REPORT

BEAT MEETS WORLD

WANDERMAN POP UP in RAH YOKOHAMA
取材/文:二木信
写真:Shoichi Tagawa

     

お昼の12時からゆっくり開始という告知がされていたため、その時間にはRAH YOKOHAMAに出演者や関係者、おのおのの仲間やお客さんが少しずつ集まってくる。初春のうららかな天候に恵まれ、横浜駅前はおおいに賑わっている。店先には、大量の缶ビールが入ったクーラーボックスが置かれ、ピザが振る舞われる。そして、ビートメイカーへのショート・インタヴューと彼らのビート・ライヴから構成された<BEAT MEETS WORLD>というイベントが始まる。この記事はそこでのショート・インタヴューを中心にまとめたレポートである。

その前に少し説明をしておこう。DOWN NORTH CAMP/MONJUのラッパー、仙人掌は昨年10月から自身のソロ・アルバム『BOY MEETS WORLD』(2018年6月発売)のリミックス・プロジェクトを開始した。BUDAMUNK、ILL SUGI、BUGSEED、Aru-2、CRAM、RLP、EYTREG(8-reg)、dhrma、JUN NAGAOSA、YOTAROといった10名のビートメイカーにリミックスを依頼、1曲ずつの配信リリースを重ねていった。相談役はBUDAMUNKが務めた。そして今年3月、それらのリミックス・ヴァージョンにNARISKがプロデュースした新曲“TBA”を加えた11曲入りのフィジカル・アルバム『BOY MEETS WORLD – REMIX』を発表。さらに、5月にはjjjのラップをフィーチャーした“Darlin’”をNARISKがリミックスしたヴァージョンを公開する。

仙人掌“Darlin’ feat. jjj” NARISK Remix

ここで、このリミックス・プロジェクトの重要なポイントと面白さを先に伝えたい。それは、仙人掌が、現在の多様化した国内のビート・ミュージックに積極的にアプローチし、ラッパーとしてビーツ&ライムの実験を試み、さらにそういう音楽を愛するひとりの聴き手として紹介者の役割を担ったことだ。昨年12月19日、DOMMUNEで「BEAT MEETS WORLD」という番組が放送されている。そこで仙人掌はみずからナビゲーターを務め、出演したBUDAMUNKとILL SUGIとともにリミックス・プロジェクトの背景にあるビート・ミュージックについて掘り下げた。

そして、そのDOMMUNEの番組の続編となるイベントが、4月7日、JR横浜駅からほど近くにあるセレクト・ショップRAHで行われたわけだ。SHOW5とSAWSKの2人が手掛けるアパレル・ブランド、WANDERMANのポップアップの期間中ということで、<BEAT MEETS WORLD>と<WANDERMAN POP UP>の共同イベントとなった。DOMMUNEに引き続いての登場となるILL SUGIに加え、Aru-2、CRAM、JUN NAGAOSAが集まった。ショート・インタヴューを始める前に、司会進行の仙人掌と僕はすでに3缶ほどビールを飲み干していた。だが、大丈夫だ。われわれには、“BEAT MEETS WORLD”という合言葉がある。

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4人のビートメイカーに話を訊く前に仙人掌がこのリミックス・プロジェクトを通じて実感したビート・ミュージックの現在について語る。

「ほとんどは俺がこの人にはこの曲をリミックスしてほしいってお願いしましたね。全体が似たようなトーンにならずに、それぞれのビートメイカーが見事に自分のスタイルでリミックスしてくれて面白かった。しかも、リミックスを依頼して次の日に返してくれる人もいたぐらいリターンは基本的に早い。そういう瞬発力がいまのビート・ミュージックの面白さであり醍醐味でもある。DOMMUNEでも話したように、いまのビートメイカーはツイッターでつぶやいたり、インスタグラムに写真をアップするような感覚でビートを制作して発表している側面もあると思うんです。1日で5、6曲作っちゃうビートメイカーもいますし、“これが俺のいまの気分”みたいな感じでどんどんビートを残していく」

ビートは世界と出会う――BEAT MEETS WORLD x WANDERMAN POP UP in RAH YOKOHAMA REPORT interview-beat-meets-world-pop-up-report-25

