ヒップホップの音を語る表現に「黒い」という形容詞がある。BLYY(ブライ)の音楽から滲み出しているのは、無限の想像力を掻き立てる宇宙的な黒だ。BLYYの唯一無二の世界観──音への徹底的なこだわりとループミュージックの緊張感、淡々と畳み込まれていくラップ、そのスペクタクルの異様さは、ジャンルを超越して唯一無二の魅力を放っている。
今年で結成23年を迎えるBLYYは、新作EP『東京無宿』をヒップホップレーベル〈SUMMIT〉からリリースした。本作の制作はBLYYにとって、挑戦ばかりだったという。コロナ禍のリモート作業から始まり、舞台的なMVの撮影、DMJのプライベートスタジオ設立、セルフプロデュース・客演なしという20年強貫いてきたスタイルを打ち破る、外部ゲストたちの参加。さらに、クレジットを見ても、作品名や楽曲名、ジャケットのデザイン、ミックス&マスタリング……そのすべてが往来のBLYYの体制とは一新している。この試みは、BLYYのA&Rを務めるTakeya “takeyan” Masudaとの信頼関係によって成立したものだったと、BLYYのメンバーたちは語る。
客演にはCOBA5000、K-BOMB、Manonmars、ゲストプロデューサーにNaBTok、dopey、Ramza、O$VMV$M。クルーの中核を担っていたalledはラップに専念し、これまで作品にはスクラッチ等で参加しており、ライブの屋台骨的存在だったDJ SHINJIが2曲で参加している。そんな彼がトラックをプロデュースした表題曲はEPの中で一番最初に完成した曲で、本作の指針となり制作が進行。結果的に、曲順通りに楽曲が完成していった。
BLYY – 東京無宿
中でも異色なのは、ブリストルのコレクティブYoung EchoからO$VMV$MとManonmarsが参加した“迎撃”。BLYYの世界観とUKのベースミュージック・シーンとの相性の良さに、腑に落ちる方もいるのではないだろうか。そんなブリストルとの邂逅やBLYYが根を張ってきたIKBコネクションや盟友との再会、最鋭の音への挑戦。そして池袋bedや池袋knot(そしてMADAM CARAS)、DISC SHOP ZERO、高田書房 常盤台店で起こっていた物語が重なり、〈SUMMIT〉的バランス感覚上で完成されたのが『東京無宿』だ。
〈SUMMIT〉からは2020年の1stアルバム『Between man and time crYstaL poetrY is in motion.』以来の作品となるが、2023年末には自主レーベル〈egggetta〉から2作品を発表。BLYY名義で『STILL IKB ep』、Tooson and alledとして『Detail EP』をリリースしている。この2作の制作についても、DMJのプライベートスタジオの存在、つまり環境の変化が大きい。
BLYY名義で発表された『STILL IKB ep』は、RAIZENとAKIYAHEADのコンタクトをきっかけに、その名の通りのテーマを掲げた不屈の精神を物語る。長年池袋bedのフロアマネージャーだったJOMO as Ill Clintonによるビートボックスをメインに構成される“West IKB of Raw JOMO’s Remix Bonus beat”はシンプルなビートだがその存在感は圧倒的で、スピーカー越しにぶっ飛ばされる。こういった楽曲が収録されていることからも、BLYYの美学がヒシヒシと伝わってくる。
Tooson and alledによる『Detail EP』は、BLYYの世界観を吸収しながら、トラックはより無機質でコンセプチャルな構成になっており、全編でalledのストーリーテリングが堪能できる。トラックの質感はまったく異なるものの、alledによるIshihara Satoshi名義が発表した幻の名作『BIG CITY』と時を超えて隣接する作品、とも言えるかもしれない。
今回、『東京無宿』をリリースしたBLYYの現在地点を確かめるべく、取材を行った。インタビュアーにBLYYの盟友・原島”ど真ん中”宙芳、そして〈SUMMIT〉代表で本作のA&Rを務める増田岳哉を招き、BLYY、特にDJ SHINJIと縁の深い池袋knotにて、今作にまつわる話を伺った。
なお、BLYYの軌跡についてさらに知るために、FNMNLで掲載中の記事「【インタビュー】BLYY 『Between man and time crYstaL poetrY is in motion.』|約20年、途切れなく続くBLOOD LINE(血脈)(取材・執筆:COBA5000)」も参照してほしい。
INTERVIEW:BLYY
by 原島”ど真ん中”宙芳
──リリースおめでとうございます。早速ですが、クレジットを見て最初に驚いたのが、グループ外のプロデューサーや客演を招いたこと。BLYYにとってはほぼ例がなかったことだと思うんだけど、どういう心境の変化があってのこと?
