デビュー20周年記念日の5月21日に、突如6年ぶりの再結成を発表したWyolica(以下 : ワイヨリカ)。現在もソロで活動中、ジャズシンガー、DJ、ヘアアクセサリーデザイナーとしても人気の高いボーカリストAzumiと、ソロユニットSoulcolorを始め、レコーディングやライブのサポート、サウンドプロデューサーとしても活動中で、ワイヨリカではギター&サウンドメイクを担当するso-toによる男女デュオだ。
ワイヨリカの特徴は透明感や清涼感を有し、艶やかで温もりのあるAzumiのボーカルと、アコースティックギターを主とした温かく人間味あふれるso-toが生み出す音楽性。それはクラブテイスト~フォーキー~オーガニック~アーシー~ポップスやジャジー等、時期や趣向毎にその音楽性を変化させつつも一貫して不変的な魅力と言える。
そんな彼らが「Beautiful Surprise」と題し、その再結成の報告を手始めに、デビュー作のアナログ7インチのリリース、7月31日(水)には新曲2曲のWサイダー7インチシングルのリリース、8月7日(水)には新曲3曲+新録音1曲を含むベスト盤『Beautiful Surprise ~Best Selection 1999-2019~ 』のリリースや8月18日(日)に東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGE、8月31日(土)には大阪・心斎橋Music Club JANUSにて再結成ライブを行う他、リリースイベントの報告や再結成に際する各種のエポック等々、次々と嬉しい驚きを届けてくれ、我々をワクワクさせている。
「マイペースになるかもしれませんが、今後も再びこのワイヨリカとしての活動は続けていく!!」と力強くその再始動と今後の活動を意欲的に語ってくれたAzumi。彼女に今回の再結成への経緯や一連の「Beautiful Surprise」の数々、そして今後について詳しく訊いた。
INTERVIEW:Azumi(ワイヨリカ)
──今回の再結成、いきなりの嬉しいニュースには驚きました。いつ頃からこの画策を?
2年ぐらい前かな、「2019年には20周年になるんだな……」と思いつつ、ただその時はまだ「何かやりたいな……」程度だったんです。そんな中、サブスクリプションを含め、今ワイヨリカの音源を身近に聴ける環境がないことを知って。だったらこのタイミングで何か形に残して、改めてみなさんの耳に触れる機会を作りたいなって。そこからですね、「新曲を入れたらみんな喜ぶかな?」等々を考えはじめて。「新曲を入れるなら、やっぱり再結成」という選択肢にたどり着きました。
──今回、「Beautiful Surprise」と銘打った再結成への一連の動き(仕掛け)には都度ワクワクさせられています。
最初は「せっかく20周年のデビュー日だから何かしたいよね」から始まりました。そこから「7インチブームだから7インチを出すのは?」と、アイデアが出てきて。と言うのも私たち、デビュー・アルバム発売前にプレ・デビュー盤を12インチで出したことがあって、それが当時1万枚即完したんです。「だったら今度はデビュー曲を7インチで、しかも私たちのライブで人気の高い”さあいこう”を収めてだそう」と。それから、「その告知をする前に、デビュー日に再結成の報告もしちゃおう」と。そこから今回の企画へと続いていったんです。
──なるほど!その告知名のシリーズが「Beautiful Surprise」とは、すごくマッチしてますね。
ありがとうございます。新曲名が既に”Beautiful Surprise”との仮タイトルがついていました。その時から「アルバムタイトルもこれがイイね」との話をしていたんです。とてもいい言葉だし、私たちのこの20周年を表すのに適切なワードであり、ファンの人にもきちんと伝わってくれそうなキャッチーなフレーズだと思いました。
Wyolica –“Beautiful Surprise”(short lyric Video)
──ワイヨリカとして再びso-toさんと久しぶりに一緒にやられてみていかがでしたか?
