最強の、逆襲“アベンジ”へーー世界興行収入No.1シリーズのマーベル・スタジオ最新作 『アベンジャーズ/エンドゲーム』が、ついに4月26(金)、日本で公開を迎えてしまう。“しまう”という表現は、この記事を最後まで読んでくれれば、理解してくれるだろう。この作品でどんな結末を迎えようとも、僕らが愛してやまないこのメンバーでのアベンジャーズは、最後を迎えるのだから。

事実、ファンの熱気の高まりは今、最高潮へ。昨年の12月7日に配信された予告編は、24時間の間に2億8900万回の再生を記録。1位の記録を保持していた前作『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2億3000万回)を大きく上回る新記録を打ち立てた。

最凶の敵・サノスによって全宇宙の生命は半分に消し去られたものの、アベンジャーズで生き残ったキャプテン・アメリカ、ソー、ブラック・ウィドウ、ハルク、ホークアイ、そして宇宙を当てもなくさまよい、新たなスーツを開発するアイアンマンは、アントマンや“最強の新ヒーロー”キャプテン・マーベルらとともに、失った仲間たちと35億人の人々を取り戻すため、最大にして最後の戦いに挑む。

今回はこの歴史に残るであろう一作の公開前に、業界屈指のマーベルファンで知られる歌舞伎俳優の尾上松也さんにインタビューを敢行。マーベルおよびMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)に興味を持ったきっかけ、アベンジャーズの魅力、そして何よりラストに向かう今の想いを、マーベルファンを代表して語ってもらった。

Interview:尾上松也

ヒーローが抱える闇と、キャプテン・アメリカへの憧れ

(携帯電話のケースカバーを見せて)これ、マーベルです。

——ニヤリとされましたね、さすがです。松也さんがマーベルに詳しいのは有名な話なのですが、そもそも興味を持ったきっかけは?

何がきっかけかと言うと、マーベルに限らずヒーロー自体に興味を持ったんです。マーベルのヒーローが映画などで実写化されたのは、アメリカン・コミックスの中ではあとの方なので。マーベルのきっかけはやっぱり、このMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)がまさにそれですが、いろいろなキャラクターが登場するので「これは誰だ……?」って気になるでしょ。それと、僕がそれまで見ていたヒーロー作品と圧倒的に違ったのは、キャラクターたちの心の闇の面があるところ。敵が強すぎてどうこうみたいのではなく、本人が抱えている葛藤がしっかりと描かれていて、時代や社会への風刺なども反映されているところが、世代を問わず楽しめる理由なのかなと思います。そういった一つ一つに興味を持つようになって、いろいろ知るようになりました。

——MCUの始まりは2008年に公開された『アイアンマン』ですが、松也さんは当時観たときの印象を覚えてますか?

覚えてますね。その時点でアイアンマンの存在は知っていましたが、キャラクターを詳しく把握していなかったんです。でも、そのころは今ほどマーベルのキャラクターが世の中に認知されていなかったですし、『アイアンマン』がスタートした時点でまさかここまで壮大なシリーズとして続くとも思っていなかった。あと正直、コミックスのアイアンマンを個人的にそれほどカッコいいとは思っていなかったので、観る前は「あのアイアンマンをどうやって……」という気持ちが強かったです。ですが、観た感想としては本当に面白かった。ロバート・ダウニーJr.が見事にアイアンマンというヒーローの魅力を体現していましたし、そこはキャスティングの力を感じましたね。

——マーベル・スタジオのプロデューサー兼プレジデントのケヴィン・ファイギも、「MCUは、ロバート・ダウニーJr.なしでは存在しなかった」と語っていますしね。ただ、松也さんの推しヒーローはキャプテン・アメリカですよね?

はい、キャプテンは好きですね。僕は歌舞伎の自主公演を主宰したり、プライベートでもフットサルチームでキャプテンをやったりとか、たまたまそういう立場になることが多いのですが、何かを率いている人を見てしまう。それは勉強のためなのかもしれませんが、そういう意味でキャプテン・アメリカは僕の憧れの一人ですね。(取材時に用意されていた『アベンジャーズ/エンドゲーム』のパネルを指差して)これ見てください! ヒーローたちの真ん中で堂々とするキャプテン・アメリカを。この中でキャプテン・アメリカは、純粋な能力値は決して高くないんですよ。ビームが出せるわけでもない、飛べるわけでもない。本来なら「お前さ〜」って言われてリスペクトを得られない可能性もあるのに、持ち前のキャプテンシーで荒くれ者たちをまとめてきた。そのキャプテンシーに男気を感じますし、もうカッコいい以外の何者でもないですよね。

——キャプテン・アメリカのキャプテンシーを支える要素として、どういった部分が優れていると感じますか?

