アルバムのジャケットで16FLIPは、2020年に亡くなったMFドゥーム(MF DOOM)のアクセサリーを身に着けている。粋だ。16FLIPはいまや言うまでもなくラッパー、ISSUGIのビートメイカー/DJ名義だが、彼が世にビートを発表し始めた当初はその事実を明かしていなかった。むしろ意図的に隠していた。それは、名前や知名度ではなく、音楽を耳で聴いて判断してほしいという思いがあったと推察するのはそう難しくはないはずだ。アンダーグラウンドにおいて絶大な支持を受けたラッパー/ビートメイカーのMFドゥームが仮面を被ったのもスター・システムに抵抗して、純粋に音楽で勝負したかったからだろう。

16FLIPも一貫して音で勝負し、着実に進化/深化を続けてきたヒップホップ・アーティストだ。先日リリースされた『16FLIP(Atomosphere’22)』はその最新の成果だ。16FLIPは自身のグループ、MONJUをはじめさまざまなラッパーにビートを提供する一方で、ソロ・アルバムやリミックス作品を残してきている。その名を広く世に知らしめたSEEDAのクラシック『花と雨』を全曲リミックスした『ROOTS & BUDS』(2007)、ファースト・ソロ『SMOKYTOWN CALLIN』(2012)とそれに続くセカンド『”06-13″』2013)、あるいはBES『THE KISS OF LIFE』のリミックス・アルバム『The Definition of This Word』(2017)、そしてISSUGIがミュージシャンらと共同制作した『GEMZ』(2019)をみずからリミックスした『16GEMZ』(2020)などが挙げられる。

そして本作は、17曲入りのビート集となる。こうしたビート集は、ダブ/レゲエ、アフロビートからの直接的な影響がうかがえた『10DUBB』(2015)以来、じつに7年ぶりだ。まず、その硬質でパリッとした、目の覚めるような音の鳴りや音響に耳がいく。『16GEMZ』で聴くことのできた16FLIPの深化がさらに進んでいると感じる。定番のブレイクビーツを独自に調理する曲があり、彼流のドリルもある。全編を通して、ビート・ミュージックとしてだけでなく、エレクトロニック・ミュージックとして非常に興味深く、刺激的な作品だ。そこで、16FLIPがいま時間さえあれば訪れ、ビート制作に向き合う場所「J.STUDIO」で話を訊くことにした。

INTERVIEW:16FLIP

ミュージックのなかに見た人の尊厳──16FLIP、インタヴュー interview220704-16flip-5

──<POP YOURS>のMONJUのライヴを生で観ましたよ。すごい良かったです。やってみた感想はどうですか?

単純に楽しかったですね。前日に大阪で〈Dogear Records〉の主催イベントをやってから3人で移動してきたのでツアーみたいでしたね。やり切ったなって。

──しかも<POP YOURS>当日の朝まで、その大阪のTRIANGLEで遊んでいたらしいと(笑)。すごい体力ですね。

いつもそんな感じですよ(笑)。自分たちのリリパだったし。

──あれだけ大きい会場でMONJUがライヴするのはそうそうないですよね。2日間でいろんなライヴを観ましたけど、なかにはステージングに苦労している様子の人や、イヤモニ(イヤー・モニター)をしきりに気にする人も目立ちました。

最初はイヤモニをしないでやる予定だったけど、前日に出ていたJ(JJJ)が「イヤモニした方がいいですよ」って教えてくれたから付けました。付けて良かったです(笑)。DJブース前の長方形のステージにはモニターが4個くらい置いてあったけど、花道にはなかったから、その位置まで歩いていくと自分の耳で聴こえてる音と DJが出してる音に時差があるんですよね。

──なるほど。しかもリハもなしでぶっつけ本番だったと。あの大舞台でもいつものMONJUのやり方を変えずに盛り上げていて熱かったです。

俺らがスタンスを変えたらウケないですか(笑)。「あいつら変えてきたぞ」って。

MONJU – Blackdeep(Live at POP YOURS 2022)

──たしかに(笑)。それはMONJUじゃない。そして、『16FLIP(Atomosphere’22)』というビートテープが今回出ました。ビートテープは2015年の『10DUBB』以来です。前回はタイトル通り、ダブやレゲエというテーマがありましたけど、今回はどうでしたか?

