昨年発表したアルバム『8』以後も、Awichの話題は事欠かなかった。YENTOWNの盟友・kZmとの楽曲を始め、SOIL&“PIMP”SESSIONSやKOJOEの作品への客演、そして七夕にはKANDYTOWNのIOを迎えてシングル“What You Want”を発表。さらに楽曲以外にも、SHISEIDO×WWD“be an ARTIST”の広告ビジュアルに愛娘のYomi Jahと共に参加するなど、その存在はヒップホップという枠を飛び越えようとしている。

10月10日にリリースされたEP『Beat』『Heart』は、『8』同様にChaki Zuluがトータル・プロデュース。HIP HOPのビート感とラップが際立つ『Beat』には、フランス人DJのSam Tibaによる青森のねぶた祭りにインスパイアされた“NEBUTA”、EGO-WRAPPIN’のクラシック“色彩のブルース”を大胆にサンプリングした“紙飛行機”など4曲を収録。対照的に、シンガーとしてのポテンシャルを見せつける『Heart』には、TVドラマ「島耕作シリーズ35周年企画『部長 風花凛子の恋』」の主題歌となった“PRESSURE”、ジェネイ・アイコや向井太一などの楽曲も手掛けるLeJKeysによる“If She Cries”など、こちらも4曲が収録されている。さらに、EP発売後の11月からは自身初となるワンマンツアーの開催も決定した。

今回は2作同時リリースの経緯や、表現した〈二面性〉というテーマ、さらに自身、そしてYENTOWNとして見据える世界への展望についてもインタビューした。

Interview:Awich

“NEBUTA”のビートと、奇跡的に生まれた“紙飛行機”

——『8』が発売されてから1年ほど経って、Awichさんを取り巻く環境は大きく変わったように感じます。

ライブがほとんど毎週末に入っていて、5日間とか続くときもありました。EPの制作が始まってからは、平日は制作、週末はライブみたいな感じで、ほとんど沖縄に帰る時間は無かったですね。でもこの一年を通していいチームができたので。それが無かったら乗り切れなかったです。

——『Beat』『Heart』の制作が始まったのはいつ頃ですか?

4月ぐらいからですが、最初はEPにするのも2枚にするのも決まってなかったです。結果的に今回のような形になりましたが、そこはChakiさん(Chaki Zulu)といろいろ話して、4曲という限られた中でひとつのまとまりを出すことを意識しました。それってアルバムやミックステープより難しいと思うんです。同じような曲ばかりでも面白くないし、全然違うと作品の中で流れが作れない。そのために何回も聴き直して曲順を並び替えたりしました。

——今回のEPには、この1年で繋がった人たちが大きく関わっていますね。

そうですね。“NEBUTA”は、青森でライブをした次の日に現地のミュージアムに行ったら、ねぶたのデモンストレーションがあって、ものすごく刺激を受けたんです。そのときに「誰かにこれをコンセプトにした曲を作ってほしい」と思って、パッと思いついたのがSam Tibaでした。Sam Tibaとはやりとりはしていたし、彼は日本がすごく好きだから、ミュージアムで撮ったビデオを送ってお願いしたら、あのビートが3日後に送られて来たんです。あのビートがですよ?

——もちろんいい意味ですが、頭オカシイですね。

ほんとそう。それでほとんど完成した段階でkZmに聴かせたら、kZmも「ヤバイヤバイヤバイ」みたいな感じでめちゃめちゃクラって。ちょうど私も客演を探していたんでお願いしました。

——ラストの曲調が変わるところも「そうくるか」感がありました。

あれも完全にSam Tibaですね。Chakiさんも「やっぱ頭オカシイ」って言ってました。

——あと「“Maiko” her face is so white ,“Taiko” he beat it so right」や「Why the fuck you sober.Money long like “soba”」など、いわゆるベタな日本語を入れるリリックも興味深かったです。

そのあたりは“海外から見た日本”のイメージをリリックに落とし込んでみました。英語と日本語の使い方や比率も外人っぽくしてみたというか、ちょっとだけ日本語がわかる外人のような。

——たいして英語を話せない人がそれをしたらダサくなるけど、Awichさんだとそれが成立する気がします。あとはシンプルに“NEBUTA”はライブで盛り上がる曲ですよね。

そう! ちょうどkZmもいたライブで「やっちゃう?」みたいな感じで1回やったんですよ。みんな曲は知らなかったけど、めちゃくちゃ盛り上がりましたね。このEPを聴いてライブの前に予習してくれたら、もっと盛り上がると思います。

——あと『Beat』で言えば、EGO-WRAPPIN’さんの代表曲“色彩のブルース”をサンプリングした“紙飛行機”は、そこに至った経緯も含めて伺いたいです。

もともと私もChakiさんもEGO-WRAPPIN’さんが大好きで、Chakiさんはやりたいってずっと言ってたんですよ。この前のSOIL(&”PIMP”SESSIONS)さんのツアーファイナルに出たときにEGO-WRAPPIN’さんもいっしょだったんですが……そのときは聞けなくて。結局、Chakiさんから「やりたいって言われても何とも言い難いだろうし、作っちゃった方がいいんじゃない?」って言われて、曲を先に作ってEGO-WRAPPIN’さんに送ったんです。快諾してくれたって聞いたときは、めちゃくちゃ嬉しかったですね。

——最初の段階から曲は“色彩のブルース”に決まっていたんですか?

