初来日、そして衝撃のステージ。ロンドンからやってきた3人組バンドのバー・イタリアbar italia)は、事前情報の少ない新人バンドでありながら、超満員のWWW Xをエレガントにジャックしていた。

去年〈Matador Records〉から『Tracey Denim』と『The Twits』の2作品をリリースし、くぐもった独特の音像とダークな感性で世界中のインディー・ファンを振り向かせたバー・イタリア。突然変異のように出現した彼らはどこかミステリアスで、過去に作品を発表していたレーベル〈WORLD MUSIC〉主宰のディーン・ブラントや、その作品に参加していたミカチューことミカ・レヴィなど、周囲の人物の不可思議な雰囲気と呼応する“ただものではない”風格を放ち続けている。

だからこそ、今回の来日公演で見せたダイナミックなステージングは衝撃だった。ジェズミ・タリック・フェフミとサム・フェントンのふたりがギターで生み出す不穏なうねりの中を、ピンボーカルのニーナ・クリスタンテが漂いながら歌う。クールと激情は紙一重であり、緊張と緩和に支配されたフロアはひたすらに圧倒されていた。<Coachella>や<Glastonbury Festival>といった大型フェスのラインナップにも名を連ねているバー・イタリア、その真髄が余すところなく放出された途轍も無い一夜だった。

今回は東京公演翌日の3人にインタビューを敢行。昨年のデビューから今回のツアーを経て生じた変化や美学について、そのライブ・パフォーマンスに焦点を当てて話を聞いた。彼らの言葉を追いながら、この異形のロックバンドがどこに向かうのかを見届けたい。

INTERVIEW
bar italia

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バー・イタリア(bar italia)
写真左からサム・フェントン(Gt, Vo)
ニーナ・クリスタンテ(Vo)
ジェズミ・タリック・フェフミ(Gt, Vo)
Photo by Steve Gullick

──まず、昨日のWWW Xでのショーの感想から聞かせてください。チケットはソールドアウトでしたね。

ジェズミ・タリック・フェフミ(以下、ジェズミ):自分がどこにいて、そして何をしているのかを実感した時に感動が込み上げてきたよ。自分は今、東京にいて、満杯のフロアで演奏をしている。そのことで胸がいっぱいになったね。

サム・フェントン(以下、サム):そうだね、本当にエモーショナルだった。暖かいオーディエンスに支えられていることを感じたし、それに全力で応えなきゃなって思ったよ。普段からそうするべきなんだろうけど、昨日はいつもとは違う感覚だったかな。

ニーナ・クリスタンテ(以下、ニーナ):「オーディエンスに支えられている」っていう感覚はあった。ショーの前は期待と不安が混ざったような気分になって、昨日も最初はそうだったんだけど、途中からオーディエンスと自分との間に信頼関係が築けていることがわかって、そこから緊張が解けた。お互いにリスペクトを持てたというか、すごくエモーショナルな瞬間だったかな。それに、私に歓声を投げかけてくれる人もいたしね。

ジェズミ:そうだね、パーソナルなファンだね。

ニーナ:うん、一人だけいたね(笑)。

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ニーナ・クリスタンテ

──過去の映像と比べても、昨日はアクションやステージの使い方がダイナミックで、観ている側としてもエモーショナルな魅力を感じました。

ニーナ:前より自然に振る舞えるようになったかな。

ジェズミ:自信がついたんだと思うよ。前よりもショーを楽しめるようになったんだ。もちろんステージは毎回スペシャルだけど、「次回もある」っていう安心感が自信を与えてくれるんだ。それに、演奏を重ねる中で、ミスをする恐怖が減れば減るほど、本来持っていた感情がより前面に出る。クリーンな状態で演奏できるようになったんだ。

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ジェズミ・タリック・フェフミ

──4月の<Coachella>や6月の<Glastonbury Festival>をはじめ、今回のツアーではフェスにも多く出演しますよね。以前よりも大きなステージでのパフォーマンスとなりますが、心境には変化はありますか?

ニーナ:それについて少し前に3人で話したことがあって。今までは小さいステージに固まって、コンパクトに演奏することによって音楽的な繋がりを感じることができた。だから小さいステージが好きだったんだけど、大きなステージでの演奏を重ねていくに従ってその範囲が広くなった。それはジェズミがさっき言ってたように、自信がついてきたんだと思う。

サム:もちろん、小さいステージは今も好きだよ。そこでしか引き出せないパフォーマンスもあるし、音の反響も早いしね。ただ、大きいステージになると自分たちの音の聞こえ方も変わってくる。建物全体がバンドを包み込むような聞こえ方になるよね、それもトランシーで気に入ってるよ。

ジェズミ:うんうん。小さいステージだと、ギターは一つの音の塊として認識されがちだよね。ただ、大きなステージでは空間を構成要素としてサウンドに組み込むことができる。<Coachella>で演奏した時にも感じたけど、そういう聞かせ方の違いを活かすのは楽しいし好きだよ。

──そういった様々なステージでの経験が普段の創作などにフィードバックされている実感はありますか?