さらに、なかなかメディアなどで伝えられることのない、アンダーグラウンドで進行するビート・ミュージックのグローバルな展開についても触れる。

「いま話したようなビートメイクと、ビート・ミュージックの動きが世界のあちこちで独自に起きて拡がっているんですよね。例えば、日本よりも海外で評価されている日本人のビートメイカーがいるけど、そういう事実や動きはなかなか国内のメディアでは取り上げられないから、アンダーグラウンドでムーヴメントが進行するっていう現象が起きたりもしていますよね」

少しこの話題を展開したい。昨年、現在の全世界的な、ビート・ミュージックの興隆の発火点となったLAのパーティ<ロウ・エンド・セオリー>が12年の歴史に幕を閉じ、その<ロウ・エンド・セオリー>から世界に羽ばたいた才能、フライング・ロータスが設立したレーベル、ブレインフィーダーが設立10周年をむかえた。ダディ・ケヴのインタヴューに拠ると、2006年に始まった<ロウ・エンド・セオリー>は、00年代後半のLAでオーセンティックなヒップホップのラインナップに入れられることでその特異な才能を発揮できないでいたフライング・ロータスを解放する一方で、最初の1年はLAのローカル・アーティストの楽曲よりも、J・ディラやダブリーの楽曲の方が頻繁にプレイされた。また、ターンテーブリストのD・スタイルズがレジデントDJを務めていた。そのように、ヒップホップ・カルチャーをひとつの基盤とし、おのおのが独自のエレクトロニック・ミュージックすなわち“ビート・ミュージック”を創造していった。そして、この約10年のあいだに、そうしたアイディアの種子が世界中にばらまかれさまざまな色や形の花を咲かせ、さらに新たな種子が生まれている。

ここに登場する4人は、こうしたビート・ミュージックのグローバルな展開のなかで、それぞれ我が道を行くビートメイカーだ。インタヴューを通して彼らの貴重な経験や知識を共有させてもらおう。

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ILL SUGI――踊れる曲は全部踊っとく

「ここは、レペゼン、RAH YOKOHAMAのILL SUGIくんから行きましょう!」と仙人掌がILL SUGIを呼び込む。神奈川県相模原市出身のビートメイカー/ラッパーのILL SUGIはRAHで働いていた経験があり、これまでも店内でビート・ライヴを行ってきた。RAHで働き始めた経緯をILL SUGIに尋ねると、「Upper Playgroundっていう好きな服のメーカーのTシャツがすごくほしくて探していたらRAH辿り着いた」という答えが返ってきた。そして、どうやら、ILL SUGIが働き始めたことでRAHはビート・ミュージック・ジャンキーたちが集うショップになっていった側面もあるようだ。

ILL SUGI 俺が働くようになってからビートメイカーやビート・ミュージック好き、海外のお客さんが来てくれるようになりましたね。店内のスピーカーで大きな音量で音楽を流してお酒とか飲んで楽しくなっちゃっていましたから(笑)。働きながら店内でビートを組んだり、店の上にある事務所にPCを置かせてもらってビートを組んだりもしていました。

仙人掌 俺もフランスでレーベルやっている人とかビート・ミュージックに興味のある海外の人とRAHで会ったりしましたね。

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ILL SUGIの天真爛漫な人間的魅力が、人を引き寄せ、良いヴァイヴスを場にもたらしているであろうことは想像に難くない。ちなみに、フランスのCASCADEというレーベルは2011年に『Sunrise Choir – JAPAN RAP & BEAT』という日本のラップとビートを編集したコンピレーションを発表している。そのコンピには、『BOY MEETS WORLD -REMIX-』に参加したリミキサーであるJUN NAGAOSAやRLPもビートを提供している他、ILL SUGIとの共作もあるBUGSEEDや、BUDAMUNKとBudaBro$eというユニットも組むFitz Ambro$e、あるいは国内のビート・ミュージックの開拓者のひとりであるBUN(FUMITAKE TAMURA)らが名前を連ねている。いまから8年前のことだ。

Sunrise Choir – JAPAN RAP & BEAT

BEAT IN-STORE LIVE @ RAH YOKOHAMA Vol.1 PART ONE

ILL SUGIは『BOY MEETS WORLD -REMIX-』において、仙人掌が、神奈川県藤沢市を拠点に活動するラッパー、MILES WORD(BLAHRMY)と共作した“Rap Savor”という曲をリミックスしている。同曲のリミックスに力が入る理由があったとILL SUGIは明かす。