この6年間、お互い培ってきたものをそれぞれがより一層持ちよれたかなって。以前よりワイヨリカについて俯瞰でみることができたので、以前よりなんか余裕をもって取り組めました。以前はやはり凝り固まっていたり、「ワイヨリカとは」みたいなものに固執していた面もあったんだと思います。今回はそれが抜けて、楽曲制作もレコーディングも凄くスムーズで楽しく行えました。
──意外です。ワイヨリカは昔から、マイペースに心に余裕がある音楽活動の印象があったもので。
そんなわけないじゃないですか~(笑)。もう、常にギリギリでヒリヒリしながらやってましたよ(笑)。逆に当時はすべてのことに、「ギリギリに追い詰めとかないとダメ!」って感じで臨んでましたね。
──では逆に今回その辺りの余裕はどこから生まれたのでしょう。
自分たちにとってワイヨリカはベースであり帰着すべき場所ではある。けれど、そこだけに固執していないって部分が良かったんだと思います。特に今回は「戻ってきた」という安心感や安堵感もあったし、リラックスできるホーム感もありました。おかげさまで新曲もむちゃくちゃ楽しく制作できました。もちろん、しんどさもありましたけど。
──その「しんどさ」とは?
色々と考えちゃった面もあったんです。20周年であり、でも6年のブランクを経て、その間2人とも様々な活動をしてきた。それをワイヨリカに持ち帰ってきた感というか、その表しかたについてはすごく考えました。今回は「変わらない強さと、変わっていく強さを同時に持ち合わせなくてはいけない」と強く思うところがあったので。それがどこに当てはまるのか?というのを凄く悩みました。私たちの作り方は、まずso-toさんが曲を作り、そのあとに私も含めお互いで精査して曲のクオリティを上げていくスタイルなんです。今回はso-toさんから何が出てくるのだろう?という点もあって……。
最終的に仕上げたのは今回の3曲ですが、実は今回、アルバムが1枚出せるぐらいの曲を作ったんです。候補曲の中から吟味し「これだったら今のワイヨリカとして自信を持って出せる」そんな新曲を目指していました。
──分かります。活動時期により、音楽性や趣向も様々でしたが、その中でも2人が変わらず常に持ち続けてきた本質みたいなものを今回の新曲から感じました。
その感想は嬉しいです。私たちはほんとに色々な音楽性を経てきましたから。その分、どの時期のファンの方にも喜んでいただける楽曲を作ろうと思っていました。
──改めて、デビュー当時の話について。あの頃は空前のディーバブームで。前年にMISIAさん、宇多田ヒカルさんがデビューし大ヒット。その翌年の1999年デビューとなると、いわゆるそれを受けた歌姫たちが続々とデビューをしていたわけですが……。
いやー、あの年は女性シンガーが多くデビューし、ライバルも多かったですね。むちゃくちゃ忙しかったです(笑)。当時は「ディーバ」って括りではありましたが、各々はかなり個性的でしたよ。そんな中でも、私たち自身はその括りからはちょっと違うところにいたんじゃないかなって思いますね。私もブラックミュージックが根底にはありましたけど、歌い上げるソウルフルなシンガーたちとはまたちょっと違う分野かなと。自分自身でも独自の歌い方を模索してやっていましたね。
──確かに、当時出てきたディーバたちとは対照的な印象があります。
思い切り表に出す情熱というより、クールさや、秘めた情熱というか。歌に対する温度が伝わるような歌い方や曲を出すことを目指していました。どちらかと言ったらUKソウルに近いものだったと思います。
──どこか清涼感を擁しており、クラブミュージックテイストな中でもアコースティックな感覚がありました。
アコギを使ってソウルフルな音楽をやる、そこは変わらずにずっと持ち続けていたアイデンティティで。初期こそプロデューサーさんたちと自分たち独自の音楽性の確立や唯一無二さを模索してはいましたが、そんな中でも常に根底には、so-toさんのアコギとメロディ、私の声を一番に聴いてもらいたかったんです。
──その辺りのお話、ワイヨリカならではの武器性についてをもう少し詳しく教えて下さい。
メロディやサウンドを最も活かす方法を常に考え歌ってきました。私の場合、「私の歌を聴いて!」といったタイプではなく、むしろ歌も楽器やサウンドの一部だと捉えていて。楽器のように歌うシンガーに憧れていたんです。その中で歌詞をつけることで想いを伝える、そのような考えで歌ってきました。
──なるほど、中期以降はメッセージ性を伝える面にも重きがうつってきたように思えます。
それはありますね。歌っていくうちにライブを通して、お客さんがまるで自分の歌のように捉えてくれる方が増え、その方たちを見て、「ああ、この人たちの想いや気持ちも引き受け、背負って歌を作って、歌わなくちゃいけない!」という覚悟や決意が芽生え出してきました。より聴いてくれる方々に向けての歌詞へと移り出したのはそこからですね。
──ここからはベスト盤『Beautiful Surprise ~Best Selection 1999―2019~ 』の話にうつります。2枚組全30曲で新曲も入り3,000円はかなりお買い得ですね(笑)。
お買い得でしょ~(笑)!やはり今回、感謝の気持ちを込めて。これまでのファンの方にも、ここから私たちに触れてもらう方にも、手にとってもらいやすい内容と価格にしました。先ほどの話じゃないけど、この20周年で絶対に多くの人に聴いてもらえる環境を作りたかったんです。
──選曲はお二人でやられたんですよね?