alled それは増田さんから提案があったと言うのが半分以上だね。制作がスタートしたのは、SHINJIが作ってたビートがきっかけだった。
──前に作っていた作品も、実はみんながレコードを持ち寄って、alledがマニピュレータ的に作っていた形だったって聞いた記憶がある。その役割がSHINJIくんに移ったという感じなのかな。SHINJIくんはBLYYのメンバーだけど、これまでSHINJIくんの楽曲はリリースされてはいないよね?
Dzlu 前のアルバム(2020年作『Between man and time crYstaL poetrY is in motion.』。全曲alledがプロデュース)がコロナ禍でリリースされたけど、そんな中でSHINJIもトラック作っていて、そのトラックで7、8曲くらいラップを録ってるんだよね。
──SHINJIくんは機材は何を使ってるの?
SHINJI MPC 2000XL。PCも同時に動かしてる。元々ビートを作っていたから機材は前から持っていて。それで出来たトラックで仮録してくれたりしていた。
alled SHINJIがBLYY用にビートを作るようになってきてから、何曲か選んで録るようになっていった。その中から増田さんが “東京無宿”を聴いて、とりあえずこの一曲を作品に入れることが決まったのが、今作の制作を進める上でかなり大きな指針になったかな。今回、制作の軸はタグチ(Dzlu)が担うことが多かった。
──“東京無宿”のPVはこれまでのBLYYが絶対やらないようなこと、たとえば衣装を着て、セットのような舞台で撮影していて、そのことにも驚いた。それも増田さんの提案だったと。
Dzlu そう。とにかく「新しいことに挑戦する」ことがテーマだった。
──タイトルもこれまで英語だったけど、今回は日本語で、楽曲のテーマも具体的になった気がする。外部の方にお願いしたのはなんで?
alled NabTokが一年に100曲リリースする企画をやっていて、その中でものすごく気に入った曲があった(「100 BEATS UP CHALLENGE」という企画の中で、2021年に100曲のフリービートを、COBA5000とのユニットMAXIRIESのYouTubeチャンネルで公開した)。それをCOBA5000に連絡したら、彼も一緒にやりたいと言ってくれていたから、流れで入ってもらうことになった。それで最初にNabTokとの曲(“どぶねずみ feat. COBA5000”)の制作が進んでいった。
Dzlu NabTokは六本木NUTSのトイレ待ちで出会った。GEEKとかが出るイベントがあって、呼んでもらってたね。COBA5000はラップもトラックもずば抜けてカッコいい。アーティストとしての能力が超高いのに、彼は自分のことより他人を助けることに興味があるんだよね。俺は結構彼自身のラップとかで立って欲しいと思ってるんだけど、裏方をやるのが好きなんだよな。
──リリックでも「咲いた花で飾るより 種まく快感」って言ってるよね。 “どぶねずみ”ができて、外部のアーティストに参加してもらう感覚を掴んだと。
alled そうだね。“東京無宿”のPVを2021年に録っていて、その撮影の帰りに“どぶねずみ”のプリプロを聴いてもらった。それで2曲目が決まったんだ。
Dzlu PV撮影が終わったタイミングでDMJのスタジオ(「1on1 Studio」)が出来たのも、BLYYにとって大きな出来事だった。
AKIYAHEAD タクヤ(DMJ)がコロナ禍に狂い出して、ビート作りに一日中没頭し初めて。それからいきなり「俺の家をスタジオにする」と言って、「1on1 Studio」が完成した。
DMJ SHINJIに車を出してもらって、ホームセンターに行って吸音材を買ったりして、スタジオを作りましたね。まあ、ただの家なんですけど。ある時、BLYY全員でAbleton Liveを買って、それをSHINJIやイシハラさん(alled)が使い始めた。それで、俺も無料版が使えて、やり始めたのがきっかけ。マイク、ヘッドホンもインターフェースもついてきたから。
──それ、抱き合わせで買わされてるだけじゃないの?