最近作ったビートを並べていきなり出しちゃおうと思ってサクッと完成させました。ほとんどが今年の1~4月くらいまでに作ったビートです。自分の動きが遅いなと思ってたので、寝かしたりしないですぐリリースしたくて。だからいまの自分のビートっていうのがテーマです。

──実際“Beat Diary”とタイトルに付く曲が2曲あります。

俺は時間さえあれば、ここ(J.STUDIO)に来てて、『16FLIP(Atomosphere’22)』も99%ここで作りました。例えば、インタヴューが始まる前とか、仙人掌と(Mr.)PUGが来る前とか、そうやって空いてる時間があるとやりたくなります。ビートはここで作るのが調子いいですね。

──ビート・メイキングが毎日の生活に組み込まれているということですね。いろんな種類の曲がありますけど、“Independent”はMONJUのシングルのビートです。この曲でISSUGIくんが《二刀流 like 大谷の肩》《中野のDr. Dre》とかなり強気のライムをしているのが印象的でした。

これはMONJUのEP(『Proof Of Magnetic Field』)を出したあとの、グループとしての最初のシングルで、ビートを作り終えた時点でこれ本当にヤバいのができたと思ったから、そっこうで出そうって話になったんです。リリックにもそういう自信が出ているかもしれないですね。このビートで乗らない人がいたらもういいやみたいな(笑)。

──“Independent”に加え、“Don’t Forget”にも「Sampled from DJ GQ」というクレジットがあります。DJ GQは福岡を拠点に活動しているビートメイカーです。

GQが自分で弾いたクオリティーの高い1、2分ぐらいの音源をたまに送ってくるようになったんです。「これサンプリングしてビートを作ってください」って。“Independent”と“Don’t Forget”はそれを使っています。GQの弾きをいかにヤバくして送り返すかが楽しいので、これからもどんどんやっていきたいですね。音の質感もGQのおかげで自分だけのときと違う側面を引き出してくれる。

ミュージックのなかに見た人の尊厳──16FLIP、インタヴュー interview220704-16flip-1

──“Nakano JFK”は16FLIP流のドリルですね。

『16FLIP(Atomosphere’22)』は 短い期間で作っているけど、作品としてビートの幅は出したいというのはありました。PUGがドリルにハマっているから俺も遊びで作ってみようかなってノリで、ライヴの日にリハをやってスタジオに1回戻って本番まで時間があったからそのあいだに作って、気に入ってるんですよね。とりあえず、違う感じのドラムに乗っけると絶対新しい感じになるし。

──独特のズレがあって普通のドリルじゃないのが面白くて。

いつものビートと同じで揺れているんだと思います。こういうビートを作る人で全部クオンタイズ・オフで作る人っていないと思うんですよね。でも自分はビートを作るとき、全部オフじゃないと作れないんでドリルでも揺れちゃうんですよね(笑)。

詳しくないけど、自分が聴いたドリルは、ベースの音色や入ってくる小節のポイント、スネアの音色がわりとテンプレート感があって自分的にそこも面白くて。そういう部分はあえて同じドラムキットとか使って残してみて、その上で自分のオリジナリティを出そうとは考えましたね。考えなくても出ちゃうんですけど(笑)。

あとPUGから聴かせてもらった感じ、ソウルとかのネタでドリルのビートを作る人があんまりいないと思ったんで、自分でそれを1回やってみたくて。どういうビートになるんだろう? ていう好奇心で。結局俺が普通のドリルを完成させても超つまらないと思うし、「俺じゃなくて良くない?」ってものは作らないすね。

──しかし、ビートのスタイルもそうですけど、最初にひととおり聴いたとき、音響というか、その鳴りのカッコよさに痺れました。

ありがとうございます。聴いて1発で16FLIPってわかるような鳴りを持っていたいですね。いちビートメイカーにとって、その人の持ってる鳴りって、ビートそのものと同じくらい、もしくはそれ以上に重要なことだと自分は思っていて、優れたビートメイカーはみんな自分だけの鳴りを持っていると思います。それは1曲じゃなくて全体で示すことなんで、自分を突き詰めるヤツが唯一のサウンドになっていくと思います。俺も自分の好きな音の鳴りというものが確実に存在するし、いまもリリースするたびに理想を追いかけてます。

