現在公開中の映画『青の帰り道』や『デイアンドナイト』、SALU“Good Vibes Only feat. JP THE WAVY,EXILE SHOKICHI”や、向井太一“Siren(Pro. tofubeats)”のミュージックビデオなど話題作が続いているクリエイティブチーム〈BABEL LABEL(バベルレーベル)〉。注目を集める彼らがオリジナル映画製作プロジェクト「BABEL FILM」を始動させ、未来をテーマにしたオムニバス作品『LAPSE(ラプス)』を完成させた。

MOBILE CREATIVE AWARDグランプリを受賞した『Converse 110th Anniversary SHOES OF THE DEAD』のWEB CMなどを手がける志真健太郎監督は、『SIN』と題した作品で主演に栁俊太郎を起用。幼少期に政府の教育機関のシミュレーションで見た暗い未来が現実化し、苦しむ男を描く。

テレビドラマ『日本ボロ宿紀行』などを手がけるアベラヒデノブ監督が主演も務める『失敗人間ヒトシジュニア』は、人間とクローンが共生する未来を舞台に、自分がクローン人間の失敗作だと聞かされ、恋愛も破綻し絶望の淵に立たされた青年を主人公にした物語だ。彼と同じ境遇にある初美(ハッピー)を中村ゆりかが瑞々しく演じている。

Awich 『紙飛行機』 のミュージックビデオなども手がける、〈HAVIT ART STUDIO(ハビットアートスタジオ)〉のメンバー今野里絵監督の『リンデン・バウム・ダンス』は、人間が人工知能に医療を委ねている未来を舞台に、主人公の大学生ヨウと寝たきりの祖母の関係や、夢の世界を軸にストーリーが進んでいく。セリフの少ない感覚的な役柄のヨウをSUMIREが演じているのも見どころの一つ。

未来を描くと言っても過去のSF映画が設定した時代をすでに迎えている今。若手監督とキャストによる新しい「未来を想像する映画」が、今回の「LAPSE=時の経過」と題されたオムニバスの軸にある。3作品のキャッチフレーズは「未来に抗え」。

このオムニバス映画の主演俳優と監督へのインタビュー企画。『リンデン・バウム・ダンス』のSUMIREとHAVIT ART STUDIOの今野里絵監督に続き、今回は現代にも重なる街の風景や、青春物語としても捉えることができる『失敗人間 ヒトシジュニア』の監督・主演のアベラヒデノブと初美(ハッピー)を演じた中村ゆりかにインタビューを実施した。

Interview:『失敗人間 ヒトシジュニア』
アベラヒデノブ×中村ゆりか

中村ゆりか×アベラヒデノブ|オムニバス作品『LAPSE』で表現する“未来への抗い方”とは interview1901-babel-film-51

——アベラさんは今回主演と監督を兼任されています。様々な現場を体験していると思うんですが、〈BABEL LABEL〉での作品作りの魅力はどういう部分でしょう。

アベラヒデノブ(以下、アベラ) やっぱり商業(映画)になるとプロデューサーや、下手したらクライアントだったりいろんな縛りがある。自分たちで話し合ってすごくいいホン(台本)ができても、だんだん制限が増えて、一番最初に思いついた清い泉の透明な水を表現したいのに、濁った汚い水みたいになることがあるかなっていう。その点、〈BABEL LABEL〉はやりたいことを尊重してくれるんで、そこは魅力的ですね。

——今回、テーマは「未来」だけだったそうですが、設定やニュアンスはすぐ浮かびましたか?

アベラ 最初はかっこつけちゃった台本を書いてて、それは面白くない、自分に正直に自分をちゃんと投影させて書けよってプロデューサー陣に言われて、「ああ、ちょっとカッコつけてました、ブランド無理して買ってたな」と思って、自分を出す方向に書き直して。思春期から自分のルックスにコンプレックス持ってるんです。そのことでいじられたりとか、まぁイジメですわね、言ってみたら。でもコンプレックスって自分の意志で剥がせないから、じゃあ全部、舞台は未来やけど詰め込んで、クローン人間っていう完璧を求める存在を題材にして、その中でクローンの失敗作という僕のコンプレックスも反映させれる主人公をテーマにすれば、熱量持って描けるんちゃうか? と思ったんです。

中村ゆりか×アベラヒデノブ|オムニバス作品『LAPSE』で表現する“未来への抗い方”とは interview1901-babel-film-11

——2050年という設定や今の東京を思わせる街の雰囲気はどう発想したんですか?

アベラ 1970年代の松田優作さんが出てるような映画を見ても、街の景色とかビルディングなるものはまぁ変わってない。パッと出てきて景色ってそんな変わらんなと。それで現代の街の景色も入れています。その中でも未来の要素って入ってないと、そこにリアリティというか、未来をある程度誇張して描かないと、「未来だよ」って世界に入っていけないんで、たまにプロダクトに未来感はあるんですけど。

中村ゆりか(以下、中村) 未来には期待もあるんですけど、世の中、開発していってしまうと犯罪とか、命の亡くなる重大さが低くなってしまうっていうのが、ちょっと作品からでも伝わるんじゃないかと思いますね。

アベラ 医学とか科学技術が発達していくわけですからね。不老不死も夢じゃないかもしれないですけど、不老不死になった時に、死ぬってことに対する怖さとかどうなるのかな? と。生きてるとその先にくる死ってものがあるから、大事にせなとか、気づかされる大事な感情があるのに、それが消えていくのが怖いっていうことですよね。

