アカデミー賞(R)俳優ラッセル・クロウがホラー映画主演を果たす映画『ヴァチカンのエクソシスト』がいよいよ明日7月14日(金)より公開。“暑い夏にピッタリ”のホラー映画だが、今回は、『なぜ夏になるとホラー作品を見たい人が増えるのか』、その心理と作品の見どころについて、心の専門家である臨床心理士の南舞さんが心理学的に解説!
なぜ夏にホラーが観たくなる?
映画『ヴァチカンのエクソシスト』あらすじ
物語の中で描かれる主人公ガブリエーレ・アモルト神父は、実在した人物。カトリック教会の総本山ヴァチカンのローマ教皇に仕えた彼は、チーフ・エクソシストとして生涯で数万回の悪魔祓いを行ったと言われているエクソシスト界のレジェンド。本作はそんなアモルト神父の著書『エクソシストは語る』を基に、人間に取り憑いた《邪悪な悪魔》との壮絶な戦いを記した物語である。
1987年7月、サン・セバスチャン修道院。アモルト神父はローマ教皇から直接依頼を受け、憑依された少年の《悪魔払い》へと向かう。変わり果てた姿。絶対に知りえないアモルト自身の過去を話す少年を見て、これは病気ではなく“悪魔”の仕業だと確信。
若き相棒のトマース神父とともに本格的な調査に乗り出したアモルトは、ある古い記憶に辿り着く。中世ヨーロッパでカトリック教会が異端者の摘発と処罰のために行なっていた宗教裁判とその修道院の地下に眠る邪悪な魂の存在・・・。全てがひとつに繋がった時、ヴァチカンの命運を握る、壮絶なエクソシズムが始まる!果たして、アモルト神父は史上最強の悪魔を前にどのような戦いを見せるのか?!彼が目にする衝撃の光景とは――?!
夏になると、なんとなくホラー作品が見たくなるという人も多いのではないでしょうか。夏にホラー映画を見たくなる心理については諸説ありますが、心理学的には『恐怖がもたらす寒気体験を得ることで、暑さによる不快を和らげるため』という理由が考えられるかもしれません。これには自律神経の影響が関係しています。
ホラー映画を見ることで、恐怖によるストレス状態が続くことになります。すると、自律神経が交感神経優位の状態に。交感神経が優位になると、心臓に血液を集中させるために、血管が収縮し、手先足先が冷たくなります。これが寒気につながるのです。自律神経の影響がもたらす寒気体験により、暑さの不快感が少し軽減されるからこそ、夏になるとホラー映画を見たくなる要因になるのかもしれませんね。また、夏は日本ではちょうどお盆の時期に重なり、死者や幽霊、怪談の存在が身近になる時期でもありますので、そういった影響もあるのではないかと個人的には考えています。
ホラー作品が観たくなる人の心理とは?
(1)危険が及ばないことを分かっているから
ホラー映画はあくまでフィクションであり、恐怖を感じることはあっても、自分に何か危害を加えられることはありませんよね。そうした『自分は安全である』という感覚を持ち、現実とフィクションとの間に境界線を引いているからこそ、ホラー映画を楽しむことができるのだと思います。
(2)禁止や制限に反発したくなる心理が働くから
よくホラー映画の宣伝の中で、『絶対に1人では見ないでください』『見てはいけない』といったキャッチコピーを目にすることがあると思いますが、それを聞くと余計に見たくなると感じたことはありませんか? こうした現象を【心理的リアクタンス】と言いますが、人はもともと『自分の行動や選択は自分で決めたい』という欲求を持っていて、この欲求を侵されそうになった時に無意識に抵抗を示しやすい傾向にあります。ホラー映画が見たくなるのは、こうした心理作用に反応してしまうからこそなのかも。
(3)恐怖が快感に変わるになるから
ホラー映画を見ることによって生じた生理的興奮は、映画が終わった後もしばらく持続すると言われています。映画を見終わって恐怖が取り除かれると、その生理的興奮がいつの間にか安堵感や快感などに変わるのです。それによって、『ホラー映画は怖いけど、また見たい』という心理を掻き立てるのかもしれません。
臨床心理士が語る、映画『ヴァチカンのエクソシスト』の見どころとは?
