今、あなたは何を用いてこの記事を読んでいるのだろうか。スマホ？ パソコン？ タブレット？ 電車に乗っていても、ふと顔を上げれば周りのほとんどの人間がスマホをいじっている時代。このような電子機器は、もはや我々の生活になくてはならない存在であることは間違いないだろう。1997年にスーパーコンピュータの人工知能がチェスの世界チャンピオンを破り衝撃を与えたが、驚くべきことに現在発売されているiPhone5sのコンピュータ性能は、そのスーパーコンピュータの10倍以上の計算能力を持っているのだ。手のひらの中にあるその小さな四角い物体に、我々の頭脳は勝てるのだろうか？
映画の題名でもある“トランセンデンス”とは、人工知能が人間の知性を超越する現象のこと。遅くとも40年以内に実現すると言われ、「2045年問題」として注目を集めている。ドラえもん、鉄腕アトム……。おなじみのロボットを題材にした映画や小説、アニメは膨大にあるが、夢を抱きながらも現実には起こりえないフィクションの世界として我々は楽しんできた。それが近年どうやら机上の空論というわけではなくなってきているのだ。
物語は意志を持つ人工知能の研究を行っている天才科学者ウィルが、反テクノロジーを掲げるテロリスト集団の凶弾に倒れたところから始まる。死すべき運命だった科学者ウィル。しかしその意識は、死の間際に妻エヴリンによってスーパーコンピュータへとインストールされた。意識だけの存在となったウィルは、オンラインに繋がると軍事機密、金融、政治から個人情報まで、世界中のあらゆる情報を手に入れ、究極的な進化を遂げる。そしてナノテクノロジーを駆使し、現実の世界にまで及んだ彼の力は、遂に生命までもコントロールし始めたのだった。神の領域に踏み込んだ“それ”は果たしてそれはかつて愛したウィルなのか。果てしなく進化を遂げる“知”はもはや誰にも止められないのか——。
特筆すべきは主演のジョニー・デップをはじめとする豪華なキャスト・スタッフ陣。妻のエヴリンを演じるのは『それでも恋するバルセロナ』（08）でゴールデン・グローブ賞にノミネートされたレベッカ・ホール。さらに夫婦の恩師であるジョセフを演じる『ミリオンダラー・べイビー』（04）のモーガン・フリーマン、夫婦の親友役には『ビューティフル・マインド』（01）のポール・べタニーなど個性的な役者が脇を固めている。
また、製作総指揮には『ダークナイト』シリーズ（05、08、12）や『インセプション』（10）の監督を手がけたクリストファー・ノーラン。そしてノーラン作品の撮影監督として革命的な映像世界を生み続けたウォーリー・フィスターが本作で監督デビューを果たした。壮大なスケールで表現されるテクノロジーの世界が見るものを圧倒する本作だが、従来のSF作品とは一線を画すリアルな映像美を追求するため、デジタルな作品に似つかわしくない35mmフィルムで撮影を行うこだわりを見せている。
科学の目覚ましい発展は我々に利便性と豊かさをもたらしてきたが、そのテクノロジーの力が人間を、自然を超越してしまったとき、何が起こるのだろう。愛する人がデータとして蘇ったとしたら？ そこに心はあるのだろうか？ 人間と人工知能の違いは？ さらに加速するテクノロジーの時代において我々が直面するであろう問題を提起する作品となっている。『トランセンデンス』、もう既に従来のSF映画を「超越」しているかもしれない。
（text by Akane Ishida）
『トランセンデンス』
6月28日（土）全国超拡大公開
映画『トランセンデンス』予告 （ショートver.）
製作総指揮：クリストファー・ノーラン『インセプション』『ダークナイト』シリーズ他
監督：ウォーリー・フィスター アカデミー賞撮影賞受賞（『インセプション』）
出演：ジョニー・デップ、モーガン・フリーマン、ポール・べタニー『ツーリスト』『ダヴィンチ・コード』、レべッカ・ホール『ザ・タウン』『プレステージ』、キリアン・マーフィー『ダークナイト』シリーズ『インセプション』、ケイト・マーラ『127時間』『ブロークバック・マウンテン』
原題：Transcendence／アメリカ映画
配給：ポニーキャニオン／松竹 共同配給
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