一同 (笑)
DMJ (笑)。Abletonの人、ありがとう。
──じゃあDMJくんはMPCじゃなくてソフトで作ってるんだ。
alled そう。そこが違いますね。
DMJ AKAIのMPDってパッドも使ってる。でもMIDI入れるとPCが重くなって動かなくなるから、再生と停止だけで。
──(笑)。
alled 今回の作品はプライベートスタジオを意識して作り始めたんだ。最初に作った“東京無宿”は(Seiki)Kitanoさんのスタジオで録ったけど、今はプライベートスタジオで制作してる人がすごく多いから、そこに対して自分たちなりに環境を作って挑戦した。そういう気持ちがあったし、今回、タクヤがスタジオを作ってそれをリリースできた。達成感があったよね。だから今回、BLYYは“東京無宿”以外全員「1on1 Studio」でRECしてる。客演のラッパーは全員別録り。
SHINJI この環境の変化は本当に大きかったね。
──『東京無宿』の前にBLYYの自主レーベル〈egggetta〉からリリースされた『STILL IKB ep』、Tooson and alled『Detail EP』もDMJくんのスタジオでRECされたの?
alled そう。あれは〈SUMMIT〉からは出ていないけど、増田さんにも聴いてもらってる。でも、構想していた“東京無宿”という軸があったから、別軸として自主レーベルで出した形だね。
[Official Music Video] AKIYAHEAD & RAIZEN – 戦う山 -IKB PRIDE- produced by Hi’Spec(RAIZEN, AKIYAHEAD)
[Official Music Video] Tooson and alled – VISION
AKIYAHEAD みんなコロナ禍で環境が無茶苦茶な中で、タクヤは一人で突き進んで、スタジオにみんな入り浸るようになった。レコーディングドリンクはビールみたいな環境で、ラフに制作できるようになって、制作がどんどん進んでいった。遊びの延長みたいになってね。そういえば、いつの日か、Kitanoさんのスタジオでレコーディングした後、スタジオで打ち上げして酒を飲んでいたら、タクヤが王将の餃子を買ってきてさ。それにイシハラ(alled)が「こんな良いスタジオに、にんにく臭のすごい餃子を買ってきてどうすんだ!」って怒り始めてさ。
DMJ でも、餃子の王将を買っていきたいって言ったのはノダさん(AKIYAHEAD)だったからね。
alled そう。それで凹んでたのはノダさんだから。しかもその後、ノダさんがすげえ高いソファにワインこぼして、Kitanoさんも凹んでたよね。
──DMJのスタジオだったら餃子も食い放題だし、ワインだってこぼしてもいいもんね。
DMJ なんでやねん。ダメやろ。まぁでも完全にそんな感じだよ。この前もビールこぼしまくってた。
SHINJI BLYYのメンバーは人の家で粗相をしがちなんだよな。人の家でワインやら日本酒やらこぼしまくってる。
──BLYYは飲みに行っても、居酒屋とかで普通に喧嘩するからな。まぁ、人間はね、酒をこぼすよ結構。
alled 宙芳の行きつけの店で「二度と俺の地元に来ないでくれ」って言われたことあったよね。
──その後「悪かったからもう一軒行こう」って言われたから、「帰ります」って断った。
alled 優しいよな。
──それで、3曲目の“瞼”はdopeyさんのビートの曲で、クウェリ(Talib Kweli)と同じネタだよね。このEPはトラックのバリュエーションも豊か。
alled そう。“瞼”は増田さんが一番気に入っていた曲ですよね。7〜8曲くらいくれたけど、全部すごく良かった。その次の曲(“膝栗毛 feat. K-BOMB”)のRamzaくんのトラックは一曲入魂だった。
増田 デモのタイトルが「BLYY」だったからね。一から作ってくれたみたいです。
──すごい。Ramzaくんとの組み合わせも、意外性があるよね。
alled これも増田さんの案。
増田 Ramzaくんは昔から「BLYYって格好良いですね」って言ってくれてたんですよね。
Dzlu そうですね。Ramzaくんには『THE SHIT 2』を出した後、恵比寿LIQUIDROOMで開催された<AVALANCHE>で最初に挨拶したと思う(2014年8月23日に開催された<SUMMIT Presents. “AVALANCHE 4”> )。もちろん存在は知っていて、カッコいいし、Ramzaくんは先に行ってるなって。それで、Ramzaくんが都内のクラブに出演してる時、直接相談しに行って、外で話してたら「BLYYきたか!」って言われた。
alled Ramzaくんのビートでやるなんて、俺らからしたら、もう単純に挑戦だから。しかも送ってもらったビート一曲で、的確に撃たれたからね。それに、最後ラップを乗せたデータを送った後、Ramzaくんは最後に少し調整してくれたんだけど、その仕上げのレベルが高すぎた。完全にやられましたね。これは、プロデューサーとしてすごく言いたい。Ramzaくんに直接言いたいんですよ。すごい細かいことなんですけど、そのくらいショックでした。Ramzaくんが悩んだ部分なのかもしれないし、すごくサラッとやったことなのかもしれない。でも、ヒップホップだけの考え方じゃなくてもっと全体的な視点からのアプローチなんだと捉えると、異常にしっくりきた。
──やべえやつにはやべえやつを返さないといけないっていうことなんじゃない?
