2016年に福岡で結成され、地元を拠点にしながら人気を拡大してきた4人組バンド・Attractions。彼らが最新アルバム『POST PULP』を完成させた。
2016年の『DISTANCE』以来通算2枚目となるこのアルバムは、彼らにとって記念すべきメジャー・ファースト・アルバム。英語詞の歌とロックやエレクトロニック・ミュージック、ソウル・ミュージックなど様々な音楽性をブレンドし、これまで以上にキャッチーでグルーヴィーな作品に仕上げている。
2017年からAttractionsを取材してきたQeticでは、このタイミングでバンドのこれまでの歩みや、その中での変化、そして『POST PULP』の制作風景を、TAROとTAKEに聞いた。
Attractions / 「POST PULP」teaser
Interview:TARO&TAKE(Attractions)
自分たちが「面白そうだ」と思えるようなことを続けた
━━Qeticで初めてAttractionsの取材をさせてもらったのは2017年の年末の福岡で、1st EP『Attractions』(2017年10月)が出て少し経ってからのことでした。まず、当時のみなさんはどんなことを考えながら活動していたか、思い出してもらうことはできますか?
TARO(Vo) 2017年頃というと……とにかく、色んなものを試していった時期でした。
TAKE(G) ひとつひとつが初めてのことばかりで、それをひとつずつやっていくような感覚で。当時、僕らの“Knock Away”がSpotifyやApple Musicを通して認知されていったんですけど、そういうストリーミングサービスともそれまでは密接に関係することがなかったので、「こういうことってあるの!?」と新鮮に感じたりしていましたね。
━━当時、日本以外の国でも“Knock Away”が聴かれるようになったそうですね。
TAKE 「えっ! 本当に聴いてくれてんの!?」って。
TARO Spotifyのことも印象的だったし、そもそも当時の僕らにとっては、全国のライブハウスを回ったりすることも、それまでにはないことだったんで。各地のファンとの思い出も印象的でしたし、同時に、ライブの見せ方についても結構悩みました。「こうしたらいいんじゃない?」と色んな人に色んなことを言われて、「もっと分かんなくなったよ!」と(笑)。
Attractions – Knock Away (official video)
━━当時、ライブについてはどんなことを考えていたんですか?
TARO やっぱり、来てくれるお客さんと楽しみを共有したいと思っているんですけど、それまでのバンドでは、お客さんを煽ったりすることは一切してこなかったんですよ。むしろ、その頃までは、そういうものは勝手にダサいと思っていたんです。
━━聴いてくれる人たちとより楽しむためにはどうすればいいかを考えはじめたんですね。
TARO 聴いてくれる人たちがいてこそのバンドだから、その人たちを楽しませることの大切さを、再認識したというか。
━━当時、「こうなっていきたい」という目標はあったと思いますか?
TARO すごく漠然としたものですけど、やっぱり、地元の福岡から、東京や大阪ではできないことをやりたいと思っていて。
TAKE 「アジアの玄関口としてのバンドになりたい」という話を、みんなでしていました。
━━福岡は韓国も近いですし、アジアの玄関口的な役割も果たせるんじゃないか、と。
TAKE 僕らは福岡に住んでいて、〈GIMMICK MAGIC〉というレーベルに所属していたんですが、東京を中心にした従来のやり方とはまた違う方法で、俺らがアジアの玄関口になれたら、という話はみんなでしていて。「じゃあ、どんなことができるだろう?」と。当時はメジャーに行きたい、ということも、まったく考えていなかったと思いますね。とにかく、自分たちが「面白そうだ」と思えるようなことを続けていった、という感じでした。
━━その中で、2018年には『STREET×STREET』キャンペーンでハーレー・ダビッドソンとのコラボが実現し、キャンペーン用のオリジナル曲“Instant Jam”も生まれました。
TAKE 福岡のハーレー・ダビッドソン博多でライブをやったのが2017年の年末で、代官山UNITでの<STREET×STREET LIVE EDITION presented by HARLEY-DAVIDSON®>が2018年の11月頃で。
TARO そう考えると早いね。
TAKE めちゃくちゃ早く感じる。“Instant Jam”はバンドサウンドとブラック・ミュージックの要素を合わせてみようと思ってつくった曲で、コンセプトが自分たちにすごくマッチしていたので、自然にできた曲だったと思います。やらせてもらってよかったな、と。
Attractions / Instant Jam(Official Video)
自信を持つべきなのは自分のボーカルだし、自分の歌詞だと思えた
━━それから活動を続けていく中で、自分たちの個性や、バンドについて色んなことを考えたと思うんですが、その中で「変わったこと」「変わっていないこと」というと?
