傑作アルバム『メリウェザー・ポスト・パヴィリオン』より約3年半―いよいよアニマル・コレクティヴ(以下:アニコレ)の最新作『センティピード・ヘルツ』がリリースされる。前作を愛聴していた者にとって、今作を初めて耳にすると正直驚くだろう。もちろん、アニコレというバンドはこれまでの『サング・トンズ』、『フィールズ』、『ストロベリー・ジャム』と毎回リスナーの予想もつかないようなアプローチでアルバムを発表してきた。それが彼らの魅力の一つであることは言うまでもなく、今作も例外ではないということだ。

『センティピード・ヘルツ』は、破裂音の様な音がリフレインするイントロが印象的な“Moonjock”で幕を開ける。そして、アルバムタイトル「Centipede=ムカデ」のように同曲の終盤に流れる不気味な機械音から“Today’s Supernatural”に繋がれていき、頭を後ろから何度も殴られるようなエイヴィーの叫ぶようなボーカルに強烈なインパクトを残される。“Applesauce”、“Mercuryman”は、アニコレらしい切なさを感じさせる楽曲になっており、往年のファンにはたまらないだろう。アルバム通してのサウンド面では、ノイズ、フォーク、エクスペリメンタル、サイケデリック、スペーシーと想像を越える濃厚な世界が広がっている。

そして、彼らのサイト「アニマル・コレクティヴ・ラジオ」での『センティピード・ヘルツ』全曲試聴と共に公開されたそれぞれ楽曲ごとに制作された映像もぜひ見てほしい。これらの映像を手がけたのは、ダニ-・ペレスという映像作家で『ODDSAC』という映像作品を共作、グッゲンハイム美術館でもアニコレとタッグを組んで、パフォーマンスを行っている人だ。今回公開された映像作品では、どれもかなりアヴァンギャルドな映像世界が広がっており、その濃厚な映像を眺めていると、いつの間にかその世界観に五感を支配されてしまうだろう。それは、まるで子供の時に初めて好きな物に出会った時のような純粋な感覚にも似ている。そう、容易に虜になってしまうのである。音と映像が織りなすその濃厚な世界で気付かされるのは、ひたすら己の純粋な感覚に正直な姿勢で音楽を制作するアニコレという集団の凄さである。

また、特筆すべきは前作では不参加だったディーケンが今作で復帰していることだろう。そして、前作まではデモやサンプルをメールでやり取りするという方法で、制作していたのだが、今作では故郷であるボルチモアで密に話し合いながら制作したという。つまり、アニコレ史上最も“バンド”という形が具現化したアルバムになったのだ。

前置きが長くなったが、バンドの中心人物でもあり、今作の大半の楽曲を手掛けているエイヴィー・テアとライブで常にヘッドライトを装着するあのジオロジストに<TAICO CLUB’12>で彼らが来日したタイミングでインタビューを行った。前作から今作までに至る経緯や彼らが映像作家ダニ-・ペレスと共に制作した映像作品『ODDSACK』をはじめ、これまでの彼らのルーツ、現在のスタンスなど様々な事を聞いてきました! とくと御堪能あれ!

(text by Taisuke Yamada)

Interview:アニマル・コレクティヴ(エイヴィー・テア、ジオロジスト)

――<TAICO CLUB’12>でのライブは非常に衝撃的でした、実際に演奏されていかがでしたか??

エイヴィー・テア(以下エイヴィー):凄く楽しかったよ。景色もキレイだったし、新曲も幾つかやったけど皆楽しんでくれてたみたいで良かったね。

――ライブの臨場感が凄くてメチャクチャ圧倒されました。

ジオロジスト:ライブ感を凄い意識してきたから、そう言ってくれるととても嬉しいよ。実際、やってて楽しかったね。

――それでは早速ですが、いよいよ3年振りの最新作『センティピード・ヘルツ』が8月29日(水)にリリースされますが、この3年という期間は振り返るとどのようなものでしたか?

エイヴィー:実は前作『メリウェザー・ポスト・パヴィビリオン(09)』が完成する頃に、すでにメンバー全員と友達のダニー・ぺレスと一緒に『ODDSAC(オッドサック)』っていう映像作品に取り掛かってたんだ。だから、前作が完成してからは、そのまま『オッドサック』の制作に集中していて、2010年は完全にオフを取ったんだ。新曲を書いたりね。

ジオロジスト:最初の方にグッゲンハイム美術館のイベントに出たけどね。

エイヴィー:そうだね。でも2010年は家で新曲を書いたり、ソロの動きもやったりしてたし、『オッドサック』のツアーとか取材もしてたね。あの時期は本当に充実してたよ。ツアーをせずに、久々に集まって今回のアルバムをどういう風にしようか話し合ったり。

