きのこ帝国のドラマー・西村”コン”が新たに結成し反響を呼んだ3ピースバンド・add。シンガーソングライターとしても活躍するタグチハナをボーカル&ギターに、元アカシックで現在は可愛い連中のベーシストとしても活躍するバンビをメンバーに擁する。5月12日に配信リリースされたaddの待望の新曲“ニヒルな月”は彼らにとって初の書き下ろし楽曲であり、映画『Bittersand』の主題歌に抜擢されたことでも話題となった。今作について、さらにはメンバーが撮影・編集を手掛けたMVやタグチによるジャケットのアートワーク、また、今年で結成2年目となったバンドの現在についてなど、3人にじっくり話してもらった。

INTERVIEW:
add

自分の想いを素直に言うとか、
あの頃の自分にはできるはずもなかった

──約半年ぶりのリリースとなる新曲“ニヒルな月”がいよいよ配信リリースされましたが、その瞬間はどのような気持ちで迎えられたんですか。

西村”コン”(Dr./以下、西村) やっと聴いてもらえるっていう気持ちがいちばん強いですね。実はこの曲、制作してからかなり時間が経ってるんですよ。

タグチハナ(Vo&Gt./以下、タグチ) 1年前くらいにはもう作っていて。

──ということは前作、1st EP『Not Enough』(2020年9月4日リリース)の制作と同じ頃に?

タグチ むしろ先にレコーディングしちゃってたかもしれないです。

──そうなんですか!? これまでに発表してこられたaddのどの曲とも肌触りが違うので、てっきり最近の曲だと思っていました。addの新しい扉が開いたという印象だったのですが、もともとこういう引き出しも持っていらしたんですね。

タグチ 『Not Enough』はわりとバーッと曲を作って、EPにしたんですよ。この曲は時期的には同じだけど、映画の主題歌というお話をいただいて作ったものなので、またちょっと意味合いが違うというか。もちろんaddの引き出しのなかのひとつではあるんですけど。

──今作は映画『Bittersand』の主題歌として初めて書き下ろした楽曲とのことで。やはり作るにあたっての心持ちなどは異なってくるんでしょうか。

西村 心持ちはかなり違いましたね。

タグチ 事前に監督の杉岡知哉さんからaddのこの曲が好きだとか、こういうテイストが好きだというお話を伺ったり、内容についても少し話し合ったりしてから作り始めたんですよ。それまではゼロから自分で作っていたので、そういう作り方をしたことがほとんどなくて。そういう意味でもちょっと違ったかもしれないです。

サブプロジェクトから「3人のバンド」へ——きのこ帝国・西村“コン“擁するバンド add インタビュー interview210521_add-014

──ではタグチさんは映画のどういったところにフォーカスして、今回の“ニヒルな月”を書かれたんですか。

タグチ 作品を観て、登場人物たち全員がそれぞれの視点を持っている映画だなってすごく感じたんですよ。いろんなストーリーがあるというか、その人によって学校生活が全然違うふうに見えていたのが印象深かった。だから、これはむしろ登場人物全体を俯瞰して書くよりも、誰か1人の目線で書いたほうがいいなって思ったんです。なかでも主人公の相手となるヒロインの気持ちが映画の序盤から伏せられがちだったので、彼女の目線で書いたらどうかなって。

映画ではあまりわかりやすく表現されないけど、「本当はこうだったんじゃないかな」、「こういう気持ちってあるよね」って、彼女と話しているような気持ちで書きました。自分の学生時代を振り返ると、すごく楽しかったときもあればすごく悩んだときもあって……。10代の頃って、誤解とか勘違いが、とにかく起こりやすいじゃないですか。自分の想いを素直に言うとか、今だったらできることもあの頃の自分にはできるはずもなかったな、といった気持ちを思い出しながら作りました。

──どこか懐かしさも感じさせる、柔らかくも乾いたサウンドがまた歌詞にとてもマッチしています。

西村 この曲を作り始めた当時、ちょうどコロナ禍でスタジオに入れなくなったんですよ。慣れないリモートに戸惑いつつ、最初にハナが弾き語りで作ったデモをもとに彼女自身のイメージと照らし合わせながら、3人でやり取りをして模索していったんです。

あるとき、ハナから冒頭のギターリフの部分を鍵盤で弾いたデモが送られてきたんですね。それを聴いたときにみんなのなかで何かがカチッてハマったというか、今のアレンジの方向性が見えた気がしたんです。60年代70年代のアメリカっぽい雰囲気が懐かしくもあり、今っぽいテイストにも落とし込めそうだなって。