そうなんです。おかげさまでかなりお互い思い入れのある選曲になりました。シングル曲はマストで、かつ各アルバムから満遍なく入れました。お互いに重なる曲もありましたし、「えっ、その曲!?」って曲も入っています。2人の入れたい曲を優先的に入れられたので大満足です。全体的にやはりライブで印象的な楽曲が中心になったと思います。
「Beautiful Surprise ~Best Selection 1999-2019~」紹介動画
──曲順やリリース時期もランダムですが、アルバム通して全体的にどこか流れやストーリーを感じました。
曲順に関してはほぼほぼ私が決めさせてもらいました。私にとってアルバムの曲順や曲間ってすごく大事だし、こだわっている面でもあって。今回はほとんどが既発曲ではありますが、新しいアルバムを聴いているような感覚になってもらえる作品を目指しました。
──その為に曲順にはこだわったということですね?
そうですね、いわゆるDJ的な並べ方をしたんです。音楽的な手触りをブロックブロックにして流れを作ったり、あとはライブの感覚ですね。ライブ時のセットリストというか、ストーリーを大事にしつつ、緩急やメリハリ、コントラスト等のドラマティックさは考えました。
──だからこそ、発表時とはまた違った響きかたをしていました。
まずは聴いてくださる方を思い浮かべながらの曲順でした。聴いてくださる方の感情の動きや揺れ、機微を想像しながら。そう考えるとそれこそDJに近い感覚でしたね。「ここからこの曲の展開がくるとは思ってなかったでしょ?」といった思惑も含めていろいろ考えました!
──新曲の”Beautiful Surprise”はシンプルながら、この上なくワイヨリカのこれまでや今、そしてこれからを伝えている感があります。
ありがとうございます。歌詞は私史上、最もシンプルなものになりました。タイトルも分かりやすいワードが2つ並んでいるのでそれだけでも伝わりやすいですし、シンプルだからこそ人それぞれ色々な意味に捉えてもらえるかなと思います。みなさんの心の中で育つであろう言葉だし、あえてその辺りを狙っています。元々ワイヨリカは多くを語らないし、メッセージや主張を押し付けたくないユニットなので。余白や行間、そこにみなさんの中で楽曲の意味を捉え、育てて欲しいというのが常にありました。今回は6年を経て、それの究極が出来たと思います。
──よりシンプルにすることで、更に強くその辺りが出た感があります。
これこそ作っている間にファンのみなさんの顔が浮かんできた曲で、歌うたびに言葉の意味も増えていきました。ホント自分でも興味深い曲です。
──もうひとつの新曲の”Beep-Beep-Beep”。これはかなりライブ映えしそうな曲ですね。
ライブのセットリスト的に考えると、メリハリとしても楽しくみんなと一緒になれる曲が欲しくなるんですよね。その流れで作りました。元々、歌詞のモチーフはso-toさんだったんです。彼の実家では昔フォルクスワーゲンに乗っていたらしくて。この曲は、それに乗ってカップルが楽しくドライブにいく様子を描いてます。でも、ドライブ中にカップルが喧嘩しちゃうっていうのをふざけながら書いていたら完成していました(笑)。「自分の人生の歩みもこの車のように時代に追いつけていないし、速度も遅いかもしれないけど、それでも僕を愛してくれるかい?」、というような歌になってます。
──3つ目の新曲”ONE ROOM”は夜で、ややセクシーさを擁したアダルティな雰囲気の新曲で。どこか背徳感とスイートさの同居を感じます。
背徳感、当たってます。バッチリです(笑)。これも立派なこれまでのワイヨリカの側面ではありました。この曲は女性の恋愛観の真骨頂のような曲を書きたかったんです。それを昔だったらもっと暑くるしく伝えていたと思いますが、それをあえてサラッと書きました。その方が女性の人生、その奥の何かも伺えるし、想像できるかなと。
