——<Japanese Sake Festival>のコンセプトはどうやって思いついたんですか?

ベルリンに来てから1年が経って、はじめてブッキングをもらい、Neu West BerlinというクラブでDJをしました。初回のDJはもちろん全然ダメで、もっと経験が必要だと実感しました。でも、DJの腕がない人にブッキングが来るわけもないので、自分の場所は自分で作る必要があるなと思い、パーティーを始めることにしたんです。

そこで、まずは自宅でたこ焼きパーティー(通称「タコパ」)を開催して友達を増やしていくと、コミュニティができていいパーティーができることに気づきました。そのタコパも毎回50〜60人が来るようになって、ある時、日本から持ち帰った日本酒を振る舞ったことがあったんですが、その時のベルリナーの友達の反応がすごくて。

「Oh, Sake!」とか言って、テンションが上がってるんですよね。いろいろ話を聞いているうちに、みんな日本酒の存在は知っているけど、あまり多くの種類は飲んだことがないということが分かりました。

そこで、「酒とエンターテイメント(音楽)」のフェスを作ったら多くの人が喜んでくれるんじゃないかと思って、開催したのがきっかけです。

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オープンから1時間ほどで、すでにビアガーデンは満席。日本酒ブースには常に行列ができていた。筆者は夕方から夜にかけてビアガーデンでDJしたのだが、陽が落ちるとだいぶ気温も下がったものの、客足は絶たない。焚き火も出て、ぐっとパーティー感が出てきた。DJ後、夜中のクラブナイトで踊るに備え、真澄辛口を片手に、目の前で炙ってもらった鯖鮨で胃袋を満たす。幸せである。

取材と社交の合間に、飲み放題終了の11時PMまで、気が向けばブースに行って全種類の酒を楽しんだのだが、ラスト近くにはほとんどの酒がすでにソールドアウト。お客さんも出店者も出演者も、みな笑顔でお喋りに興じていた。Urban Spreeには何度も来ているが、真夏でさえ、ビアガーデンがあんなに人でいっぱいなのを見たことがなかった。

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AM12時にビアガーデンがクローズし、すべての出店も店仕舞いしたあとは、お待ちかねのクラブナイト。Platinum Pork氏は昨年6月、ベルリン屈指のハードコアなパーティーで知り合ったDJ陣を集めた<Kids On Wax>というクラブパーティーを、おなじくUrban Spreeでスタートさせた。

有名DJをゲストで招聘することはせず、完全にローカルDJによるローカルパーティーなのだが、人が人を呼ぶスタイルで、木曜開催のことが多いにも関わらず、いつも盛況。この日のクラブナイトは、その<Kids On Wax>の延長バージョンと言える。いい感じに酒が入って帰りたくないお客さんたちで、ビアガーデンに続いてフロアは満員。酒と好相性のアップテンポな四つ打ちビートに身を委ね、筆者もしばし、仕事を忘れ、音に酔いしれた。

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……さて、仕事に戻ろう。

——オーガナイズしているクラブパーティー、<Kids On Wax>は、ベルリン中の様々なパーティーのフロアで知り合ったローカルDJをブッキングするのが特徴で、魅力でもあると感じますが、このコンセプトはどうして思いついたんですか?他の多くのパーティーのように、メインゲストとして名の売れたDJを招聘することは考えなかったのですか?

他の有名クラブと同じことをしても、知名度や資金力から明らかに負けてしまうと感じていました。そこで知名度や資金力に依存せずにいいパーティを作るにはどうすればいいかと考えた時に、「ローカル」な「コミュニティ」のあるパーティーが、いいパーティーになると気づきました。DJにも同じことが言えて、いいコミュニティ(友達)を持っているDJの人達とパーティーをすれば、コミュニティも友達のために応援しようと一緒にパーティを盛り上げてくれます。

じゃあ、そんないいコミュニティを持っているDJはどこにいるかというと、Berghainのトイレにいることに気づいたんです(笑)。<Kids On Wax>のクルーには、ほとんどBerghainのトイレかタコパで出会っています。

Berghainにいるような人がたくさん来てくれるパーティーというのはお客さんのクオリティが高いので、自然といいパーティーができると確信していました。また、世界中が均質化する中で、ベルリンの魅力は「ベルリンにしかないもの(ローカル)」が多くあることだと思っていました。みんなローカルを求めて旅をしていると言っても過言ではないと思います。そして、ベルリンローカルの最大の魅力は「人」だと感じています。

——海外で、パーティーオーガナイズという自分にとっての新境地、しかもベルリンでは最も競争率の高いビジネスに取り組んで、当然苦労もあったと思いますが、とくに大変だと感じた、もしくは感じることは?