「実は俺、17歳ぐらいのときにBlack Ignition Center(かつて存在した、DRAGON ONE、yack、MILES WORD、宙チート、ILL SUGIから成るヒップホップ・グループ)でMILESさんのバックDJをしていたんですよ。だから、気合いが入って何パターンもビートを作っちゃったりして(笑)」

ILL SUGIはそのころから、ライヴのバックDJだけではなく、ビートを制作していたという。最初はソニーの音楽制作ソフトウェアACIDでビートを作っていたが、それだけでは物足りなくなり、サンプラーなどの様々な機材での制作を試みる過程でビートのスタイルが変わっていく。そして話題は、Roland傘下のBOSSのサンプラーのSPシリーズに移る。

仙人掌 ILL SUGIはじめ今日いるビートメイカーの人たちはSPを使うじゃないですか。SPのコンプ(コンプレッサー)はめっちゃ重要だよね。

ILL SUGI 元々SPはビートを作るためじゃなくて、別の用途で持っていたんですよ。

仙人掌 SPは元々“音を通す”のが中心的役割の機材ですもんね。

ILL SUGI そう。SPのコンプをかけると音がめちゃ太くなるから、他の機材で作ったビートにもSPのコンプをかけたりするんですよ。SPのコンプをかけるといきなりビートのクオリティが変わった感じがするから最初はすごいびっくりして。で、あるとき、SPのYouTubeの映像を全面に押し出しているMyspaceのページを発見して、そういうヤツらのビートを聴いたり、プレイしている映像を観るようになって、「なるほど! SPでこんな風にビートを作るんだ!」って知って。それから自分でもSPでビートを作るようになりましたね。

仙人掌 ILL SUGIは、SP-404のタトゥーが入っていますからね。

ILL SUGI はい(笑)。たしかケヴ・ブラウンはチョップができるSP-505で、マッドリブがSP-303を使っていたと思う。ケヴ・ブラウンはSP-505をMPC(AKAIのサンプラー)とつなげたりしているんじゃないかな。SP-505は音が良い、というか、新しい音って感じがするんですよね。

仙人掌 ビートを作り始めたときからクオンタイズ(サンプラーに内蔵されたタイミングを補正する機能)は付けていなかった?

ILL SUGI 最初はクオンタイズがかかっているのか、かかっていないのかもわからないぐらい知識がなくて。でも作っていくうちに、クオンタイズを外した方がノリがいい感じになるって気づいていったんです。

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Kev Brown Making a Beat|Mpc 2000XL|Kev Brown Makes Beats|Sp 505 Filtering

ILL SUGIは東京・中野のクラブ、heavysick ZEROでビートメイカーやラッパーが集う<SLOW LIGHTS>というレギュラー・パーティをオーガナイズしている。パーティをやる上で、ILL SUGIは何を心がけているのだろうか。

「音楽を聴いていると、どんどんいろんなものを好きになっていくと思うんですよ。俺の場合、最初ウータン・クランに衝撃を受けて二十歳ぐらいまでは本当にそういうヒップホップしか聴かなかった。でもだんだん耳が柔らかくなっていくと、いろんな音楽を好きになっていく。だから、みんなにもそういう風に音楽と接してもらえたらうれしいですね。踊れる曲は全部踊っとく。そういうことです。音楽を聴いてダンスしたいし、ダンスしてほしいんですよね。それが、<SLOW LIGHTS>のテーマですね」

CRAM――“ナシはナシ”

ILL SUGIに続いて登場したのは、<SLOW LIGHTS>のレギュラー・メンバーでもあるCRAM。彼は1991年生まれ、福岡出身のビートメイカーだ。2018年にDogear Recordsから、仙人掌とILL SUGIもラップを吹き込んだファースト・ソロ・アルバム『THE LORD』を発表した。また、CRAMはILL SUGIとともに『Below the Radar』という共作アルバムを2016年に発表している。CRAMとの出会いについてILL SUGIはこう話す。

「CRAMと福岡で初めて会ったときに、『ILL SUGIくん、ディビアシー(Dibia$e)って知ってる?』って言われて。そういう、自分が大好きなビート・ミュージックを共有できる友だちですね」

