BLACK PINKBTS、ヒップホップシーンでは〈88rising〉。バンドシーンでは韓国のHYUKOHヒョゴ)など、音楽シーンを見渡せば、アジアの音楽がストリーミングサービスで世界中に注目されて久しい。そして、ほぼ時を同じくしてアジアのストリートファッションも盛り上がりを見せているという。

真部大河氏と松岡那苗氏が立ち上げたアパレルブランド〈SIXTYPERCENT〉は、そうしたアジアのファッションアイテムをオンラインで取り扱い、ドキュメンタリー動画などでアジアの“今”を発信し続けてる。

今回は、〈SIXTYPERCENT〉代表取締役CEOの真部大河氏取締役COOの松岡那苗氏に、勃興するアジアのカルチャーについて話を聞いた。

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INTERVIEW:
真部大河、松岡那苗(SIXTYPERCENT)

━━そもそも前提として世界のファッション市場の中で、アジアはどのくらいのシェアを占めているのでしょうか?

真部大河(以下、真部) アパレル業界における世界の4割のシェアはアジアが持っているんですよね。そもそも、世界の人口の6割がアジア人であり、中国をはじめ東南アジアも含めて大きな経済成長を遂げており個人消費も活発です。今後ますますシェアを拡大していくでしょう。そして近年さらにアジアのファッションは盛り上がっており、それは音楽やファッションが相互にカルチャーと密接に結びついているからだと言えます。

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L:真部大河 R:松岡那苗

━━具体的なきっかけは何かあるでしょうか?

真部 2016年くらいからBLACK PINKやBTSといったK-POPが世界に台頭したタイミングで、ストリート文脈からも〈88rising〉だったり、アジア人ラッパーやアーティストが欧米のチャートにランクインして人気を博すようになりました。そのあたりからアジアのカルチャーが、世界中で評価されたと感じています。そういったアジア人のラッパーやアーティストたちが世界でファッションアイコンとしても人気となり、アジア圏内にも逆輸入されることで、アジアのファッションやカルチャーの需要も近年さらに高まっていると感じてます。

松岡那苗(以下、松岡) 私も当時からアジアを巡っていたのですが、特にマレーシアでは日本のバブル時代みたく、クラブに人が集まるみたいな風潮が当たり前で、今の日本の何倍もの資金を使って、音楽とファッションといったカルチャーに投資している姿を目の当たりにしました。その瞬間にアジアに対する“発展途上国”という印象が一気に崩れて。今、世界で経済を回しているのは、アジアだと肌で感じたタイミングで今の事業をはじめたんです。

━━アジアのストリートファッションがなぜいわゆる欧米圏で受け入れられるようになったと分析されますか?

真部 これは仮説ですが、欧米のマーケットにK-POPのBLACK PINKやBTSといったアーティストが食い込むことで、その人たちのバックグラウンドにあるファッションやアジアのカルチャーに注目が集まったことも1つの大きな要素だと思うんです。

BLACKPINK – ‘Kill This Love’ M/V

━━包括的なアジアのカルチャーに興味を持たれているのか、そうした個別具体の事例から興味を持たれているのかどちらでしょうか?

真部 包括的というより個々のアーティストの背景にあるカルチャーが新鮮に受け取られている気がします。例えば、韓国のストリートファッションが流行っているのも、USのストリートの文脈より、その国の人にあった骨格とかスタイルとか経済力に合わせた価値観のものが出ている。欧米のいい要素を取り入れながら、韓国ストリートに昇華できていると感じます。そういう感覚を欧米の人たちが“新しいもの”として、面白がっているんです。

━━どういうプロセスでストリートブランドがアジアで勃興しはじめているんでしょうか?

松岡 基本的にはスケーターとDJといった音楽を牽引している人達が独自で立ち上げたブランドが多いですね。例えばジャカルタ(インドネシアの首都)では、スケーターやヒップホップアーティストが30〜40代になったタイミングでブランドをはじめて、ローカルのコミュニティリーダー的に扱われることが多いですね。

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インドネシアのスケートパーク CROOZ

━━今後のアジアのブランドの台頭をどのように予測されますか?

