「ニューヨーク・タイムズ」は彼の社会的意識の高い音楽をスティーヴィー・ワンダーやマーヴィン・ゲイになぞらえたが、それらの名前と並べられても引けを取らないほどの才能と勢いを現在持ち合わせているのが、ワシントン州出身25歳のシンガー・ソングライター、アレン・ストーンだ。自主レーベルから配信のみでリリースしたデビューアルバムがiTunesのSOUL/R&Bチャートでトップ5入りし、さらにビルボードの新人チャートでは堂々のトップ10入り。全米のメディアから絶賛され、テレビ出演も果たすなど、一躍トップミュージシャンの仲間入りを果たした。そんな彼の世界デビュー作となる『アレン・ストーン』はまさにアレン・ストーンによるニューソウルの提案だ。音楽的に制約された環境で育った彼が世俗音楽を探求した先で出会ったソウルミュージック。それにロックもポップもカントリーもジャンルレスにさまざまなエッセンスを加え、彼自身を満足させる唯一無二の音楽の生成に成功している。いわば本作はアレン・ストーンによる世俗音楽への飽くなき探求の集大成なのかもしれない。
今回『アレン・ストーン』を引っさげての日本初来日公演は4日(木)、5日(金)と東京ブルーノートにて行われた。ライブ前の今インタビューでは、「僕は1500人くらいしかいない小さな村から来たんだ。だから今東京っていう世界最大の都市に来て、ホテルの窓から外を見てたらもう息が止まりそうになったよ。これって本当のことなのかなって。だから信じられないなっていう気持ちの方が未だに強いんだ。」と語った彼だったが、ライブではまさに水を得た魚のようにその喜びを爆発させたパフォーマンスを見せてくれた。Qeticでは今回、彼の楽曲制作における信念や過程を中心にインタビューすることで、アレン・ストーンの楽曲の魅力を紐解きたく思う。世界が注目するアレン・ストーン。彼がみつめる先には一体何があるのだろうか。
Interview:Allen Stone
Unaware – Allen Stone – Live From His Mother’s Living Room
――まずは音楽に触れるようになったきっかけや、音楽の道に歩もうと思った経緯などをお聞きしたく思います。実家が教会でゴスペルが日常的に側にあった、とバイオグラフィーで読んだのですが、ソウルミュージックに触れるきっかけはどのようなものだったのでしょうか。またそのときどう感じましたか?
最初はほんのアクシデントだったんだ。10歳くらいの頃までは家が教会だったから、いわゆる世俗音楽というかポピュラーミュージックみたいな音楽は聴けなくてね。育った場所も田舎だったし傍にあるのはいわゆるクリスチャンミュージックと呼ばれるような、少し黒人のゴスペルとも違う、カントリーに近いような、そういうものばかりだったし。でも偶然、ポピュラーミュージックを聴く機会があって、その時に音楽の持ってるエネルギーのようなものに打ちのめされて、そこから色んな音楽を探すようになったな。そんな時に偶然スティーヴィー・ワンダーの『インナー・ヴィジョンズ』っていうアルバムを聴いたんだ。特にスティーヴィーの声はビブラートがすごかったからインパクトが強くて、それ以来スティーヴィーのものはとにかく聴くようになって、そこからソウルミュージックにどんどん入っていったんだ。
――そのアクシデントというのをもう少し具体的に教えてもらえますか?
兄が5歳年上で中学校に通っていたから、友達とかから普通のアルバムを借りてきていたんだ。それを初めて聴かせてもらったのが一番最初だったかな。クリスチャンミュージックってキリスト教の信者の人が聴くものだから一般的なものとはかなり違っていて、それ専用のラジオ局があったりするんだ。本当に敬虔な人は、一般的な世俗音楽は聴かない、聴いてはいけないっていうのが普通で、実際に僕の家もそんな教えだったんだ。でもポピュラーミュージックは、愛とか悲しみとか苦しみとか人を嫌う気持ちとか喜びとか、色んなことが歌えるけど、クリスチャンミュージックっていうのは神様に関することしか歌ってはいけなくて、そういった部分ですごく制約されているんだ。だから子供心にポピュラーミュージックを初めて聴いたときに、何でも歌える自由さが自分にとっては新鮮でね。家でもベッドルームでお母さんに隠れて一般のラジオ局を聴いて、お母さんが来たらぱっと消せるようにしてこっそり聴いてたんだよ。
――制約されていたからこそポピュラーミュージックへの憧れのような感情が強かっただろうし、より一層魅力的に聴こえていたと思いますが、そういった経験がいまの音楽にどう繋がっていると思いますか。
今も昔も流れに逆らいたいっていう気持ちが常にあって、それは音楽だけではなくて自分の生き方にしても言えることで、それはやっぱり、子供の頃に制約されていたことへのちょっとした反抗心からきているのかもしれないな。でも人間ってみんなそういうところあるよね。子供の頃こういう風に言われて育つとそれとはちょっと違うことをしたくなる、そうじゃない人ももちろんいるかもしれないけどね。だから今音楽をやってて、世の中的にこれがクールだって思われているものからあえてそこを避けたいっていう気持ちがあるのかもしれない。そういう気持ちはやっぱり過去の経験からだろうね。
――ここからアルバムの話を聞かせて下さい。世界デビューアルバム『アレン・ストーン』を聴きましたが、特に“サティスファクション”が印象的でした。“サティスファクション”とは“満足”という意味ですが、曲を聴いていると満足よりもなにか“渇望”のような感情が伝わってきました。このトラックのテーマや背景があれば教えて下さい。