TARO まず、ずっと変わっていないのは、サウンドに対する追求の部分かな、と思いますね。Attractionsの場合、ロックやクラブ・ミュージック、ブラック・ミュージックなど、影響を受けてきた音楽が幅広いし、自分としては「俺が歌うことでAttractionsらしさを出せる」とも思っていて。そこに各々のメンバーの個性が混ざり合って、Attractionsというバンドを表現出来ているかなと。
━━一方で、そのブレンドの仕方はどんどん進化しているような気がしますね。
TARO そこはTAKEの曲のつくりかたが大きいのかなと思うんです。(ファーストアルバムの)『DISTANCE』の頃は特に、TAKE自身も色々と勉強することが多かったと思うんですけど、そこから『Satisfaction』以降、さらに進化していったというか。
TAKE そうですね、常に「勉強し続けている」という感じで、ずっと研究してきたんです。バンドを続けていくにつれて、結成当初よりも音楽自体に真剣に向き合うようになってきた。僕らの場合は、途中でシンセのMASSIVEが脱退したりもして、それまでシンセは彼に頼りきりだったんで、それをいちから勉強し直して。そうやって、チャレンジしてどんどん深まってきている感じはありますね。
━━曲をつくるときに、バンドメンバー間でのやりとりでも変わってきている部分はありますか?
TAKE これはいい意味でなんですけど、最初にデモを作る段階で、自分だけで完結することが増えてきた気はします。たとえば、誰かが何かハマっている音楽があって、そういうふうにアレンジを加えたいというならもちろん歓迎なんですけど、その前のゼロからイチにする作曲作業では、まずは自分で自信を持ったものを出せるようになってきたというか。これは、みんなが活動を続ける中で、その部分を信頼してくれているのが大きいと思います。
TARO お互いが担っている役割というのが、明確になってきてる気がしますね。
TAKE そもそも、最初の頃は、自分たち自身も何が何だか分かってなかったんですよ(笑)。それが、活動を続ける中でちょっと固まってきたというか。
━━なるほど。自分たちでも、自分たちのことが分かってきた、と。
TARO 自分の場合、「自信を持つ」という部分は変わった気がします。もともとは、自分を出すのをためらっていたんですけど、今回のアルバムで最初に取り掛かった“Satisfaction”から、最後の“Last Magic”ができるまでに、本当に色んなことがあったんですよ。
Attractions / Satisfaction (Music Video)
━━何でも、TAROさんは制作中、悩んでいた時期があったそうですね。
TARO そうですね。自分の中で色々と葛藤があって。レコーディングを一度休止して、バンドと改めて向き合う期間があったんです。でもそこで改めて、バンドメンバーに対しての感謝もそうだし、自分が何をやりたいのかが明確に分かってきたというか。「俺が自信を持つべきなのは自分のボーカルだし、自分の歌詞だ」と思えたし、あとは、パーティー(=ライブ)するのも得意なんで(笑)。その辺りの自信は、昔と比べてあると思います。今回のアルバムの歌詞は、割と短期間でつくったんですけど、だからこそ、今までで一番、自分をさらけ出すような歌詞にもなっているんです。
━━確かに、すごくパーソナルな雰囲気ですね。
TARO それを、表現者としてちゃんと表現できたのはすごくよかったな、と。これはあくまでも、自分の中の葛藤だったんですけど、これまでは「どういうボーカルになりたいのか?」というイメージをまだ探ってた部分があって。もちろん、もう完全に決まったというわけでは全然ないんですけど、今はそれが何となくイメージできるようになってきているんです。それが分かってきて、すごく楽になったな、という感覚でした。あと、その間も、メンバーはめちゃくちゃ協力的だったんですよ。今回のアルバムでは、TAKEにも手伝ってもらって、シンガーとして色々挑戦できたこともすごくよかったです。
━━TAKEさんが何かアドバイスをしたんですか?
TAKE 自分の中ではTAROの歌のよさっていくつかタイプがあると思っていて、それを僕が客観的に見て、「この曲は、あのときのこういう感じで歌ってみたら?」と伝えていった、という話なんです。
TARO 無意識に自分が忘れていたものを、思い出させてくれたというか(笑)。
TAKE 「この曲なら……あのときのあれだ!」って(笑)。
TARO 『POST PULP』の曲が一曲一曲違って聴こえるのは、そういう部分も大きいのかな、と思います。
世界との壁を崩すような存在になっていけたらいいな、と思う
━━実際、今回の最新アルバム『POST PULP』には、色々なタイプの曲が入っていると思います。楽曲ごとになると思いますが、今回特に影響を受けた音楽はあったんですか?
