パートナーデーである4月14日(日)に渋谷宮下パークにて開催された音楽フェス『BLUE HANDS TOKYO』。性感染症予防や安心できる関係性について考える同フェスは、カラダや性にまつわる我慢やモヤモヤに目を向け、ひとつずつ「しかたなくない」に変えていく社会実装プロジェクト #しかたなくない と、ピルのオンライン処方や性感染症検査キットなどを提供する株式会社ネクイノが企画。会場には、同フェスへの賛同を示すことのできるフォトブース『表明写真機』の設置や、「smaluna check(スマルナチェック)」の無料配布など、音楽ライブだけでなく、あらゆる仕組みによって『BLUE HANDS TOKYO』のテーマについて考えることができる空間となった。

当日は、Aisho Nakajima、ラブリーサマーちゃん、Le Makeup、maco marets、あっこゴリラ、ASOUND(出演順)によるライブが行われ、それぞれの形で安心できるセックスと関係性について表現・発信。「このイベントをきっかけに、自分と自分以外の人との繋がり方を考えてほしい」とステージで語るのは、大阪出身のシンガーソングライター・プロデューサーのLe Makeupだ。他者との関係から生まれる混沌とした自身の感情を歌う彼が、改めて安心できる関係性やコミュニケーション、不安を伝えられる環境とはどのようなものなのか、『BLUE HANDS TOKYO』出演後に話してくれた。

本記事には性的なトピックやエピソードが含まれます。
苦手に感じられる方は、予めご留意ください。

INTERVIEW:Le Makeup

規範的な恋愛よりも、自分のままでいられる関係性。Le Makeupにとっての他者との繋がり|BLUE HANDS TOKYO interview2404-bluehandstokyo-le-makeup5

100%家族だって感じられると同時に、
100%他人でもある

──『BLUE HANDS TOKYO』へのご出演、お疲れ様でした。日常や他者との関わりで感じられるパーソナルな歌詞と、非日常へとトリップさせてくれるようなサウンドが野外フェスと相まって開放感に包まれてとても楽しかったです。今回のイベントは性感染症予防や安心できる関係性について考えるというのが大きなメッセージにもなっていますが、今回出演してみていかがでしたか?

無料で音楽フェスを楽しんだり、イベントが発信しているメッセージに賛同を表明できるブースがあったりと、すごく楽しめる内容だったなと思います。ライブを目当てで来た人も、会場内のあちこちにイベントのメッセージが明確に書いてあってわかりやすいから、シームレスにその想いと繋がって、思い思いに持って帰れたんじゃないかな。

──Le Makeupさんは出演にあたり、性感染症予防や安心できる関係性についてどのようなことを考えましたか?

安心できる関係性を築いていくことはもちろん大事だと思っていたけど、確かにどう構築していくんだろうっていうのは改めて考えるきっかけになりました。やっぱり1人では生きていけないというか、繋がりを求めてる自分もいて、そのことに悩まされる自分もいる。安心できる関係性を築くうえで、「なんでも言える関係性」とか「深い関係性」とかあると思うけど、それだけではない気がしていて。やっぱり「安心できる」ということをクリアしていれば、いろんな問題もクリアできるんだろうなと感じました。もちろん、深く関わって、愛情を持つとか、感情で結びつくっていうことも大事だけど、何よりも最初の絶対的な条件として「安心」っていうのが必要だなと改めて思いました。

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──Le Makeupさんは普段どんな関係性やコミュニケーションを築くことが多いですか?

恋愛で言うと、歌やドラマでよくあるような一目惚れは実感としてあまりなくて。感情的に理解し合えたと思えたときに、恋愛に発展することが多いです。恋愛は、自分だけの軸で生きていくところに相手が入ってくるとか、逆に自分が入っていくっていう経験的要素が大きいと思っていて、自分も過去の経験ですごく意識が変わったこともあるので、自分からそういった相手を見つけることは素晴らしいことだし、大事なことだなと思っています。

──ひと目惚れや恋の駆け引きといったものは、いろんな音楽やドラマ、映画とか、私たちが目にするもののなかで多く描かれていますよね。そういったもの=恋愛というイメージや表象が蔓延していると、それが当たり前の価値観のように感じてしまう人もいると思うのですが、Le Makeupさんはどのようにして心地のいい関係性や、ご自身にとっての恋愛のかたちを見つけたり、形成してきたと感じますか?

