ブルックリンの4人組バンドであるビッグ・シーフ(Big Thief)が〈4AD〉に移籍して今年5月に発表した3rdアルバム『U.F.O.F.』は、ピッチフォークに「疑う余地のない最高傑作」と書かれたのを始め、多くのメディアが絶賛。トラディショナルなフォークを基調にしながらサイケデリックなムードも湛え、幻想的でありながら心を温かにする作品だった。そしてそこからわずか5ヵ月。早くも登場となるのが4thアルバム『Two Hands』で、これが2部作の後編ということになる。
このインタビューでも話しているように『U.F.O.F.』が完成した5日後にはもうレコーディングに入っていたそうで、繋がりは当然あるが、しかし2作のレコーディング環境と音の方向性は大きく異なるもの。静かな印象の『U.F.O.F.』に対し、『Two Hands』は荒々しくて生々しいバンド・サウンドの躍動があり、先行曲の”Not”が象徴的だが圧倒的な爆発力を有している。メイン・ソングライターでもあるエイドリアン・レンカーのヴォーカルも実にエモーショナルだ。
Big Thief – Not(Official Audio)
聞けば、『U.F.O.F.』は「Celestial(天)」、『Two Hands』は「Mud(地)」をイメージして作られた楽曲群だそうだが、今回Qeticでは、このふたつのテーマや関係性についてエイドリアン・レンカー(Adrianne Lenker)に電話インタビュー。『Two Hands』の収録曲についてもつっこんで訊いていこうというところでタイムアップを告げられてしまったのは残念だったが、曲作りに対する彼女の真摯な姿勢はここからもしっかり見えてくるはずだ。改めて『U.F.O.F.』から聴き返しながら読んでいただきたい。

Photo by Dustin Condren
Interview:Big Thief(エイドリアン・レンカー)
──新作『Two Hands』が完成して、まもなくリリースされます。いまの気分は?
ワクワクしているわ。この作品を誇りに思っているし、どの曲も私にとって親愛なるものだから。早くみんなに聴いてもらいたい。
──3rdアルバム『U.F.O.F.』からわずか5ヵ月でのリリースになります。アルバムというフォーマットの持つ意味や価値観が以前とは変わり、楽曲単位での配信リリースが多いこの時代に、アルバムを2作続けて発表するというのはかなり思いきった試みじゃないかと思うんですよ。よほど強い動機がないとできないことですよね。
そう思う。でもそれくらい私たちはアルバムを作るという行為が好きだし、どの曲とどの曲を繋げてどう聴こえるようにするかということを真剣に考えているの。最終的にリスナーは1曲を繰り返し聴いてもいいわけだし、好きなように曲順を変えて聴いてもいい。Spotifyなんかでプレイリストを作って聴く人も多いわよね。
だけど、私たちがいつも一番に考えているのはビック・シーフのコアなファンの人たちのことなの。つまり、私たちのアルバムにじっくりと耳を傾けてくれる人たち。そういう人たちに、いい流れだなと思ってもらえるようなアルバム作りを意識しているわ。
Big Thief – U.F.O.F
──レーベルによっては「もう少し時間をあけてリリースしたほうがいい」という考えを持つところもあるかもしれない。けど、〈4AD〉はバンドの意志を尊重してくれたわけですよね。前作を出す前に〈4AD〉に移籍したことで、より自由に活動できるようになったという実感はありますか?
バンド自体、この3年間で大きく進化したけれど、それはレーベルが変わったこととは関係ないと思う。私たちが一緒に仕事をしてきたレーベルの人たちはみんな素晴らしくて、〈サドル・クリーク〉の人たちも〈4AD〉の人たちも私たちのアートを気に入って応援してくれた。何かを変えたほうがいい、といったことは一切言ってこなかったわ。だから、私たちはバンドとして自然に進化を遂げたのであって、以前も今もレーベルに対して不自由さを感じたことなんて全くないの。
──なるほど。では『U.F.O.F.』と『Two Hands』、間をあけずにリリースするこのふたつのアルバムはどのような関係性のものか、相応しい言葉はありますか?
私は兄弟のようなものだと思っている。双子のアルバムというか。性格はだいぶ違うけど、同じDNAを持っているの。
──そもそもその2作は、同時期に並行して作っていたんですか?