alled Ramzaくんにそう思ってもらえてたら最高。
SHINJI この曲はBLYYのみんながラップを録った後に誰か入ってもらおうとなり、増田さんと話し合いをしていく中でK-BOMBさんに依頼することになったんだよね。
Dzlu 〈SUMMIT〉の事務所でK-BOMBさんに電話した。
──K-BOMBさんのヴァースが届いたとき、どうだった?
alled もう単純にめちゃくちゃカッコ良いと思ったね。ストレートにやったら勝てない。池袋bedでTHINK TANKが作った黒さは圧倒的だったと思う。だからK-BOMBさんは老舗のようなもので、俺らも流石に敷居を跨げないと思っていた先輩。そんな方と一緒に曲をやれたのは相当なことだよ。
BLYY – 膝栗毛 feat. K-BOMB
──その次の曲、“瞑僧”もSHINJIくんのビートだけど、制作で大変だったことは?
SHINJI 今回一番大変だったのは、データのやり取りが増えたこと。前まではスタジオで直接やりとりして完成させることが多かったけど、今回は楽曲制作のプロセス段階でもその都度、増田さんも含めて意見交換しあって完成させた。ビートについて文章で伝えるのが難しかったな。やっぱり直接話すのが一番楽だよ。
alled 制作中はリモートだから直接伝えられなくて、結構苦労した。いつも感覚的にコミュニケーションしていたから、それを言葉にするのが難しくて。それで増田さんを通すとなると、大変だったよ。それで、もはや何も言わなかったこともあったね。
──それで溜め込んで最後に言っちゃったりしてね。相手にしたら、もっと早く言ってくれよって。
alled まさにそうだよ。最後にはバッチリ直ったけど。
──BLYYは小節数が変則的だったりするし。
alled それは意図的じゃないと思う。もらったトラックの尺になるべく合わせるという感覚を大事にしていて、それが成立してる面白さがあるから、ずっとそうやってきてる。今回も尺を伸ばしてとリクエストしたことはない。逆に、もらった尺の中でラップを収めようとこだわっていたかもしれない。だから、トラックの尺によって、自然と人数構成も決まる。4人で全部やるとかではなくて、尺がないから2人で良いじゃんとなる。まあ、俺自身がトラックを作ることが多かったから成立していたのかもしれないね。
──もらった尺で返すのが美学だとはみんな思ってないはずだから、びっくりするだろうな。俺だったら長さ変えてくれってお願いしちゃうよ。
alled 俺と一緒にやった時も言ってたよね(笑)。
──そう。不服そうだったね。よく分からないからそっちの家に行こうかって言ってさ。
alled 俺のデータをパンちゃん(PUNPEE)が調整してたね。
──それで、みんなでいじってちょっとずつ変わってると思ってたら、全然違うデータをいじってて、何にも変わってなかったんだよね(笑)。あの時、みんなXLの使い方が違くて面白かったな。そして、最後の曲“迎撃”には、O$VMV$MとManonmarsというブリストルのアーティストが参加している曲。これなんて読むの?
