〈BLACK SMOKER RECORDS〉(以下、BLACK SMOKER)が主催する総合舞台芸術作品<BLACK OPERA – 鈍色の壁/ニブイロノカベ –>が11月16日(土)、17日(日)の2日間に渡って、ゲーテ・インスティトゥート 東京ドイツ文化センターで全3回上演される。11月14日(木)、15日(金)にはオープニング・パーティも催される。
今回で4回目を迎える<BLACK OPERA>は、その内容について多くが語られてきていない。主催側もほとんど口を開いてこなかった。そこで、〈BLACK SMOKER〉の2人、KILLER-BONG、JUBE、そして本公演のディレクションを担当するひとり、美術家/音楽家の伊東篤宏に取材を申し込んだ。1997年にヒップホップのレーベルとして発足した〈BLACK SMOKER〉がいまやろうとしている総合舞台芸術<BLACK OPERA>は何なのか。
そこで議論されるのは色と言葉の響き、押韻あるいは押韻の放棄というアイディア、論理的展開と感情の流出、コンセプトやテーマそしてそれらの否定、役者とラッパー/ミュージシャン/ダンサーの対比。これら三者三様の意見は、目前に控えた<BLACK OPERA>の混沌に備えるためのヒントとなるだろう。KILLER-BONG、JUBE、伊東篤宏のクロストークをお届けしよう。
Interview:
KILLER-BONG × JUBE × 伊東篤宏
──<BLACK OPERA>をKILLER-BONGさんの言葉で説明するとどうなりますか?
KILLER-BONG 例えばだよ、俺の作品に『MOSCOW DUB』っていうものがある。あの作品は音楽的にはダブじゃないと言う人がいるかもしれないけど、タイトルにはダブが付いている。つまりそれでダブになるわけだ。それといっしょで<BLACK OPERA>はオペラが付いている、と考えられることもできる。そんな<BLACK OPERA>の底流にあるのは、革命であり、実験であり、気持ちだと俺は思うんだ。既成のオペラには縛られずにやりたいけど、オペラというものに近づいていこうとする力も作用しているのかもしれない。そういう両極端の発想があるし、右も左も上も下も360度を手に入れたいって気持ちがあるわけだよ。
──今回で<BLACK OPERA>は第4回目を迎えます。去年に引き続きゲーテ・インスティトゥート/東京ドイツ文化センターで開催され、そして今年のゲーテには、1989年のベルリンの壁崩壊から30周年というテーマがあります。それを受けて、今年の<BLACK OPERA>には「鈍色の壁/ニブイロノカベ」というサブタイトルが付いています。この点について説明してもらえますか。
伊東 去年が1968年から数えて50年でした。1968年というのは、日本も含め全世界的にカウンター・カルチャーや政治運動における象徴的な年ですよね。だから、ゲーテ・インスティトゥート/東京ドイツ文化センターとしても改めて1968年を振り返ると。そこで「抵抗のアクチュアリティ」というサブテーマを受けて何かできないかとなった。それに対するレスポンスが<BLACK OPERA Hole On Black>だった。そして2019年のドイツはベルリンの壁崩壊30周年という区切りの年だから今年のゲーテ・インスティトゥート/東京ドイツ文化センターはそういうテーマを持っているんです。とはいえ、そこは<BLACK OPERA>にとってはひとつのきっかけですよ。その上で、そこから自分たちなりに何を考えて<BLACK OPERA>として表現できるかなんですよ。だから今年は「壁」というテーマからアイディアを出して行ったわけです。
KILLER-BONG 1968年とか、俺はよく知らない。やるからには単純にそういうことじゃないと思うんだ。感情の流出が必要なんだと。どこにでもある、人間ならば誰しもするような経験を、今回の<BLACK OPERA>は壁に喩えることでわかりやすく伝えようとしているよーな気がする。だから、色でも表現しているわけなんだ。人の心には何個もの言葉がストックされている。その中に色が含まれ、思い出や思い入れがあればそれが壁に喩えることができるとなんとなく思うんだ。
──色と言えば、ROCKAPENIS(斉藤洋平)さんが監督を務めた予告編の映像の色合い、中山晃子さんの流動的なペイティングが、<BLACK OPERA – 鈍色の壁/ニブイロノカベ ->のイメージをヴィジュアルの側面から強烈に印象付けていると感じます。
KILLER-BONG 〈BLACK SMOKER〉っていうのは、いろんなカラーを混ぜて黒にするんだよ。例えば、子供がクレヨンでいろんな絵をガシャガシャ描いたときに、いろんな色を塗り込んだところは黒になる。そういうときに大人が子供を叱って伸ばすか、それとも褒めて伸ばすかで、その子供の育ち方って変わるのと同じなんだよね。俺たちは黒になるように育てていく。美しい黒に育てていく。黒の中にもいろんな色が入ってるから素敵な色さ。だけど今回は鈍色なんだろ?