『16FLIP(Atomosphere’22)』だと特に“Misty Man”の音の鳴りが上手くいったと思ってるんですよね。なんかミキシングとかマスタリングする前から良くて。自分はやっぱり聴いた人の体を揺らしたいんで。しょぼかったら揺らせないんですよね。

──ISSUGIのアルバム『GEMZ』を16FLIPがリミックスした 『16GEMZ』のリリース時のFNMNLのインタヴューを読み直したら、「7INCTREE」の企画が始まるころぐらいに、Ableton Liveを導入した制作になったそうですね。

いまは、ほぼ9割はAbletonを使ってスタジオで作業していますね。MPC 3000も大好きなんですけど、1曲を作るのに時間がかかるので、いまの自分の気分と上手く一致しないときがあって。

例えば10曲入りの作品を出すとして、10曲全部をMPCで作る気持ちがいまは湧かないんです。それと、MPCで作れる展開とAbletonで作れる展開は違うと感じていて、MPCはサンプリングをしないと音が増えていかないけど、AbletonはMIDIキーボードで、ピアノやギター、ストリングスとかいろんな楽器の音をすぐに出せて試せる。そうやってより多い引き出しからビートに合ったものを作りたい気持ちがいまは強いのかもしれないです。

7INC TREE – Tree & Chambr DIGEST 1

──MONJUが去年出した最新EP『Proof Of Magnetic Field』と今作のビートは微妙に違いますよね。

そうですね。MONJUのEPはAbletonとMPCはどんな割合だと思います? 全部わかったら結構すごいです。ちなみに『16FLIP(Atomosphere’22)』は全部Abletonです。

──難題がきた(笑)。“beats”はAbletonですか?

あれはMPCなんですよ(笑)。

──めちゃ恥ずかしい、いきなり間違えた(笑)。

これをすべて当てられるヤツはヤバいっすね。それは、たぶんビートメイクしてる人(笑)。いい具合に入っているんです。両方を使って作ることはないです。

──“Ear to street”はMPC?

そうですね。

──この曲はわかりやすいかもしれなかったですね。“In the night”はAbletonなんじゃないかな。

はい、Abletonですね。

──ちなみに最終的にラップを入れる曲にするか、インストのビートで発表するか、そのあたりは区別があるんですか?

はっきり言って変わらないです。今回もどのビートにラップを乗せてもイケてると思いますよ。

でも、ラップが乗るのを待つと多少なりとも時間かかるし、今回は作ったビートを時間を空けずにすぐリリースしたいっていうスピード感がテーマというかやりたいことだったんで、どんなに良いビートだったとしても ラップを乗せたいから取っとくとか、そういうことは考えずに一気にやりました。

ミュージックのなかに見た人の尊厳──16FLIP、インタヴュー interview220704-16flip-3

──“Ear to street”はあるブラジル音楽のコーラスの部分をループしていますけど、こうしたアップテンポな曲をEPから先行で発表したことがじつは意外でした。EPを聴いて、“in the night”が先行曲でもおかしくなかったなと思って。でも“Ear to street”を先に出す意外性が面白かった。

MONJUはいろんな側面があると思うから、たとえば“Blackdeep”や“in the night”みたいな曲を先行に持ってくるんじゃなくて、“Ear to street”を1曲目に出す方が面白いでしょっていうことを考えてるのもMONJUなんですよね。

──言われてみれば、その判断はめちゃ納得しますね。でも、リリース・パーティのASIAのライヴでは“Ear to street”じゃなくて、“in the night”から始めていましたね。

たしかにライヴでは“Ear to street”から始めなさそうですね(笑)。

──そのライヴも記録されている「40minutes Of Overkillin’」っていうBlack Fileの映像があったじゃないですか。あのなかでMr. PUGが仙人掌とISSUGIくんにリリックの説明をするシーンが自分は好きで。