TAKE それは曲によって色々ですけど、たとえば、“Blood Pressure”の場合は、僕としてはニュー・オーダー(New Order)みたいな音楽をイメージしながらつくって、それをそのままではない、同時にアンセムソングになるようなものにもしようと、歌詞に日本語を入れていきました。そうやって、「洋楽っぽい曲の概念を崩していく」というやり方をしていましたね。
━━この曲は、Attractionsの楽曲の中で最も日本語詞が中心になっている曲ですね。
TARO 実は最初は、日本語詞にしようと思っていたわけではなかったんですけど、英語の歌詞を考えてレコーディングに臨んだときに、一晩おいて、日本語の歌詞も仮で書いて歌ってみたら、「この方がいいかも!」ということになったんです。
━━なるほど。最初は英語詞だったんですか。
TAKE そうなんですよ。でも、日本語の仮歌詞を聴いたときに、「こっちの方がいいんじゃないか?」と思って。結果として、洋楽や邦楽という分け方があるのなら、そのどっちのよさもなくならない曲になったのかな、と思っています。たとえば、アルバムに向けての最初のシングルだった『Satisfaction』もそうですけど、今回は作品として日本のリスナーに深く迫っていきたいという気持ちがあって、そういう意味でもチャレンジできたかな、と思います。
Attractions / Blood Pressure (Acoustic Session)
━━“Last Magic”はどうでしょう? この曲は、三重県にある荒木正比呂さんのスタジオでレコーディングしたそうですね。
TAKE “Last Magic”はアルバムの最後につくったアルバムのリード曲ですけど、もともとは荒木さんのスタジオに向かう際に、TAROと一緒にデモを用意して向かっていたんです。でも、結局現地でそれは使わずに、「いちからセッションしてみますか?」ということになって。みんなでBPMとコードを決めて、その場でビートをつくっていったんですよ。
TARO その結果、ジャンルに縛られない、すごくオープンな曲ができたと思っていて。最初は、「ちゃんと詰めなくても大丈夫かな?」とも思っていたんですけど、「ああ、こんな方法でもいいんだ」とすごく勉強になりました。その方がよくなることもあるんだな、と。
━━よれたホーンのサンプリングが印象的ですね。
TAKE あのサンプリングを入れた瞬間に、曲の方向性が見えてきました。「このビート感に、このグルーヴでいこう!」って。
━━歌詞の面ではどうですか?
TARO この曲は今回のアルバムの中で、最後の大事なピースになったと思っていて。今回のアルバムの他の曲って、結構内省的な歌詞が多かったと思うんです。でも、“Last Magic”が入ったからこそ、ちょっと開放的になって、アルバムの世界が広がったというか。歌い方も歌詞もそうですけど、この曲は「自由を謳歌する」という内容で、歌ってると、<SXSW>の風景を思い出したりもします。あの自由な雰囲気というか。
Attractions / Last Magic (Music Video)
━━今回の『POST PULP』は、全編を通してキラーチューンがたくさん入っているようなアルバムですね。
TAKE すごく強固なアルバムになったな、と思っています。どの曲もキャッチーにつくることは意識したし、洋楽ライクなバンドを組んでいる身としては、この音楽性で日本の人たちにどれだけ刺さるんだろう、という挑戦のようなものでもあって。そういう人にも届くように頑張ってつくったつもりです。僕らは英語歌詞がメインですけど、耳に残るフレーズや、キメのフレーズのような、キャッチーなポイントを曲の中にたくさんつくっているつもりではいて、どの曲もきっと、気に入ってもらえるんじゃないかと思うので。
TARO 世界との壁を崩すような存在になっていけたらいいな、と思います。今『POST PULP』は、色んな音楽が共存できるような作品になりましたし、どの曲も隙がない作品にしたいと思ってつくっていたので。どの曲から入ってもらっても自信があるし、人によってそれぞれのお気に入りの曲を見つけてもらえるような作品ができたのかな、と思っています。あとは、ライブをやりたいんですけど、今はまだなかなか自由にはできない状況で。
━━その辺りは、コロナ禍の影響で仕方ないですよね。とはいえ、このコロナ禍で、逆に色々と考えられたことなどもあるのではないでしょうか?
