全世界興行収入No.1シリーズのMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)において、2016年公開の『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』から続いたフェーズ3を締めくくる『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』が、6月28日(金)に世界最速公開を迎える。

本作は、内容的にも興行的にも大・大・大成功を収めた超大作『アベンジャーズ/エンドゲーム』後の異次元の扉が開かれた世界を舞台に、スパイダーマンことピーター・パーカー(以下、ピーター)の心の葛藤と成長を描く物語……と、絵に描いたような映画の宣伝文句を使ってみたが、そういったストーリー要素から本作を語る前に、まず、すべてのマーベルファンに問いたい。

「心の整理は済んだかい?」と。

ティーンエイジャーらしい、ピーターの素直すぎる感情


はい、私は済んでいなかった。そんなにあっさり済んでいる奴は薄情者だ。今年はマーベル、そしてアベンジャーズファンにとって“喪中”。あれだけのメンツを『アベンジャーズ/エンドゲーム』で見送ったのなら、配偶者や父母レベルの12~13ヵ月は喪に服すべき。MCUの新作、それも人気の高いスパイダーマンだとしても、決してハシャぎ過ぎてはいけない。ワクワク感をギュッと抑えて、ピーターの成長をただただ見届ける、勝手にそんな大人の姿勢で本作に臨んでいた。

ただしそんな姿勢も、観始めてすぐに肩透かしを食う。映画の冒頭からまず描かれるのは、ひと夏の思い出づくりに奮闘する、1人の青年の初々しい姿だ。冒頭からキャッキャしたノリでティーンエイジャー向けのドラマを見ているような展開。「旅行イエーイ! ヨーロッパだイエーイ!」とわかりやすくテンション高めな学生たちと、「僕は気になるアノ娘に告白しようと思ってるんだ」なんて、童貞くさいこと考えているウブな男子。ごめんピーター、君だ。

本作は、スパイダーマンがヴィランとの戦いを通して得るヒーローとしての成長と、ピーターが友情や恋愛などを通して得る若者としての成長、その2つの成長が描かれている。それらは厳密に分けられるものではないが、現アベンジャーズの中ですこぶる若く、これまでも青臭いヒーローとして描かれてきたスパイダーマンの真骨頂とも言えるストーリーが展開。また、スパイダーマン=ニューヨークのイメージが定着しているだけに、ヴェネチア、ベルリン、ロンドンといったヨーロッパの都市で躍動する姿は、多くのファンにとって新鮮に映るだろう。

あと恋愛に関して付け加えると、ピーターが密かに恋い焦がれる、ゼンデイヤ演じるMJがまあカワイイこと。これまでサム・ライミ版『スパイダーマン』のMJにどこか「う〜ん」と思っていたが、今回のMJは個人的にドンピシャ。考え方に芯があり、発言はウィットに富んでいて、でも恋愛になると照れ屋。そんなMJと互角なぐらいシャイなピーターとの、見ているこっちが恥ずかしい恋愛模様は見どころだろう。そして、なぜか「俺も俺も!」としゃしゃり出てきたピーターのお目付役ハッピーと、いつも以上にエロいメイおばさんとの関係にも一応注目だ。

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ヒーローの覚悟と選択。その先にあるアイアンマン・イズム


ヒーロー面での成長に関して、やっぱり今のピーターは、できれば戦いたくはない。ただし、その裏に隠されているのは「ヒーローという立場から少し離れたい」という、偽らざる想いだ。これに関しては、“少し”というのがミソ。別にピーターはスパイダーマンを辞めたいわけではないだろう。確かに『アベンジャーズ/エンドゲーム』での壮絶な戦い、そして誰よりも尊敬するトニー・スタークの死を経て、大きな傷を負ったのは事実。それでも、アイアンマンから受け継いだ意志を無下にするほど、無責任では無いはず。ピーターの今の気持ちを代弁するとしたら、そう、“少し”だけ休みたい。それがまさに、友だちや好きな子と行くひと夏の修学旅行だった。

