4月14日(日)は性別や年齢を問わず感謝を伝えるパートナーデー。そんな記念日に、自分やパートナーとの“安心できる関係”について考えるきっかけを与えてくれる音楽フェス『BLUE HANDS TOKYO』が渋谷・MIYASHITA PARK屋上にて無料開催されます。同フェスはカラダや性にまつわる様々な“しかたない”に向き合う社会実装プロジェクト「#しかたなくない」の一環で、イベント参加者には自宅でできる性感染症の郵送検査キット「smaluna check(スマルナチェック)」の無料配布も行います。

今回は性感染症予防に関する知識やメッセージを発信する本プロジェクトの思いに賛同する『BLUE HANDS TOKYO』参加アーティスト・maco maretsのインタビューをお届け。友情と恋愛のあわいのような関係性を巧みに歌い上げるラッパーのmaco maretsにとって、理想的な間柄とは? 男子校時代の経験談も必読です。

本記事には性的なトピックやエピソードが含まれます。
苦手に感じられる方は、予めご留意ください。

INTERVIEW:maco marets

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「恋愛」の型にはめない、
“僕”と“あなた”とのリレーションシップ

──いきなりなんですけど、maco maretsさんが考える楽しい恋愛とはどのようなものですか?

最初から難しい質問ですね……。僕はそもそも恋愛に対して積極的ではなかった人生を送ってきていて。

──むしろその話を聴きたいです。世間ではなぜか恋愛に対しては積極性が求められるし、そんな恋愛至上主義社会の息苦しさを感じている人も多くいると思います。

そもそも僕はものすごく悲観的……とまでは言わないですが、臆病な性格で。人と人はやっぱり100%わかり合えることはできなくて、言葉ですら信用できないときもあると思うような節があって。それでも、その怖い壁を乗り越えていきたいし、恐怖が恍惚に変わっていく喜びのような瞬間はあるような気がしています。自分にとって恋愛はその一つ。怖いけど知りたい。そんな感じがします。

──わかり合えないであろう他者との間にある壁を乗り越えようとする際、たとえば友情と恋愛感情では明確な差はありますか?

それで言うと、他者に対する感情はフラットなままで、あまり区別していないかもしれません。相手からもらう感情とかも踏まえて、なにか一個歯車が噛み合った瞬間に、フラットだった感情が恋愛という形に変わっていくものだったりするのかなと思ったりします。

──お互いの気持ちが噛み合ってうまく恋愛という形に成熟した時に、友情とは違うドキドキ感は感じますか?

やはり、まなざし返された時に自分の中に動揺があるというか。何か平然でいられない感じっていうのがある気はしていて。多くの友人関係も人として知りたいし好きという状態だと思うんですけど、それ以上の何かがスパークする感じがあるような気はします。

──過去にスパークした時のことを思い出せますか?

それこそスピーチレスというか、何も言えなくなってしまって。その時の気持ちや様子ってちゃんと言語化ができていないんですよね。

──世の中には「恋愛」コンテンツがあふれていますよね。ラブソングがヒットチャートの上位にきて、小説もドラマもラブストーリーがたくさん。恋愛という概念は当たり前にデカくそびえ立っている。その世界で生きていると、「恋愛=すべきもの」という観念に迫られて、恋愛は疑いなくいいものだと思い込まされてしまう部分もあるような気がしています。恋愛って安易に語りやすい環境にあるのに、恋愛についての語彙がない状態というのは、この恋愛中心な社会のシステムに対する抵抗のようにも感じます。

たしかに世の中には恋愛のありようのパターンがあふれていますよね。でも、恋愛というか他者との関係性ってあくまで固有のものだと思うんです。今はパートナーがいるんですけど、お互いの関係を既存の形に当て込みたくはないなと思っています。だからこそ、いまだに世間の言う「恋愛」ってなんだろうって思っちゃいます。

──変に言語化してしまうと、自分たちが抱く固有の感情を社会一般の恋愛の概念にすり替えられてしまうのではないかという気持ちでしょうか。

そうですね、そんな大行なパートナーシップを紡いでいるというわけでもないんですけど、今問われて気づきました。

──世の中の恋愛観についての違和感で、ご自身の実体験でお話できることはありますか?

