AOKI takamasaが日本帰国後、初となるニューアルバム『RV8』でまた新たな金字塔を作り上げた。キャリア最高傑作ともいえる『RV8』。これは新しいリズム、ビートの発明である。4つ打ちでもブレイクビーツでもダブステップでもないが、徹頭徹尾フロアで機能する8曲のリズム・バリエーション。徹底的に「シャープ」でありながら「しなやか」。徹底的に「シンプル」でありながら「多層構造」。「ストイック」でありながら「ポップ」。「硬さ」と「柔らかさ」。相反するモノ達をあっさりと同居させてしまったこの作品は、間違いなく音楽史に刻まれる作品となるだろう。これがリリースされた後は、全てのダンス・ミュージックに関わる者、トラック・メイカーはこの音を避けて通ることができないはずだ。何故ならこれを避けて通ることは自ら進歩を諦めるということにすらなり兼ねないからである。しかもインタビューを読んでもらえればわかると思うが、本人は至って自然体、スッとなんの気負いも無くこんな作品を生み出してくるのだから、ただただ驚くばかりである。それ故に進歩的・シャープでありがら、とても人懐っこくリラックスした、無邪気で不思議なポップアルバムともなっている。AOKI takamasaはたった1人でビートというモノの定義をあっさりと更新してしまった。音楽ファンの醍醐味とはこのような時代を動かすような作品に巡り逢える事ではないだろうか。しかし、このような作品は得てしてリリース当初は正確に理解して貰えないケースが多々ある。この音は身体に浴び、体感して素直に聴いて貰えれば、何の計算もない、感じたまんまの赤ん坊のような無垢な音楽と理解して貰えると思う。だが昨今の日本の国内事情ではそれもままならない人達もいるだろう。本インタビューはそんな人達の為にも、この作品が持つ重要性やAOKI takamasaの煌くような才能がどのようにして成り立っているか、少しでも感じ・理解する1つのキッカケとなればと思い行われた。結果的にAOKI takamasaというアーティストのルーツにも迫れる話を聞かせてくれ、電子音楽シーンの新たな地平を切り開き続ける才人の現在の心境を語って貰うことができた。。

Interview:AOKI takamasa

【インタビュー】AOKI takamasa、キャリア最高傑作ともいえる新作をリリース。シーンの新たな地平を切り開き続ける才人の現在の心境とは――? music130506_aoki_9-1

――ご無沙汰しております。久々のニューアルバムとなる『RV8』聴かせて頂いたのですが、音の強度とか密度が今までに比べて、格段にパワーアップしているような気がしました。

現場で音出すことが多くて、家で聴くとかは少なかったんです。ライブで音を鳴らすにはどうしたら良いかっていう部分に重点においてやってたし、それもあっておのずと密度も高くなって、鳴りの感じも変わったんかもしれない。

――鉄を叩いて鍛え上げていくみたいなイメージでしょうか? 音を磨き上げていくような?

いや逆に削ぎ落として、鳴る部分だけをきっちり鳴らすというか。前はもっとランダムに任してる部分が多かったけど、今はもうどっちかっていうと鳴る音を彫刻して綺麗にボーンって鳴るように作るというか、そういう手法でしたね。

――成程、今回、凄いスッキリしたなと思いました。では、先ずはアルバムのタイトル『RV8』、読み方は「アールヴィ エイト」で良いんでしょうか? タイトルの由来を教えて頂けますか?

元々リズム・バリエーションっていうタイトルで出したかったんやけど、〈raster-noton〉側から、前のアナログと名前が被り過ぎているから変えてくれって言われて、それやったらもうただ短して8曲で「アールヴィ エイト」。何か、ちょっとレーシングカーみたいな名前やし。ええかなと思って。

――なるほどAOKIさんらしい発想ですね。曲名のタイトルも同じタイトルで、連番というシンプルな形にされてるんですけれど、その辺は何か特にこだわりは?

特に意味を持たせるとかは無く、ただできた順にリズムのバリエーションを8個並べただけです。

――ライブで聴いた事ある曲とか、何曲かあるのですが?

