ドイツと言えば、ビールとソーセージ。これは今も昔も変わらないけど、ここ数年のベルリンに関して言えば、もはやそれは当てはまらない。
筆者が移住してきた7年前ごろ、「ベルリンには、ケバブぐらいしかまともな食べ物がない」などと揶揄されていたし、実際ビールは安くて美味いが、悲しいかな、食に関してこの街に期待することは、あまりなかった。
ところが、とくにここ2年ほどだろうか? 著しくインターナショナル化がすすみ、至るところで英語を耳にするベルリンでは、毎月のようにあたらしいレストランやカフェがオープンし、世界各国の美味しいものが簡単に食べられるようになった。
そんな中、ここへきてとくにアツい存在として脚光を浴びているのが、「Sake(日本酒)」と和食だ。これまでは、和食と言えば鮨かラーメン、という程度の認知度だったのが、ここ1年ほどで、日本人オーナーによるクオリティの高い居酒屋タイプのレストランが立て続けにオープンするなど、明らかにネクストレベルで、和食や日本酒を求めるムーヴメントが起きている。
そこへ早速目をつけたのが、ベルリンでDJとして活躍する傍ら、人気クラブUrban Spree にてパーティーをオーガナイズしているPlatinum Pork氏だ。インタビューを織り交ぜながらお届けするこのパーティーレポート、できることなら日本酒片手に、ぜひお楽しみいただきたい。
<Japanese Sake Festival>の初回開催は今年1月。2フロアあるクラブとビアガーデン、ギャラリースペースのあるキャパシティ800人の比較的大きなクラブ、Urban Spreeの全てのスペースを借り切って、日本酒と和食、アート・工芸品など小売の出店に加え、日本舞踊や琴といったパフォーマンス、そしてDJ陣によるクラブパーティーが、一夜のうちに開催された。
フェスティバルと言ってもスポンサーが付いているわけではなく、これまでオーガナイズしてきた音楽主体のパーティーとは主旨を異にするイベントだけに、すべてを手探りで進めたと、Platinum Pork氏は語る。
ベルリンの冬の夜はかなり冷え込むので、ビアガーデンでの屋台運営には、天候も売上に大きく関わってくる。ベルリンで開催された一般消費者向け日本酒イベントとしては最大規模となり、多くの人が関わる中での新しい試みだけに、開催が決まってからの準備期間は極度のプレッシャーの中、1ヶ月休みなしで働き続けたと言う。
その努力とアツい思いが功を奏して、当初は参加者数500名以上を目標にしていたものの、結果的になんと2700名という快挙的な来場者数を記録して、初の<Japanese Sake Festival>は、大成功のうちに幕を閉じた。
当日、イベントの噂を聞きつけたベルリンのテレビ局から、飛び込みの取材まで入ったほどだった。
筆者は、その第1回目には残念ながら参加できなかったのだが、先日9月16日に開催された第2回目にはDJとして参加することができ、17時のオープンから翌朝5時のクローズまでしっかりと、スローガンである“Sake Revolution”のスピリットを堪能してきた。
<Japanese Sake Festival>
ベルリンの9月はもう初冬のような寒さでどんより曇り空の日も多い中、幸運にも、当日は晴れ。レコードバッグとカメラを抱えてUrban Spreeに着くと、秋晴れの太陽の下、DJブースのあるビアガーデンのスピーカーからはディープハウスが鳴り響く中、たこ焼きやコロッケ、焼き鳥、餃子などの屋台が立ち並び、お祭り感はすでに上々。
早めに来場した多国籍なお客さんたちが、おちょこ替わりのショットグラス片手に談笑している。ビアガーデンを見渡した瞬間、「ああ、今日は間違いなく、記憶に刻まれる一夜になるな」と胸が高鳴り、うれしくなった。
フェスのシステムは、1ドリンク付きのエントランスが3ユーロ。ショットグラス入りの酒は一杯4ユーロ。20ユーロで飲み放題用のリストバンドが買えるので、酒目当てで遊びに来ているお客さんの多くはこのシステムを利用して、13種類ある選りすぐりの酒たちを楽しんでいた。
エントランスで、すべての酒の名前と説明が書かれたリストをもらい、5つある酒ブースを思い思いにまわって好みの酒に出会う。筆者も、日本酒に限らずかなりの酒好きなのだが、ベルリンにいると、日本酒を口にできる機会はごく少ない。
だからなおのこと、「天狗舞純米酒」の熱燗や「喜久盛純米大吟醸」、「東光純米酒」、「人気スパークリング大吟醸」などなど、ベルリンではとくに貴重な名酒たちを自由におかわりできるこのシステムは夢のようで、自分のDJ前にすでに少々酔っ払ってしまった……。
さて、程よく酔っ払ってきたところで、たこ焼きを頬張りながらスタッフと談笑する、トレードマークの金髪とスカジャンが眩しいPlatinum Pork氏を捕まえた。ちょっと話を聞いてみよう。
——そもそもどうしてベルリンに移住しようと思ったんですか? もともと音楽をやっていて移住してくるアーティストは多いけど、Platinum Pork氏は、こっちに来てからDJを始めたんですよね?
ベルリンに来る前に、世界一周など2年間で40カ国以上を旅していました。当時2012年はEDMが全盛だったのですが、ベルリンに来てBerghain(※)やTresor、Watergateといったクラブでアンダーグラウンドな音楽に出会って「これはすごい」と直感しました。
世界中を旅しながら仕事をするのが夢だったので、「ただ旅をする」よりも「誰かが現地で待っていてくれる旅」の方が価値があるなと思ったんです。
小学校の時の音楽の授業の成績は1とか2と苦手科目だったので、音楽は自分にとって絶対に関わることがない分野だろうと敬遠していたのですが、一番難しいことだからこそ、経験・人脈・知識の全てがない状態で、ゼロから自分を試してみたかったというのがあります。
(※)Berghain: ベルリンはフリードリヒスハイン=クロイツベルク区にある、世界最高峰のダンスクラブ。大きくは、テクノがメインのBerghaih、ハウスがメインのpanorama barの2フロアから成る。ユニセックスな社交場となっている独特のトイレ・カルチャーも有名。