ポストパンクやノイズ、プログレ、ブルース、ファンク、サイケデリックなどありとあらゆる音楽的要素を孕みつつ、インプロビゼーションとコンポジションの狭間で縦横無尽のアンサンブルを奏でる4人組バンド、ブラック・ミディ(black midi)

英国の名門校ブリット・スクールにて結成された彼らは、その演奏力と表現力によって瞬く間に世界中で話題沸騰。今年6月に老舗レーベル〈ラフ・トレード(Rough Trade)〉からリリースされたファースト・アルバム『Schlagenheim』は、早くも2019年ベスト・アルバム候補に名を連ねるなど、インディー・シーンの「希望の光」として大きな注目を集めている。そんな彼らの来日ツアーが9月、東京、大阪そして京都にて開催。

本インタビューは、その直前に渋谷某所にて行われたものである。ジョーディ・グリープ(Vo.&Gt.)とともにバンドを立ち上げたマット・ケルヴィン(Gt.&Vo.)と、グルーヴの要であるモーガン・シンプソン(Dr.)に、ブリット・スクール時代に学んだこと、楽曲制作のプロセス、日本の音楽についてなど、ざっくばらんに話してもらった。

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Interview:black midi

──ブラック・ミディはブリット・スクールで出会った4人によって結成されたグループだと聞きました。数ある音楽学校、アート・スクールの中で、お二人がブリット・スクールを選んだ理由からまず聞かせてもらえますか?

マット・ケルヴィン(Vo.&Gt. 以下、マット) 小さい頃から音楽が大好きで、自分でも作ってみたいと思っていた。それも、自分一人で作るだけでなく色んな人と創作活動をしてみたかったんだ。その点ブリット・スクールは、パフォーマンス・アートとメディア教育のみに焦点を絞った英国唯一の無償学校だったし、自分がやりたいことをとことん追求できる場所だと思ったんだよ。

モーガン・シンプソン(Dr. 以下、モーガン) 実をいうとブリット・スクールの中身のことは、あまりよく知らなかったんだ。仲の良い友人がそこに応募していたのをみて「じゃあ、俺も受けてみようかな」と思ったくらいで(笑)。

──そうだったんですね(笑)。キング・クルール(King Krule)は「ブリットでようやく社会と上手くやっていけるようになった」と述懐していたり、アデル(Adele)は「チームワークを教えてもらった」と述べていたり、結構ユニークな学校なのかなと思っていたんです。

モーガン 確かに独特な雰囲気はあったね。言葉で表すのはちょっと難しいんだけど。

マット とにかく若いクリエーターが集まって、自分が知っている様々なことをシェアする空間があるので、様々なチームワークが生まれやすい。

モーガン そうだね。とても安心して学べる場所というか。

マット みんないいやつばっかりだったよね(笑)。

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──ブリット・スクールで学んだことは、ソングライティング以外のことも含めてブラック・ミディの活動にどう生かされていますか?

マット まず、学校の設備がとても充実していてさ。リハーサルスタジオは予約すれば、いつでも無料で使うことができる。ランチの後でも放課後でも、空いてる時間に集まって一緒にプレイをしていた。おかげでバンドとしての表現力も飛躍的に向上したよ。

モーガン 何よりも、ブリット・スクールに入ってなかったら、僕らは出会うこともなかったから、ブラック・ミディ結成にも大きな影響を与えているね(笑)。ただ、最初はまず友達づきあいから始まったんだ。気の会う仲間どうしで集まって、リハーサルルームで楽しくジャム・セッションをやっていたら、気がついたらバンドになっていたという感じでさ。今もその延長線上にあるんだよ。

マット そういう意味でもブリット・スクールでの日々は、僕らにとって非常に大切なものだった。一人、ベッドルームで音楽を作っていたら、今のような状況には絶対にならなかっただろうからね。

──もともとブラック・ミディは、ジョーディ・グリープとマットの出会いから始まったと聞きました。当時、やりたい音楽の方向性はあったのですか?