現場で鳴らしながら、ちょっとづつアジャストして、シェイプアップしてって感じ。僕の場合は現場で鳴らしたヤツを作品にしていくので、作ってからライブってわけじゃない。だから、また次のライブになると全然違う曲になると思います。

――『Private Party』から4年8ヵ月、REMIX集の『FRACTALIZED』からでも3年ぐらい経ち、AOKIさんのキャリアの中で珍しくリリースの間隔が空いたと思うんですけれども。

びっくりしました、自分でも知らんまに! 何かライブが多かったから、作る暇が無くて。ズーっとホンマにその間はライブ、ライブ、ライブ、ライブ…ばっかりやったから、あんまり家に帰ってゆっくり曲作るっていう雰囲気にもなれなかったし。あとちょっと自分の曲に飽きちゃって、何かもう曲として残すのもあんまり気分が向かなかったんで。それでちょっとまあ。途中〈Stroboscopic Artefacts〉っていう長い名前のベルリンのレーベルから『MONAD IX』という作品をダウンロード形式で出させては貰ったんですけど、それが去年? 一昨年かな? それ以外は全然リリースしてなかったですね。

――ライブも多かったですけど、写真家としても活発に活動されてましたよね。

ツアーでいっぱいあちこち回らせて貰うから、その時パシパシ写真を撮らせて貰ってて。それをウェブにアップしていたら色んなところからオファーを頂いて、チャンスがあるんならやらせて貰おうかっていう感じでした。写真撮ってる時って音楽作れなくて、音楽作ってる時って写真撮れなくなるんですよ。

――なかなか難しいですね。ファン方はどっちも好きだと思うのでウーって感じになりますね。ここ暫くは御自身で撮られた写真をジャケットにされていたと思うんですが、今回ジャケットはグラフィック・デザインになってます。その辺りは何か意図する事があるのでしょうか?

今回は写真を使うつもりは無くて。自分の写真って今回のアルバムにはあんま合わない感じがしたし、今回はなんせ踊る用に作ったんで、その辺はもうレーベルに任せました。踊れるか踊られへんか、鳴るか鳴れへんか、そこだけですね。

――アルバムは完全にフロア向けって感じで作られてますよね。

家でもどこでも、サウンドシステムのあるその空間が鳴るような感じではつくりました。だからどこでもフロアになる感じ。

――今回の作品を聴かせて頂いてビックリしたのは、普通AOKIさんがステージにいて、僕らがフロアにいるみたいなアーティストとオーディエンスという構図になると思うんですが、今回のアルバムを聴いてるとAOKIさんと一緒にフロアで踊ってるような感覚になります。距離が近く感じるような。

それ嬉しい。そうですね。結構、自分がずっとパーティで遊んでた感覚をそのまんまもう投入したって感じかな。やっぱり自分がこれがかかってたらクラブ・ミュージック好きになるかもって思うような、そういう音楽を作りたかった。

――なるほど、もう1点。今回聴いていてDJ的なニュアンスが入っていると感じました。シンプルな構成であっても、タイミング良く次の展開を持ってきてくれるというか。フロアで踊っていて、あっ! この瞬間、変化があると気持ち良いのにというポイントで必ず新たな音の展開を作っていってくれています。その辺は意識されたんでしょうか?

その辺はしました。今までは天邪鬼的な発想で、意外な・予想外の展開、予想外の構造とか、そういう部分に自分なりに面白みを見出してたんですけど、もうそういうのに飽きちゃって、自分の中で。その頃はちょっとエゴイスティックやったなあと思って、もっとこう、そこに来てる人・そこに居る人が皆が楽しめるような、共有になるんかな、一方的じゃなくて、何らかのサイクルが生まれるように、そういう流れにしたいなあと思って。あとDJをさしてもらえるチャンスも増えてきて、DJの先輩方から、ここで展開こられたらちょっと掛け難いとかっていう意見もあったし。自分で実際使ってみても、これはちょっと曲としてはエエけど、DJとしては使い難いなとかもあったから、その辺はどんどんアジャストしていって。そういう部分には気合い・力を入れてみました。

――共に分かち合いたい、そういう共有感が凄い感じられて、聴いてるとニコニコして踊ってるAOKIさんの絵が浮かんできます。本当にリラックスしていて、スッと出たという印象を受け、これはちょっとAOKIさんがまた新しい扉を開いたのではないかという気がします。クラブで遊んだり、仲間達とワイワイやってる感じがそのままストレートに出たという事なんでしょうか?