そう。2年間で私はたくさんの曲を書いて、だいたい50曲くらい貯まっていたの。それでカリフォルニアでデモを録って、2つのアルバム用にそれを分けたの。アルバムのひとつはテクスチャーやレイヤーを使って広大なサウンドスケープを印象付ける作品にしたかった。
そしてもうひとつのアルバムは必要最小限の音で、粗削りで、乾いた感じにしたかった。私たちはまず『U.F.O.F.』をワシントン州の森のなかにあるスタジオで録音して、それが終わった5日後に『Two Hands』をテキサス州の砂漠にあるスタジオで録音したのよ。
──曲を書いている段階から、ふたつのアルバムを作ることを想定していたのですか?
いいえ。(ギターの)バック・ミーク(Buck Meek)が「この調子だと2枚組のアルバムができちゃうぞ」と言ったときにはまだみんなで笑いながら「それはちょっと」なんて言ってたくらいだから。でも、確かにそれができるくらい曲が貯まっていることに私も気づいて。ただ、2枚組という形だと濃すぎるし、それはやりたくなかったのね。それで2作に分けることにしたの。
──書き上げた曲が「天」(Celestial)と「地」(Mud)という2つのテーマに分けられると感じ、それに沿って曲を振り分けていったそうですね。曲を書いている段階からそのふたつのテーマが頭のなかにあったのでしょうか。
それはなかったわ。作曲している段階ではまだアルバムの特徴をイメージできていなかったし。
──「天」と「地」というテーマをもう少しわかりやすく説明することはできますか? そこに含まれる感情はどういうものを指すのか、とか。
言葉にするなら、「天」は「intangible(無形)」「immeasurable(計り知れない)」「fantastical(空想的)」「magical(魔法のよう)」「vast(広大)」。「地」は「sensory(感覚)」「textural/textured(テクスチャー/手触りのある)」「rugged(ゴツゴツした)」「fluctuating(変動する)」「finite(有限)」「alive/spiritful(生きている/精神あふれる)」。地球は“彼女”自体が呼吸をして存在しているものだと私は思うの。そして「天」と「地」の両方に使える言葉は、「mysterious(神秘的)」。
──曲作りはどのように行なったんですか? そういった言葉のイメージを浮かべながら曲作りに向かっていったんですか?
ギターを持って座って、自然なフローを追うだけ。作曲しているときに何が起こっているのか、言葉で説明するのは難しいわ。自分自身を探索し、自分の周りの空気も探索しているような感覚ね。ある感覚を捉えたいから作曲するときもある。自分が考えていることを曲にしたいときもあるけど、その題材についてまだ知識が十分じゃないと感じるときもある。そういうときは作曲できるようになるまで考えを掘り下げたり、その題材について詳しく学んだりしているわ。30分で一気に書けるときもあって、それはなんというか魔法みたいなもので、どうしてそうなるのか自分にもわからない。そういうときは自分が書いているという実感が持てなくて、何かを思い出しているような感じに近いわね。
逆に完成まで何年もかかる曲もある。何時間も費やし、同じことを繰り返し、トランス状態に自分を持っていって曲作りをする場合もある。曲作りって、半分は自分の努力の成果であり、もう半分は神の恩恵みたいなものだと思うの。
Big Thief – Full Performance(Live on KEXP)
──では、『U.F.O.F.』に入ることとなった曲を作っているときと、『Two Hands』に入ることとなった曲を作っているときでは、あなたの精神状態や体調などは違っていましたか?
