ALIがニューシングル“NEON feat. The Crane”を12月4日にリリースする。台湾のシンガーソングライター・The Craneをフィーチャーしたこの曲は、LEOが台湾で目にしたもの、感じたことを真空パックされているという。今回は来日中のThe Craneもキャッチして、“NEON”の制作秘話を中心に2人がこの楽曲に込めた感情やストーリーを忌憚なく話してもらった。
対談
ALI × The Crane
純粋に音楽を好きなやつらには出自なんて関係ない
──今回のコラボはどんな経緯で実現したんですか?
LEO 俺、3年くらい前からかなりの頻度で台湾に呼んでいただいてるんです。台湾の<FUJI ROCK FESTIVAL>みたいなフェスでメインステージに立たせてもらったし、何度かワンマンもやらせてもらえた。台湾の人たちはみんな優しい。街並みも美しい。飯もうまい。俺は台湾が大好きになってしまった。だから現地で感じたことを真空パックにした曲を作ろうと思いました。そしたら、今日も通訳をしてくれてる友達の女性がThe Craneを紹介してくれて。彼女は台湾のイケてるやつらとみんな友達なんです。
The Crane 台湾は日本と比べてコミュニティが小さいんです。みんなが集まる遊び場は3軒くらいしかない(笑)。音楽シーンもメジャーとインディーの2つくらい。僕はインディーアーティスト。飲み屋に行けば大体友達がいます。だから台湾人から見ると日本には本当にいろんな音楽があって、しかもそれぞれがシーン化していてすごいと思います。
LEO まあ良くも悪くもって感じだよ。俺からすると、クリエティブの中枢にアクセスしやすい台湾は素晴らしいと思うしさ。あと台湾ってすごい有名な人でも全然調子に乗らないんですよ。超フラット。そこもびっくりした。The Craneもそういう人たちの中の1人。いまアジアでヒップホップ/R&Bのすごいやつらがたくさん出て来てて、The Craneはその中の1人という感じですね。
──ALIはなぜ台湾で人気があるんですか?
LEO 日本ではまだまだこれからなのに(笑)。
The Crane そんなことないでしょ(笑)。ALIを知ったきっかけは『呪術廻戦』のエンディング曲“LOST IN PARADISE feat. AKLO”でした。その後、昨年ALIが台湾でライブを行い、間接的な知り合いが主催したこともあり、ライブの前後で口コミが広がり、音楽仲間や友人の間で自然と話題になりました。私は当日のライブにも足を運びましたが、本当に素晴らしいパフォーマンスで、非常に強い印象を受けました。
LEO シンプルなんですよ。イケてる音楽を作るとイケてるやつに届くっていう。かっこよく遊んで、かっこいい音楽をプレイすると、かっこいい仲間たちが集まってくる。
ALI – LOST IN PARADISE feat. AKLO(Re-edit ver.)
“NEON”は愛と平和を誓った歌
──LEOさんが「台湾を真空パックにしたい」と感じた背景をもう少し詳しく教えてください。
LEO それこそちょっと難しい話になっちゃうけど、この曲にはもともと“The Garden”って仮タイトルが付いてたんです。3年前っていうと、アジア全体が今よりも不安定で。俺の知ってる美しくて優しい台湾が変わってしまうかもしれないという雰囲気すらあったんです。だったらせめて音楽で残したいと思って、音楽の楽園というニュアンスで“The Garden”という曲を作ってたんです。同時にその段階から台湾のネオンもイメージしてました。
──“NEON”というワードにはどんな意味を込めたんですか?
LEO 暮らしの明かりのこと。どんどん点いて、どんどん消える。悲しみも非難も消えることはないけど、手を取り合う選択肢もあるよねって。俺はそれが音楽だと思ってる。“NEON”はもしもお互いの故郷がどうにかなってしまっても、俺たちは音楽の中で側に居続けようという誓いの歌です。だって俺たちは愛こそが全てだって知ってるわけじゃん。なのに世界中のどこかでいつも戦争が起こってる。なんなんだよって。どんだけの時間を過ごさないと人類は理解できないんだよって。愛と平和の歌だけど、俺の中のやるせない気持ちも入ってます。
The Crane 僕は“NEON”がシンボルになってるのがすごく好きです。明かりのあるところに人が集まってくるじゃないですか。僕はLEOさんから聞いたテーマを踏まえて、台北と東京の印象を歌詞に落とし込みました。
LEO ほんとThe Craneはパーフェクトでした。すぐにヴォーカルパートを送ってくれて。
The Crane いえいえ。最初にお話しをいただいた時は、僕とALIでは音楽性が違うので、クリエイター性がどう噛み合うか不安な面があったんですよ。でもコンセプトが最初から明確だったのと、常にプロジェクトをリードしてくれたのですごくやりやすかったです。
──トラック制作はどのように進めたんですか?