はい。あのジャジーな感じや、日本人離れしているのに昭和っぽい感じがすごく好きで。最初はどうサンプリングしようかな……という感じでしたが、そこはもう“Chaki Zulu Magic”で。徐々に形作られていくのを見ながら、リリックを書いていきました。

——“色彩のブルース”がこんな形で蘇るのかと興奮を覚えましたし、同時に改めてあの曲は廃れないクラシックなんだなと感じました。

本当に名曲過ぎて。私がやることで賛否両論あるかもしれないけど、そこは覚悟して作るしかないなって。この曲はかなり歌詞も書き直しました。やるなら絶対いいものにしないと失礼だし、その緊張感はありましたね。でも最終的にはバッチリ。大好きな曲になりました。

——原曲を知らない人にとっては、聴くきっかけにもなると思います。

それだと本望です。あと、ChakiさんはAkonの「Lonely, I’m Mr.Lonely〜」(“Lonely”)のような感じでサビをサンプリングできる曲がやりたいって思っていたらしく、そこから「EGO-WRAPPIN’のあの曲でできたら最高だね」って私に教えてくれて。実は私の旦那が亡くなったときに、霊感の強い従兄弟のところに旦那が来たらしいんです。従兄弟は「いろいろ言ってるけど、英語だからわかんない。ただ、“この曲をあいつに届けてほしい”って言われていっしょにYouTubeを見た」って。それが3曲ぐらいあって、その中の1曲が“Lonely”だったんです。

——それは……Chakiさんに話しましたか?

話したし、何かのサインだなと思いました。当時、従兄弟には「私に会いに来い!って伝えといて」って言ったけど、私は今まで一回も霊とかそういうのを見たことがないから、「あいつのとこに行ってもムダ」って思って従兄弟のところに行ったのかも。他にも、私とトヨミ(Yomi Jah)がリハしてる時に「来てたよ」って言われたこともあった。「誇りに思う」ってずっと言ってるって。

自身の根底にあり続ける〈二面性〉への意識

——『Heart』の中の“Pressure”は、TVドラマ「島耕作シリーズ35周年企画『部長 風花凛子の恋』の主題歌になりました。ただ率直に、若い世代の子は「島耕作シリーズとAwich?」ってなったと思うんですよ。でも島耕作シリーズを読んでいる人からすると、「風花凛子とAwich……なるほどね」ってすんなり理解できたのかなと思って。

確かにそうかも。ただ、初めて曲の入った映像を見た時は感動しましたね。“Pressure”は英語の歌詞ですが、それ以前に、強い女性の映像に私の声って合うんだなって思いました。

——この曲はどういう経緯で主題歌に決まったんですか?

話が来る前に曲はできていて、他のアーティストさん含めて何曲か候補がある中から選んでくれました。曲調はメジャー寄りだけど、英語の歌詞だし、選ばれてビックリしましたね。

——kZmさんとのReebokのコラボもそうですが、いわゆるメジャーな企業の中にも、そういう尖ったセンスを持った人がいるっていうことですね。

そうですね。それに、何かが繋がっていくタイミングってあるんだなと思いました。ただ、もっとやりたいなって気持ちはあって、映画の曲とかもやってみたいですね。やっぱそういうストーリーがある映像といっしょになると曲の良さも引き立つし、自分が曲に込めた意味を他の作り手が共感してくれた上でいっしょに作り上げるっていうのは、考えてみればすごいプロセスだなって。

——映画館のスクリーンでAwichさんの曲が流れたら……でも、今の状況を考えたら遠い話じゃないかもしれないですね。改めて今回の2枚のEPは〈二面性〉がテーマにあると思うのですが、それってAwichさんの作品には常にあるテーマなのかなと。

生活の中でも、「これなのにこれ」っていうのは好きなんですよね。「イケメンなのに頭良い」とか……フフ、何だろう。

——フフ……でも日本って、こと女性に関しても〈二面性〉が偏っている気がして。モテるためには女性はかわいらしく、バリバリ働くには男に負けないように強く……みたいな。でもAwichさんは、そのどちらにも偏らない、“女性が本来持つ素晴らしさ”をメッセージとして発信しているように感じるんですが。