真部 アジアのファッションやカルチャーが世界で評価されてきたことにより、今まではアメリカやヨーロッパのファッションを主に消費していたアジア人が、自国のブランドを消費するようになってます。そういった現象がアジア各地で起き始めており、ローカルで根強い人気を得ているブランドが多く立ち上がってます。そして、そういったブランドたちがSNSやインターネットを通してアジアにじわじわと広がっている印象です。

松岡 経済的な数字面もそうですが、消費者1人ひとりもブランドのクリエイターも、結局どこか“舐められてた”感覚が、根強い気がしていて。だからこそ、K-POPのアーティストはどのステージでも韓国の服を着て、インドネシアの人はジャカルタの服を着て、自分たちの国とプレゼンスしていくし、それを支えるクリエイターがいる。そうした“反骨精神”が彼らの連帯を強くしている印象を受けます。

━━なるほど。

松岡 〈SIXTYPERCENT〉とコラボレーションしてくれるデザイナーたちに「アジアのブランド自体を底上げするプラットフォームがなかったのでやりましょうか」と話すと、ミッションベースで彼らは動いてくれるんです。例えば、インドネシアに〈Thanksinsomnia〉というスケーターブランドがあって。彼らはアイテムをネットにあげると即完する規模の人気を博しています。〈SIXTYPERCENT〉として提携する上で、ジャカルタのブランドとして最初に声をかけた際に、「アジアのストリートをいかに盛り上げるか』という話をしたら、『俺が他のブランドを引っ張る』と言ってくださったんです。そして鶴の一声で参加してくれるのがトップクラスのブランドさんだったりする。ビジネスの話は二の次で、カルチャーを作るために集まってきてくれるのだと感じます。

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Thanksinsomnia アイテム

━━アジアのブランドマーケットが台頭することで、これまでのファッション業界を取り巻く構造は変わるでしょうか?

松岡 そうですね。アジアは自国に生産環境が整っていてノウハウも蓄積されているので、自分たちのクリエイティブが担保されれば、何の問題もなくなってきている。つまり今までパリ、NY、ロンドン、ミラノといった欧米に行ってコレクションを立ち上げるのが、ファッションにおいて勝ち筋だったのが、そうじゃなくなってきている。結局、自国とアジアのマーケットでやれば勝っていける人たちが増えていくと思っています。

真部 今まではローカルに留まっていたものがジワジワと自国で広がり隣の国のアジアの国で広がり、という動きは起きやすいんじゃないかなと。小さなセレクトショップとか立ち上がったばかりのストリートブランドだったりとか、その熱量が今後増えていくんじゃないかなという感じで、定期的にチェックしていきたいなとは思いますね。

━━様々な国を巡られた2人から見て、これから注目しておいた方がいいのはどんな国々ですか?

真部 インドネシアです。インドネシアの人口は2億人と日本より多く、所得水準も上がっております。「Tokopedia」などECなどの普及もあり様々なブランドがローカルで立ち上がっております。ただ、輸出入の規制が厳しく内需主導型経済なので、まだ外にそういったローカルの盛り上がりがそこまで可視化されていないんです。

━━音楽面で言えば、既に〈88rising〉のRich Brianというラッパーが、インドネシア出身の世界的アーティストも出てきてますしね。松岡さんはどうですか?