自分をしっかりと把握しているのがすごいですね。自分の能力をどこで、どうやって役立てるべきかを冷静に分析している。自分が出過ぎず、人を使うときは使う。リーダーというのは、ずっと先頭を走ればいいというわけではないことを、キャプテンを見るとよくわかります。これは以前にQeticさんでインタビューを受けたときにも言ったと思いますが、『アベンジャーズ』でブラック・ウィドウを信じて、彼女をチタウリの乗り物に飛び込ませて……その様子を見てるっていう。乗らんのかい! って、でもあれもキャプテンらしいですよね。

——『アベンジャーズ/インフィニティ・フォー』でもキャプテン・アメリカはあまり前に出ずに、みんなに任せていた部分もありましたよね。

ですが『インフィニティ・フォー』に関してはサノスの強さが際立っていたし、キャプテンどうこうの話ではなくなっていましたよね。ああいう作品は、結局は善が勝つと思われている中で、サノスのように「どうしよう……強すぎる……」という展開に持っていくのは大変だと思う。しかもここまで長く続いているシリーズで。でも『インフィニティ・フォー』はいい意味で救いがなくて、あれこそアメリカン・コミックスらしさが出たし、よくやってくれたと思いました。もちろん悲しいですし、キャラクターによってはこれから面白くなりそうだったのに「ああ……消えた……」ってなりましたよ。ですが同時にどこかで「ここまでやってくれないと納得しないよな」という気持ちもありましたし、制作陣はよく勇気を出してやってくれたと感動しましたね。

——終わったあとの劇場の雰囲気ったら……あんな映画なかったですよね。その衝撃作のあとに『アントマン&ワスプ』、そして先月公開された『キャプテン・マーベル』が続き、『インフィニティ・フォー』には出ていなかったヒーローたちも『エンドゲーム』には登場します。

いやー特にキャプテン・マーベル。ここでキャプテン・マーベルを出してくる意味はすごく大きい。あの強さ、ワクワクしかないですよ。同時に、「なんでもっと早く来なかったんだ」「何してるフューリー」と。その辺りも面白いですし、キャプテン・マーベルはアベンジャーズの中でも確実に一番強いでしょ。あの強さには笑いすら出ましたよ。

——ヒーローの中ではソーも強いですが、キャプテン・マーベルの強さには確かに笑いすら出ました。強力な仲間を得たアベンジャーズですが、予告編などでもやはり精神的な支柱としてキャプテン・アメリカの存在が際立っているようにも感じました。

やっぱり、再び立ち上がるときにみんなを鼓舞するのはキャプテン。僕は予告編でキャプテンを先頭に、ヒーローたちがスローモーションで歩いていくシーンが大好きなんですよ。「キャプテン!! 」って声をかけたくなる。まさにあれが僕の理想とする姿。

——そうすると『エンドゲーム』では、キャプテンがガンガン前に出ていく場面も……。

いやいや! それはないです。アイアンマン行けですよ。今まで自分が主役の作品では最後は締めていましたが、『アベンジャーズ』シリーズに関してはキャプテンがトドメを刺したことはないですから。キャプテンはそれでいいんです。でもポスターとかでこれだけ真ん中にいるってことは……きっと何かあるのかもしれませんね。

アベンジャーズの魅力と、迫るラストへの偽らざる感情

——アベンジャーズの魅力についてもっと掘り下げていきたいのですが、松也さんはアベンジャーズがここまでファンの心を惹きつけるのはなぜだと思いますか?

同じコミックスのヒーローとして、これだけのキャラクターが一緒に活躍する。そういう描き方はアメリカではポピュラーなんでしょうが、日本ではMCU以前にはあまりなかったと思うんですよ。そういう意味では「ヒーローたちが同じ世界観を共有している」ことの面白さを、MCU、そしてアベンジャーズが教えてくれた。日本ではコミックスを知らない方が多い中でこれだけ人気なのも、そういうところに理由があると思います。あのスペシャル感は魅力的ですし、物語の繋げ方も見事だなと。シリーズが長く続くと、普通だったらもっとダレてしまうはずなんですけどね。新しいヒーローが出てきて「ガーディアンズ? 面白いの〜? 」なんて思っても、結果的にとても面白いわけですから。期待を常に超えてくるのはすごいですよね。

——MCUにおける“世界観の共有”という手法と、アベンジャーズにおける“ヒーロー大集結”へのワクワク感。それらは日本の映画ファンにとっても新鮮だったと思います。

それまでもそういう作品がまったくなかったわけではないですけど、これだけ成功したシリーズはなかった。うらやましいですよね、続けようと思えば永遠にできるわけで。

——例えば、歌舞伎の世界にそういう作品やシリーズはありますか?

人物として似ていることはありますけど、同じ人物でも作品ごとに設定やキャラクターが違うので、世界観を共有していることはないですね。ただ、僕はあってもいいと思っていて、前からやりたいのは歌舞伎の世界のヒーローを大集結させた“歌舞伎版アベンジャーズ”。それはずっと考えています。歌舞伎にはそれだけのキャラクターがいますので、いつかは実現してみたいです。

——キャラクターで何人か目星は付いていますか? 例えばキャプテン・アメリカとか。

いくつか候補はいますね。やっぱり能力値的にはそれほど高くないけど、キャプテンシーを持っているという点で言えば、5月に『め組の喧嘩』というお芝居を上演するのですが、そこに出てくるとび職の辰五郎。『め組の喧嘩』はお相撲さんとの喧嘩のお話で、棟梁の辰五郎が先陣を切って大勢の若い衆を引き連れていくんです。ですので主役の辰五郎が、キャプテンシーを持ってヒーローたちを集める……っていうのがいいんじゃないかなと。あとハルクみたいなキャラクターだと、鎌倉権五郎という人物が歌舞伎の『暫』っていうお話に出てくるんですよ。鎌倉権五郎は、まあとにかくデカい。動きは遅いけどパワーがすごくて、一振りで何十人の首をはねてしまうぐらい。

——“歌舞伎版アベンジャーズ”できそうですね……キャプテン辰五郎。

キャプテン辰五郎はぜひやりたいですね。

——松也さんは、アベンジャーズのヒーローの中でキャラクター的に誰が自分に一番近いと思いますか?