自分も例に漏れず、20歳ぐらいまではいわゆる“恋愛”に対して、うまくできないなって思っていたんです。それはやっぱりドラマや映画の影響が大きくて、自分でも型にはまった関係を築かなきゃいけないと思っていたなと思います。でも、対パートナーとのコミュニケーションでも自分があまり変わらずにいられる感覚を初めて覚えたときに、これが自分にとっての恋愛だなって気づいたんです。

──それは相手の恋愛の価値観や人とのコミュニケーションの仕方が自分と合っていたという部分も大きいですか?

恋愛の価値観っていうより、相手がそのままでいられるように考えるという感じです。無理しなくていい関係とかよく言うけど、たぶんそういうことなんだろうなと。

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──特に恋愛においては、その人と同一化したいと感じる人もいると思います。Le Makeupさんの楽曲『パートナー』でも「君と2人でいるとなんか1人でいるみたい 君を知りすぎてる そう思った次の日になにもわからなくて1人」という歌詞がありますが、そういう感情が生まれることもあるけど、その人がそのままでいていいと思い合える関係性はすごく大事ですね。

相手のことを理解するとか、自分のことを理解してもらうって、大事かもしれないですけど、結局他人やなってすごく思うんです。自分にとっては100%家族だって感じられると同時に、100%他人でもあるなっていう気持ちがあって。だから相手の思いや言動をコントロールするとか、自分の考えを理解してもらうことは放棄した方がいいと思っています。だからといって、ダメな自分のままでいてもいいと開き直るわけじゃないけど、見せてもいい自分を増やしていくことの方が重要なのかなと思いますね。

──恋愛だけでなく、関わる人には誰にでもそういった意識を持って接していますか?

実行できているかわからないですけど、その意識は持っています。友だちにおいても、親友とか、1年に1回しか会わない人とか、関係性の深さの違いってどうでもいいなって思っているんです。自分にとってすごく辛かった過去の出来事を話したからといって、深い関係になれるわけではなくて。だからこそ自分の中でカテゴライズせずに人と人として関係性を築きたい。そういう、この人には特別対応をするみたいなことはしないよう意識していますね。

自分の持つ暴力性と
加害性を意識する

──差をつけずに、みんな同じように大切だと捉えているということですね。性コミュニケーションをするうえで大切にしていることはありますか?

もちろん、お互いの気持ちがあって、同意があるっていうのは大前提で、してほしくないこととかを言えたらいいですよね。それは性別関係なくそうですけど、セックスをするうえで、性感染症などについて不安があるのであれば、その不安を言える環境を作らないとダメだなと思います。

──自分の不安を伝えたり、相手が感じている不安を伝えられる環境づくりのために日頃から意識していることはありますか?

セックスをする関係性と友だちとの関係性の大きな違いって、感情の相互関係と肉体の相互関係があることだと思っていて。同意のうえだとしても、セックスって暴力性を孕んでいる行為じゃないですか。さっきも話した通り、相手は他人なので、身体的に傷つけて血が出るとかじゃなかったとしても、攻撃力が高いと思うんです。相手を傷つけたくないと思っているからこそ、線引きというか、優先順位みたいなものを考えるといいのかなと思っています。こういうことだけは絶対に言わない、やらないとか。セックスに関して不安がある状態って、直接的に傷つけることにもなると思うので、精神的にも、肉体的にもその可能性があることを意識しておくのが大切。特に、男女のカップルだとしたら、特に男性側はその意識を持たないといけないと思っています。

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──男女の場合だと、暴力性や加害性のパワーバランス、性感染症や不妊などのリスクも同じとは言えないですよね。そのうえでパワーを持っている側が、自身の持つ暴力性や加害性を意識することは本当に大切なことです。こうした安心できるセックスや関係性について、ファンや友だちと話す機会があれば、どんなことを聞いてみたいなと思いますか?