その通りやと思います。そのまま出た感じですね。何かやっぱ最初の一発目のアルバムって結構楽しく作って、リリースされたって感じで、それからはやっぱこう悩みというか、ホンマにこれでええんかなとか、チャレンジがずっと続いた部分があって。でももうそのチャレンジにも飽きて。10年ぐらいやってもうチャレンジするのにもシンドなって、もっとラクに楽しく遊べるような音楽を作りたいなと思ったその結果ですね。

――そこはこれから聴いてくださる皆さんと間違いなく共有できるんじゃないかなと僕は思います。最初、凄いストイックな感じなのかなという印象があったのですが、実際アルバムを聴いてみたら、物凄く人懐っこいなと。確かに以前ほど明確なメロディ的な部分は減ってるかもしれないんですが、何故か凄く人懐っこいというか、この構成でなんでこんなにポップに聴こえるのかな? と驚きました。僕は結構、この作品はポップだと思ってるんですけれど?

僕も自分がずっとやってるのはポップスやと思ってるんですよ。昔、最初、音楽始めた時もこういう音楽が10~20年後にたぶんポップスになるだろうと思って始めたんやけど、何かアンダーグランドとか呼ばれちゃって、なんやそれって感じなんやけど(苦笑)。でもヨーロッパやアメリカとかでは、ダンス・ミュージックがポップスに取り込まれてて、広く受け入れられる状態がもう10年前以上からあったんやけど、日本では中々そういうのが受け入れられない時代が続いて。でもやっと最近それが当たり前になってきた感じがあって、自分も何かこう気負いなく。ポップスってやっぱり今はどうしても情報に左右される人達が買う音楽みたいな、洗脳してそいつらに買わせるみたいな変な風潮があったけど、ホンマのポップスって普遍性があるってことやから。例えば70年代とかスティービー・ワンダーの『インナービジョンズ』とかああいうのとかも、凄いポップやけどアンダーグランドの人達にも響くし、普遍性もあったし、ホントの意味でのポップスやと思う。それを自分なりに表現できたらなあと思って、かなり意識を集中しました。

――スティービー・ワンダーの名前が挙がったんですが、AOKIさんの曲って以前からもの凄くグルーヴィだと思っています。ウネル様なグルーヴ感があって、あのグルーヴ感はテクノとかIDMから音楽に入ってる人には出せないんじゃないかと思っています。AOKIさんのルーツ的なモノ、音楽を聴きは始めたのはテクノとかからだったんでしょうか?

いや全然。小さい時に最初一番好きやったのはどうしてもブラック・ミュージックやったんですよね。ファンクとかソウルとかディスコとかそういう音楽が昔から凄い好きで。で、色んな音楽を経て、ロックも聴いたりしたんやけど、結局やっぱグルーヴが無いものには魅力を感じないっていう風になってきて。作るにあたって自分が何が好きかには正直にならんとやっぱ作れないから。我儘なぐらい自分に正直になって、どういう音楽が好きかっていうのを自分の中で見つめ直したら、やっぱどうしてもグルーヴ、ファンクな感じが。思考は関係無く、ハートが動いちゃうような音楽が自分は好きなんやなあってのがわかって。

――ニュー・アルバムを聴いていると、音が持つ根本的なフィーリングはソウルやファンク、レゲエに近いような気がします。AOKIさんの中でカスタマイズされると、たまたまテクノや電子音楽的な今のカタチになっているだけではないかと思いました。この辺のブラック・ミュージックが好きになったのは生まれ育った環境、大阪っていうのは関係はあるのでしょうか?

まあ大阪はレゲエやヒップホップとか盛んやったりするし。たぶん、大阪は情報とか関係ないんやと思うんですよ。東京発信で情報で洗脳して物買わせるっていうのにあんま関係ない場所が大阪やと思うんです。だから中央発信の物を売る為の情報が届かないっていうか、気にしてないのが大阪なんちゃうかなと思います。

――なるほど、僕も大阪育ちなんでその感じ良くわかります(笑)。ちょっと話を戻して、今回、〈Raster-noton〉からリリースとなったのはどういった経緯なんでしょうか?

坂本龍一さんがカールステン・ニコライ(※〈raster-noton〉代表)と日本で初めてライブやった時に僕を呼んでくれはって、そこで会ったら、カールステンは僕の曲を聴いてくれてて、前からいつかコンタクト取ろうと思ってたと言ってくれて。ベルリンに住んでいた時は普通に友人として遊ぶようになって。リリースのチャンスもくれて、それがアナログ12インチの『RN RHYTHM VARIATIONS』。ホンマはその後にポンポンとアルバム出すはずやったんやけど、ちょっと僕が全然作れなくなっちゃって、それでこんな時間空いたって感じですね。僕としてはリミックス集の『FRACTALIZED』のすぐ後に出そうと思ってたんですけど、その時作ったの全部嫌になってしまって、止めてもうたんです。

★インタビュー、まだまだ続く!
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