東京を拠点に活動する2人組、Bearwearによるファースト・アルバム『The Incomplete Circle』が昨年12月にリリースされた。まとまった音源としては、夢と現実のコントラストをテーマにしたミニアルバム『:LIVING IN THE ECHO CHAMBER』からおよそ1年ぶりのリリースとなる。
本作は、USインディ/オルタナティブロックの影響を色濃く受けたこれまでの音楽性をベースとしつつ、アンビエントミュージックなどの手法が取り入れられ、より内省的なサウンドへと刷新。初の日本語詞に挑戦するなど、歌詞においても新たな試みが行われた。さらに、シンガポールのインディバンドSobsのCeline Autumnや、揺らぎのMiracoがボーカリストとして参加し、アンサンブルに彩りを与えている。
KazmaとKouは新型コロナウイルスの影響が続く中でも、自主企画イベントの開催やZINEの発行など活動の仕方を模索してきた。今回ふたりに、アルバム制作についてはもちろん、この2年間の歩みについてじっくりと語ってもらった。
INTERVIEW:Bearwear
試行錯誤の2年間
──まずは2020年3月に2nd Mini Album『:LIVING IN THE ECHO CHAMBER』をリリースして以降、どのような活動をされてきたのかをお聞かせいただけますか?
Kazma 『:LIVING IN THE ECHO CHAMBER』をリリースしたのはパンデミックが始まる直前で、奇しくも世の中がガラッと変わってしまうタイミングでした。他のアーティストの皆さんと同様、僕らBearwearもツアーなどほとんどのライブがキャンセルになってしまい、どういう形で活動をしていけばいいのかを模索する日々でした。
ひとまず出来ることはなんでもやろうと思って、無観客ライブをやったり、『CHMBR MAG』というZINEの制作を行ったりしていました。それまで僕らは配信ライブなどをやったことがなかったので、どのプラットフォームがいいのか、どこまでやっていいのかなど、本当に試行錯誤の連続でしたね。
──『CHMBR MAG』を発行したのもコロナがきっかけだったのですね。デザインからプリント、装丁まで自宅で行った完全自主制作のファンジン仕様で話題となりました。
Kou ライブができなくなって、普段お世話になっているライブハウスのスタッフやオーガナイザー、エンジニアといった人たちが大変な思いをしているのを聞いていたので、vol.1では彼らが今どんな動きをしているのかをインタビューしたり、自分たちでコラムを執筆したりして制作しました。
──同年8月にはフジロックのオーディションステージにも出演されました。あのときは恵比寿リキッドルームでの無観客ライブだったのですよね?
Kazma そうです。
Bearwear – I Think(FUJI ROCK FESTIVAL’20 “ROOKIE A GO-GO”)
──11月には渋谷club asiaにて初の冠企画を開催しています。
Kazma その頃は入場制限をしながら有観客ライブも少しずつできるようになってきていたので、僕らを含め11アーティストに参加してもらい、久しぶりに人前で演奏しました。無料配信も同時に行ったのですが、みんなすごく乗り気になってくれて。初めて自分たちのホームイベントが出来たのも嬉しかったです。
アルバム1枚分の曲を作り直し
──新作となる『The Incomplete Circle』のレコーディングはいつ頃から始まったのですか?
Kazma 2020年の年末くらいかな。実際にプリプロに入り始めたのが1月だったと思います。
Kou 実を言うと、途中まで制作していた楽曲がアルバム1枚分くらいあったのですが、それをほとんどボツにして今の15曲を作ったんです。「ベッドルームで制作して、ベッドルームで再生するのが似合うようなサウンド」というコンセプトは最初からずっと一貫していたのですが、プロダクション面が上手くまとまらずに大半を作り直したんですよね
──そうだったのですね。「ベッドルームが似合うサウンド」を目指したのは、ステイホームを余儀なくされていたコロナ時期に作ったことも関係していますか?
Kou もともと僕ら、ファーストミニアルバムの時からドラムは打ち込みだったり、シンセはMIDI音源をあえて使ったり、「ベッドルーム感」というキーワードはなんとなくあって。宅録でぱっと作った曲の方が、自分的にはリアルに感じているんですよね。
コロナ禍になり、部屋で1日中アンビエントミュージックを流したり、窓を開けて鳥の声と混ぜながら映画を観たり、自分の生活環境がよりそっちに近くなっていって。そのノリで作ったらよりその一面が強調された、みたいなところはありますね。
──歌詞は一貫したテーマのようなものはありましたか?
