ひたすら「ナード男子」が登場する作品を紹介していく連載「ナード男子ファイル」第三回目。今回は、皆大好きなミュージシャン=ジェイムス・ブレイクにほんのり関係ある記事となっている。彼のニューアルバム『アシューム・フォーム』は愛に溢れた作品だと話題だが、そんな同作に影響を与えたのは、他でもない恋人のジャミーラ・ジャミル。モデル/女優/司会者で、ボディポシティブを広める活動を積極的に行なっている女性だ。今回は、そんなジャミールがメインキャストとして出演しているドラマ『グッド・プレイス』、そしてそのドラマに登場するナード男子を紹介したいと思う。
File.03 『グッド・プレイス』チディ
『グッド・プレイス』とは?
2016年にスタートし、先日シーズン3が終わったばかりのドラマ『グッド・プレイス』はユニークな設定のドラマだ。自己中心的な性格の主人公エレノア・シェルストロップ(クリステン・ベル)が死後、同姓同名の人物と間違えられて「永遠に幸せが続く、“いいところ”」にたどり着いてしまった、というのが大まかなあらすじである。
本作はテレビドラマ関連のアワードの常連にもなっている人気コメディ作品。2016年に「Critics’ Choice Television Award」で「最もエキサイティングな新番組賞」に輝くと、2017年には「American Film Institute Awards」の「今年放送されたテレビ番組のトップ10」に選ばれ、メインキャストの一人であるテッド・ダンソンが「Critics’ Choice Television Awards」の「コメディ部門 主演男優賞」を受賞。
2018年にも「Hugo Award」で1つのエピソードが「短編作品における最優秀ドラマ賞」に、また「TCA Awards」の「最優秀コメディ賞」にも選ばれている。今年はじめの賞レースではいずれもノミネート止まりで終わってしまったが、最近はキャスト勢揃いで米人気トーク番組『Conan』に出演を果たすなど、ドラマが支持されていることには変わりがない。
さて、「いいところ」では自身の永遠の伴侶“ソウルメイト”と出会え、その人物と新居をともにして永遠に幸せに暮らすことができるという。当然、エレノアにもソウルメイトが紹介されるが、それが元大学教授のチディ・アナゴンエ(ウィリアム・ジャクソン・ハーパー)だった。
善人だけが存在すべき場所のため、エレノアの存在により「いいところ」は大混乱に陥る。そこでエレノアはチディの助けを借り、善人になろうと努力をしはじめるが、その計画はいつしか隣人のタハニ・アル=ジャミル(ジャミーラ・ジャミル)とジェイソン・メンドーサ(マニー・ハシント)、「いいところ」を建築したマイケル(テッド・ダンソン)、「いいところ」のガイド役であるジャネット(ダーシー・カーデン)をも巻き込んでいくのであった——。
優柔不断なナード男子、チディ
チディは生前、倫理学と道徳哲学を教える大学教授だった。偽薬を老人に売りつけるセールスウーマンとして5年間連続で営業成績1位を獲得し、周囲の人たちを傷つけまくっていたエレノアとは真逆の人間と言えるだろう。よって、「いいところに留まりたいから善人になれるよう道徳を教えて欲しい」と助けを乞うエレノアに対し、最初は「哲学者は君を助けても無意味と言う。動機が不純なら幸せになれないとね」 「疑問がやまほどあるんだ。君を助ける道徳的責任がある?それとも地域への義務?君は誰かの代わりに来たのか?」と正論を述べて拒否する。
人は苦しい選択をしなくてはならないときに「悪魔のささやきが聞こえる」 「天使の声に耳を傾ける」なんて表現で、善行に至るか悪行に走るか思い悩むが、エレノアとチディはまるでその悪魔と天使を具現化させたようなキャラクターだ。エレノアが悪事を働こうとすれば、チディがすかさず天使の声で反論する。
だが、彼が“完璧に良い人間”であるとは言い切れない。同僚の靴のデザインをお世辞で褒めた後に後悔し続け、3年越しに「実は嫌いだった」と伝えて傷つけたり、飼い犬の名前を決められず、その犬に逃げられたときに“沈黙に反応する”と迷い犬ポスターに書く羽目になったりと、道徳的な正しさを追求しすぎるあまり、全てにおいて優柔不断なのだ。そんなチディの曖昧すぎる態度は、“クズ人間”エレノアの良心を揺り動かすなど、ドラマの展開を意外な方向へと持っていく。また、「ジャンケンで迷って倒れた」 「ちょい飲み用のバーを探すのに30分間かかった」など、時々紹介されるチディの優柔不断エピソードもドラマを面白くさせている要素の一つだ。
▼決断を迫られると腹痛に襲われてしまうチディは愛されキャラ。「もしあなたがチディだったら…」というマッシュアップ動画も公式で作られている▼
ウィリアム・ジャクソン・ハーパーakaチディ
チディを演じているのはアメリカ人俳優のウィリアム・ジャクソン・ハーパー(William Jackson Harperh/39歳)。彼の俳優人生は『グッド・プレイス』まで鳴かず飛ばずだった。2003年に芸術/デザイン系の大学を卒業すると、2014年に『All the Way』(原題)でブロードウェイデビュー。その後は『ロー&オーダー』や『30 ROCK/サーティー・ロック』など人気ドラマにちょい役で出演していたが、2009年、やっとの思いで掴んだレギュラー番組は小学校低学年の子ども向け番組『The Electric Company』(原題)だった。そして2011年に番組が終わりを迎えると、再びちょい役の出演を繰り返す日々に。ウィリアムは『グッド・プレイス』の出演が決まる前、役者の道を諦めかけたそうだ。
幸い、『グッド・プレイス』のおかげでオファーが舞い込むようになった彼は、2016年にはジム・ジャームッシュ監督作『パターソン』に出演、2017年にはミステリー映画『They Remain』(原題)の主役に抜擢され、ゾーイ・カザンによる戯曲『After The Blast』でも主演を務めている。また、2019年公開作として、女優フローレンス・ピュー主演作『Midsommar』(原題)や、『キャロル』などで知られるトッド・ヘインズ監督による新作映画にメインキャストとしてクレジットされている。今後ますます活躍の場を広げていくことは間違いないだろう。
『グッド・プレイス』&その他ウィリアム出演作を観るには?
現在『グッド・プレイス』は全シーズンがNetflixにて配信中。いずれのエピソードも約20分間と短いため、一気見するのにおすすめだ。シーズン1には驚きの結末が控えており、そこからドラマの面白さが一気に加速する。そのため、寝不足に注意だ。また、ウィリアムがチョイ役で出演している映画『トゥルー・ストーリー』もNetflixで視聴可能。