ただし、それを許されないのがヒーローの宿命だ。本作では、風・水・火・土の四大元素を操る“エレメンタルズ”と呼ばれる巨大なクリーチャーズが地球に襲来。元S.H.I.E.L.D長官・ニック・フューリーから執拗に戦いへの協力を要請されるが、どこか煮え切らないピーター。さらに打倒エレメンタルズに燃える新ヒーロー・ミステリオ/クウェンティン・ベックの、強大な敵にも怯まず立ち向かっていく姿勢が、奇しくも覚悟の決まらないピーターの苦悩をさらに掻き立てる。

「先輩アベンジャーズの力は借りられない」「自分では力不足」「というかミステリオがいるなら大丈夫でしょ」……さまざまな感情でごちゃ混ぜになるピーター。本作ではピーターがこの先、本当にスパイダーマンとして戦い続けることができるのかーーそのヒーローとしての覚悟が試され、そして最終的にどう選択したのかが、作品および今後のMCUの鍵を握っている。

その上で、ピーターの仕草や言動、そして悩みながらも立ち上がる姿を見ると、今は亡きアイアンマンのヒーローとしてのイズムを感じ、きっと胸に熱い感情が込み上げてくるだろう。

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MCUにおいて、ヴィランの強さのインフレは止まるのか?

そして、MCUとしても大きな超えなければいけないハードルが。シリーズにおいて、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『アベンジャーズ/エンドゲーム』で最強とも呼べるヴィラン・サノスを、満を持して登場させた。シンプルな能力値の高さに加えてインフィニティ・ストーンを手にしたその強さは、「これ以上のヴィランはいない」とファンに思わせる存在感だった。ただ実際のところ、熱心なコミックスファンの間では、「サノス以上の強さを持つヴィランはまだまだ存在する」という声も多い。ただしそれは、“人”というよりは“神”のような存在のヴィラン。サノスのように人が神に近付こうとしたレベルではなく、そもそも次元の違う強さを誇っている奴らばかりだ。

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ここでふと思い出したのが、少年漫画における不朽の名作『ドラゴンボール』。ドラゴンボールにおける主なヴィラン(と言ってしまう)を振り返ると、レッドリボン軍に始まり桃白白や鶴仙人、そしてピッコロ大魔王からサイヤ人登場でラディッツ、ナッパ、ベジータ。そして、ナメック星でのフリーザの「わたしの戦闘力は530,000です」で、強さは1つのピークを迎える。

そしてこの先、ドラゴンボールの世界においては、ヴィランの強さの“インフレ”が止まらなくなってしまう。人造人間からのセル、そして魔神ブウへ。ブウのころには、敵では無いが界王神なるレベルのキャラクターが登場し、最終的には全てを超越する破壊“神”ビルスが現れる。

神? そう、MCUにおいても、「空前絶後のバトル!」といった面だけを求めていくのなら、神の領域のヴィランを担ぎ出さなくてはいけない状況にもなってきたのだ。その意味では、インフィニティ・ストーンさえどうにかすればいいサノスの強さは魔神ブウぐらい。惑星を軽く破壊してしまうビルスは、マーベルコミックスの世界で言えばギャラクタスのレベルだ。

その上で話を戻そう。本作で登場するヴィランは、果たしてどのレベルなのか? MCUにおいてもヴィランの強さのインフレは止まらないのか? そしてマーベル作品の醍醐味とは、バトルありきのものだったのか……? そういった点に着目すると、MCUにおけるフェーズ4以降の1つの方向性が見えてくるかもしれない。本作はどこかMCU第1作目の『アイアンマン』とリンクする部分を感じるとともに、これから始まっていくフェーズ4に向けて、マーベル・スタジオがある意味で“原点回帰”をして、舵を取り直したような印象を受けた。

text by ラスカル(NaNo.works)

INFORMATION

スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム

6月28日(金)世界最速公開!

監督:ジョン・ワッツ(『スパイダーマン:ホームカミング』)
脚本:クリス・マッケナ & エリック・ソマーズ
マーベル・コミック・ブック原作:スタン・リー and スティーヴ・ディッコ
製作:ケヴィン・ファイギ、エイミー・パスカル
キャスト:トム・ホランド、サミュエル・L・ジャクソン、ゼンデイヤ、コビー・スマルダーズ、ジョン・ファヴロー、J・B・スムーヴ、ジェイコブ・バタロン、マーティン・スター with マリサ・トメイ and ジェイク・ギレンホール

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