中村 そうなんですよね。歴史を辿るとかそういうんじゃないですけど、私たちの祖先は、ものは自分のためだけじゃなくて、みんなのために作って、生きてくことを求めて暮らしてるって感じだったじゃないですか。でも今は自分がいかに便利な生活を送れるかに着目してしまうので、周りの存在とかをちょっと薄めてしまってるんじゃないかな? とか。でも、そういう人になってしまうのは、自分のせいとかじゃなくて、他人のせいとかじゃなくて、社会による影響とか、そういうものから来てるんじゃないのかな? とも思うんです。でも社会からの影響に流されてしまうのがちょっと悲しい部分もあったりして。

——中村さんはハッピーという突き抜けた女の子を演じていますが、ご本人がこういう人だから彼女が凛とした人に見えるのかな? と思いました。

アベラ いや、そうなんですよ。突き抜けたワイルドな役柄で行けるところを繊細な心の機微を持って演じてくださっているので、見ていて、「あ、この子、ほんとは弱いんじゃないか」とか、心を強く持たないと生き抜けない状況で、無理して頑張ってるってところが見え隠れして、「はー、中村さんすげえわ」と思いながら編集してました。

中村 (笑)。二人が急に「お前は人間じゃない、クローンだ」って言われて、やっぱり納得いかないじゃないですか。そこからの悔しさとか、怒りというのは、行動というか自由に運命を切り開くために突き進んでいる二人の姿とか、二十歳になって自立していく姿とか、その怒りや悔しさからから再生していく物語なのかなとも思います。ただなんか、ちょっと棄てられて悲しいっていう気持ちを受けただけじゃなくて、そこから何か壁を乗り越えて再生できるんじゃないかな? という命の物語なのかなと思いました。

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——クローンってメタファーとして、誰かに似てるとか、誰にでも替えが効くみたいなところがあると思うんです。

アベラ おっしゃる通りですね。役者だとキャラ被りとか系統が似てるとか、お芝居見られた時に「誰々っぽいよね」って言われ方とか、自分にとって嬉しい人に例えられたら嬉しいんですけど、その反面、「あ、じゃ自分じゃなくてもいいのか」とか。そうなった時に自分らしさをちゃんと開拓していって、その人と別の山を登るみたいなことをしていかないと、それこそ「失敗側のクローン」になってしまうので。

——中村さんは架空の存在であるハッピーを演じる上で心がけたことはありますか?

中村 撮影を始める前に打ち合わせを設けてくださったんですよ。1対1で本読みをして、で、そこから探っていきました。「どうしようか?」、ちょっとクールさとか衣装で出したり、メイクで出したりとかも一つなんですけど、ハッピーってキャラクターがいかに強い意志を持った女性か? っていうのも話し合って。受けてきたことに臆することのない強い女性として演じたかったなっていうのはありました。

——設定はSF的ですが、若者の成長物語でもある作品ですね。

アベラ ちょっと宣伝文句っぽいですけどね、今、何か足りてないと感じる若者たちが見たら刺さるんじゃないですかね。

中村ゆりか×アベラヒデノブ|オムニバス作品『LAPSE』で表現する“未来への抗い方”とは interview1901-babel-film-31

——未来に抗えというテーマを持った作品群ですが、監督や中村さんはどう未来に抗いますか? もしくは未来に対するスタンスは?

中村 「未来に抗う」って、男性観とか女性観とかちょっと理不尽だなって感じると思うんですけど、そういう社会の規範を打ち破るような意味合いかな? と思いました。自分が生きてることですら素晴らしいのに、それを奪われてしまうってことの怒りとか、それに反することを意味してるのかなと。

アベラ 未来に抗うには、ハッピーみたいな生き方がしたいなと思うんですよね。でもそれには自分を高めていく努力っていうのをしていかないと。作品の中では父親、母親って存在は自分をクローンにしたから、敵みたいに演じてるけど、愛は味方だった。クローン同士に生まれた愛は後半で二人の背中を押したじゃないですか。だから愛ですよ、必要なのは。

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果たして未来とは、受け入れるべき運命なのか、自ら切り開くものなのか。現実から少し離れた想像の世界=映画『LAPSE』のメッセージはそれに向き合ういいチャンスだ。異なるテイストの3作品から、あなた自身の未来を思考してみては。

Text 石角友香/Photo 山本春花

中村ゆりか
ワンピース¥46,000/BELPER(KIDS-COASTER)
靴/スタイリスト私物

お問い合わせ先
KIDS-COASTER
〒151-0051
東京都渋谷区千駄ヶ谷3-53-11 カルム原宿1F
03-6721-0566

BABEL LABEL が描く3篇の未来の物語
『LAPSE(ラプス)』
2019年2月16日よりアップリンク渋谷ほか全国順次公開

映画『LAPSE ラプス』予告編

志真健太郎 監督・脚本 『SIN』
出演:栁俊太郎、内田慈、比嘉梨乃、 平岡亮、林田麻里、手塚とおる

アベラヒデノブ 監督・脚本 『失敗人間ヒトシジュニア』

出演:アベラヒデノブ、中村ゆりか、清水くるみ、ねお、信江勇、根岸拓哉、深水元基

HAVIT ART STUDIO監督・脚本 『リンデン・バウム・ダンス』

出演:SUMIRE、小川あん

 

主題歌:SALU『LIGHTS』

監督:志真健太郎、アベラヒデノブ、HAVIT ART STUDIO
撮影:石塚将巳/佐藤匡/大橋尚広 照明:水瀬貴寛 美術:遠藤信弥 録音:吉方淳二 音楽:岩本裕司/河合里美 助監督:滑川将人  衣装:安本侑史 ヘアメイク:白銀一太/細野裕之/中島彩花 

プロデューサー:山田久人、藤井道人
製作:BABEL LABEL 
配給:アークエンタテインメント

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