ディビアシーはLA出身のビートメイカー。90年代中盤から00年代中盤まで約10年ものあいだLAに住み、かの地のアンダーグラウンド・ヒップホップ、ビート・ミュージックに造詣の深いBUDAMUNKは、「Flying LotusとDillaの間にDibiaseがいるのは間違いないね」(【インタビュー】Cram & Budamunk by ISSUGI | Talk About Beats at FNMNL)とディビアシーの重要性を強調している。今年4月、そのディビアシー、フライング・ロータス、ラス・Gの3人がビート・ミュージックとSP-404について語る映像がYouTubeにアップされ、話題を呼んだ。

Beat Culture & the SP-404 with Dibia$e, Flying Lotus and Ras G

この映像でディビアシーは「ラッパーがロックスターだとしたら、俺達はビートを作る根暗な子供みたいなもんさ」とにこやかに語り、さらにフライング・ロータスも「(音楽を作るためには)たくさんの人はいらない。1人で部屋にこもっても、たくさん作品を作れる」と“個の音楽”としてのビート・ミュージックについて説明する。しかし同時に、ラス・Gを含む3人は――僕の個人的解釈込みで説明すれば――、自分のビートがクラブなどで大音量で鳴った瞬間に“みんなの音楽”になり、そのことが自分自身をも変革していくことに悦びを感じているように見える。つまりこの音楽のダンス・ミュージックとしてのパワーに無限の可能性を感じているように思えるのだ。そして、この考え方はなにも彼らに限ったものではない。こうした考え方がビート・ミュージックの多様なスタイルを生み出してきたわけだ。例えば、トラップは主流派の音楽で、ビート・ミュージックはそうではないもの、とどうしても分けられがちかもしれない。しかし、現実はそうわかりやすくはない。仙人掌とCRAMは語り合う。

仙人掌 CRAMは自分のビートのダンス・ミュージック性についてはどう考えている? ISSUGIもCRAMのビート上(CRAM feat. ISSUGI“Fiend Combo”)でそういうことをラップしていたよね。「踊りたくなるヤツがいてもいいし」って。

CRAM 俺も自分のライヴで人に踊ってほしいですね。だから、ライヴに関してはスウィングしているビート中心にやるんです。

仙人掌 CRAMはトラップについてはどういう意見を持ってる? というのも、リル・ヨッティとかも好きってインタヴューで語っていたのが印象的だったから。

CRAM そのビートがカッコいいと思えば聴くし、気分が乗ったらトラップっぽいビートも作りますね

CRAM feat. ISSUGI“Fiend Combo”

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ところで、CRAMは、カナダのトロントに約1年間住んでいた経験がある。そこで彼は、ビート・ミュージックのグローバルな拡がりを実感したという。

CRAM 「日本と言えば、BUDAMUNKだろ」っていろんな人から言われて。OLIVE OILさんの名前も出ましたね。だから、日本のビート・ミュージックがインターネットを通じてカナダの人にも知られているんだって実感して。

仙人掌 俺もNYのクラブで現地の人に同じようなこと言われた経験がある。Spotifyのプレイリストを見せられて、“こんなにBUDAMUNKの曲が入ってるぜ”って。中国には独自のサンクラがあるんだけど、BUDAMUNKや俺らが知っているような日本人のビートメイカーの曲が聴けたりして、何十万回再生されている曲もあったりする。CRAMの海外とのコネクションは面白いし、柔軟性があるよね。

CRAM 『THE LORD』を作っているときに、自分が大好きなフライ・アナキンとコンセプト・ジャクソン(共にアメリカのリッチモンドのラッパー)にメールをしたんですよね。そうしたら、OKの返事が来ていっしょに曲が作れることになって。

――SoundCloudで知り合ったというメリーランド州のラッパー、デクスター・フィズも参加していますよね。さらに、あのアンダーソン・パックにもオファーのメールをしたそうですね。

CRAM 普通にシカトされました(笑)。でも、オファーする分には恥ではないですからね。いまそういう考え方ができるのもトロントでの経験が大きいです。日本では良いとされないことが向こうではアリだったり、また日本では良いことが向こうではナシだったり。そういう経験が俺の脳みそを刺激して、“ナシはナシ”っていう考え方になりましたね。