001BLACK OPERA『鈍色の壁/ニブイロノカベ』《ニブイロノマチ 001》
伊東 「異種格闘技」という言い方がありますけど、言ってしまえば、<BLACK OPERA>はそういう舞台ですよね。例えば、菅佐原真理さんのようなコンテンポラリー・ダンサーの方も出ます。いわゆるいろんなジャンルの色が混じるわけですね。
KILLER-BONG それと、言葉の雰囲気っていうのはあるんじゃないか。例えば「鈍色の壁/ニブイロノカベ」って言葉には雰囲気があって、俺はこの言葉から「氷の微笑」みたいな響きも感じる。そういうのも大事なんだよ。今回、俺は韻を踏まないでラップするかもしれない。なぜならば、俺もそうだし、他のラッパーもそうだと思うけど、普段のステージで発している言葉やラップは、<BLACK OPERA>のような舞台を想定していない。正直に言えばさ、ラッパーとして<BLACK OPERA>という舞台で言葉を吐くことには恥ずかしさとか矛盾がつきまとうよーなことでもあると思う。言葉は難しいから。ただ、そういう恥ずかしさや矛盾を払拭して乗り越えて表現しなければ、次がないってことなんだと思う。前に進めないわけだ。だから、今回はその場で思いついた「それ用の言葉」を吐くかもしれない。俺もチャレンジしたいし、去年と同じじゃしょうがない。「鈍色の壁/ニブイロノカベ」って言葉の意味や響きやいろんなことを考えて、ラッパーとしてどんな言葉で喩えられるのかってのをやってみたい。同じ言葉を響きを変えて吐き続けるかもしれない。そこが大事なんだ。ただおぼえることはできないと思うんだ。
伊東 いまKILLER-BONGが語ってくれた話はすごく重要なことなんです。ことラッパーの言葉の話に絞ると、今回もいろんなタイプのラッパーが出演しますよね。志人、鎮座DOPENESS、RUMI、Jin Dogg、OMSB、荘子it、もちろんJUBEくんも。あえて「言葉の問題」という言い方をしますけど、ラッパーの人は言葉のデリケートな部分を理解して扱う表現者じゃないですか。だから、<BLACK OPERA>の舞台でどんな言葉を使って自分をカッコ良く見せるかに真骨頂があると思うんです。
KILLER-BONG 韻を飛び越えるってことだと思うんだよな。例えば、壁から連想して「緑の壁」と考えてみる。そうすると、あっちの緑の話をしがちになるからそれを覆してもいい。千円札も緑だ。そうしたら、カネの話をしてもいいわけだ。そこから、「マネーの真似」と展開しても面白い。そういう韻の踏み方がいろいろあるわけなんだけど、そういう韻を飛び越えてもいいかもしれない。さらに、マイクを持ちながらやるのがはたしてオペラなのか? という疑問もある。だから、マイクも握らないかもしれない。地声でもいいんじゃないか、その方が観客に伝わりやすいんじゃないかって思ったりもする、俺の妄想の中では。
伊東 これまでの<BLACK OPERA>と今回が決定的に違うのは「劇団 子供鉅人」の益山寛司さんという役者さんがいることなんです。その益山さんの台詞は僕や(大谷)能生くんが考えている。僕らが考えた言葉に感情を込めて演じてもらう役者さんの存在は、他のどの出演者の人たちとも異なるんです。今回は、ラッパーやミュージシャンやダンサーの人たちと役者さんが同じステージを共有したときにどうなるかはすごく楽しみなんですよ。
KILLER-BONG でも俺だって、KILLER-BONGっていう「役」として出演しているよーなもんだよ。
JUBE あるシーンや場面が先にあって、そこに合う人を選んでいるわけではなくて、まず人ありきなんですよ。この人がステージに立てば絶対的だっていう、唯一無二の人物を誘っている。だけど、〈BLACK SMOKER〉がかつてやっていたような、ただすげえヤツらを集めて「よし、やるぞ!」っていうデタラメが通じる規模ではなくなってきているから、台本らしきものもあるし、テクニカルな部分ではプロフェッショナルな人たちにも協力してもらっている。それでも、ただ言われた通りにやってくれって話じゃないんだよね。打ち合わせは一瞬しかないし、ぶっつけ本番のヤツも多々いる。そもそも言われた通りにやるヤツは誰ひとりいない。その人がステージ上で全力で個性を見せることで成り立つようになっている。だから、俺らが考えた絵やストーリーやコンセプトに沿ってくれるかどうかは最終的にはどうでもいいんだ。
伊東 そこはね、こちらとしては闘いなんですよ。ある程度テーマやコンセプトに沿って絵を描かなければいけない役割として。もちろん好き勝手やってもらっていいんですけど、舞台なわけですから観客が観終わったあとに「なんだか意味がわからない」では観ている方もやっている方もつまらないでしょう、と。
KILLER-BONG だから、<BLACK OPERA>は後付けでもあるし、そんな後付けは関係ないっていう両方あるってことだよな。俺らはそうやってみんなを楽しませたいんだよ。
伊東 そう。だから、舞台の進行があまりにもグチャグチャになったらそれを解きほぐすことはするようにはしているんです。