ありましたね! 話の内容は完全にいま忘れちゃってるんですけど、PUGの説明ありきで超笑ったのはおぼえてます(笑)。

仙人掌とPUGはテーマをリリックにしていくやり方ひとつとってもそれぞれ違う個性を持っているラッパーだと思っていて。言葉ひとつから連想してくるものと、そのひとつの言葉からの膨らませ方とかもぜんぜん違ったりするのが超良いんですよね。俺ら「ゴリラっぽい曲作ろうぜ」ってだけのテーマで進んでいったりしますからね(笑)。

“MONJU Presents 40minutes Of Overkillin'”

──この音は緑色っぽいとか茶色っぽいとか人によってありますよね。ラップと言えば、“GEMZ – OUTRO”のフロウがすごく印象に残っています。

ありがとうございます。あの曲のラップの乗せ方にはルールを作ってて、ヴァースでは「最初の半小節は乗せないで」ということを揃えてやって、「この曲はこういうフロウで」みたいに遊んでみたすね。リリックも気に入ってるす。

──リリックと言えば、“NEW DISH”(『GEMZ』収録)の《70年代なら俺はミュージシャン》はものすごくISSUGIくんらしいなと。

リリックはそのときに思ったことを自然に出してますね。“NEW DISH”は、俺は90年代に育ったからヒップホップ好きになってラッパーでビートメイカーだけど、ヒップホップがない時代に育って70年代に生きていたらミュージシャンをやっていただろうなっていうシンプルな感じですね。

──“GEMZ – OUTRO”の《ミュージックのなかに見た人の尊厳》もひとつの核心を突いた重要なリリックだと感じて、これは、ISSUGIくんが表紙で国内のヒップホップ特集を組んだ雑誌の『ele-king』の編集協力をしたときに、自分が書いた「音楽家ISSUGIの挑戦」というイントロダクションで引用させてもらいましたね。

ああいう音楽としてのヒップホップという企画で俺を選んでくれてロング・インタヴューをやってもらえたのは本当にうれしくて。文字を書く人たちはどちらかと言えば、ラップの音より言葉の方により比重を置く印象が俺はあったから、俺を表紙にしてくれたことは挑戦的だと思いましたし、熱いと感じて。

──その反応は自分としてもすごい嬉しい。まさにあのテーマは問題提起でしたね。特にいわゆる日本のヒップホップのブームが起きて以降、どうしても“ラッパーの生き様”とかゴシップに焦点が当たる傾向が強まっていたし、そこに自分もライターとして少なからず与してきた自覚はあったし責任も感じていて。もちろんそれもヒップホップの面白さだけど、「音楽が重要だし、音をもっと真剣に聴いて音楽に向き合おうよ」という当たり前のことをあの特集では言いたかったですね。そこでどんなジャンルも「音のヤバさ」を基準に取り上げてきて厳しい審美眼を持つ『ele-king』の編集部とめちゃめちゃ議論しまくって、ISSUGIくんを巻頭にしてやろうとなって。でも、音について説明したり言葉で語ったりするのは難しいことでもありますね。

たしかにそうですね。説明するのは本当に難しいし、本来しなくていいならアーティストはしない方がいいかもと感じるときもあるし(笑)。

──例えば、16FLIPのビートはやっぱりその独特のグルーヴが肝だと思うんですけど、グルーヴと一口に言っても、そこにはいろんな感覚やノリがあるわけですからね。

俺の場合は自分で叩かないと作れないグルーヴが絶対あるので、そこは重要視しています。ミュージシャンが演奏するのといっしょで、自分のタイミングを突き詰めてやればやるほどその人そのものになる感じです。

ミュージックのなかに見た人の尊厳──16FLIP、インタヴュー interview220704-16flip-7

──『GEMZ』でバンドとともに制作したり、ライヴしたりした経験はビート・メイキングに活かされるものですか?