僕は中学・高校とずっと男子校にいて、“男性性という型”の中の異性愛を意識する機会が人より多かったんです。周りを観察していると、みんな異性に対してバーチャルな憧れを持っているんですよね。それは自分も同様でした。今思うと現実とのギャップは相当あったと思います。一番多く触れる機会があったエンタメは、結局男性目線の異性愛ベースのものでしたから。男子校という環境では、恋愛そのものがファンタジーなんです。もちろんそういう思考ではない方もいますが、僕もこの環境下で最初はそう思わされていました。

──ホモソーシャルは「男子校のノリ」と説明されることもありますよね。男性同士の絆を深めるために、下ネタのようなものから、女性を性の対象としてしか見ていないような発言まで出ていたと想像します。その環境下にちゃんと違和感を持てたのはすごいですね。

むしろマッチョなありように対する嫌悪感の方に傾いちゃったというか。明確なきっかけは浮かばないんですけど、僕は文化系の吹奏楽部に所属していたので、マッチョな思考から少し距離を取れていたんです。だから俯瞰できた部分はあるのかもしれません。コミュニティがあったおかげですね。

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──maco maretsさんの楽曲はパーソナルなストーリーが主題になっている印象がありますが、恋愛について歌うことはありますか?

すでに100曲以上あるんですけど、恋愛のワクワクみたいなものはほとんどなくて(笑)。

──明確なラブソングはないですよね。ただ、そこがいいところでもある気がしています。maco maretsさんが曲に込めた関係性は直接的ではないにしても、聴き手によってはたとえば恋愛に置き換えられる余白があるような気がしています。どんな関係でもいい。むしろあいまいさに救われるというか。

嬉しいです。直接的なラブ、ときめきみたいな曲は書けていないのですが、ただ基本的に自分の作品の大きなテーマは大体、私という主体と、私以外のあなたというか他者との関係性。あなたに当たる部分は人に限らず、私たちが生きる社会のありようや、あるいは自然そのものだったり、あらゆる事象・物事を含めての、“私と周囲にあるものとのリレーションシップ”について書いています。自分と対象との間に生まれる関係によって、私というもの自体の認識が変わっていくことを歌おうとは思っているので。だからこそその関係性は、聴く人によっては恋愛関係に置きかけても聴けるようにはなっているのかもしれません。

──例として挙げられる曲はありますか?

たとえば「Moondancer」という曲は、“僕”と“あなた”という関係性を歌っています。その上で、“あなた”が見つめてくれているだけで、ここにあるすべてを許してくれるような気持ちになる。“僕”と“あなた”がただここにいるだけで、すべてを肯定できる。そんな感覚を歌っています。

──「Moondancer」は聴いていてとてもおだやかな気持ちになります。そしてあえてわかりやすいラブソングを作らないことに、明確な意思がありそうですね。

歌にしたいほどたくさんの経験をしてきたわけでもないからかもしれないです。語れることが自分にあればとは思うのですが、無理に恋愛をテーマにする必要もないですし。

──無理に創作することなく等身大の自分から生まれる言葉や感情を大事にされていることに誠実さを感じます。それこそ恋愛エンタメを一方的に享受していると、イメージでそれっぽくラブソングって作れちゃうじゃないですか。

世の中にある恋愛がらみの創作物は、その作者の恋愛観として受け取るようにしています。そこから自分の作品に、そういう“恋愛の型”が流れ込んでくるということはなかったですね。それに僕が思い描く他者との関係性は、固定したものというよりわりとフルイドで、常に移り変わるものとして見つめているんです。だからこそ関係性は何度も捉え続け、確かめる必要がある必要がある。そういう意味ではずっと関係性という同じテーマを繰り返し繰り返し、手探りで見つめながら曲にしてるような気がします。

──恋愛でも友情でも、人間関係はそうかもしれませんね。相手を縛るものでもないし、常に関係性は流動的であると。

どんなに好きな相手でも、1秒後には全く別の間柄に感じられてしまうかもしれない。他者に対してはわかり合えなさとかままならなさを前提として持ちながらも、それでもわかろうと努力し続けていくことが大事なのかなと思っています。

言葉にできない思いこそ、言葉を尽くす
コミュニケーションの大切さ

──他者との関係、おもに恋愛関係において不安に感じることはありますか?