マット ジョーディと2人だった頃は、当時好きだったノイズ〜ドローン・ミュージックに影響されたインプロをやっていたね。各自が家で考えてきたリフなどアイデアの断片を持ち寄って、リハーサルルームで発展させていくという。なので、いわゆるジャム・セッションとは違った。その後、モーガンが加入し彼のアイデアも加わったことで、1曲が20分を超えることもあったね(笑)。

モーガン そのうちに、もう少し構成やアレンジを練るようになっていって。最後にキャメロン・ピクトンが加入した頃には、ファースト・アルバム『Schlagenheim』にも入っているような楽曲が、ある程度は作れるようになっていた。ただ、まだまだ楽曲の中はブラッシュアップする余白のようなものがあるので、今でもそれを違ったアプローチで演奏してみるなど常に模索中だよ。そうやって自分たちの音楽を、常に変化させていることも楽しくて仕方ないんだ。

black midi – ducter

black midi – speedway (12″ version) + remixes

──ジャム・セッションやインプロビゼーションをするときに、何か意識していることやテーマなどはありますか?

マット ときには「このリフからやってみよう」って始まることもあるけど、95パーセントくらいはいつやるかも何も決めず、各自メンバーがスタジオに入ってきて、機材をセットアップして最初に音を出した人からインプロが始まるっていう感じなんだよね。

モーガン ほとんど言葉も発しないよね(笑)。

マット インプロが会話そのものというか。お互いのプレイに反応して、用意が済んだメンバーから次々に音を重ねていくんだ。

──どの楽曲もインプロビゼーションとコンポジションの狹間で鳴らされているような、混沌と秩序の絶妙なバランスが魅力です。実際、それぞれのバランスをどのように考えていますか?

マット うーん……。

モーガン バランスなんて、考えたこともなかったよ(笑)。

マット やってみて、「こっちの方がしっくりくるよな」とか「ここはもう少し練った方が良さそうだ」みたいに、曲ごとにただ決めてるだけだよね。演奏していると分かるんだよ。「ちょっとだらけてきたな」「ちょっと技巧的すぎるぞ」みたいに。

モーガン そうそう。「この曲は75パーセントをコンポジション、35パーセントをジャムにしよう」なんて決めてるわけじゃないよ(笑)。

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──そりゃそうですよね(笑)。ただ、例えば”Western“のアレンジ、構成は非常にデザインされていて、緻密なエディットやポストプロダクションも行われているように感じるのですが。

モーガン うん、それはその通りだよ。

マット “Western”もとっかかりはジャム・セッションだったのだけど、君のいうように後からエディットやポストプロダクションをかなり施している。おそらく、アルバムの中で一番そこに時間をかけたんじゃないかな。オーバーダビングも相当しているしね。

モーガン ただ、それも闇雲に重ねているわけじゃなくて、必要最低限のパートを補完していく感じだったよ。

マット アルバムのレコーディングは、ライブでの演奏とは少し切り離して考えていたので、この曲は壮大なアレンジに振り切ってみたんだ。

──そういうやり方って、マイルス・デイヴィス(Miles Davis)とテオ・マセロ(Teo Macero)の関係にも似ていますよね。

モーガン 不思議だな。というのもさっき、ちょうどマネージャーとその話をしてたところなんだよ(笑)。マイルスの『On The Corner』って、最初に聴いた時は一切エディットなんて加わってないと思ったから「いやすげえな!」ってびっくりしたんだけど、実はテオ・マセロの鋏が随所に入っているんだよね。それを知った後に聴いてもやっぱり「クールだ」と思えたのは、テオがやっていたことがちゃんと意味のあるエディットだったからなんだよね。曲の中に曲が入っているような、入れ子状態というかさ。ジャム・セッションをコピペして、全く新しい楽曲に作り変えるっていう。

──なるほど。しかもブラック・ミディの場合、そうやって緻密に作り込んだ楽曲をライブでは再び人力で再現しているところがすごいんですよね。

モーガン ふふふ、その通りだよ(笑)。

black midi – Full Performance (Live on KEXP)

──ジョーディを筆頭に、メンバー全員が相当な音楽通だと思うんですが、ブラック・ミディの音楽にはエレクトロ・ミュージックからの影響をあまり感じさせないですよね。それは戦略的に敢えて避けてるのか、それとも単純に興味がないのか、どちらなんでしょう?