Dzlu OSVMVSM(オーエスブイエムブイエスエム)。このコネクションはENAくんがつなげてくれた。O$VMV$MはYoung Echoというクルーの一員なんだけど、物凄くカッコいい。そんな話をしていたらENAくんが「一緒にやる?」って言ってくれて、間を持ってもらった。最初はビートをもらうだけの予定だったけど、Manonmarsがラップも入れてきてくれたんだ。ブリストルの音楽との接点はDISC SHOP ZEROというレコードショップの存在が大きい。DISC SHOP ZEROは3年くらい前まで下北沢にあったけど、2020年に店主の飯島直樹さんが亡くなってしまった。お店が下北沢に移転するさらに前、1990年代は江古田にお店があった。俺とalledは江古田が地元だから、高校生の頃によく行ってたんだよ。その時は、ちょっとオシャレする感覚だよね。飯島さんはブリストルの音楽を日本で紹介し続けていた人で、Young Echoも飯島さんが押してたんだ。でも、飯島さんは志半ばで亡くなってしまったから、この曲でそのことを歌ってるんだ。
alled この曲は完全に異次元でしょ。Young Echoからもらったトラックは全部異次元で、ラップを載せる必要があるのかなとも思った。それに、EPの最後に収録されていて、Manonmarsのヴァースで曲も作品自体が終わっているから、自分たちのヴァースで作品が終わってなくても良いかなとも思った。でも、そこは増田さんに相談したらOKで、俺はそこも面白いなって。
Manonmars & O$VMV$M(Young Echo Halloween Takeover)
Keep Bristol Weird | A Boiler Room & British Council Documentary
DMJ トラック順については完成した曲を色々並べて聴いたりしたけど、できた順に並べたのが一番しっくりきたなって。
SHINJI それに、この終わり方は「To Be Continued」的な感じもあるから。
──その終わり方を意図していたわけではないんだよね。
増田 「To Be Continued」は一切考えてなかったけど、曲順はあれが絶対一番いいって何度も言ってました。
alled 増田さんはよく野球の打順のことを言ってましたよね。
──2ちゃんとかでもよくあるやつじゃん。
AKIYAHEAD (笑)。
alled でもそれって結構正しいよね。
──それと今作、通して聴いて、clayくんがいないなと思ったんだけど。
alled 単純に都合がつかなかったんだよね。もちろん、仲良くやってるよ。この前のアルバムは結構ガッツリ上げてたけど、基本的には1〜2曲やれたらって感じだから。でも正直、今回は少しペースが合わなかった感じはあったかもしれない。
──そうか。今回はジャケットにいつものロゴが入っていなかったりもする。デザイナーもこれまでとは全然違うテイスト。それも新しい挑戦ということだよね?
Dzlu ジャケットをやってくれてるのはJELLY FLASH。池袋bedの店員だったから、長年の友人。でも、JELLY FLASHにジャケットを頼もうって案を出したのは増田さんだった。
alled 増田さんがJELLY FLASHの名前を出したのは意外だったな。
Dzlu (JELLY FLASHが描いた)MANTLE as MANDRILLさんのジャケットなどに惹かれたんですよね。
増田さん そうです。JELLY FLASHさんには〈SUMMIT〉としてもいつか一緒にお仕事したいと昔から思っていたのですが、今回BLYYの新作を制作していく中で、この機会しか無いと思って皆さんに提案してみた感じでした。あと、<MONSTER BOX>(JOMO as Ill Clintonが主催していた池袋bedの人気イベント。2011年頃からBLYYも出演していた)のフライヤーとかも描かれていて、本当に格好良いと思っていましたので。
──<MONSTER BOX>に出演するようになって、BLYYは加速していったなと思ったよ。勝手に近しい存在と思っていたBLYYが名物的なイベントにレギュラーで出るようになって。
AKIYAHEAD あの時は自分ら以外がみんなすごくて、頭一つ抜けていたね。それに比べたらBLYYは音源も出してなかった。だから毎月イベントに出演して、ひたすら鍛えてたんだ。オリトラ(オリジナルトラック)なしで、全部レコードのインストでライブをやってね。そこで自分たちのスキルも上がったから、大切な時間だった。
Dzlu ライブのイントロからアウトロまで毎回レコードを変えてたし、オケは2枚使いでやってさ。大変なことしてんなって。
SHINJI 俺は2枚使いも、毎回違うビートでやるのもめちゃくちゃ楽しかったよ。それが仕事だったし、やりがいがあった。そういうものだと思っていたし、Que出しをするだけ以外のライブがやりたかった。
Dzlu 俺らもレコードを買いまくって、SHINJIの家をどんどん狭くしていくんだよね。SHINJIが2枚持ってるのを、俺らも2枚買っていったりしてさ。
──消耗品だから沢山ある分には困らないってね。
SHINJI でも、そういうライブをするアクトは全然多くなかったし、それで東京以外にも呼んでもらったりした。あと、そういうライブをした後、使ったレコードを聴き直したらまた印象も違ってくるし、BLYYのオリジナル楽曲もまた新鮮に聴こえて面白い。
増田さん ワンマンの時は、SHINJIくんにレコードのセットで相談したいと思ってます。元々そのスタイルでライブをやっていたけど、オリジナルを聴きたい人もいるんじゃないかなと思って、<AVALANCHE>の時にオリトラ多めでとリクエストして。その意見をSHINJIくんやメンバーのみんなは聞いてくれたけど、今回、アルバムやEPを出した上で、たとえば『THE SHIT 2』の曲をレコードでやってほしい。SHINJIくんのカットはめちゃくちゃカッコいいから。
──DMJが各曲オリトラとレコードで2回やればいいって狂ったことを言い始めました。
AKIYAHEAD ははは!