仙人掌 “ナンデモアリ”じゃなくて、“ナシはナシ”っていう考え方が面白いね。

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ビートは世界と出会う――BEAT MEETS WORLD x WANDERMAN POP UP in RAH YOKOHAMA REPORT interview-beat-meets-world-pop-up-report-24

そんな“ナシはナシ”を信条とするCRAMは『THE LORD』を、YouTubeやレコード、Spotifyといったさまざまなメディアをディグって発見したサンプリング・ソースなどを加工して制作した。スケートボードが路面を擦る音、人びとの会話、車のクラクション、トロントの地下鉄のアナウンスといった環境音もふんだんに盛り込まれた街の息吹を感じられるビート/ラップ・ミュージックに仕上がっている。まるでビートでひとつの物語を紡ごうとしているかのような作品だ。

CRAM “The Lord” feat. BES, ISSUGI & KOJOE”

Aru-2――普段の生活のありのままを表現したい

CRAM、そしてAru-2のロング・インタヴューが掲載された『GG – 01』(2018年11月発行)というビート・ミュージックのジンがある。その、全編カラーのジンの写真・編集・企画・インタヴュアーのすべてをひとりでこなしたのは写真家の前田ユキ。当日RAHのイベントに遊びに来ていた彼女から『GG-01』をいただいた。前田ユキの写真と文章は、ビート・ミュージックが鳴る地下深くにある煙たいローカルなクラブの熱気と同時に、ビートメイカーの孤独を描き出すことで、ビート・ミュージックという芸術の哲学的側面をあぶり出そうとするかのようだ。CRAMやAru-2のことをより詳しく知るためにも必読の一冊だ。

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1993年生まれ、埼玉県川口市出身のAru-2。彼は高校生のころ、自分でラップをするビートを作り始める。当時、ビート・ジャックという発想がなかったためだという。そしていつしか、ラップよりビートを作るのに夢中になっていく。2016年に沖縄で制作した4曲入りの『NANGOKU EP』(2017年発表)では鍵盤を弾き、みずから歌うことにも挑戦している。そして昨年、Notologyというヴォーカル・プロジェクトを立ち上げ、『selfy key』と『A H O』という2枚の作品を発表した。

Notology a.k.a. Aru-2“Rocka Bama Baby / A H O”

仙人掌 Kid FresinoとのEP(『Backward Decision for Kid Fresino』2014年)でも歌っていたし、ライヴでもだいたい歌うもんね。

Aru-2 そうですね。あの作品もフックで歌っていましたね。歌いながらビートを作ったりしますし、ビートを作っていたらメロディが浮かんでくるんです。ライヴで歌うようになった理由は、いろんなライヴの現場を経験するようになって、ただビートを流すだけじゃないライヴをしたいって思ったのがきっかけでした。

仙人掌 『BOY MEETS WORLD -REMIX-』のミックスとマスタリングもAru-2に任せたし、フリーフォームで多才なビートメイカーだと思う・

仙人掌が“多才”と評する通り、Aru-2は『A H O』で、ビートを組み、日本語の歌詞を書き歌うのみならず、エレクトリック・ピアノ、シンセサイザー、ヴォコーダーなどを用い自身の表現をネクスト・レヴェルに押し上げるようなソウルフルなビート・ミュージックをたったひとりで作り上げた。この作品の個性とカッコ良さは、ソウルフルかつジャジーな演奏が、Aru-2節としか言いようのない独特のリズムの訛りと奇妙に心地良く同居している点にある。そして、Aru-2のフリーフォームな制作方法とそのリズムの訛りが今回のリミックスをよりリミックスらしくしたようだ。大半のビートメイカーに仙人掌が楽曲を指定してリミックスを依頼するなか、Aru-2はリミックスする曲をみずから選んだ。彼が選んだのは “Bottles Up”だった。仙人掌が酒瓶を擬人化して物語を紡ぐ1曲だ。

Aru-2 あの曲にしかない役者感を感じたのが、リミックスしたいと思った最大の理由ですね。で、チョップ感のあるビートをラップにハメてみたら見事にハマったので“OK!”って感じで完成しました。