未経験のことばかりなので、常に学びで全てが大変です。特に海外では言葉の壁があり、日本のようにスムーズにいかないことが多いです。最初の2年間は、感覚的には日本の5倍大変だと感じていました。また、常に新しいコンセプトを模索しながら綱渡りのようにパーティーを作っていっているので、全く気が抜けなかったというのが正直なところです。ただ最近は、オーガナイズチームが出来たり多くの友達が応援してくれるようになってきているので、すごくありがたいなと感じています。

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そんなこんなで、AM5時。しらじらと夜は明けて、12時間におよぶ、美酒とダンスと音楽に彩られた祭典は、終わりを迎えた。ちなみに筆者は、この日Urban Spreeに着いたその時の直感どおり、案の定オープンからラストまで、呑んで喋って踊ってしまった。

——2回の<Japanese Sake Festival>開催を終えて、とくに大変だった点、またそれでも次をやりたいと思わせるほどのモチベーションは、それぞれ何ですか?

1回目は2700人、2回目は1000人の来場者がありました。2回目はスペースが半分だったこともあって来場者減となりましたが、新しく導入した飲み放題のコンセプトがすごく評判良かったです。一方で、ドイツ人をはじめとするベルリナーがどれだけ飲むかの予測が付かなかったのが大変でした。結果的には予想以上に飲むということが分かって、いい勉強になりました(笑)。

世界を見れば見るほど、逆に日本の良さというものを実感するようになり、特に日本の食文化は本当にレベルが高いと思います。そんな日本の文化を、食をきっかけに広めていきたい、多くの人に味わってもらいながら喜んでもらいたい、というモチベーションがあります。特に日本酒は世界中で消費量が伸びているし、「お酒とエンターテイメント(音楽)」のコンセプトはまだまだ受け入れられると考えています。将来的にはDJイベントだけではなく、一般人参加のカラオケのど自慢大会や相撲大会なども開催したいと考えています。個人的には、酒を飲んだ後のみんなと、自分も日本酒を飲みながらDJする時が、一番幸せな時間ですね。

——すでにリスボンにも第二拠点を持つプランを進めているようですが、具体的にどんな展望を持っていますか?私はリスボンには行ったことがないのですが、どんな魅力がある街なんですか?

2年ほど前にリスボンに初めて行ってから、ベルリン以外で住むとしたらリスボンだと思っています。リスボンとベルリンは、「インターナショナル」「物価が安い」「アーティストが多い」など、街の性質として共通点が多いんです。逆にリスボンにだけある良い点は、「海がある」「気候が温暖」「食べ物が美味しい」など。

ポルトガル人も人なつっこい良い人が多いですし、日本人は受け入れられやすいと思います。今、DJが最もプレイしたい街がリスボンなんじゃないでしょうか?アーティストだけでなく、スタートアップ企業も多く進出しているようなので注目です。ちなみに個人的には、Caparicaというリスボン中心街から車で20分くらいのビーチ沿いの街が好きです。LAのHuntington Beachのようなサーフタウンで、ゆったりとした時間が流れていて最高ですよ。

——ロンドンでも<Japanese Sake Festival>を開催する計画があるんですよね? よかったら、少しシェアしてください!

2018年春を予定しています。ロンドンは、和食に関しての浸透度合いはベルリンよりもはるかに上です。多くのロンドン在住の方と知り合いながら、自分自身(ロンドンの)文化を勉強することを楽しみにしています。また、<Japanese Sake Festival>はロンドンだけでなく、7年後には世界20都市で年間100万人の動員を目指しています。海外でより多くの方に日本文化が広がるようにがんばっていきたいなと思っています!

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オーガナイザーの、こんなアツい思いが発端となりカタチとなったフェスティバルは、時間帯とともに違う色合いを見せ、そのどれもが、そこに参加する人たちの笑顔と会話と、「今、なにかあたらしいことに関わっている」ことにワクワクしているような、弾むようなヴァイブスで満ちていた。ベルリンでも東京でも、おそらく世界中のどこかしこでも、結局人は、そういうグルーヴを求めて集うのではないだろうか。そんな確信めいた思いを胸に抱きながら、踊り疲れた足腰にずっしりひびくレコードバッグをガラガラ引きつつ、家路についた。

Japanese Sake Festival Summer 2017 オフィシャル動画

松井理恵子

クラバー / ライター。高まり続けるクラブカルチャーへの人並みならぬ情熱を胸に、2010年よりダンスミュージックのメッカであるベルリンに移住。アーティストPR、viceの記事ローカライズ等を経て、実体験に基づくリアルな視点から書くことにより、日本のクラブシーンに貢献することを志す。ヴァイナルラバーでもある。