DMJ ちょっと時間を空けて、2部構成で。
──ああ、でもちょっと良いかもしれない。BLYYのアナログへの愛はすごく感じていて。今回、SHINJIくんはレコードサンプリングオンリーでトラックを作ったの?
SHINJI そう。プリセットは使わず。
──SHINJIくんといえば、常盤台の高田書房だよね。
SHINJI 高校の頃、DJを始めてた時から行ってるから、25年は通ってる。あのお店との歴史はDJ歴と同じだから。それからのつながりだよ。100枚くらいもらったりしたこともあったな。
──ミックスは今回、全部ツボイさん(The Anticipation Illicit Tsuboi)がやっているよね。それはSHINJIくんがビートを作った“東京無宿”を聴いたときに、増田さんがツボイさんしかないと閃いたからだってXに投稿していて。
SHINJI “東京無宿”のビートができて増田さんに聴いてもらったら「“TOKYO TOKYO(通称ダンプカー)”と(ネタが)同じですね」って言われて、それで気付いた。あれは奇しくも同じだったという形で、俺は完全に意図したわけではないんだ。
増田さん SUMMITで<FUJI ROCK>に出演したときに、宙芳くんに“TOKYO TOKYO(通称ダンプカー)”をイントロにかけてほしいと言っていて、それは誰も気づかない前振りでした。
AKIYAHEAD 確かに!
SUMMIT – Theme Song(FUJI ROCK FESTIVAL ’21 ver.)
SHINJI だから意図してやったことではない。和のテイストのものを一切使わず、和っぽいものができてカッコよかったから、サトシくんに聴いてもらった。それからプリプロしたりして。それから6、7曲くらいまとめて送ったら、増田さんが反応してくれた。たまたまリリースもECDさんの命日だった。
増田さん それも本当に偶然でした。
alled ECDさんやDEV LARGEさんはめちゃくちゃにリスペクトしてます。好きな曲があるという以上に、日本のヒップホップでリスペクトするべき人たち。だから、ツボイさんにミックスしていただいたことはとにかく光栄。彼らがやっていたことは、やれって言われてできることじゃない。本当にあの人たちの曲は生々しいよね。グルーヴからズレたりすると普通は「あれっ」と思うけど、そのズレが人間味になってる。
──俺がBLYYと仲良くなりたてくらいの時に、サトシ(alled)のラップの言葉の置き方が独特だよねって話をしてたら「俺のラップってDEV LARGEまんまじゃない?」って言われた。そう言われると、なんとなく影響が分かる。
alled そうか。ラップで言うと、これまで自分で作ったトラックにラップを乗せることが多かったけど、今回のEPやToosonとの作品みたいにビートをいただけると、ラッパーとして全力でいける。トラックを作ってる時は指揮者っぽくなるから、周りのバランスを取っちゃう感覚もある。これまでは自分でトラック作って、それにラップをしてるから、ズルいんだよ。でも、今回はみんな対等にやれたから、勝負でもあった。
──次、アルバムを作るとしたら、また外のアーティストに頼んだりするの? まだわからないと思うけど。
alled たとえば、パンちゃんやOMSBくん。OMSBくんとはいい加減やらないとって思う。OMSBくんとはやるストーリーが出来ているから。ラップなのかトラックなのか分からないけど。
増田さん OMSBくんはBLYYのことが大好きで、リスペクトしてますよね。今作を作るにあたっても、OMSBくんのビートの話は何度も出たりしました。
alled それに、Hi’Specくんとはこの前やって(『STILL IKE ep』収録“戦う山 -IKB PRIDE-”)、ものすごく相性も良かったからね。OMSBくんのトラックも歪じゃないですか。ラッパーとしてもトラックメイカーとしても異常にレベルが高い。
──B-BOYとしてもね。
alled そう。それと、SHINJIのトラックで考えてるのが何個かある。それに、Young Echo周りのトラックで欲しいのがあったのと、引き続きブンちゃん(NabTok)。あと、DMJ。すごいカッコいいのがあるからさ。でも最近は……なんかキャバクラっぽいんだよな。
──キャバクラっぽいんじゃなくて、キャバクラに飲みに行ってるだけじゃないの。
AKIYAHEAD ははは! でも、すごい良いのがあるんだよ。
alled なんか最近キャバクラっぽいんだよ(笑)。もっとレコードとか買った方いいんじゃないか。あと、俺も実はトラックを結構作ってるから。もう10曲くらいあるよ。それと、宙芳ともやりたいね。宙芳も「東京無宿」なんじゃないの。
増田 宙芳くんとの出会いはいつ?
