下社会の救世主マリアそっくりのアンドロイドを創り、労働者たちの暴動を煽動する。巨匠フリッツ・ラングの最高傑作のひとつ。SF映画の原点となる伝説的作品であるがゆえ、あなたもここから生まれたモチーフを知らずのうちに目にしていることだろう。予告を見てピンときた貴方、そう、『スター・ウォーズ』のC3POはこの映画のアンドロイドが元ネタとなっている。

THX 1138

『スター・ウォーズ』繋がりで、ジョージ・ルーカスのデビュー作。学生時代に制作した短編がフランシス・フォード・コッポラの目に留まり長編化されたという。人が番号で管理され、言動はもちろんのこと感情や一切の娯楽が規制される25世紀の地下社会が舞台。主人公のTHX-1138はルームメイトのLUH-3417と恋に落ちてしまい、最大の禁忌とされていた肉体関係を持ってしまったためロボット警官に追われることになる。逃走劇の中で繰り広げられる近未来的アクションは見所満載。ジョージ・オーウェルが「1984年」で築いたディストピア観が鮮烈にアップデートされたかのような作品であり、プロットは王道とも言えるが地下社会の建築や未来の乗り物などヴィジュアル面で若きルーカスのセンスが光る。壮観のラスト・シーンは某覆面ユニットの大ヒットシングルのジャケットに引用されている。

惑星ソラリス

164分にも及ぶ上映時間とあまりに難解なストーリーからか、公開当初は酷評の嵐だったというソ連の巨匠アンドレイ・タルコフスキーの代表作。惑星ソラリスを調査中だった人工衛星プロメテウスからの連絡が途絶え、心理学者クリスは宇宙へと派遣されることになった。そこは海が知性を持つ星。クリスは、友人の自殺死体と現実ではありえない出来事の数々を目の当たりにし、非現実的な世界の中で、人間の存在に対して疑念を浮かび上がらせる。比較されることの多い『2001年宇宙の旅』は先鋭的な映像表現を通して宇宙と生命の起源に想いを馳せた作品であるが、今作は宇宙船等のSF的モチーフこそ登場するものの終始静寂さの中に神秘的なイメージを映し出し、人間としてより本質的な問いかけを投げかける。ロング・カットが多用され眠気を誘うこと間違いなしではあるが、この機会に一度見ておきたい名作。最後まで耐え抜いた後に訪れる余韻は、宇宙旅行のそれをも凌駕するかもしれない……なんて。

Text by Kentaro Yoshimura

NAP FILMS #7|SF映画 クラシック

NAP FILMS #7|SF映画 クラシック film190926_nap_films_7_main

Photo by Jonas Tebbe on Unsplash

NAP FILMS