仙人掌 ただ実はリミックスを最初聴いたとき、俺は「あれ!?」って思った。俺のファースト・ヴァースの入り方とビートがズレているのかもしれないと感じて。だから、「これで大丈夫? このビートはこういう解釈で合ってる?」ってAru-2に確認したよね。そしたら、「これで大丈夫です」って返事が来て。原曲にある3ヴァース目もカットされているし、ある意味でいちばんリミックスらしいリミックスを作ってくれたと思う。

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Aru-2の独創性を物語るエピソードだ。そんなAru-2がこれまでインスパイアされてきたアーティストやビートメイカーや音楽について語る。

「DJプレミア、J・ディラ、マッドリブはもちろん好きですけど、誰よりもサムアイアムは外せないですね。サムアイアムが面白いのはどんどん別のジャンルの音楽を取り入れて、自分の音楽やビートをブラッシュアップしているからなんです。さっき話に出たSP-404の映像になぜサムアイアムが出てこないんだ!?って俺は怒っていたっすね(笑)。あと最近はスティーヴ・スペイセックですね。スペイセックが去年出した『NATURAL SCI-FI』をずっと聴いていますね」

Steve Spacek“Plain Site(feat. Natalie Slade)”

Aru-2は4月にアメリカのポートランドのレーベル、FRESH SELECTSから『Ayakashi Instruments』のカセットテープをリリースした。その作品は配信でも販売されている。今後、〈Dogear Records〉からソロ・アルバムを出す予定だという。

「自分でカセットを100本ぐらい作ってBandcampで買えるようにしたら海外の人からの注文がたくさん入ったんですよね。オーストラリア、中国、ニュージーランド、フランス、イギリス、ドイツ、ハンガリー、アメリカもカナダも、ホントにいろんな国の人が買ってくれて。で、世界各地の住所をプリントアウトして郵便局に行って発送するっていう作業も自分でやる。リリースするたびにお金も入ってくるから生活の柱になっているし、自分の音楽が世界のいろんな人に聴かれているっていう実感がありますね。インターネットでつながっている時代だしその土地特有の音楽的特徴みたいなものはどんどん薄くなっていっているのかもしれないけれど、だからこそ、去年ぐらいから、生活しながら音楽を作っている自分や、そういう普段の生活のありのままを表現したいと思うようになりましたね」

JUN NAGAOSA――スケート、バトルDJ、ビートメイク

普段の生活のありのままを表現したい――そう語るAru-2の表現欲求はトークの冒頭で仙人掌が語った、「いまのビートメイカーはツイッターで呟いたり、インスタグラムに写真をアップするような感覚でビートを制作して発表している側面もあると思う」という見解と一致する部分もあるように思える。共通項は瞬発力と速度ではないか。ヒップホップを出自とするビートメイカーが作り出すビート・ミュージックにはそういう“ノリ”があり、それはその人物そのものから溢れ出すものだ。そして、そういうノリを共有できたときに生まれるラップやビートがある。この日、最後にショート・トークに登場してくれたJUN NAGAOSAに、仙人掌はそのような瞬発力と速度のノリを感じたのではないか。JUN NAGAOSAはスケーターからキャリアをスタートし、バトルDJを経て、現在ビートメイカーとして活動している。仙人掌がJUN NAGAOSAにリミックスを依頼した経緯を語る。

「BUDAくんにリミックス・アルバムの相談をしているとき、早い段階で紹介してもらったビートメイカーがJUNさんなんです。横須賀のスケーターからキャリアを始めているというのも知って、自分たちとノリが近いんだろうなって感じたんですよ。それもあって、JUNさんにはJUMANJIとHITと俺がマイクを回す“Water Flow”のリミックスを依頼したんです。JUMANJIもスケートのシーンと近いグループだから」

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“Water Flow”は、3MC & 1DJ/エンジニア/トラックメイカーから成るJUMANJIに所属するRENAとDICE、HIT、そして仙人掌の4人がラッパーのたったいまの精神と魂のリアリティをスピットする曲だ。JUN NAGAOSAは、“水のフロウ=流れ”という曲名に呼応するかのように、ラップを気持ち良く泳がせる浮遊感のあるビートを提供している。JUN NAGAOSAがラッパーたちのノリとライムを見事につかんだリミックスだ。ちなみにJUMANJIは、7月末に『EPIC』という作品を発表する。

JUMANJI – “EPIC”(prod. by YAB)

