MADE IN HEPBURNやYOHLUのメンバーら総勢15名のアーティストによって2018年に結成された、福岡を拠点とするクリエイティブ・ユニットBOAT。海沿いにスタジオを構え、トラックメイキングからレコーディング、ミックスダウンそしてPV撮影までの一連のプロセスを自分たちで行いながら、様々なフォーマットで作品をリリースしている彼らの活動は、地方発カルチャーの新しいスタイルとしてにわかに注目を集めている。

最近ではRin音やクボタカイ、Mega Shinnosuke、yonawoなど、様々な音楽スタイルの良質かつユニークなアーティストが次々と登場し、日本の音楽シーン全体を盛り上げている福岡。今、ここでは一体何が起きているのだろうか。

今回Qeticでは前編・後編と2回にわたってBOATの中心メンバーであるMADE IN HEPBURNのMO/NYとTakahiro Moriyama、YOHLUのBOKEH、そしてラッパーのGOiTOによるインタビューをお届けする。

前編ではまずBOATとは一体どんなチームなのかを紹介してもらいつつ、なぜ福岡からはいつも刺激的なムーヴメントが生まれるのかについて現場の声を聞いた。

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BOKEH(YOHLU)、GOiTO、
Takahiro Moriyama(MADE IN HEPBURN)、MO/NY(MADE IN HEPBURN)
(L→R)

Interview:BOAT

──まずは、BOATがどのような経緯でスタートしたのかを教えてもらえますか?

MO/NY 今から2年くらい前、BOKEHくんが前のバンドを解散してYOHLUで活動し始めた頃だと思うんですけど、僕らMADE IN HEPBURNとYOHLUで集まって曲作りをする機会があったんです。それがすごくいい感じだったので、「自分たちでどこかに物件を借りて、そこでいつでも集まって制作活動が出来たら面白いよね?」という話になって。それで知り合いに声をかけたら、みんな「入りたい!」ってあっという間に10人くらい集まって(笑)。「一人数千円ずつ出せば物件借りられる!」ってところから始まった感じですね。

僕はラジオのディレクターもやっているんですけど、番組で知り合った面白い物件を扱っている不動産屋さんに相談しに行ったところ、天神の海側の外れにボートレース場があって、その目の前にある物件が空いていると。そこは元々質屋だったので、金庫室があってそこで大きな音も出せるっていうんですよ。ちなみに、今僕らがいるところが金庫室だったところなんですけど(笑)。

──なるほど。ボートレース場の近くだったからチーム名も「BOAT」だと。

MO/NY 実はそうではなくて。この物件に出会う前から「名前はBOATがいいよね」と話していたんです。福岡は海が近いし、ボートに乗ってみんなで大海へ漕ぎ出していくっていう意味にもなるし……。これ言うの、ちょっと恥ずかしいんですけどね(笑)。で、たまたま紹介された物件がボートレース場の近くだったので、これはもう神の啓示だろうと(笑)。「物件も借りるしかないし、名前もBOAT以外にないよね?」という話になりました。

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BOAT スタジオ 外観
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BOAT スタジオ 内観

──現在は、総勢15名のメンバーで成り立っているんですよね。

MO/NY そうです。僕が所属するMADE IN HEPBURNは結成して4年目になる5人組のバンドです。前身バンドの半分くらいが今のメンバーなんですけど、そこからカウントすると10年くらいの活動歴になります。

BOKEH 僕が所属するYOHLUは結成から2年くらいの3人組バンドです。ボーカルのKENTOは僕と同じ写真会社の後輩で、音楽未体験だったんですけどバンドに誘って。ギターのZMIさんはネットを通じて知り合い、SoundCloudに上げていた音源がすごく良かったので加入してもらいました。

GOiTO 僕は大分出身で、ラッパーとしての活動は2010年からです。もともとはダンスサークルに所属していて「ちょっと喋ってみない?」みたいに言われて司会から始めたんです。それ以前からヒップホップを聴くのは好きで、自分でもやれるかなと思って始めたのがきっかけですね。住んでいるところは実は佐賀で、長崎辺りを活動拠点にしていました。で、MADE IN HEPBURNのTakahiro(Moriyama)とは中学が一緒で、「音楽やってるなら一緒に何か作ってみよう」という話になって。

Takahiro Moriyama MADE IN HEPBURNのjeff が用意したトラックに、遊びでラップを乗せてみたんだよね。

BOKEH で、レコーディングが終わってからそのまま僕がカメラを持って、スタジオの近くでPVを撮って。

Takahiro Moriyama トラックメイクからレコーディング、PVまで全て1日で終わらせるっていうミラクルな1日があったんです。そんな経験をしたら、もう君もBOATの一員だよね? みたいな(笑)。なので、メンバーの中では僕とGOiTOが一番古い付き合いになるのかも知れないですね。

MO/NY New Oil DealsというバンドからラッパーのToddyとドラムのAppleの2人、シンガーソングライターの虎太朗と、トラックメーカー のMinato Masashiくん、DJのYosukeくん、それから最近入ってきたキーボディストのOsamu Fukuzawaくん。基本的にはみんな、ここに遊びにきていつの間にかメンバーになっていた感じですね。