マット もちろんエレクトロ・ミュージックが好きだよ。今後、ブラック・ミディの音楽にもその要素は加えていきたいと思っている。今はまだそれが形になっていないけど、今後はもっと色々実験していくつもり。エレクトロ・ミュージックに限らず、あらゆる音楽に対してオープンでありたいしね。

モーガン 編成がドラム、ベース、それから2本のギターという編成に、どうやって加えていくのかは課題だね。

マット どうなっていくだろうね(笑)。

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──楽しみです(笑)。以前、ジョーディは「J・ディラ(J Dilla)は、エレクトロニックの機材に、ヒューマンエラーや、その他の人間味の要素を合わせて音楽を作るという才能があった」と、ヒップホップという音楽の意義について語っていたのも印象的でした。

モーガン J・ディラに関しては面白い話があってさ。先日、スラム・ヴィレッジ(Slum Village)の“Yum Yum”という曲をYouTubeで聞いたんだけど、そこで使われているサンプリング元が何かを調べたら、なんとカーペンターズ(Carpenters)の“Bacharach/David Medley”なんだ。それがすごく衝撃的で。J・ディラはヒップホップのプロデューサーなのに、カーペンターズまでネタのストックに入っているんだ! って。

──ちなみにお二人は、エレクトロ・ミュージック界隈ではどんなアーティストが好きですか?

マット 僕はホーリー・ハーンドン(Holly Herndon)の一連の仕事が好きなんだ。特に『Platform』(2015年)と、今年リリースされた『Proto』はよく聴いたね。

モーガン 僕はフローティング・ポインツ(Floating Points)が好きだな。

マット 他にもソフィー(Sophie)やナイフ(The Knife)……。本当にいろんな音楽を聴いて楽しんでいるよ。

──本当にあらゆる音楽的要素をブラック・ミディから感じていて、さっきおっしゃったようにどんな音楽に対してもオープンな姿勢がこうして話していても伝わってくるんですが、逆に「どうしても受け付けない音楽」ってあります?(笑)

マット ハハハ、どうだろうなあ。

モーガン これもブリット・スクールで学んだことなのだけど、何かを「好き」でいる必要はないというか。その作品を「好き」であることと、その意義を「ちゃんと評価できる」ことは別だと思うんだよね。そうやって考えていくと、「嫌い」という理由で作品に向き合わないのはもったいないし、たとえ、その作品を聴いて感動したり興奮したりしなくても、その「素晴らしさ」や「美しさ」は分かるはずなんだ。

マット それって、聴き手がどれだけ教育を受けているかによるのかも知れないね。一方で、アートというのはとても主観的なもので、作品に甲乙つけるのは難しい。個人的な意識が大きく影響されるだろ? だからこそ、何かに触れる時は最初から先入観を持ってしまったり、興味がないと突っぱねたりはしたくない。受け手がオープンであれば、何かしらの良さは見えてくるはずなんだ。

──心から同意です。

モーガン ありがとう(笑)。

──ところで、日本の音楽はどんなのが好きですか?

マット 僕はおとぼけビーバーが大好き。新しいアルバム『ITEKOMA HITS』もすごく良かった。ボアダムズももちろん好きだし……。

モーガン 僕はルインズが好きだな。

──ちなみに日本では、「toeっぽい」という感想がSNS上にたくさん見受けられました。

モーガン へえ! 知らなかった。聴いてみるよ(笑)。

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Photo by Kazumichi Kokei
Text by Takanori Kuroda

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black midi
ブラック・ミディは、ジョーディ・グリープ(vo、g)、キャメロン・ピクトン(b、vo)、マット・ケルヴィン(vo、g)とモーガン・シンプソン(ds)の4人で構成され、メンバー全員が19歳か20歳で、アデルやエイミー・ワインハウス、キング・クルールらを輩出した英名門校ブリット・スクールで出会ったという。ゲリラライブを敢行するなど精力的にライブ活動を行い、常に変化するセットリストやその演奏力とオリジナリティー溢れる楽曲から、噂が噂を呼び早くも完売ライブを連発。結成されてからわずか約1年であることから未だに謎が多いが、今最もアツい新生バンドという評判を早々に確立した。最近では、米SXSWや北米各地でライブを行い、SXSWでは最も目立ったアクトとしてその名が挙がったほか、初のNYでの2公演も完売させた。米音楽メディアPitchforkは“不気味なほど正確でストイック”と評し絶賛している。

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RELEASE INFORMATION

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Schlagenheim

2019.06.21(金)
Rough Trade
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