JUN NAGAOSAが、リミックスを依頼されたときのこと、また仙人掌というラッパーについて語る。

「BUDAくんを自分のイベントにゲストで呼んでライヴをやってもらったことはあったんですけど、そこまで普段から会ったりする関係ではなかったので依頼されたときはびっくりしました。でも昔から仙人掌くんのラップを聴いていて、めっちゃヒップホップな人だなって思っていたから、『やります!』って即答しましたね」

JUN NAGAOSAはビートを本格的に作り出す前は自宅でひたすらルーティンを組むようなヒップホップのバトルDJだった。そんな彼は、LAのビート・ミュージックに触発され、ビートメイクを始めることになる。

JUN NAGAOSA DJ スピンバッドやエクセキューショナーズ(ヒップホップのDJやターンテーブリストたちが集まってNYで結成された集団)のロック・レイダーとかに影響を受けて一時期はひたすらルーティンを組んでいるようなDJでした。それがあるとき、ディビアシーやラス・Gのビートを聴いて、『これはヤバイ!』ってなって、SP-404でビートを作り始めるんです。SP-404の作りやすさのおかげでDJからビートメイカーにすんなり移行できたのはありますね。MPCとかと違ってリサンプリングで直感的にビートを作れるから。

仙人掌 jjjが、SPでビートを作る感覚を“音を手で掴む”って表現していましたね。サンプルをチョップするときも波形を切るんじゃなくて、音を手でざくざく掴んでいく感覚でやるって。

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LAのビート・ミュージックに触発されたJUN NAGAOSAが最初にLAを訪れたのは2012年のことだ。そこでもやはりあの男の名前が出たという。JUN NAGAOSAもまた、ビート・ミュージックを媒介にした海外との直接的なつながりを実感している。

「ちょうど<ロウ・エンド・セオリー>が盛り上がっている時代で、イベントの会場前に若いヘッズがすごい並んでいましたね。ティーブスもそこらへんをうろうろしているし、ギターセンターっていう楽器屋で働いていたマインドデザインと仲良くなって遊んだりしましたね。で、さらに向こうのローカルの子たちと遊んでいると、車でBUDAくんの曲をかけたりしている感じなんですよ。俺も言われましたからね。“お前、BUDAMUNKを知ってるだろ?”って(笑)。そのBUDAくんが俺のビートをチェックしてくれていて、仙人掌くんのリミックスを依頼してくれたことがうれしかったですよ。いま、自分のビートが海外のヤツに聴かれているっていう実感は俺もありますよ。日々発送作業に追われていますから(笑)」

JUN NAGAOSA SoundCloud

1時間あまりのトーク終了後、ILL SUGIがビート・ライヴを始めた。激しく首を振りながら絶妙につんのめったビートを叩き出す。そのプレイを熱心に見つめるヘッズたちの体も自然に揺れる。真っ昼間だというのにすでにビールの空き缶はものすごい量だ。CRAMのビート・ライヴを聴きながら目をつむってさらに激しく首を振るILL SUGIがフリースタイルを始め、そのグルーヴは渦のようにその場の人間を巻き込んでいく。ビートは世界と出会う。そして、ビーツ&ライムは誰にも止められない。パーティは外が暗くなる19時過ぎまで続いたのだった。

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取材/文:二木信
写真:Shoichi Tagawa
SPECIAL THANKS TO Lil Mercy(WDsounds)
RIP Ras G

BOY MEETS WORLD – REMIX

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2019.03.20
Label:WDsounds/Dogear Records/P-VINE

TRACKLIST

1. 99’Til Infinity(dhrma REMIX)
2. Boy Meets World(KO REMIX)(Remixed by Yotaro)
3. Penetrate(CRAM REMIX)
4. Darlin’ feat. jjj(EYETREG REMIX)
5. Water Flow(Junnagaosa REMIX)
6. Bottles Up(Aru-2 REMIX)
7. Rap Savor feat. MILES WORD(ILLSUGI REMIX)
8. Show Off(BudaMunk REMIX)
9. So Far(Bugseed REMIX)
10. World Full Of Sadness(RLP REMIX/Additional Vocal by SOGUMM)
11. TBA(Prod by NARISK)

The Concept of The Remix Album is Made by BudaMunk & 仙人掌
All Mixed and Mastered by Aru-2

詳細はこちら

仙人掌

Dogear RecordsWDsounds

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