AKIYAHEAD 俺の柔道部の後輩が宙芳と同級生だった。その後輩に「俺の同級生でヒップホップが好きな奴がいるんです」って言われて、どこかで会った。
──浦和BASEかな。俺の地元のともだちがやってるパーティーで、身内ノリで砕けた感じでやってた。AKIYAはそんなにハマらなくて途中で帰ってた記憶があるけど、挨拶だけした。そこでAKIYAはChaos On Paradeがシリアスなライブをやってるのを観てた。
alled 誰かが飲みすぎて毎回救急車来てたよね。
──めっちゃ怒られた。本当に怒られたよ。「お前、先月も言ったよな」って。その時、BLYYもその当時はIKEBUKURO BLOOD LINEとして毎月出たりしてたよね。
AKIYAHEAD その時期からずっとお互いしぶとく続けてて。それに、宙芳は下北沢で<まぐま>を開催してた。あのイベントはすごかったよ。
Dzlu そうだ。俺はあまり遊びに行けてなかったけど、COBA5000やCASPERR ACEは遊びによく出ていたよね。
alled 俺って行ったことあるかな?
──あるよ。俺とalledが酔っ払って砕けてコミュニケーションを取ってて、「お前はさ」ってalledに言ってたら、COBA5000に「お前サトシくんにお前っていうなよ!」って怒られたり、PUNPEEに心配されたりしてた。
alled たしか、宙芳とテキーラ対決してたら、途中で宙芳がオレンジジュースを飲んでて、「なんでだよ!」ってキレてたんだよね。それ卑怯だろって(笑)。
──(笑)。それで、「東京無宿」っていうテーマは誰が考えたの?
Dzlu それも増田さんだね。
増田 BLYYは前回アルバム出た時に「古代魚」って例え方をしたけど、どこに根を張ってるのか、わかりそうでわからない独自の存在感がある。だから「宿無し」。どこかにカテゴリーされてないけど、つねに根を張ってるイメージが自分の中にあったんですよね。特にどこにも属してないけど、ふわふわもしてない。その孤独の雰囲気。
alled 自分たちでは言いにくいけど、それを増田さんに言ってもらった感じですね。自分たちで言うのはしっくりこないけど、増田さんに言ってもらったからこそ成立してる。
──だから、〈SUMMIT〉に所属しているけど、自主でもリリースしてるし。自由に動くぜっていう。
alled そう。そういう動きも、増田さんとの筋が通ってやってる話だから、増田さんの存在が本当に大きかったなと思います。増田さんは日本のアルフレッド・ライオンだと思う。〈Blue Note Records〉の創設者。増田さんはライブも観にきてくれるし、ジャケットだって確認しに来てくれて、こだわりを伝えてくれる。熱量がすごいんですよ。で、その人も倒れるんですよ。
増田 その人“も”って?
