——「vice」のインタビューだったと思いますが、その中であなたが「バンドにはセオリーがあった。「若いリスナーに語りかける」ってこと。思春期や多感な年頃の子たちが、俺たちのターゲットだった」と話していたのが印象に残っています。つまり、当時は自分たちと同世代のリスナーに語りかける、ということだったと思いますが、現在はどうでしょうか?
それについては、うーんそうだな、かなり変化していると思う。なんだろう、このアルバムのオーディエンスは前よりも多少年をとっていると思うし、さっき言ったみたいに叶わぬ恋について悩む時期を通り越した状態じゃないかな。今の16歳が必ずしも今の僕が歌うことに共感するとは思わないし、一部はそうでもないかもしれないけど、なんか歳食ったおっさんが文句言ってる、と思うかもしれない。
——現在のアメリカン・フットボールの音楽は誰に語りかけていると言えますか? 今のバンドの「セオリー」をあえて挙げるとするなら?
いい質問だね、アルバムを作る前にマネジメントやレーベルとそのことについて話し合うべきだったんじゃないかな(笑)。分からないけど、同じ人々……17歳の時にこのバンドが好きで、ヘッドホンで僕らの音楽を聴きながら一人で歩き回っていたような人たち、多分内向的で繊細なそういう人々だよ。彼らが年をとって、今回のアルバムを聴いてくれるんじゃないかな。彼らの本質は変わっていないけれど、10代で幻滅したりした結果、彼らにとっての物事の優先順位が変化していたりするんだ。幻滅の後に来るステージにいるんだよ。
——17年前にアルバムをリリースしてバンドを解散後も、あなた方と同世代のリスナーはもちろん、絶えず新たな世代のリスナーによってアメリカン・フットボールの音楽は発見され愛され続け、その熱気や期待が先の再結成や今回ニュー・アルバムに繋がった側面は大きくあると思いますが、あなた自身は、そうしたこの間の状況というものを率直にどんなふうに眺めていたのでしょうか?
クレイジーだったよ。先にも言ったけど、ちゃんとしたライブのオファーが来るまで、僕らは今でもアメリカン・フットボールの音楽を聴いている人がいるのかすら知らなかったんだ。「この大きな会場でプレイできます。」って言われて、「そんなのクレイジーだ、30人くらいしか来ないよ。」って思ったけれど、予想以上の観客が来た。
クールで、目の覚めるような、楽しい経験になっているよ。人々が関心を示してくれるバンドにいるっていうのはクールな事だしね。さっきも言ったように、それがこれを続けている唯一の理由なんだ。人々が関心を持っているからこそ楽しいわけで、これがもし友達の家の地下で演奏するだけの再結成だったら、わざわざ全員の時間をとって他の都市まで飛行機で飛んだりはしないからさ。
——そうしてリスナーを惹きつけ続けるアメリカン・フットボールの魅力、普遍的で色褪せない魅力については、あなた自身どう考えていますか? アメリカン・フットボールの何が、どんなところがリスナーを魅了し続けてやまないのか。
わからない(笑)。分からないよ、さっきも言ったけど僕らはまだファーストを聴いている人がいたことに驚いたくらいだし、セカンドに興味を持って聴きたいと思ってくれている人たちはいると思うけど、アルバムに対する人々の反応はまだわからない。前のアルバムが好きだった人たちの中には、今回のアルバムが好きじゃないっていう人たちもいると思う。でも僕らは前と同じアルバムは作りたくなかったわけだからそれも構わないし……分からない、今はアルバムが出てからの反応を楽しみにしているよ。
——ちなみに、今回のアルバムのアートワークに使われている写真は、(ファーストのジャケ写を撮った)クリス・ストロングが撮影した写真ですか? 今回は家の内側の写真ですが、やはりファーストと今作のアートワークの間には連続性を感じさせるところがあります。
うん、クリスにまた同じ家に行ってもらって、新しいアングルや新しい視点から撮って欲しいってお願いしたんだ。だから文字通り同じ対象物を別の視点から見ていて、それがなんとなく今回アルバム自体のアプローチと似ていて、ファーストとこのアルバムは繋がっているんだ。もしもサードを作ったとしても、同じようなつながりは持たないと思う。このアルバムを作っている間、ファーストを参照するようにしていたんだ。だからアートワークも、かなり文字通り忠実に同じものを違う視点から見たものになっているよ。
——これまでの話と重なるところもあると思いますが、そうして完成した今回のニュー・アルバムと、17年前のファースト・アルバムを並べたとき、あなたの中でもっとも大きな変化や違い、時代の流れを感じるところとはどんなところなのでしょうか? 逆に二つの作品の間にある連続性、あるいは、ふたつの作品を並べることで見えてくるアメリカン・フットボールというバンドのストーリーとは、どのようなものですか?
僕らは年をとったし、19歳や20歳で初めてのバンドにいたときはそれがすごく重要なことで、バンドにいるっていうことが自分のアイデンティティそのものになったりもするけれど、今では兼業みたいな感じで仕事や子供の面倒を見る合間に時間をとって音楽をやっている。そのおかげで改めてその楽しさを再発見するようになった。
月に一週間普段の家事や仕事から離れて音楽をやるのを全員が楽しんでいて、そういうのは以前やフルタイムで音楽をやっているときには感じられないんだ。フルタイムでやっているとそれが仕事になってきてストレスが増えるからさ。だから一番の変化はそういう新たな気持ちの変化かな。連続性の点では、曲を書いているときにも前と同じようなテーマを扱ったり、同じような傾向をなぞろうとしていたりしたから、それが2つのアルバムをつないでいると思う。
——17年前の解散後も、あなたはオーウェンを始め、Their/They’re/There、ジョーン・オブ・アークの活動を通して曲作りを行い、演奏し、歌い続けてきたわけですが、そんなあなたが、今あらためてアメリカン・フットボールとして曲作りを行い、演奏し、歌うということは、あなた自身にとってどういう意味なり意義があったと言えますか?
バンドにはここ数年は参加せずに自分のソロをやってきたから、ステージ上で振り返ってスティーヴがドラムを叩いているのを見たりするのは僕にとって驚きだしインスパイアさせてくれるものなんだ。
ひとりでステージに立っているときには得られないコラボレーションの満足感みたいなものがあるんだ。ソロはソロで、飲みすぎたりしたらただ座って音楽を演奏する代わりに何か物語を語ることもできるし、自分だけだから好きなことができる楽しさもあるけれど、両方必要なんだと思う。バンドは演奏自体はコラボレーションでより要求されるものも多いところが逆に楽しかったりもするし。僕は両方をやることができて、幸運だと思う。
——最後に。もしも17年前の自分、バンドを解散した直後の自分に今回のアルバムを聴かせることができるとしたら、マイク・キンセラ青年はなんて言うと思いますか?
ははは(笑)、考えたことなかったな(笑)。多分気に入って、「ワオ、作曲がすごく上手くなったね! それに自信もついたみたいだし、歌も上手くなったように聞こえるけど、上手くなくても自信を持って歌えるようになった」ってさ。あと、マイク青年は今よりも音楽に夢中になっているから、拍子を分析しようとしたりすると思う。マイク青年が言いそうな批判を考えているけど、なんだろうな。僕の生え際のこととかかな(笑)。
interview by 天井潤之介
RELEASE INFORMATION
American Football
2016.10.21(金)
American Football
Wichita/Hostess
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