カップルでセラピーとか受けたことがある人がいたら聞いてみたい。僕はしたことないけど、どんなことをして、どんな影響があるのとか。

──まだまだカウンセリングやセラピー自体にハードルを感じている人も多いから、そもそもカップルセラピーがあることを知らない人もいるかもしれませんね。だからこそ、そういうものがあるんだよっていうことを共有できる時間があるととてもいいですね。安心できるセックスや関係性を築くうえで、BLUE HANDS TOKYOで無料配布されたスマルナチェック(性感染症検査キット)も、2人の関係性やコミュニケーションを潤滑にする手助けとなるアイテムだと思います。

性感染症の検査ができるキットを自分で購入できることを正直僕も知らなかったので、すごく良いサービスだなと思います。恥ずかしいんですけど、前に股間部が痒くなって病院に行ったことがあって。結局は性感染症とかではなかったんですけど、ネットで調べれば調べるほど心当たりもないのに怖くなってしまって。病院に行くのも当時少し抵抗があったりして一ヶ月くらいかかったり。こうやって検査結果までオンラインで確認できるのはすごく心強いなと思います。

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──病院に行くことが恥ずかしくて放置して悪化してしまったり、感染していなかったとしても、不安が大きくなってしまうこともあるから、こうして個人で確認できるのは安心ですよね。最後に、まだまだ心地のいい関係性や安心できるセックスや時間を築くことにハードルを感じている人たちに伝えたいことはありますか?

そういう不安ってみんなが一度は持ったことがあるものだと思う。だからこそ、自分の不安を話してみることって、意外と簡単でシンプルなことかもよって言いたいですし、そう思ってほしいです。

Text:中里虎鉄
Photo:岩渕一輝
Edit:Kazuki Hyodo

ARTIST INFORMATION

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Le Makeup

シンガー/プロデューサー。関西学院大学在学中に作曲へと本格的に取り組みはじめ、以降国内外の様々なレーベルから作品を発表する。2020年にアルバム「微熱」をリリース。中国・韓国・オランダ・デンマーク・ドイツでもパフォーマンスを行う。2023年2月にDove、gummyboy、JUMADIBA、Tohji、環Royが参加したアルバム「Odorata」をリリース。Pitchforkで取り上げるられるなど話題となった。2024年5月にニューアルバム「予感」のリリースと5月21日にWWWにて初のワンマン「予感」を開催が決定している。

公式HPInstagramX

EVENT INFORMATION

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『BLUE HANDS TOKYO』
※本イベントの開催は終了しています

カラダや性にまつわる様々な「しかたない」に向き合うソーシャルプロジェクト「#しかたなくない」は、2024年4月14日(日)、自宅でできる性感染症の郵送検査キット「smaluna check(スマルナチェック)」 を提供する株式会社ネクイノ主催のもと、音楽フェス『BLUE HANDS TOKYO』を渋谷・MIYASHITA PARK(宮下パーク)芝生ひろばにて無料開催。「パートナーデー」である身近な健康課題である性感染症をテーマに、予防の大切さや検査の重要性への理解を深め、自分やパートナーとの “安心できる関係” について考えるきっかけづくりを目指した。

ABOUT「#しかたなくない」プロジェクト

カラダや生理、性のこと。あるいは学校、仕事、社会のこと。いつの間にか積み重なった心の中の「しかたない」が、人生にブレーキをかけている。誰もが自分らしく前向きに生きるため、一人ひとりの「しかたない」に目を向けて、より風通しのよい社会に向けて、様々なアクションを展開するソーシャルプロジェクト、それが「#しかたなくない」です。オンラインのピル処方サービス「スマルナ」を展開する株式会社ネクイノが、一般社団法人渋谷未来デザインとともに2021年12月始動。

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