元々、“サティスファクション”はラブソング風に聴こえるかもしれないけど、あれはこれまで話してきた、教会との決別みたいな部分の曲なんだよ。キリスト教って、もし神様を信じなければ地獄に落ちるっていう教えが基本なんだよね。だから恐怖が前提にあるように自分は感じていて、それが嫌だったからキリスト教からは抜けたんだ。でも、キリスト教への信仰を辞めるとそれまで自分が付き合ってきた社会、友達からは阻害されてしまって、「お前は裏切り者だ」って目で見られることもあったんだ。だから「満足を見つけるためにいくつの心が砕かれるんだ」って歌っているのは、僕は恐怖に根付いたキリスト教の信仰に心をいつも壊されていたんだ、辛い想いをしてきた、だからキリスト教ってものは僕の心をいくつ壊したら満足するのか? ていうことを歌ってるんだ。結構深い曲だよね。僕なりの教会へのプロテストソングなんだよ。
――なるほど。いまお話していただいた“サティスファクション”もそうですし、他の曲にも言えるように感じますが、歌詞が深かったり社会的なメッセージが込められていたりする割にはメロディはとてもキャッチーですよね。だから聴いてて全く重く感じないし、むしろ楽しい気分になれるものばかりなんですが、曲をつくる上でそれは意識していますか。
そうだね。僕は意識のあるポップミュージックを作りたい、意識の高いポップミュージックを作りたいと常に思っているんだ。これまでのポップミュージックは多くの場合、愛とか男女のロマンス、そういうことばかり歌っているよね。でも僕は単なる甘いだけのキャンディじゃなくて野菜みたいな音楽を作りたいんだ。音楽っていうのはどんな人にも通じるユニバーサルな言語、普遍的な言語だと思うしエネルギーとエネルギーの対話、魂の言葉みたいなものでしょ。そしてそれを究極的に伝えてくれるのがメロディだから、誰もが簡単に歌えるようなシンプルなメロディにしたいと思ってる。でもそこにきちんと意味のある言葉だとかトピックを乗せることによって、野菜を食べれば体にいいように、魂にとっての栄養になるような、そういう音楽を作りたいんだ。
――なるほど。ではもう一曲別の曲のお話を伺いたいのですが、アルバム収録曲でもある“アンアウェア”をお母様のリビングルームで撮って、その映像がきっかけでテレビ出演を果たしたそうですが、あの映像はどういった意図で撮られたものですか。
まずお金がなかったのがひとつかなあ。ビデオに必要な機材だとか楽器だとかをレンタルしたらもう持ち金が全部無くなっちゃったから、じゃあお母さんのとこでやらせてもらおうっていうことになったんだ。あとお母さんのリビングルームで撮るってアイディア自体キュートかなと思って(笑)。なかなかそんなことをするようなソウルシンガーもいないでしょう? 自分はさっきも言ったけど割と他とは違う、オリジナルな自分でいたいっていう気持ちがすごく強いんだ。これまでのソウルシンガーっていうのはスーツにネクタイで髪の毛も綺麗にまとめてっていうセクシーなイメージが普通だったけど、そういうのは自分のソウルじゃないって思ったんだ。もちろんそれはそれでいいんだけれども、自分の本当のソウル、まさに魂っていうのは不安でいっぱいで、もっとダークでダ―ティで。そして嫌な自分もいっぱいいて、もちろん明るい気持ちになることもあるけれども、本当の自分っていうのはもっとドロドロしているんだ。だから計算されたセクシーさみたいなのじゃなくて本物の自分を出したいし、人もきっとそういうものを求めているんじゃないかな。ショービスの服を着させられてるんじゃなくてそれを脱ぎ払ったところの本当の自分、ありのままの自分のソウルみたいなものを僕は出したいし、自分が聴くんでもそういうものを聴きたいな。
――確かにあの映像は過度な演出も無く、照明もカメラワークも良い意味で普通で、だからこそ等身大の「アレン・ストーン」がよく見えたような気がします。リラックスしてのびやかに歌う姿がとても素敵でした。最後に、世界デビューを果たしましたが、これからどんな活動をしていく予定なのか、今後の展望を教えていただければ思います。
世界中で歌って、ひとりでも多くの人をハッピーにする、それが自分の夢かなあ。僕は音楽からすごく多くの物をもらったから、これからは自分という人間のスピリットとか、もしくは自分の文化とか、そういうものを世界中に大使のように持っていけたらいいね。いろんな人からよく、「あなたにとって成功とはどういうものですか」って聞かれるんだけど、考えてみると、もう自分が予想してたよりもはるかに超えるところまで今の段階ですでに来てしまっているような気もするんだ。もちろん、スタジアムで演奏するような、何百万枚レコードが売れるような、そんな風に多くの人に影響を与えられるような存在になれたらそれもそれで素晴らしいよね。でも。もし明日僕の声が出なくなって、もうこれから一生歌えないってなったとしても、もうここまで来た自分に満足していると言えるくらいのことをやっている気もしているよ。
(text by asako fujieda)
Release Information
Now on sale! Artist:ALLEN STONE(アレン・ストーン) Title:ALLEN STONE(アレン・ストーン) ユニバーサル ミュージック クラシック UCCU-1383 ¥2,300(tax incl.) Track List |