ジェズミ:そうだね、人生で音楽制作とショーしかやることがないし、フィードバックがないと困るよ(笑)。

サム:自分たちの作品にどんな影響があるのか楽しみだよ。アーティストは作品を出したらPR活動をしなきゃだし、ツアーもする必要がある。もちろんそれも楽しいけど、やっぱりプレッシャーのかからない場所で進める静かな制作も大事だよね。今はそのためにいろんな経験を集めている最中かな。

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サム・フェントン

──ここまではプレイヤーとしての話をお聞きしましたが、ここからはリスナーとして感じたバンドの魅力についても伺いたいです。というのも、昨夜のショーが作品を聞いた時の印象よりも遥かにダンサブルだったからです。実際に踊っているオーディエンスも多かったですが、そういった反応をステージの上からどのような気持ちで見ていましたか?

ジェズミ:最高。

ニーナ:自分たちのショーで踊ることは必須じゃないし、来た人が自由に楽しめばいいとも思う。ただ、オーディエンスがひたすら固まっているだけの日もあるから、そういう点でも昨日は素晴らしかったね(笑)。

サム:「日本のオーディエンスが感情を表に出すことは少ないぞ」って、東京でのショーの前に言われたんだ。だから覚悟はしていたんだけど、いざショーが始まってみたらそんなことはなかった。みんな楽しんでくれていたよね?

ジェズミ:あぁ、本当にそうだね。昨日みたいに、オーディエンスが音楽の中で迷子になること(lost in music)こそが最もピュアで美しいと思うよ。他人からの目線を忘れて、音楽に没頭したまま動いているのが良かったね。

──素晴らしい表現ですね、僕も音楽の中で迷子(lost in music)になりました。

ジェズミ:うん、何よりだね。

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──例えば<Coachella>などでも、様々なジャンルのアクトがオーディエンスを踊らせています。その上で、バー・イタリアが「ロックバンド」というフォーマットを採用しているのはなぜですか?

ジェズミ:思い返してみると、僕はギターミュージックでずっと踊ってたな。3人とも踊るのは好きなんだけど、テクノとかヒップホップよりもギターミュージックに対して体を動かすことがとにかく普通だったんだ。ただ、とにかくバー・イタリアは踊るのが好き。今でもパーティーで3人になったらダンスしちゃうよ。

ニーナ:私はなんでも踊っちゃうし、ヒップホップも好きなんだけど(笑)。自分の中ではジャンルの区別が明確についているわけじゃなく、とにかく「踊れる音楽」というものがあるだけ。だけど、この3人で最もフィーリングを共有できて、それを外側に表現できるのが今のバンドの形だとは思う。

サム:例えばテクノみたいに、踊ることに最適化された音楽を聞くのも好きだよ。ただ、そのためだけにデザインされた音楽でダンスのうねりに飲み込まれることはないかな。それはこれまでに出会った様々なバンドに感動して、叫んだり動き回ったりした記憶が関係していると思う。例えばプライマル・スクリームとかね。だから今もロックバンドとして活動しているんだと思うよ。

ニーナ:バー・イタリアは色んな環境で楽しめるしね……そうそう、ここで聞いてみたいかも!(一枚の紙を差し出す)ここ知ってる?

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筆者のiPhoneで撮影

──渋谷の「名曲喫茶ライオン」ですね。ヴァンパイア・ウィークエンドのエズラ・クーニグも通っていたと聞きました。

ニーナ:そうなんだ。ここはヴァイナルだけがかかっていて、音響も最高だって聞いたんだよね! こういう場所で楽しむのもいいかもね、とにかくデカい音で踊ってほしい。レーベルのオフィスで『Tracy Denim』のヴァイナルがかかっていた時に感動したんだよね、そういうフィーリングを共有してみたいかな。

ジェズミ:まぁ、このツアーが終わったら休暇に入るんだけどね(笑)。

サム:そうだね。とりあえず、自分が感銘を受けたものをゆっくり消化して、次の作品に活かそうと思ってるよ。

ニーナ:でも、ある程度の音源はもう作ってあるんだよね。これからリリースされると思う、楽しみにしててね。

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Interview&Text by 風間一慶

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Photo by Steve Gullick

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