パートナーデーである4月14日(日)に渋谷宮下パーク屋上にて初開催される新たな祭典『BLUE HANDS TOKYO』。カラダや性にまつわる我慢やモヤモヤに目を向け、ひとつずつ「しかたなくない」に変えていく社会実装プロジェクト#しかたなくない と、オンラインピル処方サービス「スマルナ」や性感染症検査キットなどを提供する株式会社ネクイノが企画する本プロジェクトは、性感染症予防の賛同者・体現者を増やすことを目的に発足した。
『BLUE HANDS TOKYO』では、本プロジェクトの思いに賛同するアーティストによる無料ライブも開催され、渋谷に集まる多くの人々へ向けて性感染症予防に関する知識やメッセージを発信。本シリーズでは『BLUE HANDS TOKYOS』の出演者達にインタビューを実施する。
初回は、日頃から社会に蔓延る多くの規範に対して、SNS、ラジオ、楽曲などを通して自身の思いを発信するアーティスト・あっこゴリラ。心地のいい関係性とはどんなものなのか、どうやって心地のいい関係性を築いたらいいのか、そのうえで大切だと語る「自立」と「長期戦」とは一体どのようなことなのかを伺った。
苦手に感じられる方は、予めご留意ください。
INTERVIEW:あっこゴリラ
すべては長期戦。
自分と他者を理解するために
──日頃から、自身のあり方や、社会に蔓延る多くの規範に対してまっすぐに意見をしたり、楽曲を通して発信したりしているあっこゴリラさんにとって、恋愛における心地のいい関係性はどのようなものだと思いますか?
私の場合は、自分の価値を相手に委ねないことが本当に大事なポイントだと思っています。どうしても、「誰からも分かってもらえなくてもいいから、この人には分かってほしい」と思ってしまうけど、もしその人に否定されたら、自分のことを認められなくなってしまう状態になる。それはすごく危険だと思っていて、理想論ではあるけど相手に自分の価値を委ね過ぎない、自立した関係が一番の理想です。
──私もそういった関係が理想だなと思います。一方で、いろんなマイノリティ属性を持っていたり、不平等な構図の社会で生きていたりすると、ただ生きているだけで闘わなくてはいけないことがすごくあるじゃないですか。だからこそ、恋愛くらいは対等でありたいし、癒しを求めている自分や、社会に認められていない分この人にだけは認められたいという気持ちが出てきてしまうのですが、あっこゴリラさんはそういった体験はありますか?
極端な例になっちゃうかもしれないけど、私は人体実験として、「自分の身体を取り戻す」ために、脇毛を生やしたことがあって。女の子がムダ毛と言われるものを生やしていると、「女じゃない」って言われたりする。そういった強烈な呪いが、この国に、私自身にすごく蔓延っているなと感じて、それを解体したいって思ったんです。もちろん毛に関することだけじゃないんですけど、一つのトピックとしてわかりやすいのが毛だった。一回脇毛を生やしてみようと思って、一種の抵抗運動みたいな感じではじめました。ただ、その行動をパートナーから「不潔だからやめて」って言われたことがあって、「なんでお前が分かってくれないんだ!」ってすごく辛い思いをしたことがあります。SNSにもその抵抗運動に関して載せていたので、周囲にいろいろ言われるだろうなとは思っていたけど、パートナーには分かってほしかったんです。号泣しながら、パートナーが理解してくれなかったことをSNSに載せたら、共感してくれる人がSNS上にたくさんいて、すごく助かりましたね。
──今その時のことを振り返って、どんなコミュニケーションが取れていたらよかったなって思いますか?
私はあの時、間違っていたとは思っていないんです。当時理解してくれなかったパートナーというのは、今のパートナーなんですけど、今ではしっかりと理解してくれているんですよ。そもそも私とパートナーは、それぞれが通ってきたカルチャー、見てきたもの、環境が違いすぎるから。共通言語が当時はなかったっていうのもあって、それでも分かり合いたかったから、いろんなやり方で伝えていったんです。
一番は、私のライブや楽曲で伝えていたいろんな点が、線になったタイミングが相手にあったんだと思う。ふとしたときに、「めっちゃ分かってくれてんじゃん!」って思えるようになったんです。だからきっと、そのときにたとえ分かってくれなくても、長期戦で人は変わっていくんだなって思います。それに、“前提”を共有できないことって、ストレスでもあるけど、面白いなとも思うんです。
──どんなところに面白さを感じますか?