AKIYAHEAD ははは!
alled とにかく次ぎ注いだ時間が半端じゃないから、〈Blue Note〉 がある。それぐらいの熱量があるんですよ。もはや、怖いですから。今回、一緒に仕事をして怖かったのはRamzaくんと増田さんです。虎視眈々と自分の一義を持ってる人間だなって思ったし、だから任せられた。
──増田さんに任せたことも大きな挑戦だったと。
alled そう。前回のアルバムは完全に任せてくれて、その懐の深さを感じた。〈SUMMIT〉とは増田さんで、実際それだけの面倒を見てくれるしっかりとしたレーベルだと思います。だからこそ、場合によっては自主で出すということもできるし、そういう立場でやっていきたいなと思ってます。実際、俺らが良いと思っても弾かれることだってあるけど、これからも自分たちがやる音楽は変わらないです。
──最後に今回リリースパーティがあるよね。俺はできたらヴァイナルセットででできたらやる。COBA5000も打診中なんだよね。
alled そう。今回、BYORAさんの出演が大きいですね。これからやるんだなって気概がある人たち。
Dzlu 全体のバランスがすごく良いですよね。
増田 自分は去年の4月くらいから、「『東京無宿』をリリースするまでライブを休憩しませんか」と言っていたんです。それはライブをやらせたくないとかではなくて、BLYYが新しい作品を発表するとき、BLYYファンのお客さんに新鮮な視点で観てもらえるような機会を作れたらというアイデアが一つあったからです。今回、EPをリリースした時に、せっかくだからこれまでとは違うアプローチでイベントを組めたらと。自分らで主催する時だからこそ、新しいことに挑戦する面白さがあるんじゃないかなって。RamzaくんとK-BOMBさんは日程がどうしても合わなくて断念せざるを得なかったのですが。
alled ひとつどうしても言っておきたいことは、本当はMIYAに出演して欲しかったけど今回は泣く泣く(MIYAは毎月第2水曜日に、青山蜂で開催されているパーティー<BARREL>のレギュラーDJ。DJ YASとともに立ち上げ時からパーティーを支え、2023年で10周年を迎えた)。東京NO.1 DJはMIYA。それだけは間違いないんで。
──それと今日、とんでもないものをもらってきたんだ。CHAKLIKIとDMでやりとりしてて、リミックス・アルバムをブートで作ったから「聴いてよ」って送ってくれた。そうしたらたくさん同じCDを送ってくれてさ。今日インタビューやるから誰に渡せばいいか聞いたら、「聴いてくれそうな人」ってさ。BLYYに会いたがってたよ。不義理をしたから謝りに行かなくちゃって。
AKIYAHEAD ははは!
alled 聴くよ、全員。
聞き手/原島”ど真ん中”宙芳
写真/Banri Kobayashi
取材・文・編集/船津晃一朗
取材協力/池袋knot
INFORMATION
Artist:BLYY
Title:東京無宿
Format:Streaming/DL
Release Date:2024/1/31
No.:SMMT-181
Label:SUMMIT, Inc.
◾️Track List:
1. 東京無宿
Produced by DJ SHINJI
Lyrics by Dzlu, alled, DMJ, AKIYAHEAD
2. どぶねずみ feat. COBA5000
Produced by NaBTok
Lyrics by alled, COBA5000, DMJ
3. 瞼
Produced by dopey
Lyrics by DMJ, Dzlu, alled
4. 膝栗毛 feat. K-BOMB
Produced by Ramza
Lyrics by alled, Dzlu, K-BOMB, AKIYAHEAD, DMJ
5. 瞑僧
Produced by DJ SHINJI
Lyrics by AKIYAHEAD, Dzlu
6. 迎撃 feat. Manonmars
Produced by O$VMV$M
Lyrics by Dzlu, alled, Manonmars
All Recorded by DMJ @ 1on1 Studio
Except M-1 Recorded by Seiki Kitano @Bang On Recordings
Mixed by The Anticipation Illicit Tsuboi @ RDS Toritsudai
Mastered by Colin Leonard at SING Mastering, Atlanta, GA using SING Technology® (Patented).
Artwork by JELLY FLASH
Photo by cherry chill will.
Special Thanks:ena, Ullah
A&R:Takeya “takeyan” Masuda(SUMMIT, Inc.)
℗© 2024 SUMMIT, Inc.
2024.2.17 saturday
OPEN 20:00
KATA + Time Out Cafe & Diner[LIQUIDROOM 2F]
entrance fee ¥2500/over 22:00 ¥1500
20:00〜22:00
Long Set Live:
BLYY
Guest DJ:
原島 ”ど真ん中” 宙芳
22:00〜midnight
DJ’s:
Ena
Hi’Spec
wardaa
MIYA
dopey
H&m(H!ROKi&muccu)
IBJ
SHINJI(BLYY)
LIVE:
BYORA
※22:00以降にお越しのお客様はIDチェックがございます。顔写真付きの身分証明を必ずお持ちください。