さきほどの話と少し矛盾するところがあるんですけど、恋愛感情を育んだ相手に対してはわりと甘えてしまうというか、もたれかかってしまうところがあるんです。それが相手にとって負担になっていないか心配になる時はあります。

──矛盾が生じるのが恋愛なのかもしれないですね。

それこそセクシュアルなリレーションシップの話をすると、自分がしたことで痛みを訴えられてしまったことがありました。

──同様の場面ではきっと痛みを我慢してしまう人も多いですよね。ちゃんと言い合える関係で指摘をもらえたからこそ、問題に気づけたのかもしれませんね。

とても反省しています。ここで男子校だったという過去を持ち出すのは違うと思うんですけど、誰も正しいセックスの仕方を教えてくれなかったし、知識という面では得られる情報がやはり限られていたように思います。たとえば性感染症についても学生時代は正直何の知識も自分の中には蓄積はなかったです。

──「はどめ規定」(※)などのせいで、学校教育の中でまともに性教育がされていないこと自体に、とても問題があると思います。それゆえに結局AVがセックスの教科書になってしまっている……。

当時の自分はそこまで問題視すらできていませんでした。今になって振り返って、誤った情報にしか触れてこなかったなと思います。

※はどめ規制:小中学校の学習指導要領で「妊娠の経過は取り扱わないものとする」などの
一文で示される、性教育内容を限定する規定のこと

──そこからよく脱却できましたね!

たまたま初めてパートナーシップを結んだ女性が、わりとそういうことに対しての知識がある方だったんです。セクシュアルなリレーションシップに関しても、ちゃんと学んでその上でやろうというスタンスで、そんな誠実なところに好感を持ちました。当時の自分はファンタジーをなぞるというか、自分の中にあったイメージだけで行為に及ぼうとしてしまったことがあり、その時も相手がこれは違うとちゃんと言ってくれました。最初にそういう人と出会っていなかったら、今でも屈折したセックス像を持ち続けてしまっている可能性もあるなという気はしていて、早い時期に出会えたのは本当に幸運でした。

──安全な性のコミュニケーションを取るにはどうしたらいいと思いますか?

自分の実体験からすると、まず大前提として知識を得ること。知ることが何よりも先にないといけないのかなと思います。そういう話をすると冷めちゃう人もいるかもしれない。僕も最初は面食らったのでわかります。でも、セックスって性感染症や妊娠のリスクがあるからこそ、正しい知識がなによりも大事なんですよね。もしかしたら男性側は意識していなくても、相手は不安がっているかもしれない。それってもう心置きなく楽しめていないってことじゃないですか。コミュニケーションという意味でもしっかりとした対策をして楽しむことが大切なのかなと思います。

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──コロナ禍以降は特に性感染症の増加が話題になりましたよね。

マッチングアプリなどで手軽に出会えたりしますもんね。でも、そのニュースを見聞きして僕が思ったのは、自分自身がすごくあやふやなものとして捉えている“自分と他者との関係性”というものを、肉体的な接触で確かめようとしている人もいるんだろうなということでした。肌のふれあいは即時的かつ即物的に他者の存在を手触りを持って感じられる。僕たちが生きている時代や社会って、先行きが見えなくて悲観的になってしまうようなことがすごく多いと思うんですけど、その中で孤独感を埋めたり、傷から回復する手段をみんな模索している。その一つの答えとしてもセックスは機能しているんだろうなと思いました。僕は不特定多数の相手とセクシュアルなリレーションシップを結ぶ経験がないですけど、そうすることで自分自身を生かすことにもつながっている人もいるのだと思うし、その関係のあり方自体は否定したくないですね。

──どうしても言葉では救われない時に、ただ誰かの体温がほしいと思うことだってある。だからこそ性的な関係になってしまう時は対策をしっかりしたいですよね。性感染症などはかかっても初期は無症状で気づきにくいものも多いですし。

そもそもクリニックに行くこと自体の心理的なハードルもありますよね。だけど、性感染症にかかったら自分のためにも、そして他者にうつさないためにも、早期発見・早期治療が重要ですよね。

──しっかり勉強されていますね!