タグチ 映画のために4曲ぐらい作ったんですが、これは最後にできた曲なんです。はじめはちょっと頭が固くなっていて、「映画に合うのはどんな曲なんだ?」って考えすぎてしまった。なので一回、力を抜いて、自分が根本的に好きだったサウンドを思い返してみよう、と。その内のひとつがこういうちょっとオールドな雰囲気の音楽だったんです。

当時を知らないのに、私たちがまだ生まれていない時代の空気感みたいなものがすごく好きで。そういうサウンドを昇華して今の時代のテイストにするというのはチャレンジしたいことのひとつでもあったんですよね。だからリフも必然的にそういう感じになったんだと思います。

バンビ(Ba.) そのデモをハナからもらったとき、すぐにベースラインのイメージが湧いてきたんですよ。僕のなかでは、ベースラインがすぐ思い浮かぶときってすごく曲全体が締まるというか、まとまりやすくなるんですよね。そういうときはドラムもギターも歌もすぐにバシッと決まるイメージがあって、この曲にはそれをすごく感じた。

ただ、リモートだからいつもとやり方が全然違うんですよ。普段なら3人揃ってスタジオで大きい音を鳴らすけど、今回は録音したものをやり取りして音を乗せていく作業でした。なので、ちょっと時間はかかりましたけど、曲全体のイメージは最初からあまりブレてない気がします。

サブプロジェクトから「3人のバンド」へ——きのこ帝国・西村“コン“擁するバンド add インタビュー interview210521_add-012
サブプロジェクトから「3人のバンド」へ——きのこ帝国・西村“コン“擁するバンド add インタビュー interview210521_add-05

模索したからこそ進化した表現

──コロナ禍前にはリモートで曲を作ることなんて、そうなかったでしょうしね。

バンビ うん、ないです。

西村 僕も初めて取り組みました。急遽、DTMの機材を購入したり、セルフレコーディングの方法を模索し始めたという感じで。それはそれで面白さはあるんですけど、やっぱりスタジオで音を出して作ってきたのが身に染みついちゃっているので、その感の違いにはすごく戸惑いを持ちながら模索していましたね。でも作業的にはけっこう楽しかったですよ。ハナからさっき言ったリフが来たときも「おお、こんなの作るんだ!」ってテンション上がったし。

タグチ ニョイ〜〜〜ンって(笑)。

西村 スタジオでギターを持って考えていたとしたら、あのフレーズは出てきてないかもしれない。

タグチ そうだね、できてないと思う。

バンビ スタジオだと瞬発力はすごいけど、手癖で対応しがちになるから。音がデカいし、「うわ、楽しい!」ってその場のノリでやっちゃうけど、今回みたいにデモを受け取ってから一旦、落ち着いたときに出てくるものの良さっていうのもあると思うんですよ。それはリモートだからこそ新たに得られたものでしょうね。DTMの場合、曲がスタジオとはまた違う広がり方をするというか。

──新たな方法論、武器がひとつ増えた、みたいな。

西村 そんな気はしてます。

──“ニヒルな月”というタイトルにも独特のセンスを感じます。どんなイメージから生まれたんですか。

タグチ 今回『Bittersand』を観させてもらったとき、私は第三者の目線で登場人物のみんなを見ていたんですよ。でも、そんなふうに俯瞰で全体を見ている人なんて現実にはいないじゃないですか。もしいたとしても、その人が観ているものに対して何かを教えたりしないし、何かを感じたりもしないし、作用することもない。みんなのバラバラな気持ち、バラバラな目線を本当に俯瞰したらどう見えるんだろうなって考えたときに、そういうものの象徴として、なんとなくお月様が浮かんだんです。

私は太陽にはすごく憧れがあって、太陽からパワーを受けてると思うんですけど、月に関しては不思議な気持ちをいつも抱いていて。「なんでそんなふうにこっちを見てるの?」みたいな気持ちになるんですよね。何もしてくれないし、ちょっと冷たいよねって勝手に思ってて(笑)。この曲は私の気持ちとヒロインの絵莉子ちゃんの気持ちを混ぜ合わせて書いた曲だけど、そのなかで何か俯瞰的な立場のものを象徴としてひとつ置きたいなと思って歌詞に入れた《ニヒルな月》をそのままタイトルにしたんです。

サブプロジェクトから「3人のバンド」へ——きのこ帝国・西村“コン“擁するバンド add インタビュー interview210521_add-04

──おふたりはこのタイトルを聞いて、どう感じました?