ジオロジスト:前作『メリウェザー・ポスト・パヴィビリオン(09)』が出てから1年間はツアーに廻ってたから、オフは実質9ヶ月位だったかな。

エイヴィー:あとはブライアン(ジオロジスト)とノア(パンダ・ベア)に子供が生まれた事かな(笑)。

Animal Collective “Transverse Temporal Gyrus”@グッゲンハイム美術館

――最新作では、音がすごく複雑に重ねられ、不思議なカタルシスを覚えました。宇宙的でありながらも、プリミティブでライブ感が倍増しているように感じましたが、タイトルの「Centipede(=ムカデ) Hz(=周波数)」に込められた意味を教えて下さい。

ジオロジスト:本作は2010年の終わり頃に4人で頭にあるイメージを話しはじめるようになったんだけど、そこで2011年に作曲に取り掛かる時に共有していたイメージがこの『Centipede(センティピード)=ムカデ』と『Hz(ヘルツ)=周波数』だったんだ。センティピード(ムカデ)って腕とか足とかが別々の機能を同時に果たしていて、動き方とかの複雑なイメージが凄いはまったんだ。前作はとりわけ2、3のセクションだけで成り立っているようなシンプルな曲が多かったから今回はもっと複雑なものにしたかったんだ。それぞれ別のセクションや音色が複雑に作用しあうような曲をね。それと今まで森林とか水中とか、気候とか有機的なアースっぽい雰囲気のサウンドも実践したいアイデアはあったんだけど、なかなかやってなくて、それでセンティピード(ムカデ)を考えた時に土の中っていうか石の間を這っていくような汚れたイメージがピッタリだと感じたんだよね。あとエイリアンみたいな容姿をしているっていうのも僕らにとってドンピシャだったね。ずっとそういうエイリアンとかにはメンバー皆興味を持って来てるしね。で、『Hz(ヘルツ)=周波数』の意味は『ラジオ』がコンセプトやサウンド的に非常に本作にとって重要なキーワードだったことから来てるんだ。昔僕らが聴いて育ってきた音楽番組とかラジオCMとかその独特の雰囲気やサウンドエフェクトとかのコラージュが凄く面白いと思ってたからね。あと一度放送されるとその電波は宇宙をずっと漂い続けるっていうイメージから『Hz(ヘルツ)=周波数』は来てるんだよ。

――曲と曲がつながっている点や各曲の目まぐるしい転調や曲展開はまさにムカデの部分から来ているんですね?

エイヴィー:そうだね。各曲が繋がっている点や曲の展開の複雑な部分はそういうところから来てるし、僕らはライブ・パフォーマンスをそういう風に演奏するから、今作を制作するにあたっても曲を繋げるっていうのは自然な形ではあったんだよね。

――今作の中でも“Today’s Supernatural”や “Applesauce”はセンチメンタルな印象を持つ感情的な楽曲で、新しいアプローチのようにも感じました。“Today’s Supernatural”や “Applesauce”はどういう思いから生まれたのでしょうか?

エイヴィー:僕らの音楽にはセンチメンタルな要素っていつもあると思うんだ。何か不思議な甘酸っぱい寂しさみたいなものがあると思うんだけど、僕個人がそういう音楽が好きっていうのもあると思うね。例えばビートルズとかにもポップでありながら不思議な切ない部分ってあると思うし。でもメロディが生まれた時の感情とかから来るんだろうね。“Today’s Supernatural”はかなり漠然とした誰にも共通する普遍的なことについての曲だけど“Applesauce”はもっと具体的にシンプルな事柄に対して歌った曲だし。曲がどこから生まれてくるかは説明しづらいんだけど、なんか本当に突然発生するっていうニュアンスが近いかな。時々、曲の内容と書いているその時感情が一致しない時もあるんだけど、“Today’s Supernatural”は完全にライブで演奏するために作ったから、ライブで荒々しいイメージの臨場感を出すアイデアとかそういう意識とその時の感情が混ざるとああいう曲になるんだろうね。自分でもよく分からないよ(笑)。

Animal Collective – Today’s Supernatural

――なるほど(笑)。その上で今作の歌詞の世界観を是非とも教えて下さい。

エイヴィー:僕とノア(パンダ・ベア)とジョシュ(ディーケン)がそれぞれ書いているから一概には言えないんだけど、僕に関して言えば自分の身の周りを俯瞰した時の気持ちとか、自分の中にある多面性を素直に吐き出そうとしていたんだ。“Applesauce”とかも特にそうだけど、個人的なんだけど、今起こっている事に感じた事、自分の気持ちとかどう感じたかっていう部分に尽きるのかな。ノアは彼自身の内面について中心に書いていて、ジョシュは逆に普遍的な事について歌っているよ。

☆まだまだ続くアニマル・コレクティヴインタビュ-!
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