LEO The Craneにヴォーカルをいれてほしい箇所だけ空けて俺が作りました。でもそんな難しくなかった。台北の街を絵で描くような感覚。あと台湾の人のあたたかさも。制作自体はかなりスムーズでした。一番時間がかかったのは副題かな。
The Crane “萬千霓虹”。意味はさっきLEOさんが話した内容と同じだけど、台湾人が見てもかっこいいと思える言葉の並びにしたかったんです。副タイトルやカバーフォントについて話し合っている際、LEOが王家衛(ウォン・カーウァイ)の映画ポスターを例に挙げました(笑)。それを聞いて、私たちはみんなすごく共感しました。
問題だらけでも投げ出さずに完成させることができた
── リリースまで3年かかったのはなぜですか?
LEO 実際に制作にかかった時間は1年くらいなんです。でもはっきり言ってめちゃくちゃ大変だった。The Craneは全然関係ない。ALIとしての問題。やることが多すぎたけど、投げ出さずにやり遂げることができた。
──「ALIとしての問題」の内訳を差し支えない範囲で教えてください。
LEO シンプルにバンド内の問題ですね。俺ら本当に貧乏で、しょっちゅう喧嘩もしてました。サポートメンバーたちにもギャラを払わなきゃいけないし。何度も投げ出しそうになったけど諦めずに音楽を続けていたら新しい出会いがあった。“NEON”はそういう状況の中で作った曲。こうやってリリースにまで持っていけたことは自分にとって誇りです。
The Crane 大変さで言ったらLEOさんとは比べ物にならないんですが、少し前に甲状腺の手術を受けました。10年ぶりに悪性腫瘍が再発したのですが、幸いなことに、摘出手術を受けた後はしっかり休養を取れば完治する見込みです。でもLEOさんとポジティブなメッセージの“NEON”を作れたことは僕にとっても励みにました。
──制作で印象に残ったことはありますか?
LEO The Craneは音楽に対してものすごくストイックな人だと思いましたね。ミックスひとつとっても完全に納得がいくまでやり続ける。だから彼の作品はあんなにクオリティが高いんだなって納得できました。あがってきた音源を聴いて驚きましたもん。ほんと完璧でした。
The Crane 僕は制作を通じてLEOさんのパーソナリティを知ることができたのが嬉しかったですね。最初にお会いしたのはALIが台北でライブした時だったんですが、彼はいわゆるロックスターだったんです。汗も唾もいっぱい撒き散らしてて、エネルギッシュで本当にかっこよかった。でも実際にプラベートでお話しすると本当に優しい。あと音楽に対して一生懸命です。さっき台湾の人は優しいと言ってたけど、それはLEOさんが優しいからだと思います(笑)。
──ALIがいろいろなアーティストとコラボするのはなぜですか?
LEO うーん。なんか単純に面白いかなって。「俺が! 俺が!」っていうより一緒に遊ぼうよって感覚。ALIは俺にとって3つ目のバンドなんです。俺の人生って挫折だらけで。スタッフなんかは自信のない俺の姿も知ってる。不安な時のほうが多かったし、頑張りがすべて報われたわけじゃない。そもそも俺らが客演を呼ぶようになったのは、当初在籍してたラッパーが抜けちゃったからだし。「じゃあ誰が良いかな?」と思った時、AKLOくんにオファーしたら快諾してくれて。それが“LOST IN PARADISE”だったりするんですよ。運命に逆らわずにやってたらこうなったって感じ。
── The Craneさんにとって二回目の日本人アーティストとのコラボになります(一回目はSIRUP)。今後日本でも活動していきたい気持ちはありますか?
The Crane もちろんです! もっと多くの人に私の音楽を知ってもらいたいと思っています。これからも自分が好きな作品を作り続け、さらに多くの素晴らしい音楽家たちとコラボする機会があればと願っています!
LEO 日本も台湾も島だけど、世界の一部でもあるんだから、もっとワールドワイドに自分たちの音楽を届けたいよね。そこはお互いにシンパシーを感じてる。矛盾するようだけど、俺は同時に日本で成功することを絶対に諦めない。俺が世界に何かを発信したとしても、日本で成功してないと見向きもされないから。今の世の中、物騒なニュースばかりだけど、まずはアジアからユニティしていきたい。俺は中目黒から新宿に行くように、台湾に行きたい。別に「みんなで手を取り合っていこうぜ」みたいな大袈裟なことじゃなくて。ダサいやつらにバレないようにこっちはこっちでカッコよくやろうぜって。この感覚がわかる人に“NEON”が刺さったら嬉しいです。
The Crane この曲はいろんな言語で歌ってるけど、今日話したようなエネルギーを感じてくれたら最高です。音楽は最高です。あと僕はもっと日本語を練習します(笑)。