ニューヨーク在住の日本人映画監督、福永壮志による長編デビュー作『Out of My Hand』が本年度のベルリン国際映画祭のパノラマ部門にてプレミア上映することが決定した。パノラマ部門は、幅広く個性的で作家性の高く優れた作品を上映することで知られており、のちに名をなす監督のデビュー作も数多く紹介されている部門である。近年の日本映画では2010年に行貞勲監督の『パレード』がこの部門でノミネートされ国際批評家連盟賞を受賞して話題となった。
本作はリベリアでのゴムプランテーションでの過酷な労働を逃れてタクシードライバーとしてニューヨークに渡ったリベリア人移民の夢と希望、そして現実との葛藤を描いた作品。リベリアで撮影された長編映画としては史上2本目、またリベリア政府の公式支援を得た映画としては史上初になる。撮影は2013年に福永監督と少数精鋭のクルーで困難なリベリアロケを行われ、昨年には映画全体の約3割にあたるニューヨークのシーンを撮影するためにクラウドファンディングを行い、そこで集められた資金で残りのシーンが撮影された。
世界で活動し、意欲作を作り上げた福永壮志監督。映画界に新たな風を吹かすことは間違いなさそうだ。これからの彼の活躍を期待しよう。
text by Qetic・Rina Kawarai
『Out of My Hand』
2015.02.11(水)@CinemaxX7 他
上映開始:22:30〜
監督:福永 壮志
映画『Out of My Hand』あらすじ
リベリアにある巨大企業が経営するゴムプランテーションの労働者シスコは、過酷な労働環境の改善を求め働組合と共にストライキを起こすが、変わらぬ環境になすすべもなく仲間達と共に釣りやサッカーに明け暮れる。シスコは、企業の力に屈し元の生活に戻る仲間達を背に、15年前ニューヨークに移住した従兄弟のマーヴィンを通し、自分や幼い二人の子供の未来のために家族を残してニューヨークに移住することを決心する。
ニューヨークへの移住後、リベリア人のコミュニティがあるスタテン島に身を置き、タクシードライバーとして働き出したシスコは、街の喧噪やそこで住む人々のペースに徐々に順応してゆく。より良い生活を手に入れたかのように思えたシスコだったが、 異なる生い立ちを持つ二人のリベリア人で元少年兵士のジェイコブと裕福な実業家ダニエルとの予期せぬ出会いを通し、自分のアイデンティティー と向き合うことになる。
監督のコメント
リベリアのゴムプランテーションの世界を知ることになったのは、そこでの労働者を追ったドキュメンタリー映画に編集として関わったことが始めでした。そのドキュメンタリーは、この映画の撮影監督村上涼による作品で未完成のままですが、その美しい映像を通して見た、過酷な状況の中でも尊厳を保ち、ひたむきに生きる労働者達の姿に胸を打たれました。僕達が日常生活で使うゴム製品の原料が採取される過程、それに関わる人達の姿も目撃したことも僕に大きな影響を与えました。インターネットで何もかも知ることができるようになった現代の情報化社会では、“知らない”ということも一つの選択として違う意味を持つようになったと感じる中、彼らの物語を世に伝えることに意義を見つけ、この映画の脚本の執筆を始めました。この映画を見た人が、心に響く何かを感じ取り、普段使う物の裏側に少しでも想いを馳せてもらえれば幸いです。極限的には、この物語は生まれながらに持った限界に立ち向かおうとする人間の話で、ポジティブで普遍的なメッセージを持つものだと信じています。
監督略歴
福永壮志(フクナガ タケシ)
2007年、ニューヨークのブルックリン大学在学中に脚本・監督した短篇映画で米国映画批評会議からStudent Awardを授与される。2012年に制作を開始した初長編映画『Out of My Hand』は、米国最大の自主映画支援団体、IFPが開催する初長編映画支援プログラム、Narrative Feature Labに選出された後、2015年に完成、ベルリン映画祭のパノラマ部門へ正式出品される。