今回の取材のオファーを受けて、性感染症の書籍を調べて読んできたんです。世の中にはヘイト本があるので必ずしもそうではない側面もありますが、やっぱりある程度書籍の形になっているものは信頼にたる情報だと思っているので。でも調べても学術書みたいなものしか見つからなかったりして、気軽にアクセスできる情報が少ないことに気づかされました。

もし今現在不安な方がいたら、『BLUE HANDS TOKYO』でも無料配布予定のスマルナチェック(性感染症検査キット)も役に立つと思います。採取してそのまま送れば完了で、結果もメールで知れる。陽性だった場合もオンライン診察ができる医療機関を紹介してもらえるのは心理的にも楽ですし、もちろん物理的に忙しい人にもおすすめだと思います。心配だとしても、精神的な負担の面ではストレスフリーでいたいですからね。

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専用キットで自宅で性感染症検査ができる「smaluna check(スマルナチェック)」

──maco maretsさんにとってセクシュアルなリレーションシップはどういう位置づけになりますか?

やはりコミュニケーションの一環ですかね。自分と相手の関係において、ときにはお互いに言葉ではない触れ合いが必要な瞬間があると思うので。

──性的なことってなぜかタブー視されていて、語りづらい側面はまだまだあるなと思っていたのですが、そもそもが言語を使わないコミュニケーションだからこそ、合意などを言葉にするのは無粋、みたいな面もあったのかなと気付かされました。言葉にならないことを伝えたくてセックスするのに、理想的なセックスコミュニーションにおいては相手に自分の気持ちをしっかり伝えることが大事になってくる。

恋愛もセックスも矛盾だらけですね。でも言葉にできない思いがあるからこそ、言葉を尽くす必要があるのかなっていう気はします。「できない」で思考停止していたらダメだよねと自戒を込めて思います。物事をあやふやにするのってある意味で楽な選択肢でもあって、意識しないと流されがちなんですけど、お互いが気持ちよく心地よくいられるために、こうしてほしい、このままでは不安、など気持ちを言葉にして伝え合うことは大事なんでしょうね。

Text:綿貫大介
Photo:岩渕一輝
Edit:Kazuki Hyodo

ARTIST INFORMATION

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maco marets

1995年福岡生まれ、現在は東京を中心に活動するラッパー/作詞家。2016年に1stアルバム『Orang.Pendek』で「Rallye Label」よりCDデビュー。その後セルフレーベル「Woodlands Circle」を立ち上げ、自身7作目となる最新アルバム『Unready』に至るまでコンスタントに作品リリースを続けている。近年はEテレ『Zの選択』番組テーマソングや、藤原さくら、さとうもか、Maika Loubté、Mashinomi、Shin Sakiura、LITEなどさまざまなアーティストとのコラボレーションワーク、またメディアでの執筆活動でも注目を集める。

EVENT INFORMATION

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『BLUE HANDS TOKYO』

開催日:2024年4月14日(日)
開催時間:12:00 開場 / 12:30 開演 / 終了時間:18:30
開催場所:渋谷・宮下パーク芝生ひろば
入場:無料(自由に出入り可能)
主催:smaluna check(株式会社ネクイノ)

ABOUT「#しかたなくない」プロジェクト

カラダや生理、性のこと。あるいは学校、仕事、社会のこと。いつの間にか積み重なった心の中の「しかたない」が、人生にブレーキをかけている。誰もが自分らしく前向きに生きるため、一人ひとりの「しかたない」に目を向けて、より風通しのよい社会に向けて、様々なアクションを展開するソーシャルプロジェクト、それが「#しかたなくない」です。オンラインのピル処方サービス「スマルナ」を展開する株式会社ネクイノが、一般社団法人渋谷未来デザインとともに2021年12月始動。
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