さっきも言った通り、作曲段階ではふたつのアルバムにすることを意識していなかったのでわからないけど、レコーディングに関してはそのときの環境が大きな影響を及ぼしていると思う。
『U.F.O.F.』をレコーディングしたときは、とても開放的でリラックスした気分だったわ。山小屋みたいなスタジオで、木が生い茂っていて、空気がとても新鮮だったの。まるで昔から馴染みのある家のようで、私は祖父母の家を思い出したわ。そこで姉と従妹が料理を作ってくれて、私たちは外の芝生でサッカーをしたりしていたの。ランニングもしたし、すごく健康的に過ごせたの。
一方、『Two Hands』をレコーディングしたときは、すごく乾燥していて暑かった。砂漠のなかという強烈な環境で、親しみを感じることなんてできなくて。メキシコとの国境近くということがまた緊張した雰囲気を醸し出していたの。メキシコとの国境近くでは頻繁に事件が起こっていて、どこか悲しい雰囲気があるのね。だから、そこで録音した曲には辛辣な感じが含まれている。
ハッキリ言って『Two Hands』のレコーディングは『U.F.O.F.』のときよりも大変だったし、立ち向かわなくてはならない苦労も多かったわ。だけどそれは自分たちで選んだ環境であって。つまり、何かに立ち向かわなくてはならない環境に身を置いて、“ロックンロールな感じ”になるようにしたってこと。
Big Thief – Forgotten Eyes(Official Audio)
──どちらの作品もプロデューサーのアンドリュー・サルロ(Andrew Sarlo)とエンジニアのドム・モンクス(Dom Monks)と共に作られています。アンドリュー・サルロとは今回で4作目。よほどバンドとの相性がいいってことですね。
アンドリュー・サルロは私が18歳のときからの友達なの。私たちは大の仲良しで、彼はバンドの延長線上にいる存在。彼はスタジオをまるで楽器のように操ることができるし、カリスマ性があって情熱的。一緒にふざけあうこともできる。私たちの音楽の一番の理解者だと思うし、メンバー全員の個性もよくわかっていてくれてるの。今回、彼はビッグ・シーフそのものを引き出してくれたと思う。私たちの真の姿というか。私たちの集合的エネルギーをそのまま作品に封じ込めてくれたのよ。
──ドム・モンクスはどんなタイプのエンジニアなんですか?
静かな達人といった感じ。彼って忍者みたいなの。スタジオ内を動くときも、物音を立てずにスーッと移動していて、その場の雰囲気を一切乱すことなく作業を進めるタイプ。『U.F.O.F.』に“Cattails”という曲が入っているんだけど、あれを書き上げてすぐに(ドラムの) ジェームズ・クリヴチェニア(James Krivchenia)と私はスタジオで2、3回演奏したのね。で、その2回目だったか3回目だったかの演奏に素晴らしい手応えがあって、「よし、この感じで録音しましょう」って言おうとしてドムのほうを見たら、彼が「いまの、録音しておいたから」って言って。それがアルバムに収録されたテイクなの。まだ2、3回目の演奏なのに、ドムは静かに美しくその曲のよさを捉えてくれていた。それはまるで魔法のようだったわ。
Text by 内本順一

Photo by Dustin Condren
Big Thief
2016年にデビューアルバム 『Masterpiece』をリリースし、瞬く間にインディーフォーク界で頭角を現したビッグ・シーフ。 各メディアから賞賛されたほか、同じくブルックリンを拠点に活動するシンガーソングライターのシャロ ン・ヴァン・エッテンは、彼らの音楽について「この長い間に聴いた音楽の中で最も感動的」と絶賛した。 翌年には2ndアルバム『Capacity』を発表。辛口評価で知られるPitchforkでは 8.3/10の高得点を獲得してBest New Musicに選出されたほか、音楽雑誌Rolling StoneやUNCUTなどからも高評価を得た。そして今年5月にリリースした3rdアルバム『U.F.O.F.』は、名門インディ・レーベル〈4AD〉 移籍第1弾にふさわしい、新境地を印象づける作品となった。「疑う余地のない最高傑作」と謳ったピッチ フォークをはじめ、多くのメディアが絶賛した。
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RELEASE INFORMATION

Photo Credit:Dustin Condren
Two Hands
2019.10.11(金)
4AD
¥ 2,200(+tax)
TRACKLISTING
01. Rock And Sing
02. Forgotten Eyes
03. The Toy
04. Two Hands
05. Those Girls
06. Shoulders
07. Not
08. Wolf
09. Replaced
10. Cut My Hair
11. Love In Mine *Bonus Track for Japan
EVENT INFORMATION
Big Thief Japan Tour 2019
2020.05.07(木)
東京・渋谷 WWW X
TICKET:後日詳細発表
2020.05.08(金)
大阪・梅田 SHANGRI-LA
TICKET:後日詳細発表
協力:BEATINK
お問合わせ:SMASH
詳細はこちら【URL未設定】