どうしても、こういった社会に声を上げていくコンテンツって少ないから、“前提が同じ人”同士って、同じものを見てきていることが多いと思っていて。だから、好きなものが同じだとか安心できる側面もあるけど、そこから一歩外に出たら、全然分かり合えない人たちがいっぱいいるっていう、二極化しちゃう現実があると思うんです。
もちろん、前提が同じ同士のコミュニティはシェルターになるから大切なんだけど、前提が共有できていなかったり、違ったりする人たちにどうやったら分かってもらえるかなってっていうのをずっと考えていて。どういったアプローチをすれば、同じトピックについて向き合って話せるのかなっていうのをトライし続けていて、私の場合はそれが音楽を作っていく行為にも似ているなって思うんです。だから、私にとって他者と向き合うことは、対話ができるようになるためのプロセスのような感じなのかもしれないです。
──どうしたら、前提が共有できていなかったり、違ったりする人と、心地のいい関係性を築いていけると思いますか?
どうしたらいいんですかね(笑)。でも、めちゃくちゃ話しますね。前提が違ったとしても、別の部分で分かり合える部分があるから一緒にいると思うので、対話していくしかないと思います。意見が合わないときは、しっかりと討論することを私は心がけています。
──私も仲良く遊んでいる友達と社会問題の話になったときに、自分と違う意見が出ると討論するタイプです。ただ、そこで相手が理解してくれないときの悲しみが大きすぎて、途中で話すことを諦めてしまうことがあります。対話をするうえで、大切なマインドセットはあったりしますか?
簡単に分かり合えないことが前提。分かり合えないからといって、私を引っ込める理由にはならないし、もちろん意見を押し付けたりはせず、あくまでも「あなたと対話がしたいだけ」っていうマインドは大切かなと思います。
でも、分かり合えなくて悲しいっていうのはすごく分かります。私はそのまま「悲しいよ!」って言っちゃいますけどね。でも、悲しいと思って、引っ込めてしまう気持ちもわかるので、タイミングでいいんじゃないって私は思います。本当に長期戦なので(笑)。私は歴史が大好きなんですけど、変な話、もう歴史に思いを馳せたりします。全部歴史で考えると、時間がかかるのは当たり前だと思えるので。
──他者とのコミュニケーションだったり、アクティビズムだったり、変化を求めてアクションするけど、すぐに変わらない現状にぶち当たってしんどくなってしまうことってよくあると思っていて。長期戦だからこそ、自分の心身の健康をすごく意識しないといけないと思うのですが、あっこゴリラさんが心身の健康を保つために実践していることはありますか?
最近の私の中でやっている実験で、自分のことが嫌いでもいいからとにかくケアをするということ。とりあえず労わる。私はミレニアル世代で、世代の呪いもきっとありますが、自分を追い込むことによって快感を得てしまうという呪いが結構根深く自分の中にもあると感じています。それが100%悪いとは思っていないけど、自分のことを認めるとか、愛することがいまだに超苦手。だからこそ、最近は心の底から自分のことを好きだとか、大切だとか思えなくても、「大切にするという行為」をすることを心がけています。単純なことでいうと、絶対にお風呂に入って、お肌のケアをするとか。
それこそ、行動に起こしたら起こした分だけの結果が欲しくなっちゃっていたんだけど、結果が出なくても自分を労ってもいいし、自分のことさえも長期的に見るということができるようになったんです。たとえ何かで失敗したとしても、この実験の“結果パターンA”みたいに思えるようになった。独立する前は結構メンタルダウンも激しかったけど、2020年に独立してからは自分を労わることを心がけていたおかげで、少しずつ変化してきたなって思います。
──他者に対しても、自分に対しても長期的に見るっていうのはすごく大事ですね。
大事っすよね(笑)。私みたいな人って、こういう取材で理想論を言わないといけないこともあるけど、実践できていない自分もいるし、むしろそっちの方がリアルだったりして、言ってることと実際の自分との乖離があって難しかった。でも、自分自身も長期戦だなって思うことでそんな自分も許せるようになっていったのかなって思います。
──大事って思いながらも、私はできてないです(笑)。
いや、私もできてないですよ(笑)。できてないから失敗だけど、失敗じゃないくらいの感じです。
ラップや日記で自分と向き合う。
自身を自立へと導くヒント
──恋愛における心地のいい関係性について聞いてきたのですが、性的な関係を持つ相手と心地のいい時間を共有するためには、どんなコミュニケーションやケアが必要だと感じますか?