西村 僕は真夜中のお月様というよりは昼間の月が思い浮かんだんですよ。昼間ってみんなが忙しく働いていたり、いろんなものが激しく動き回っているのに、月だけ何もしてないというか、ただそこにいて地上を座視してる感じがして。その対比を不思議に感じることがあるんですけど、その感じが最初にタイトルを見て曲を聴いたときに浮かんで。

バンビ 僕はコンちゃんみたいに昼間に浮かんでる月を思い浮かべることはなかったんですけど、最初に曲を聴いたときに昼間のイメージがあったんですよ。なのでタイトルを見て「月か……」って思ったんですよ。でも、そのあとハナからイメージを聞いたら、歌詞とか聴いて合致するところも多かったし、すごく新鮮な気持ちで取りかかった記憶がありますね。

──だからMVも青空の下、昼間が舞台の映像に? 今回のMVはみなさんが撮影・編集を手掛けられたとのことですが。

タグチ 今回はあんまり時間がなくて、自分たちで撮ろうかということになったんです。しかも急遽、「撮影に行こう!」みたいな感じで、ほぼ遊びに行ったような感覚で。

バンビ 「来週のこの日、どう? 空いてる?」みたいなノリで(笑)。ロケハンもしてないし、ストーリーも全然決まってたわけじゃなかったんですけど。

タグチ ロードムービーみたいな映像が撮りたかったんですよ。でも、それでよかったよね。夜にしなくてよかった。

バンビ MVを夜にしていたら、曲を聴いたときに思い浮かべるイメージもガラッと変わっちゃうだろうね。

西村 個人的に思うのはタイトルは“ニヒルな月”だけど、月は主人公じゃなくてあくまで第三者だから、月=夜というイメージではないのかもなって。だから自然とMVも昼間の映像で違和感なく進められたんだと思うんですよね。

add(アド) / ニヒルな月(Music Video)

──撮ったものはどういうコンセプトで仕上げていったんですか。

タグチ ただ楽しいだけで完結しすぎないように、addを結成してからの現在までの時間とか、そういうものがうまく表現できればいいなと思いながら作っていきました。なのでロードムービーっぽく撮った映像に交えて、レコーディングとかライブ直前とかの過去の映像や、各々がプライベートで撮った映像なんかもいろいろ入れていったんです。昼間の海にいるのは今現在の私たちだけど、ちゃんと積み重ねてきた過去もあって、それぞれの過ごしている日常もあって、みたいな。

西村 ただ単に僕らの楽しい日常というだけじゃなくて、映像を観た人が、その人にとっての思い出と重ね合わせて観てもらえるようなMVになったらいいなと思ってます。

──きっと初めてaddを知る人にもバンドの空気感がまるごと伝わる、とてもいいMVだと思います。一方で、タグチさんが手掛けられたジャケットのアートワークは夜をモチーフにされていますよね。

タグチ そうですね、ジャケではよりわかりやすく表現したいというのもあって。でも、夜というか、インパクトのあるものにしたかったんですよ。月が見ているイメージが私のなかにあったので、目をコラージュしてみたり。

サブプロジェクトから「3人のバンド」へ——きのこ帝国・西村“コン“擁するバンド add インタビュー interview210521_add-016
ジャケットのアートワークはタグチハナが担当した
サブプロジェクトから「3人のバンド」へ——きのこ帝国・西村“コン“擁するバンド add インタビュー interview210521_add-011

どんどん“3人のバンド”になってきてる

──月とかすみ草と蝶という組み合わせも素敵です。さて、addを結成されて2年目となりましたが、ここまで3人でやってきた手応えなどはいかがでしょう。結成後、すぐにコロナ禍となってしまって思い描いた通りの活動がなかなかできない状況ではあると思いますが。

バンビ 普通に動いていたら、お互いの距離はもっとあったのかもしれないですね。addを結成して走り出したときは世の中は普通に動いていたから、そのままだったら忙しくなんとなく毎日が過ぎていたかもしれない。でも世の中的には本当に大変ですけど、こういう状況になったことで活動のスピードはゆっくりなぶん、より関係性は濃厚になったというか。

タグチ 三者三様、タイプがバラバラなので、最初から毎日慌ただしく一緒にいたら、すっごいバチバチしてたかもしれない(笑)。でも、みんなのことをしっかり知れる時間があったから、今こうしてちゃんとしゃべれてる気がします。