ひとりで作るのとバンドで作る感覚はもちろん違いますね。ぜんぜんイメージしてない音ができるのがバンドかなと思う。Budaくん(BudaMunk)のビートありきでアラタ君(荒田|WONK)やMELRAW、Kanさん(井上幹|WONK)、Takuさん(金子巧|cro-magnon)に弾いてもらって仕上げた曲もあるし、まったくゼロの状態から作った“踊狂 – Remix”なんかは絶対にひとりじゃ作れなかったですね。バンドにはそういう実験を重ねていく面白さがあって、しかも複数の人間だからひとりから出てくる発想じゃないんですよね。その後、自分がビートを作ることに影響を与えていると思います! ひとりでビートを作るときも、あるネタを見つけて頭のなかでループさせたり、切って並べ替えたりしてて、その上にこんな音が合うかもとか思ったりします。

──そうやって頭のなかでイメージしたときの解像度はとうぜん昔より上がっている?

自分の好きなメロディの羅列がより直感的に判断できるようになっているかも知れません。そうなっていくと、ネタ聴いてるときの閃きの数も多くなるんですよね。何からでもいけるじゃんみたいな感じで(笑)。

──今回で言うと、“Urban Tactics”のような定番のブレイクビーツを独自に調理するビートもいつも作っていますよね。こんなふうに崩すんだ、と興味深かったです。

こういうのってずっとヒップホップ聴いてる人ほど響くと思うし、初めて聴く人は衝撃だと思う。自分にとってのB-BOYマナーですね。ドラムだけでぶち上がる。いつでもやりたいんですよね、受け継がれる限り古くならないから。

──それでも、やはりクオンタイズはしないんですよね?

基本はしないです。ハットを連続でキッチリ入れたいときくらいですね。それも稀ですけど。前にGRADIS NICEがクオンタイズでは出せない人力の「“これぐらい”がある」って言っていて、俺も本当にそういうことだと思うんです。

──KRUSHさんに7年前ぐらいにインタヴューしたとき、J・ディラ(J Dilla)のヨレたビートの話になったことがあって。そこでKRUSHさんが90年代にブラック・ミュージックやヒップホップの腰と首にくるグルーヴは何かを研究したことがあると語ってくれましたね。有名なブレイクビーツの4小節か8小節をサンプリングしてループするようにシーケンスを組んで、まったく同じ位置に自分でキックとスネアを打ってみて、それから元のブレイクビーツを抜くと、2発目のスネアがジャストじゃなく後ろに位置しているから次のキックが早く聴こえて首にくると気づいたと。

そういう試し方があったんですね。人によってどこに来てるかとかも若干違うと思うけど、確実に言えるのはラップもビートもグルーヴがあったほうが気持ちいいってことだと思います。

──最近プッシャー・T(Pusha T)の“Diet Coke”がすごい好きだって語っていましたね。

あの曲はここ1年くらいだったら1番好きな曲かもしれないです。まずビートが超カッコいいし、フロウも癖になるし、そのあとにリリックも理解して。プッシャー・Tらしい面白いことを言っていましたね。俺も好きな曲のすべての歌詞を知っているわけじゃないけど、本当に好きだったら歌詞も知りたくなりますね。

Pusha T – Diet Coke

──ところで、『16FLIP(Atomosphere’22)』というタイトルは、元々DJ KILLWHEEL名義の『180atomosphere』というMIXCDシリーズから来ていますね。

タイトルは今回、なんでもいいかなって感じで、2022年に瞬発的に作ったからこのタイトルにしました。Atomosphereっていう言葉が昔から好きで、ビートは俺の持ってる雰囲気だと思うので。

──ちなみに、このシリーズを最初に始めたのはいつぐらいでしたか? 2012年とか?

いや、もっとぜんぜん早いです。『Black De.Ep』(2008)を出した年くらいにはVol.1を出していて、それには自分のフリースタイルとかも入っていました。それは聴いたことありますか?

──いや、恥ずかしながら聴いたことがないですね。めちゃ聴きたい。

『180atomosphere2』には、S.L.A.C.K.が“Blackdeep”のインストでラップした“SLACKDEEP”が入っているはずです。そういうリリースされる前の曲とか、そこでしか聴けない曲をいれるのがMIXだと思ってたので。

DJ KILLWHEEL aka 16FLIP/180atomosphere

180atomosphere2 DJ KILLWHEEL aka 16FLIP

──その頃にはクラブでもDJをやり始めていました?