普段あまりこういうトピックについて考えたことなかったので難しいですね。でも、無理やりとかはありえないし、話にならない。私にとっては、日常生活の延長で、お互いが喜ばせたい、楽しみたいって思えることが大事なんじゃないかなって思います。そこについてパートナー間で話し合うことがいいパターンの人たちもいると思うけど、私たちはそこまで多くは話さない。でも、言いたいことは言います。お互い我慢せずに、言いたいことをちゃんと言うことはしています。それはセックスのときだけでなく、日頃からですが。
──言いたいことを言える関係性ってどうやって築いていったらいいんでしょうか?私自身、言いたいことは伝える方ではありますが、好きな人やパートナーになると難しいなと感じる時もある。でも、言えた方が友人たちと健康的な関係性を築けているように、パートナーや、セックスをする相手ともいい関係性を築けるだろうなとも思います。それには訓練が必要だと思うのですが、どんなステップを踏むことが大切だと思いますか?
本当に訓練だと思う(笑)!私は好きな人には言えるけど、友だちにはめっちゃ気を使います。言いたいことを言うということは、今のパートナーと出会ったときから、お互い暗黙の約束事みたいになっていますが、友だちには何回も失敗してる。自分が言いたいことを言えずに溜め込んで爆発しちゃったパターンもあるし、自分が言いすぎて傷つけちゃったこともある。その失敗は全部心に深く刻み込まれてるし、その失敗を糧にすごく気をつけながら生きてますね。言いたいことを言うのにも、相手によって言い方や関わり方のチューニングを合わせる必要があると思うので、答えというものはないんですけど…。向き合いたい人とのチューニング、そしてそれも長期戦と思うことが大事(笑)。
──そうですよね。たとえば、コンドームをつけずにセックスをしたいと言われたときに、相手に嫌われたくないから断れなかったっていうケースもあると思います。自分が思っている不安を相手に伝えることが、難しいと感じる人もいると思うのですが、あっこゴリラさんはセックス時だけでなく、自分の不安を相手にどのように伝えていますか?
私の場合はですが、昔からはっきりと言えるタイプだったんです。でも、周りを見ていると、すごく依存的な関係にいる人もいて。そこに関しては、理想論になってしまうけど、訓練して自立することが本当に大事だと思います。だからHow Toを言ってあげられないんだけど、自立することが一番大切。寄り添ってあげたいんですけどね……。
──自分を自立へと導く一つのヒントみたいなものがあれば聞きたいです。
恋愛に限らずですが、シンプルに自分と向き合うことだと私は思います。自分と向き合ううえでおすすめなのは言語化で、ラップはおすすめですね。文章を書くとかで全然いいんですけど、自分の世界をしっかりと認識して持っておくことが大切で、それは自分を守るためであって、相手を認めるためでもある。たぶん、自分を認められれば、自分が崩れることがなくなって、相手が相手でいることを尊重できるし、喜びになるんですよ。でもこれは、私が今のパートナーと長く一緒にいるし、年も重ねて、失敗もしてきているから、今のパートナーとの関係においてのみ、そう言えるのかもしれない。それ以外に関してはまだまだなところもある。みんな言うかもしれないけど、日記を書くのがいいと思います。私毎日朝晩と2回書いてます(笑)。どんだけ書くのって感じ(笑)。
あとは、BLUE HANDS TOKYOでも無料配布予定のスマルナチェック(性感染症検査キット)も自立のうえで、大切なものになると思います。自分を守るためのアイテム。男女間での性交渉においては、リスクを受ける可能性は正直公平ではない。それを当たり前に分かっていてほしいとは思うけど、そうじゃない現状もあるから、自分を守るうえでも手軽に検査できるアイテムや場所は絶対あった方がいいですね。
生産性のないことをやってみる
──心地のいい関係性や、時間を築くことは、私たちの心身の健康にどのように繋がってくると思いますか?
反対に、自分の心身がいい感じであれば、いい関係が築きやすいんじゃないかなって思います。
──なるほど。現代を生きる私たちは、いろんなところでストレスを感じたり、プレッシャーを感じたり、不平等を感じたりしながら日々過ごしていると思うのですが、その中で自分を守る方法として意識していることはありますか?