JUBE 台本的なものがあるけど、KILLER-BONGのところは白紙だからね。マジ予測不可能。
KILLER-BONG それがいちばん難しいんだよ。俺は昔からずーっとそうやって突拍子もない相手とのセッションをやらされてきたんだ。とてもキツイんだ。でも俺はずっと失われていない、イヤだけどやりたい、やりたいけどイヤだなって気持ちでやっている。馴れ合いじゃないからナーヴァスになる。でもナーヴァスになるのは良くなる傾向だから。ナーヴァスって気持ちがあるのはいーってことにする。 それでこそ獲得できるものがある。それが気分の先の話。
JUBE そうやってKILLER-BONGが切り拓いてきてくれたおかげでいまも<BLACK OPERA>があるのは間違いない。もちろん今回も斉藤(ROKAPENIS)や伊東さん、ノイズ中村を中心に黒煙組の最高のスタッフたちと1年近くを費やして練り上げてはおりますが、なんだかんだKILLER-BONGが中心にいるからこそ「じゃあ、俺も、私もやるよ」ってなるわけです。あまりに身近過ぎてついつい意見を無視してしまいますが(笑)。
伊東 僕が思うには、KILLER-BONGは中心というよりも<BLACK OPERA>のアトモスフィア自体そのものなんですよ。
KILLER-BONG 俺はこれまでの<BLACK OPERA>のステージでのことはあまりおぼえていないけど、冷静に見ながらやっているよーに思う。俺はステージにトータルで参加するから、全体が悪い方向に行かないようにしているはず。ステージが悪くなりかけているときとか、何かが崩れかけている場面で、音とか声とか振る舞いで状況を再構築してるつもりだ。それはフリージャズのやり方といっしょだよ。みんなそれぞれが全力でやるから一筋縄ではいかないけど、すべての感情が流れ出すような、そんな瞬間をつくることが俺がやることでしょ?
イヤだな
あーー
鈍色って何色なんだろ?
取材・文/二木信
写真/横山マサト
INFORMATION
BLACK OPERA – 鈍色の壁/ニブイロノカベ –
2019.11.16(土)、11.17(日)
ゲーテ・インスティトゥート 東京ドイツ文化センター ホール(東京都港区赤坂7-5-56)
【座席】ADV ¥4,500/DOOR ¥5,000
【立見】ADV ¥3,000/DOOR ¥3,500
2019.11.16(土)
昼公演 OPEN 13:00/START 14:00|夜公演 OPEN 18:00/START 19:00
出演:KILLER-BONG、JUBE、スガダイロー、伊東篤宏、山川冬樹、志人(降神)、RUMI、鎮座DOPENESS、Jin Dogg 、荘子it(Dos Monos)、切腹ピストルズ、マヒトゥ・ザ・ピーポー、コムアイ、折坂悠太、テンテンコ、波多野敦子、千葉広樹(KNTC)、藤田陽介 、角銅真実、VELTZ、ANTIBODIES Collective、益山寛司(劇団 子供鉅人)、菅佐原真理、rokapenis、中山晃子
DJ:L?K?O、AKIRAM EN、DJ SOYBEANS
FOOD:IROHA
2019.11.17(日)
OPEN 15:00/START 16:00
出演:KILLER-BONG、JUBE、スガダイロー、伊東篤宏、山川冬樹、志人(降神)、RUMI、鎮座DOPENESS、OMSB、 荘子it(Dos Monos)、切腹ピストルズ、マヒトゥ・ザ・ピーポー、コムアイ、折坂悠太、テンテンコ、波多野敦子、千葉広樹(KNTC)、藤田陽介 、ermhoi、VELTZ、ANTIBODIES Collective、益山寛司(劇団 子供鉅人)、菅佐原真理、rokapenis、中山晃子
DJ:L?K?O、AKIRAM EN、DJ SOYBEANS
FOOD:IROHA
2019.11.14(木)OPENING PARTY I – TALK & MOVIE SCREENING –
OPEN 18:30/START 19:00
【座席】¥1,000
映画上映/MOVIE SCREENING
『B-Movie: Lust & Sound in West Berlin 1979-1989 』
『BLACK OPERA 2018 – Hole on Black-』(Short Documentary)
TALK
『技術の誤用から生まれる音楽』Music from Misuse of Technology 城一裕(研究者、アーティスト〈九州大学/YCAM〉)、伊東篤宏(美術家、オプトロンプレイヤー)
DJ:Compuma
FOOD:クロメシ(黒煙米使用)
2019.11.15(金)OPENING PARTY II- MAZEUM meets Unsound-
OPEN 18:30/START 19:00
【立見】ADV ¥3,000/DOOR ¥3,500
LIVE:BNNT(Poland)、空間現代 feat. KILLER-BONG、山川冬樹 × スガダイロー、角銅真実
DJ:MOODMAN、7e、suimin
FOOD:壬生 モクレン(Kyoto)