私がエクソシストの存在を知ったのは、1973年に公開された『エクソシスト』がきっかけでした。少女に取り憑いた悪魔と戦う神父の姿を描いたこの作品。180度回転する首や、スパイダーウォーク、緑色の嘔吐物、血を吐くシーン、通常では考えられない角度に曲がる関節と不気味な動きなど……それまでに見たことがない光景にショックを覚え、しばらく恐怖や不安を引きずっていました(今でも思い出すだけで胸がソワソワします)。
それからは「ホラー映画は、怖いだけのもの」というイメージが拭えず、『ヴァチカンのエクソシスト』も「きっとただただ怖い作品に違いない」そんな思い込みを持って鑑賞に臨みました。作品を見ている最中は、恐怖や不安、緊張が常に付きまとい、迫力ある映像や効果音には何度も身体がビクッとさせられるので、序盤こそは「やっぱり見なきゃ良かったかも……」という気持ちにもなりましたが、物語が進んでいくにつれて、それまでのホラー映画に対する「怖いだけのもの」という印象をいい意味で裏切られる場面がたくさんありました。
例えば、悪魔のとある言動によって、心が揺れ動くアモルト親父とトマース神父。どんな人にも、思い出すと苦しくなるような過去の出来事や、できれば向き合うことを避けたい思い出のひとつくらいはあるものだと思うのです。聖職者である彼らも例外ではありませんでした。その様子を見て、どことなく心理カウンセリング、セラピーの場面と重なるものがあるような気がしました。
カウンセリングの中でも、自身の過去や、自分の内側の深い部分に触れることが幾度となくあります。それは時には感情を強く揺さぶり、苦しくなることも。しかし、新しい行動を選択していくために、クライエントさんは自分と向き合い、新しい行動を選択していきます。彼らも同じように、向き合うには辛い出来事を目の前にしながらも、自身の過去と対峙し、目の前で苦しんでいる少年を救うために悪魔と戦っていく。そんな姿にとても勇気づけられました。
また、アモルト神父が権力に押さえつけられそうになりながらも、怯まずに自分の信じた道や信念にしたがって突き進んでいく姿は、見ていてとても清々しいものでした。私たちの日常生活に置きかえてみると、組織の中では自分の信念を曲げなければいけない時ってありますよね。それによって悔しい思いをしたという経験をしている方も少なくないはず。そんな彼の姿に共感したり、あるいは自分の姿と重ね合わせたりして、ついつい感情移入してしまうという方もいると思います。
作品の中で、ヴァチカンという国家が隠してきた歴史に触れたり、アモルト神父が出会う98%の人たちは心理学的見地からの助けが必要だったという話を聞くと、実は悪魔の存在よりも、人間の方が怖いのではないだろうかと思うようになりました。私たちは誰でも、内側にネガティブな感情や思考を持っているものです。それはごく自然なことであり、それらが前に進むための原動力になってくれたりします。
しかし、そういった感情や思考が歪んだり偏ったりすると、時として望ましくない方へ進んでしまったり、心身の健康に影響がでてしまうことも。改めて、ネガティブな思考や感情の扱い方を知ることの大切さについて考えさせられました。
こうして振り返ってみると、ホラー要素による衝撃や興奮で快感を得られるだけでなく、壮大な人間ドラマを見ていたという感覚にもなれる本作は、より幅広い方が楽しめるホラー映画なのかもしれません。ホラー映画好きな方はもちろん、実は苦手だという人も、この夏は勇気を出して『ヴァチカンのエクソシスト』見てみてはいかがでしょうか。
【恐怖の実話】映画『ヴァチカンのエクソシスト』予告1/ 7月14日(金)全国の映画館で公開
【参考文献】
山根一郎『恐怖の現象学的心理学』人間関係学研究第5号 p.113-129. 2006
菅村玄二・樋口隆太郎『怖いから震えるのか,震えるから怖いのか?:温度感覚が恐怖刺激の知覚に及ぼす影響』第77回日本心理学会大会発表論文集 2013
菅村玄二・山本 佑実『首筋を温めると「背筋が寒くなる」:後頸部への物理的温度が恐怖反応に及ぼす効果』第78回日本心理学会大会発表論文集 2014
スタンレー・ローゼンバーグ(著)花丘千草(訳)『からだのためのポリヴェーガル理論〜迷走神経から不安・うつ・トラウマ・自閉症を癒すセルフ・エクササイズ〜』春秋社 2021
INFORMATION
ヴァチカンのエクソシスト
原題: The Pope’s Exorcist
7月14日(金)全国の映画館で公開
・監督:ジュリアス・エイヴァリー
・ガブリエーレ・アモルト著「An Exorcist Tells His Story」および「An Exorcist: More Stories」に基づく
・出演:ラッセル・クロウ(『グラディエーター』『ビューティフル・マインド』)、ダニエル・ゾヴァット(『ドント・ブリーズ』『イット・フォローズ』)、アレックス・エッソー(『ドクター・スリープ』『セーラ 少女のめざめ』)、フランコ・ネロ(『ジョン・ウィック:チャプター2』『続・荒野の用心棒』)、ローレル・マースデン(「TVシリーズ「ミズ・マーベル」)、ピーター・デソウザ=フェオニー
<STORY>
舞台は、1987年7月――サン・セバスチャン修道院。アモルト神父はローマ教皇から直接依頼を受け、憑依されたある少年の《悪魔祓い》(エクソシズム)に向かう――。変わり果てた姿。絶対に知りえないアモルト自身の過去を話す少年を見て、これは病気ではなく“悪魔”の仕業だと確信。若き相棒のトマース神父とともに本格的な調査に乗り出したアモルトは、ある古い記録に辿り着く。中世ヨーロッパでカトリック教会が異端者の摘発と処罰のために行っていた宗教裁判。その修道院の地下に眠る邪悪な魂――。全てが一つに繋がった時、ヴァチカンの命運を握る、凄惨なエクソシズムが始まる――。
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