88RISING – Midsummer Madness ft. Joji, Rich Brian, Higher Brothers, AUGUST 08

松岡 私はマレーシアです。マレーシアにはヒップホップといった音楽やファッション関係の人たちにとって、『Hidden Bar』という隠れバーが至るところにあるんです。玩具屋さんみたいな店のドアを開けると、内装は綺麗なバーみたいな。マレーシアってお酒が基本的にダメという宗教柄、“隠れバー”を地下に作るのがバズったんです。そうしたアンダーグラウンドでDJがファッションデザイナーと会ってワイワイパーティーしているんですよ。遊び場の作り込み方がすごい上手いです。ビジネス的に考えても、植民地時代の背景があるから、実は中国語と英語ができる人がほとんどだから世界に売って出やすい。そこも強みだと感じています。

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マレーシアのクラブ ZOOK

━━総じてコミュニティヒーローが世界にうって出やすい環境が整ってきていると。

真部 はい。自国の同じシーンにいる人たちが作ったブランドや音楽などのクリエティブが内需で消費されて、体力も自ずと伴っていく。しかるべきタイミングで世界に開けた時には、日本で裏原ブームが起きて、原宿が世界におけるファッションの中心地として知られるようになったような現象が、SNSやインターネットが普及した今の時代にアップデートされた形でアジア各国で起きる気がします。

━━勃興するアジアのマーケットは“遊び場作り”が上手いというか。秘密の流れをカルチャーとして作るのが上手いということなんですね。

松岡 はい。現にカルチャー作りにお金をかける余裕がまだまだアジアにはあるからだと思いますね。純粋にお金持ちが増えてきて、遊びに気持ち良くお金を使うので。ノリで“スケボーパークを作っちゃった”みたいな(笑)。地価や生活にかかるコストが未だ高騰していない中で、所得も上がってる人たちが、遊びにお金を投資していると思いますね。だからこそ、今の東京より楽しそうなところはいっぱいあるなと思います。

━━成熟しきった日本のマーケットが勃興する国々のカルチャーから学べるところはどんな部分にあるとお考えでしょうか?

真部 基本的に遊びに面白がってお金を出す人がいないと、新しいカルチャーって成立しないと思うんです。

松岡 お金を使うの恥ずかしいし、ダサいという考え方が横行するとカルチャーが面白くなるわけがない。例えば、インドネシアやアジア地域全般では、ドローンで撮影するのが当たり前なので、本当に小さいブランドでも空撮を行っていたり。これどこからお金が出てるんだろうと思うこともありますが、アジアの市場がバブルというタイミングということもあるので、そういう動きは肯定的に受け止めたいですよね。

真部 あと矛盾するようですが、本当に面白いことはオンラインに落ちていないことが結構あります。ローカルのストアとその熱量がアジア圏内で広がりやすいと思うんです。だからこそ現地に足を運んで、注目して、それを〈SIXTYPERCENT〉という事業を通して発信していけたらと思っています。

Text by Qetic編集部

“ASIAN STREET” – 60% Official Video

アジア各国から述べ103ブランド以上が出店するファッション通販サイト『SIXTYPERCENT(シックスティーパーセント)』から、次世代マーケットと呼ばれる“アジア”のファッションの実態を撮影したショートフィルムドキュメンタリー。今やファッション業界の消費の60%以上を占めると言われるアジア市場。発展途上国と揶揄されたアジア諸国の現在における台頭を、アジアから主要4カ国のデザイナーたちが語る。

SIXTY PERCENT
SIXTY PERCENT(シックスティーパーセント)は、アジアのファッションを世界へ発信するパイオニアとして、アジア10カ国85ブランド以上を集めたハイストリートセレクトECとして展開。韓国やベトナムの入手困難なブランドが軒並み出店し、業界人を中心に話題を呼んだ。“NOT MADE IN PARIS”というコンセプトを掲げたオリジナルブランドも展開。
出店ブランドは主にK-POP領域で人気の高いBTSやTWICE、BLACKPINK等が着用して人気を浴びる韓国ストリートブランドを筆頭に、アジア各国で人気を浴びているベトナムブランドや台湾、香港のブランドなどが出店をしている。出店ブランド例:BORNCHAMPS(ボーンチャンプス)、MORE THAN DOPE(モアザンドープ)、vivastudio(ビバストゥディオ)、JOYRICH(ジョイリッチ)など述べ85ブランド。

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