TARO 今、なかなか自由にはライブができない中で、色んな配信ライブも増えてきていますけど、福岡に住んでいると、たとえば東京のようになかなかクオリティの高いものをつくることも難しかったりはするんです。ただ、「いいものをつくる」という部分では負ける気はしないし、自分たちの音楽を少しずつでも広げていけるように、頑張ろうと思っています。こういう状況の中でも、僕らの音楽をちゃんと評価してくれていることに感謝しているし、(音楽そのものに耳を傾けてもらえる)フェアな状況にもなったのかな、と思いますね。
━━世界のどこにいても、色んな人々と繋がれるような時代になってきていますしね。
TAKE そうですね。僕らもエンターテイナーとしてのアイデア力や行動力も必須になってきているのは感じていて。最近は曲をつくってライブをするという当たり前のことだけではなく、「僕らにどんなことができるのか」も考えながら曲をつくったりもしています。
TARO 最近、メジャー・デビューを発表したときに、友達から「TARO、お前芸能人になったの?」と連絡がきたんですよ。それで、「いや、芸能人じゃねえし!」って(笑)。僕らはこれからも自分らしくやっていこう、という気持ちです。
Attractions / Chain Reaction (Music Video)
━━最後に、結成からメジャー・デビューまでの期間を改めて振り返ってもらうことはできますか? みなさんにとってはどんな期間だったと思っていますか。
TAKE まずは、「福岡にずっといながらでもメジャー・デビューができる」という形をちゃんとつくれたことは、頑張ってこれたんじゃないかな、と思います。これからもずっと音楽性を進化させていきたいし、ライブでも、それこそ世界と戦えるようにしていきたい。僕たちの世代って、ストリーミングサービスもはじまって、「従来のやり方にとらわれなくてもいいんじゃないか」と、みんながちょっと気づきはじめていた世代だと思うんです。だからこそ、変に守りに入ったりはせずに、これからも頑張っていきたいですね。
TARO 今思い返せば、メジャー・デビューまでの第一章はみんな手探りで、人の一生にたとえるなら、Attractionsにとっての「ティーンエイジャー」だったと思うんです。すごく可愛かったな、とも思うけど、一方でわがままだったし、ぶっきらぼうで計画性もなくて、ただ音楽を楽しんでいた自分たちがいて。でも、これからの第二章は、今の自分たちの力を最大限に使って、「どこまで行けるのか?」「どんな風景が見られるのか?」ということを、ファンのみんなと一緒に見に行けたらいいな、と思います。来年1月からの<POST PULP TOUR>も、楽しみにしていてもらえると嬉しいです。
Text by 杉山仁
photo:official
Attractions
2016年結成。
全国から熱い視線を集める福岡のニューストリートカルチャーの一翼を担う4人組バンドで、福岡・大名のアパレルショップBINGOBONGOグループが立ち上げた音楽レーベル〈GIMMICK-MAGIC〉の第1弾アーティスト。
2020年8月26日(水)に、ビクターエンタテインメント内レーベル〈Getting Better〉より、待望のメジャー1stアルバム『POST PULP』をリリースし、2021年1月10日(日)、11日(月)、23日(土)に<POST PULP TOUR 2021>を東京・大阪・福岡で開催を控えている等、今後も更なる注目を集めている。
EVENT INFORMATION
POST PULP TOUR
2021.01.10(日) 東京:LIQUIDROOM
2021.01.11(月・祝) 大阪:Music Club JANUS
2021.01.23(土) 福岡:BEAT STATION
◎新型コロナウィルス感染予防対策のガイドラインに沿って公演は実施いたします。
RELEASE INFOMATION
POST PULP
2020.08.26(水)
【初回限定盤】VICL-65403
¥2,900(+tax)
*スペシャルパッケージ仕様
*Track-12 ボーナストラック収録
【通常盤】VICL-65404
¥2,700(+tax)
【CD】
01. Introduction
02. Fabulous, Infamous & Dangerous
03. Chain Reaction
04. Last Magic
05. The Streets of Neo City
06. Shake It Over
07. Heartbreak
08. Satisfaction
09. Man on the Moon
10. Do What You Do
11. Blood Pressure
*12. Beat Down(初回盤ボーナストラック)
Last Magic / Chain Reaction
2020.10.24(土)
HR7S189
¥1800(+tax)
7inch single