──デビュー曲の”悲しいわがまま”も今回、20年ぶりにリメイクして収録していますね。
これは2人だけで一発で録りました。もうライブでやるそのままでしたね。私たちのキッカケの曲でもあるし、それを「時を経て今の私たちはこうですよ」と、今の自分たちのライブ観をまじえて、「今のso-toさんのギターです!」、「私の歌です!」との思いを込めて、改めて録りました。
──久しぶりのライブも予定されてますね。ファンからやって欲しい曲のリクエストを募り、1位の曲は必ずやるという趣旨のものですね。
今からライブはかなり楽しみにしています。と同時に想像するだけで緊張してきますね。ソロでもずっとやってきてはいたので、当初は「大丈夫だろう」と高を括ってましたが、久々に全曲ワイヨリカですからね。やはり近づくにつれ……。
──リクエストは予想通りでしたか?
かなり分かれました!意外さも含め、すごく面白かったです。それぞれの人にそれぞれの想いが各曲にあったことに改めて気づかせてもらいました。特に現状2位の曲は意外で。現在想定しているセットリストには入ってなかったので入れるべきか今悩んでます。
──これを機にワイヨリカは今後も続けていく所信ですか?
当初はその辺りフワッとしていたんですが、so-toさんがこの前「やる!!」と言ってました(笑)。ですが、昔みたいに気負って曲を作ったり、頻繁にライブをやったりのスタイルとはまた違った活動の仕方になるでしょうね。それが出来ないのではなく、あえてやらないスタンスという意味です。その「無理のない活動」というのが今のワイヨリカにとっては重要なスタンスなんです。なので、頑張るけど無理はしない。そんなスタンスで活動していければなと思っています。
──では最後に。20年前の自分にメッセージをするとしたら?
うーん……。なんだろう……。「続けることが一番難しいけど、そこにはご褒美がちゃんと待ってるから頑張って」かな。あとは、「そんなに必死にならなくてもいい……」、いや、逆に「今は必死にガムシャラにやっとけ!!」って言いたいです(笑)。あとは「仕事を断るな!来た仕事は全てやれ!!」。それがのちに色々な糧になったり、点が線に繋がっていったりしますから。ホント20年経って、その辺り改めて実感しています(笑)。
Text by 池田スカオ
Photo by Haruka Yamamoto
INFORMATION
Beautiful Surprise ~Best Selection 1999―2019~
2019.08.07(水)
¥3,000+tax
詳細はこちら
Wyolica 20th Anniversary ~ Beautiful Surprise Tour~
2019.08.18(日)
OPEN 16:30/START 17:30
場所:東京・duo MUSIC EXCHANGE
ADV ¥6,000/DOOR ¥6,800(1ドリンク別)
2019.08.31(土)
OPEN 17:00/START 17:30
場所:大阪・心斎橋Music Club JANUS
ADV ¥6,000/DOOR ¥6,800(1ドリンク別)
Wyolica(ワイヨリカ)
北海道札幌市出身のAzumi(vo)と大阪府出身のso-to(池宮創人)(g,programming)による2人組音楽グループ。
名前はネイティヴ・アメリカンの言葉を用いた造語で“草原の民”の意。
それぞれに活動していた二人がオーディションを機に出会い、大沢伸一プロデュースとして99年5月にシングル『悲しいわがまま』でデビュー。
ブラック・ミュージックを軸に、切ない歌詞や洒落たセンスとポップ感覚を合わせた爽やかで甘酸っぱいサウンドで人気を博す。
2013年5月の正式解散発表後は、それぞれソロで活躍していたが、デビュー20周年を期に再結成を発表した。