で、メンバーのうちの虎太朗が新たに始めたのが、〈Arias〉というBOATのネクスト・ジェネレーション版。虎太朗は18歳で、僕らとは年齢が半分くらい違うんですね。彼らは彼らでまた別のシーンというか、20人くらいで集まっている音楽仲間がいて。「BOATみたいな活動がしたい」と言うので「真似してやってみれば?」と勧めて出来たのが〈Arias〉です。

BOKEH ここのスタジオも勝手に使わせていて。昨日も僕が来たら、虎太朗たちが集まってなんか作ってました。「おお、来とったんや」みたいな(笑)。

動画の前半でBOATのスタジオの様子を垣間見ることができる

──なるほど。正式メンバーは15人だけど、割と流動的な集まりなのですね。

BOKEH そうですね。デザイナーとかいろんなやつが出入りしてます。

Takahiro Moriyama 正式メンバーになるかどうかは、フィーリングが一番大事かもしれない。

MO/NY そうだね。「ある一定のノリが合えば自動的にメンバー」みたいなところはあるかも知れない。あと、漫画の『ONE PIECE』方式というか、「これ出来るやつ誰かいないかな」「俺はこれが出来るよ」みたいな感じで、お互いに補い合っているんです。次はバーベキューがやりたいので、料理が得意な人を募集しているところですね(笑)。

──福岡を拠点にしている理由はありますか?

BOKEH 年代的に20代後半から30代前半のメンバーなので、みんなそれぞれ社会的にも仕事が福岡でちゃんと定着しているというか。生活の基盤がしっかりあるからここにいる感じです。

MO/NY 別にヒップホップのレペゼンみたいな感じで「福岡、最高!」と思っているわけでもないんですよ(笑)。メンバーも、中には幼馴染み同士という人もいますが、全員が「10年来の知り合い」みたいな感じでもないし、福岡で音楽を続けていたら、流れ流れて行き着いた場所が一緒だった人たちの集まりみたいな(笑)。

BOKEH どこのシーンにも属せなかった「はぐれもの」の集団というか。居心地いい場所を自分たちでやり始めたんですよね。他に場所がないから。

Takahiro Moriyama 僕らの世代は上京しないと音楽活動が成立しない、ギリギリの世代だった気がして。実際、僕もBOATが出来る前は上京したいと思っていましたね。残酷な時の流れでどうにも出来なくなり(笑)、それでも音楽は続けたいというその一心でずっとやっているところはあります。そういうふうに思っていた世代の集まりなのかなとも思いますね。

MO/NY ギリギリそれが出来る街が福岡なのかも。例えば宮崎や鹿児島など他の県に住んでいて、もし僕らみたいなことをやろうと思ったら、もっと若い段階で「上京しよう」ってなるかも知れない。あと、例えば女の子が大学へ行く時「上京する」というと親が止めるけど、福岡なら「まあいいよ」みたいな(笑)。それで福岡には女の子が多いという説があるんですよ。福岡って、そういう大阪や東京へ行く手前の「ワンクッション」的な役割があるんですよね。で、ワンクッションのはずが居心地良くて、そのまま住み着いちゃうっていう(笑)。

もちろん、熊本にも宮崎にも面白いシーンはあります。ただ、そこにフィットしなかった人たちが、福岡に拠点を移したらうまくいくこともあるし、それでも僕らみたいに何となく「はぐれもの」同士で集まってしまうことも起きうるのかなと。

BOAT RADIO MIX – beats to relax/study to/chill

BOKEH あと、僕らくらいの年代だと遊びに行くときに例えば居酒屋とかクラブとか、発散の遊びしか無くなってくると思うんですよ。そんな時に溜まり場みたいなものがあれば、ずっと続けられるというか。ここで生活の基盤を築きながらも、音楽や映像など好きなことを自然体で続けられるのが大きいのかなと思っています。

MO/NY それはあるかもね。

BOKEH 「今日、ちょっと遊びたいな」と思ったときに「じゃあ居酒屋へ飲みに行こうや」じゃなくて、ここに来てピザとか食いながら(笑)、曲を作って遊べた方が断然楽しいし。これがバンドとかだと、例えばメンバーの1人が「結婚して子供できた」とか、「今の仕事辞めて転職するわ」ってなったら活動ペースが止まったりするじゃないですか。でも、これだけメンバーがたくさんいれば、みんなでそれを補うことも出来る。止まらないでいられるのは大きいと思うんですよね。

MO/NY カルチャー的な受け皿があるというよりは、経済的な面や住み心地のよさ、都会過ぎないけど田舎すぎないところが福岡にいる理由なのかも知れないね。

Takahiro Moriyama 音楽やカルチャーに支払われる価値観が全く違うと思います。東京じゃないと成立しないカルチャーに、やっぱりまだ音楽も含まれている気がして。そこはこの街にいてすごく苦労するところでもあるし、やり甲斐に感じる部分でもありますね。