そうありたいのはキャプテンですけど、わりといい加減なところはいい加減なのでアントマンですかね。トニー・スタークは何も考えてないようですごく考えてますし、ほかのみんなもしっかり考えてますけど、アントマンだけはどこか「ノリだけでここまできた」みたいなところがあるじゃないですか。どちらかというと僕はそっちのタイプですね(笑)。

——あと、松也さんの友人でヒーローっぽい人はいますか? 例えば、松也さんは山崎育三郎さん、城田優さんとIMYというプロジェクトを始動されましたが、そのお二人はいかがですか?

うーん……育三郎はトニー・スタークかな。チャラチャラして適当っぽいんだけど、やるときはやるっていう。優も普段はトニー・スタークっぽい要素があるけど、基本はネガティブ思考なところがあったりするので、意外とハルクっぽいかもしれないですね(笑)。

——それは意外ですね。あと歌舞伎の世界の方で、松也さんの代表作の一つでもある『三人吉三』では中村勘九郎さんと中村七之助さんとご一緒されていますが、そのお二人は?

七之助さんもトニー・スタークっぽいですね。勘九郎さんは……ピーター・クイルっぽいかな。やっぱり僕は闇が深いのでピーター・クイルかもしれないですね。基本的には楽観的だけど、実は傷つきやすいみたいな。そう考えるとキャプテン・アメリカみたいなキャラはいないですね。チームのキャプテンとしては必要だけど、プライベートはちょっと……みたいな感じなのかもしれない。まさにトニー・スタークとの関係で、認め合っているけど……。

——ただ『エンドゲーム』ではその二人が固い握手を交わします。

そうですね。間もなく公開ですけど、もちろんとっても楽しみですし、『キャプテン・マーベル』を観てからワクワクは倍増しました。キャプテン・マーベルたちが加わったアベンジャーズがサノスとどう戦うのか、どういう風にアベンジャーズが一致団結し、どんな結末を迎えるのか。正直、このチーム、このメンバーでのアベンジャーズが最後というのはやはり寂しいですよ。いろいろなことを含めて永遠にはできないし、このときが来るのをわかってはいた。観たいけど観たくない、そんな気持ちです。できれば『エンドゲーム前編・後編』とかにしてほしいぐらいで、どこかでそれに期待している自分がいます。

——『キャプテン・マーベル』からのスパンも短かったので、心の準備がまだできていないファンも多いかもしれません。

このあとに若いヒーローたちの新たなフェーズが始まるとしても、やはりこれだけ長い期間に渡って見てきたので、このメンバーを超えるアベンジャーズを今は想像できない。このメンバーはすべてがベストな感じがするので、終わってしまうのがとにかく寂しいですね。

——ファン一人一人の思い入れは強いですね。逆にまだMCU、そしてアベンジャーズを知らない人もいるわけで、そういった人たちに一言かけるとしたらなんと言いますか?

いやもう、うらやましいしかないですよ。「観てないの!? 楽しいぞ〜! 」って感じです。今からこの壮大なシリーズを、新鮮な気持ちで見られるわけですから。でも、ファンも『エンドゲーム』のあとに、最初からもう一回観ちゃうと思いますけどね。

——そうですね。とにもかくにも『エンドゲーム』の結末、その“希望”を見届け、次へ進みましょう。MCUのフェーズ4以降ですが、例えば日本人ヒーローは現れますかね?

どうでしょうね……あるとして侍とか忍者とかしかないんでしょうね、世界的に考えると。やっぱ日本特有のそういうキャラクターになるのかな。

——なかなか難しそうなので、ぜひ歌舞伎版アベンジャーズを実現してほしいです。

やりたいですね。賛同してくれる方はいると思うんですけど。それかアベンジャーズを歌舞伎として成り立たせるしかないですよね。……アイアンマン難しいなぁ。

——(一同)ハハハハハ!

アベンジャーズ/エンド・ゲーム 4月26日(金)全国公開

監督:アンソニー&ジョー・ルッソ
製作:ケヴィン・ファィギ 
出演:ロバート・ダウニーJr.、クリス・ヘムズワース、マーク・ラファロ、クリス・エヴァンス、スカーレット・ヨハンソン、ジェレミー・レナー、ポール・ラッド、ブリー・ラーソン
原題:Avengers: Endgame
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2019Marvel

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尾上松也

オフィシャルサイト

photo by 大石隼土

interview&text by ラスカル(NaNo.works)

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