Kazma 自分では意図していなかったのですが、改めて聴き直してみると一貫したテーマみたいなものがある気がしますね。自分はこれまでの人生のどこで過ちを犯したのか、何が強みで何が欠落しているのか。そういう自分の中の未完成だったり、不完全だったりする部分にフォーカスした歌詞が並んでいると思います。
振り返ってみると、これまでもBearwearの歌詞には、アルバムごとに大きなテーマがありました。最初のミニアルバムでは「別離」や「後悔」など、恋愛のsadな面にフォーカスを当てていたのですが、これはもともと僕が聴いていたポップパンクやエモバンドの歌詞からの影響でした。
『:LIVING IN THE ECHO CHAMBER』の頃は、例えば「夢」や「妄想」といった「自分の中の異世界」をコンセプトに歌詞を書いていました。あのときは曲先行ではなく完全にテーマ先行だったんですけど、今回のアルバムでは「何を書けばいいのだろう?」とすごく悩んでしまい、一時期はスランプみたいになってしまった時もあったんです。
Kou 例えば“Mainichi”という日本語詞の曲は、僕がデモを作った段階からタイトルも決まっていて、「この曲はこういう内容で歌ってほしい」みたいな具体的な要望を早い段階から伝えていたんです。それで追い込んでしまったところもあったかもしれないね(笑)。
Kazma これまでも曲ができた段階で、どんなイメージで作ったのか、どんな景色が思い浮かんでいるかなど、抽象的なイメージを共有しながら歌詞を書くこともあったんですけど、今回はもうちょっと具体的なワードやテーマが提示されたので、それを歌詞に落とし込んでいく作業が、今までよりも大変だったのは確かです(笑)。
今回、日本語詞に挑戦したというのも、(スランプに入ってしまった原因として)大きいですかね。日本語の歌詞はダイレクトに意味が伝わるので、相手にどう伝わるかをこれまで以上に考えながら書きました。今まで好き勝手に曲を書いていたのが、少しずつ僕らを応援してくれる人も増えてきて。それを実感できるようになったことがモチベーションにもなる一方で、プレッシャーにもなっていたのかも知れないですね。
──ちなみに、アルバムタイトル『The Incomplete Circle』にはどんな由来がありますか?
Kazma 今話したような、自分の中の「欠落した部分」に改めてフォーカスしたのがアルバム7曲目の“Paper Trail”という曲で、その中に何度も出てくる《incomplete》という、「不完全」とか「未完成」を意味するワードをタイトルに持ってこようとまず思いました。“Circle”は、アルバム収録曲にもタイトルとしてありますが、これは最初ボツになったアルバム曲の中で、唯一残った曲なんです。歌詞の内容も円や螺旋、ループといった、普段からKouと話していたBearwearのテーマ性にも通じるというか。
しかも、その円は決してキレイな形をしているのではなく、どこか歪で未完成な方が自分という人間を表しているということに気付いて(笑)。それでこの2つのワードをミックスして『The Incomplete Circle』というタイトルになりました。
──確かに“Paper Trail”は、《You know we are both incomplete all along》や、《Many faults we had enough to humanize》という、自身の不完全さや未完成さに向き合った言葉の数々が印象的です。
Kazma この曲ができたのはレコーディングの終盤だったのですが、自分が経験してきた人生での大きな失敗などを、ちょうど思い出していた時期だったんです。それでもモチベーションを保ち続けることができたのは、この1年くらいで出会った憧れのアーティストや共感するアーティスト、後から出てきたけど明らかに自分より才能のあるアーティストたちも、話してみると実はみんな自分が不完全だと思っていることを知ったからだと思うんですよね。
誰しも自分のことを「完璧だ」なんて、おそらく一生思えないのかも知れないなと。それをネガティブな意味でなく、そのまま受け入れられたのも大きいと思います。
Bearwear – “Paper Trail” (Official Music Video)
シグネチャーサウンドへの探求
──アルバム中盤の楽曲“umi”は、自動音声を使って物語をしゃべらせていますよね。ファンタジックでありながらどこか不穏な空気が漂っていて、アルバムの中でとても強い存在感を放っています。
Kou 僕が散歩しながら3時間くらいで考えたストーリーを、Amazon Pollyという自動音声サービスに読み上げさせています。これはThe 1975“The Man Who Married A Robot / Love Theme”やレディオヘッド(Radiohead)“Fitter Happier”の影響ですね。アルバムの真ん中あたりに配置するのも含めてインスパイアされました。
内容に関しては、そのときに感じていたことを全て突っ込んだ感じです。ちょっと童話っぽい空気感というか、ジブリの一連の作品や『CLANNAD -クラナド-』っぽい世界観にしたくて、バックトラックも不思議なワルツにしてみました。ただAmazon Pollyは高機能すぎて、そのまま使うと本物の人間っぽい声になりそうだったので(笑)、ピッチシフトなどのエフェクターを使ってわざと機械っぽい感じに仕上げています。
──曲中で聞こえる自然音はフィールドレコーディング?