──お互いじっくり知り合えたからこそ培われた関係性は、これから作品にいっそう反映されるんでしょうね。

バンビ そう思います。すごくゆっくりなスタートだったぶん、ゆくゆくいい方向に転がっていく時間になったと思います、この1年半は。

サブプロジェクトから「3人のバンド」へ——きのこ帝国・西村“コン“擁するバンド add インタビュー interview210521_add-013

──並行して他の形での音楽活動もなさっていたりもするみなさんですが、そうしたなかでもaddというバンドは特別な場所になりつつあるのではないですか。

西村 はい。当初はそれぞれに活動もするし、そこで消化できないものや「こういうことをやってみたいのにな」ってものを実験的にやってみる場みたいな、プロジェクト的なニュアンスで考えてたりしたんですけど、一緒にやるたびに、どんどん“3人のバンド”になってきてる感覚はありますね。

バンビ たしかに“バンド”になってる感じはあるかも。ハナはソロでやってきたキャリアが長いし、僕もコンちゃんも別のバンドをずっとやってきていて、それぞれ経験値があるわけで。3人の経験値が合わさったら、暗黙の了解じゃないですけど、なんとなく「ここはこうしてこうなるよね」みたいになると思ってたんですよ。

でも、そんなことは全くなくて、思っていた以上に手探りなことが多くて。改めて違う場所なんだなってそのとき思ったし、だからこそ最近バンドっぽくなってきたのを実感するんです。各々、口には出さないけどなんとなく掴み始めてる気がしますね、addってものを。

──addとして今、目指しているものは?

タグチ ひとつ大きなものがあるというよりは、みんながいろいろ持っているやりたいことを毎年、叶え続けていきたいんですよ。そうやって長くやっていきたい。一瞬でワーッと駆け抜けるのではなく、毎年、新しい場所に立ち続けられたらいいなと私は思います。

バンビ 僕は幹が太いバンドになりたいです。存在感がしっかりあって、それがゆえに倒れない。その上でどんどん太くなっていくバンドに。「あのバンド、ずっといるね」って言われるようになりたいんですよ。みんなが知っていて、しかもずっとシーンにいるような、太く長いバンドに成長していきたいですね。

西村 聴いてくれた人のそっと隣にいるような、寄り添うようなものになってほしいと思う曲が多いんですよ、addの曲って。たくさんの人にとってそうなれる曲を作って、発信して、届けていきたい。いろんな形でそういうことをたくさんできたらいいなって思ってます、今は。やりたいことはいっぱいあるので、やれることからどんどん発信していきたい。それが今年の目標ですね。

──TikTokのオフィシャルチャンネルも開設されましたし、今年はいろんな場面でいろんなaddが見られそうですね。

タグチ 3人とも今まで各々で活動してきて、関わってくれた人たちも、今の私たちを応援してくれる人もいっぱいいて。もっともっと大きくなって、その人たちにめちゃくちゃ恩返ししたいんですよ。みんなに楽しんでもらいたいし、一緒に仕事ができるようにもなりたいし。だからこそ、新しいこと、今までできなかったことにもチャレンジしていきたいなって思うんです。

──ワクワクしながら次の一手を待っています。

一同 はい、ぜひ!

サブプロジェクトから「3人のバンド」へ——きのこ帝国・西村“コン“擁するバンド add インタビュー interview210521_add-03

Text by 本間夕子
Photo by 河澄大吉

サブプロジェクトから「3人のバンド」へ——きのこ帝国・西村“コン“擁するバンド add インタビュー interview210521_add-015

add
2019年西村”コン”(きのこ帝国)を中心にタグチハナ、バンビ(可愛い連中、ex.アカシック)によって結成。
個性のある3人が、不思議なほどまとまり、 特定のジャンルに囚われない抜群のアンサンブルを生む。 2020年9月2日(水)1st EP『Not Enough』リリース。 リード曲「もっともっとみたいな気持ちになってよ」は 全国14か所のラジオ局でパワープレイを獲得。2021年、初の映画主題歌に抜擢。書き下ろし曲「ニヒルな月」を5月12日(水)配信リリース。

TwitterInstagramTikTokOfficial HP

INFORMATION

サブプロジェクトから「3人のバンド」へ——きのこ帝国・西村“コン“擁するバンド add インタビュー interview210521_add-016

ニヒルな月

2021年5月12日(水)
add
各種音楽配信サービスにてダウンロード、ストリーミング配信
配信リンク

Bittersand

2021年6月25日(金)〜
シネ・リーブル池袋、UPLINK吉祥寺他、全国順次公開
主題歌:add “ニヒルな月”
出演:井上祐貴 萩原利久 木下彩音 小野花梨 溝⼝奈菜 遠藤史也 搗宮姫奈 ほか
監督:杉岡知哉
配給:ラビットハウス

公式サイト