私もいろんなストレスから一旦距離を置いて自分を守れるようになったのってここ2年ぐらいなんですよ。こうすればできますよって話ではなくて、正直慣れや経験ってことになっちゃう。だけど、それだと若いうちは苦しまないといけないのかって話になるからすごく難しい。私にできることとしては、悩んでる子の話を聞くことしかないんですよね。でも、“話を聞くことはできる”って、これもまたすごく大事なこと。
──今を生きていく中で感じる多くの圧力や悩みって、多くの場合、悩み続けたり、どうでも良くなったり、ある瞬間にパッと解決したり、結局最後まで解決しなかったりもする。だからこそ今すぐ解決しようとしなくていいのかもしれないですね。
そうなんですよ。私は一生付き合っていくという、ある種の諦めや、開き直りがあるのかもしれないです。あえてこの言葉を使いますが「おばちゃん」が好きなんですよ。図々しくて、ふてぶてしい感じが好きで、自分自身もどんどんそうなっているのを感じるんです。何か起きたとしても「はいはい、このパターンね。上等です。」ってなれる。これは苦しみとかに鈍感になってきているわけではなくて、真剣に向き合い続けているからこそ、ファイトし慣れたし、これからもファイトしますっていうスタンスになっていったんですよね。傷だらけボロボロ上等です!って思えていて。決して傷に蓋をしているわけじゃないんですけど、痛みには慣れたかもしれないですね。
──これからも闘い続けるからこそ、一旦その苦しみや悩みから距離を取る方法で、何か実践していることはありますか?
暴飲暴食が一番好きな四字熟語なんです(笑)。なので、ストレスがたまったり、すぐに解決しなくてモヤモヤすることが起きたりすると、暴飲暴食しますね。健康にはよくないと思うけど、生産性のないことをするっていうのが大事かも。日頃から生産性を求められる社会だから、あえて反対のことをするとすごく癒されるんです。そしてその行動をした自分を絶対に責めないこと。「食べ過ぎて最悪、明日の自分がかわいそう」って思わずに、「私の大好きな暴飲暴食♫」「傷を癒してあげないと♫」みたいな感じで、意気揚々とやってあげるといいと思います。誰かに迷惑をかける行為じゃなければ、いいと思うし、私はそういうことをするのが気持ちいいですね。
──生産性のないことをするのとても大事ですね。最後に未だ心地のいい関係性や時間を築くことにハードルを感じている人にメッセージをお願いいたします。
繰り返しになってしまうけど、自立することが本当に大切。でもそれは時間のかかることだし、私自身も道の途中。いつか完成されることでもないかもしれない。だからこそ一緒に歩んでいきましょう。私が話聞くし、なんなら聞いて!(笑)
Text:中里虎鉄
Photo:岩渕一輝
Edit:Kazuki Hyodo
ARTIST INFORMATION
あっこゴリラ
ドラマーとしてキャリアスタートし、バンド解散後、2015年よりラッパーに転身。2017年CINDERELLA MC BATTLEで優勝。多様な美や性や生を描いた楽曲を次々と発表し続け、多くの賛同を受ける。2019年よりJ-WAVE『SONAR MUSIC』でメインナビゲーター就任、大学でのジェンダー講義や、アフリカ大陸マラウイで村人を巻き込んだストリートライヴなど、業界の壁を超えた唯一無二の表現活動を行う。 2022年合同会社ゴリちゃんカンパニー設立。楽曲提供も積極的に行い、人気アニメ「かぐや様は告らせたい」への提供曲「My Nonfiction」が、海外のクランチロールアニメアワードにて「最優秀アニソン賞」部門でノミネートされる。ゴリラの由来はノリ。
EVENT INFORMATION
『BLUE HANDS TOKYO』
開催日:2024 年 4 月 14 日(日)
開催時間:12:00 開場 / 12:30 開演 / 終了時間:18:30
開催場所:渋谷・宮下パーク芝生ひろば
入場:無料(自由に出入り可能)
主催:smaluna check(株式会社ネクイノ)
ABOUT「#しかたなくない」プロジェクト
カラダや生理、性のこと。あるいは学校、仕事、社会のこと。いつの間にか積み重なった心の中の「しかた ない」が、人生にブレーキをかけている。誰もが自分らしく前向きに生きるため、一人ひとりの「しかた ない」に目を向けて、より風通しのよい社会に向けて、様々なアクションを展開するソーシャルプロジェ クト、それが「#しかたなくない」です。オンラインのピル処方サービス「スマルナ」を展開する株式会社 ネクイノが、一般社団法人渋谷未来デザインとともに 2021 年 12 月始動。
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