Kou そうです。“Carry On”のミュージックビデオの撮影で、友達のカメラマンらと一緒にキャンプがてら山梨の本栖湖へ行ったときに「一応録っておくか」と思って。確かiPhoneのボイスメモ機能で録った湖の音をそのまま使っています。僕ら日本のシーンとか関係なく、世界のシーンから見たときに価値のあるインディーロックを作るためには、やっぱり一言で表せるくらいのシグネチャーサウンドが欲しいなと。
The 1975が、アンビエントと80’sポップを組み合わせている発想にインスパイアされつつ、僕ら自身が通ってきたオルタナティブロックに日本の環境音楽を足すというアイデアに行き着いたんです。
──アルバムの冒頭を飾る“New Day”は、アフターコロナの希望を歌っているように聞こえます。
Kazma おっしゃる通り、あの曲はアルバムの中でもかなりポジティブな、開けた感じの歌詞になったと思っています。コロナ禍のあまりにもネガティブ過ぎる期間がひと段落して、僕が歌詞を始めた段階では少しずつ光が見えてきた頃だったと思います。
なので、その曲をアルバムの冒頭に持ってくることにしました。歌詞もほぼ1年かけて書いてきたので、その時期ごとの自分の心境や感情が表れているなと思いますね。
──そういう意味では、この1年間のドキュメンタリー的な要素もあるのかなと。
Kazma それは確かにそうかもしれないです。
──2022年はどんな年にしたいですか?
Kou ひとまずはツアーをやりたいです。これまで当たり前のようにやってきたことが、本来どれだけ特別で大事なものだったのかをコロナで実感できたというか。ツアーライフって貴重だったんだなと改めて強く思ったし、これからのツアーも大事にしていたいです。
Kazma ツアーももちろん楽しみですが、僕はもう、すぐにでも次の作品作りに入りたい気持ちになっていて。アルバム完成の達成感を一度味わってしまうと、「次はもっと!」という気持ちが強くなる。だから今は、ツアーを終えて制作モードに入るのが楽しみで仕方ないです。
PROFILE
Bearwear
Kazma(Lyric/Vo)、kou(Music/Arrange/Ba)の2人を中心に結成されたインディ/オルタナティブロックバンド。様々なジャンルのバンドからサポートメンバーを迎えフレキシブルな体制で活動。2018年春にリリースしたシングル「e.g.」がネット上のインディ・ファンの間で注目を浴びると、すぐにネット・レーベルAno(t)raksのコンピレーション1曲目に選曲されるなど話題を呼んでいる。若手ディレクターPennackyが監督した MV「e.g.」はアジカンのGotch氏も大推薦。エモシーンのみならず、ハードコア、インディロック、ポップスシーンなどからも注目を集める。2018年10月に初の流通作品『DREAMING IN.』をリリース。2020年3月には2nd Mini Album『:LIVING IN THE ECHO CHAMBER』をリリース。同年8月にはフジロックのオーディションステージに出場し、11月には渋谷club asiaにて初の冠企画を開催。
RELEASE INFORMATION
The Incomplete Circle
2021年12月15日
ZAYA RECORDS
ZAYA-0002
¥2700 (+tax)
Tracklist
1. New Day
2. Circle
3. Glory (feat.Celine Autumn)
4. The Extended Mind
5. mainichi
6. lalala
7. Paper Trail
8. Carry On
9. umi
10. Bedside
11. madoromi
12. yonagi
13. Junk Sleeper
14. A Star In Me (feat.Celine Autumn)
15. Glory (Single ver)
EVENT INFORMATION
“The Incomplete Circle RELEASE TOUR”
2022年1月30日(日)越谷EASYGOINGS
2022年2月2日(水)下北沢BASEMENTBAR
2022年3月4日(金)静岡freak show
2022年3月5日(土)大阪PANGEA
2022年3月12日(土)新宿LOFT TOUR FINAL 『:CHAMBER FEST 2022』