(池袋)Bedとかではたまにやっていた気がするんですけど、まだ他県とか、東京以外でのDJのオファーはほとんどなかったですね。当時、MIXはプロモーションの一環というか、自分のクルーのラッパーのフリースタイルとか自分の好きなヒップホップをミックスして、『Black De.Ep』みたいにちゃんと流通させている作品と違う角度から 自分たちの周りの動きやノリを知らせるっていう感じでしたね。

──そのうえで、自分たちの存在やセンスも広まっていけば、さらにいいよね、みたいな。

そういう感じですね。良かったらその人たちのイベント行ってみようとかもあると思うし。選曲とかジャケットとかでもいろいろ伝わるし、曲のもう1歩奥みたいな。でもある意味、肩肘張らないで聴ける、手前でもあるんすよね。

──そういえば、3年ほど前には、16FLIPとしてジョージア・アン・マルドロウ(Georgia Anne Muldrow)をフィーチャリングした曲を出していました。ジョージア・アン・マルドロウは自分も好きで聴いてきたので。彼女の作る音楽はグルーヴィーでもあり、ドロドロもしていますよね。

超ドロドロしていますね。ジョージアは作るビートも超ヤバい。あれは、TRASMUNDOの浜さん(東京・下高井戸にあるレコード屋と店主)が大量に貸してくれた音源だけで作ったビート集『16FLIP VS TRASMUNDO』に入っているビートですね。ジョージアにどのビートを送ろうかいろいろ考えて、新しいのもあったんですけど、あのビートに乗ったら絶対ヤバいなって最終的に思って。ジョージアが歌ってくれたあとに、デヴィン・モリソン(Devin Morrison)がキーボードを弾いてくれて、それをさらにエディットして完成した。

16FLIP “Love it though” feat. Georgia Anne Muldrow

──最初の歌い出しまでのあいだで焦らされる感じがまずありますね。

歌が返って来て、センスとスキルに感嘆しましたね。「俺が作りたいのこれだわ」って。メロディとメロディにあいだがあって、それがタメになっていますね。詰め過ぎないところがカッコいい。たしかマッドリブ(Madlib)とメダファー(M.E.D.)、ダドリー・パーキンス(Dudley Perkins)、ジョージアはオックスナード(カリフォルニア)っていうところが地元だと思うんですけど、ドロドロとした土っぽいグルーヴが特徴な気がします。

──いま名前の出たマッドリブはかなり前からiPadで制作しているとも語っていましたよね。

もうスタジオには行かなくなったって何かで言っていましたね。でも、家ももはやスタジオみたいなもんだと思うので、あのレベルだと(笑)。俺もビートメイカーは各自最終的にそうあるべきだと思います。マリク(Malik Abdul-Rahman) は、“On The Train”(『UrbanBowl Mixcity』収録)をアプリのiMaschineで作ったんですよ。俺も言われないと気づかなくて、マリクが「これは、この駅からこの駅に行くときに作ったんだよ」って教えてくれて。だから、ビートメイカーは自分のグルーヴとセンスさえあれば、どんな状況でも自分の力を出せるから、ケータイでもヤバいビートは作れる。ホントに機材はなんでもいいんですよ。音楽は人間が作るものなんで。

ミュージックのなかに見た人の尊厳──16FLIP、インタヴュー interview220704-16flip-8

取材・文/二木信
写真/堀哲平

INFORMATION

ミュージックのなかに見た人の尊厳──16FLIP、インタヴュー interview220704-16flip

16FLIP(Atomosphere’22)

16FLIP
2022.05.27(金)
DOGEAR RECORDS

TRACKLIST
1.I’m Rain
2.Misty Man
3.Urban Tactics
4.Beat Diary 917
5.The Sun
6.Desert Nocturne
7.Frame of mind
8.Going Over(Newday)
9.Beat Diary 311
10.East Flo
11.Independent
12.3
13.Nakano JFK
14.Ghost Face
15.I Know Dat
16.Oneluv
17.Don’t Forget

All produced by 16FLIP
4.Sampled from Motif Alumni
11.17.Sampled from DJ GQ

ストリーミング/配信