そういうのは昔から意識しているかもしれません。「遊んでるのに勉強してる」とか、「強いのにかわいい」とか。そういうギャップが好きなのかも。「これができるのにこれもできる」とかも、日本では音楽の世界でもあまり無いような気がします。ただし、例えばアメリカだとアーティストの数が多過ぎて、ビヨンセとかリアーナクラスじゃないとそれは許されない。わかりやすく言うと、自分がどういう音楽性なのかをはっきり決めないといけないんです。

——それに関して言えば、Awichさんは「日本語と英語」、「ラップと歌」など、そういう〈二面性〉もあって。でもそれって可能性の提示であって、はっきり決めないことによって、昨年のような新たな絡みや繋がりが生まれているのかなと思います。

そうかも。できちゃうっていうのもあるし、今はラップも歌もやりたいことをやってます。

——そういう意味でもAwichさんの今後が読めなくて、いちリスナーとして楽しみです。まずはEP発売後に、ワンマンツアーが控えていますね。

楽しみですね。あと、春ぐらいにはアルバムも考えてるので。私、リリース日はゾロ目が好きなんです。『8』も8月8日だったし、今回は10月10日を逃したら11月11日はもうワンマン始まってるし……と思って。ただ、できちゃったので、アルバムもいけると思います。

——去年から間を空けることなくリリースやライブが続いているので退屈しないです。7月に開催された〈YENJAMIN〉にも行ったのですが、単純にライブの興奮だけじゃない感動を覚えるイベントって、そうそう無いなと感じました。あのときのステージ上で、Awichさんは「YENTOWNは世界へ行くから」って言ってましたよね?

言ってました? ハハ! やっぱ最初にYENTOWNを好きになったのもその名前だったし、名前からして完全に世界向けだと思いますしね。それに、「誰が日本以外で盛り上がるライブができる?」って考えたときに、「私たち以外いなくない?」って気持ちもあります。それにYENTOWNはいい意味でキャラがみんな被らないので。逆の意味で言うと統一感はゼロですが。

——でも、それもTOKYOらしいですよ。この街っていろいろな土地から集まってきた人の集合体ですし、それこそ映画『スワロウテイル』も、イェンタウン(円都/円盗)に集まってきた素性の異なる移民たちの物語ですしね。

それぞれ目標を持って、違うところから集まったアウトサイダーたちが、一攫千金を狙って……みたいな感じも好き。まあとにかく、YENTOWNは仲が良いんですよ。愛にあふれてる。

——YENTOWNって音源ヤバイのに、普段の姿とか見ると“ほっこり”するんですよね。あと、YENTOWNは「あいつら何者だ?」みたいな感じの時期を経て、それぞれが作品をリリースしてライブでも評価を決定付けて、今は3周目ぐらいにタームに来ているような気がします。今後、例えば海外だとどこへ行きたいですか?

ヨーロッパに行きたいですね。アメリカはもっと仕込みをしてから行きたい。ヨーロッパだとアムスで新曲を作った人もいるし、今回のSam Tibaもいるし、材料はそろってきたかなと。

Awich – Love Me Up (Prod. Chaki Zulu)

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RELEASE INFORMATION

インタビュー | AwichがダブルEP『Beat』『Heart』で表現した〈二面性〉と見据える世界 awichep-pickup_1-1200x600

『Beat』『Heart』

2018.10.10(水)
Awich
Label:YENTOWN/bpm tokyo
Executive Producer:Chaki Zulu/Artwork:KEITA SUZUKI

EP1:Beat
[Tracklist]
1. So What(Prod. Chaki Zulu)
2. NEBUTA ft. kZm(Prod. Sam Tiba)
3. Long Time(Prod. B.O Beatz & Chaki Zulu)
4. 紙飛行機(Prod. Chaki Zulu)EGO-WRAPPIN’「色彩のブルース」オフィシャルサンプリング曲

EP2:Heart
[Tracklist]
1. Love Me Up(Prod. Chaki Zulu)
2. Pressure(Prod. Chaki Zulu)TVドラマ「島耕作シリーズ35周年企画『部長 風花凛子の恋』」主題歌
3. Fade Away(Prod. Chaki Zulu)
4. If She Cries(Prod. LeJKeys)

EVENT INFORMATION

Double EP Release Tour 2018

日程:2018年11月2日(金)
会場:福岡・天神EARLY BELIEVERS
日程:2018年11月9日(金)
会場:大阪・梅田Shangri-La
日程:2018年11月16日(金)
会場:北海道・札幌BESSIE HALL
日程:2018年11月23日(金)
会場:東京・渋谷WWW X
日程:2018年12月1日(土)
会場:沖縄・桜坂セントラル

※各プレイガイドにて前売りチケット発売中
※沖縄公演のみ10月20日〜前売り発売開始

出演:Awich
時間:Open 19:00/Start 19:30
料金:前売 ¥3,500(1D代別途)
企画/制作:日本コロムビア
協力:シブヤテレビジョン/bpm tokyo

詳細はこちら
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interview&text by ラスカルNaNo.works