BOKEH あと、以前YOHLUは韓国でライブをやったんですけど、韓国って福岡からめちゃめちゃ近いんですよね。近いから東京に行くノリで行けてしまうのはよかった。

MO/NY コロナ以前は福岡自体が「アジアの玄関口」みたいなキャッチフレーズを打ち出し、市が旗を振って動いていたんですよね。「アジアに向けて、福岡を発信していこう」みたいな。ここにいると、そういうのに乗っかりやすい部分もあるかも知れないです。

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BOAT スタジオ 屋上

──先ほどTakahiro Moriyamaさんが「音楽は東京じゃないと成立しないカルチャー」とおっしゃいましたが、とはいえ福岡からはMega Shinnosukeやクボタカイ、Rin音、ShunMaruno、yonawoなど、ユニークで良質なアーティストが次々と登場しているイメージがあります。

BOKEH 確かに、このところポンポン天才が出てきたよね(笑)。

GOiTO やっぱりSNSやYouTubeによって、いい意味で「開けた」ところはあるかも知れない。僕はずっとクラブを回ってきましたが、やっぱり縦社会なんですよね。「出る釘は打たれる」みたいな風潮って、僕らの世代では普通にあった。でも、今は天才たちがそういう風潮に潰されず、ネットで躍進できるようになったのは大きいんじゃないかなと思います。しかもクボタカイくんやRin音くんたちは、クラブシーンの中でもちゃんと一目置かれている。

Rin音 – Summer Film’s feat. クボタカイ, 空音

──ネットの普及により、わざわざ東京まで行かなくても配信などで全国展開できるようになったのも大きいかも知れないですよね。

MO/NY ただ、実際の再生数やCD売上枚数でいえば、東京の方が断然多いんですよね。昔から、「東京のものを福岡に持ってくると規模が10分の1になる」と言われていて。今もまだそういう状況ではある。

BOKEH 作っているのは福岡だけど、聴いてくれているのは東京や大阪だったりするわけですよ。Spotifyの再生回数を見ると、BOATの音源は1位が台湾で、東京、大阪の順に多く、かなり下の方に福岡が来るっていう(笑)。作っているのは地元だけど、受け皿はいろんなところにある今の状況は、逆に面白いなあとも思いますけどね。

──居心地の良い場所で生活しながら、作品は世界各地に届けられるのは理想的かも知れないですね。

BOKEH それを体現してくれているのはRin音くんですね。僕らはまだまだこれからです(笑)。

MO/NY あと、例えばyonawoの初期の作品はGarageBandで録音したものを、そのまま出しているようなサウンドだったし、Rin音くんやクボタくんも、最初はいい意味でラフな感じだった。それでいてかっこいいサウンドを作り出しているのも大きいですよね。で、「どうやったらそんなかっこいい音になるの?」みたいなことが周囲で共有され、レベルが底上げされていくという。そういう、SNS上のコミュニティが形成されているのかも知れないですね。「ライブハウスで情報交換していく」のとは全く違う動きがあるような気がします。

BOKEH 僕らはもともとバンドマンだし、GOiTOくんもずっとクラブで回していたし、どちらかというと「叩き上げ世代」なので(笑)、今の世代のメソッドを学びつつ、曲作りなどは自分たちのやり方でやっている感じですね。なので若い子たちへのリスペクトはめちゃくちゃありますし、若い世代のアーティスト達がBOATへ気軽に遊びにきてくれるのは本当に嬉しいです。

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制作スペースでの一コマ

次回はBOATメンバーが注目する福岡のカルチャースポットをご紹介!

Text by 黒田 隆憲
Photo by KENTO(YOHLU)
Powered by NexTone Inc.
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BOAT
福岡で活動するバンド、ラッパー、トラックメイカー、DJら15人で構成されるクリエイティブクルーBOAT。福岡の中心街・天神の北部、競艇場前に位置する質屋の金庫を改装したスタジオを拠点に楽曲制作から、撮影、BBQまでをクリエイティブする。メンバーはMADE IN HEPBURN、YOHLUのバンド勢に加え、ラッパーのGOiTO、New Oil DealsからToddy、Apple、18歳のSSW虎太朗、DJのYosuke、minato masashiが所属。

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INFORMATION

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福岡を中心に活動するYOHLU、MADE IN HEPBURNなどがメンバーとして所属するクリエイティブ集団「BOAT」のレーベル初となるコンピ“電影港湾地区 -BOAT MIX TAPE-(タワーレコード限定)”のリリースを記念して、タワーレコードのアパレルブランド「WEARTHEMUSIC」とコラボ商品を発売。また、「BOAT」のオリジナル商品も取り扱いを開始。どちらも数量限定のためお早めに。
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YOHLU – FLIGHT LIGHT [Prod.Peach Boi] (Official Music Video)

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Times

2020.06.24(水)
GOiTO
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BOAT
¥1,500(+tax)

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poolside

2020.07.03(水)
MADE IN HEPBURN
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MADE IN HEPBURN – マゼンダ | TOWER DOORS