サウスロンドンにある〈Going Good〉というインディペンデントレーベルは、音楽通をも唸らせる独自のセレクトでUKアンダーグラウンド・ミュージックシーンに確固たる個性を示してきた。レコードストアの新着を隈なくチェックするミュージックラバーにとってはお馴染みのレーベルだろう。
しかしながらリリースされていく作品に対し、一貫した音楽フォーマットを定義、予期する事は難しい。Moon B、Aquarian Foundation、Yoshinori Hayashi、Anom Vitruv、Cloudface、Nummer、Ewan Jansen、Todd Modes等々、個性豊かなアーティストによるリリースは、ハウスであり、テクノであり、アンビエントであり、ダブであり、掴み難い様相で展開されていくからだ。
Moon B – “Untitled 4”
Aquarian Foundation – “Hardtalk(Video Edit)”
Nummer – Marvin(Excerpt)
そんな一筋縄ではいかない型を持ちながら我々に接触し続けるGoing Good。この度レーベルオーナーの1人であり稀代のレフトフィールド・レコードディガーであるDJ、Brian Not Brianが、GG同盟、Yoshinori Hayashiが主催する<ジ・異常>へ召喚される運びとなった。
恐らく彼のDJを生で感じる事が出来ればいくつかの疑問は解消されるのであろうが、この度彼らが放つ蠱惑な光の正体をBrian本人からインタビューとして伺う機会を得た。彼による初来日のプレイである今回のパーティーの予習として、GGヘッズには”レア”なインタビューとして御一読頂きたい。
INTERVIEW:Brian Not Brian
──こんにちはBrian。まずはあなたについて、DJを始めたキッカケ、そしてそれがどの様にGoing Goodというレーベルを始めるに至ったのか聞いてもいいですか?
本格的に始めたのは1993年、北アイルランドのベルファスト郊外にあるアントリムという小さな町からだった。その頃、「Yo! MTV Raps」を見て、ミュージック・ビデオでスクラッチやDJを見たことがきっかけで興味を持つようになったんだ。それから初めてのターンテーブルを手に入れたけど、当時はレコードもほとんど持っていなかったよ。地元のユースセンターでポップスやダンスミュージックをプレイしていた地元のDJも刺激的だった。レコードをミックスしているのを見たのも聴いたのも、彼が初めてだった。
子供の頃は、彼のDJセットに合わせてローラースケートをしていたよ。その後、DJカルチャーや音楽全般に興味を持つようになり、いつか自分のレーベルやプラットフォームを持つことは自然な流れだと感じていたけど、実際は何年も何年も白昼夢の様に漠然としたものだった。22年前にベルファストを離れ、ロンドンに移ってから間もなくSalik(サリク)と出会ったんだ。彼はそこで最初にできた友達の一人で、当時は気付かなかったけど、彼と僕は同じような考えを持っていたんだ。Salikは地元でジャングルのサウンドシステムクルーとして何年もパーティーやクラブナイトをやっていて、僕は90年代からノンストップでクラブやフェスティバルでDJをやっていた。何年もつるんで、様々なパーティーでプレイして、音楽文化を共有して、名を上げていって……そう、2人の間でレーベルができるのは当然のことだったんだ。そして2012年、〈Going Good〉は誕生した。もしMoon Bが、彼の初期の音楽を送ってくれていなかったら、レーベルは始まってなかったかもしれない。
Moon B – “Untitled 6”
結果的にレーベルを始める上で最高の形となった。両親とSalikが最初のリリースに資金援助してくれて、発売されるとレコードはすぐに売り切れた。
その後ノルウェーで、Sex Tagsブラザーズの「Graff Et Grill」セッションのために滞在していた時に彼等と出会ったことで、レーベルは知名度を上げて皆に知られるようになったんだ。
──レーベルメイトのサリクはどのような人ですか?
サリクは寡黙な男だ。脚光を浴びないことを好み、すべての注目と雑音を避ける。彼は自分自身の中に閉じこもっている。だけど、彼は本当に音楽が好きで、最高のスキルを持つDJでもある。あまり頻繁にはプレイしないが、プレイする時は毎回とても特別な時間となるよ。彼とは一番長い付き合いになるね。クソみたいな日雇い労働、クソみたいなアパート暮らし、山あり谷あり、いろんなことを一緒にしてきた。僕と彼の関係は、昔から変わらない。僕たちは〈Going Good〉に関連するすべてのことを一緒に行い、それぞれレーベルに異なるスキルや強みを与えあっている。サリクは地球上で最高の友人の一人だよ。
──レーベルのリリースに関して、どのような形で決定を行っているのでしょう?
リリースに関して、僕たちはとても時間をかけるているよ!(笑)生活の中で、まじめに何度も何度も音楽を聴いている。時間をかけてその音楽を知り、吸収し、疑問を持ち、研究する。そして、それを世に問うべきかどうかを考える。風呂場で、自転車で、犬の散歩で、ご飯を作りながら、仕事をしながら音楽を聴き、クラブやラジオでトラックを流して、試してみるんだ。日常的なシチュエーションで音楽を聴く事は重要だろう? いろんな場所でどんな風に聴こえるのか、聴いてみたいんだ。そして、1〜2年後、そのプロジェクトがまだエキサイティングだと思えたり、聴いていて同じように感じたら、リリースを検討する。この方法は、今のところうまくいっているね。
基本的に、何カ月も何カ月も生活と共に音楽を聴いていき、それでもエキサイティングだったらリリースする。それだけだ。僕たちが惹かれるのは、人気を得るためではなく、自分のために音楽を作っている人たちだと思うんだ。実際、僕たちは、友人や家族のような人たちの音楽を聴くのが大好きなんだ。彼らは最新のハイプサウンドやプロデューサーなどには興味がないし、僕たちもそう。基本的に、ある音楽が自分に影響を与えたり、何らかの形で興奮させたりするのであれば、僕たちはその音楽をリリースすることに興味を持つだろう。
──レーベルが持つ最大のコンセプトは何ですか?
Salikと僕は、何年もかけて大量のレコードを買い集めた。僕自身、ロンドンの様々なレコード店で10年ほど働いたこともあるんだ。当然、たくさんのレコードを掘ったよ。レコードを買うことに関しては、Salikよりも僕の方が少しクレイジーだったかもしれないね。〈Going Good〉では、レーベルは自分たちがレコードを買ったり掘ったりすることの延長線上にあるものだといつも話していた。レーベルは、僕たちが好きなジャンルやサウンドが集まった、潜在的な家の様なものなんだ。僕たちは何でも興味があるし、僕たちにとって音楽に国境はなく、ジャンルも気にしない。自分たちがやりたいことを独立してできるプラットフォームが欲しかったんだ。そして現在も、自分たちが信じる音楽をリリースしているんだ。
──あなた方が聴いてきた音楽をはじめとするアートで、レーベルのプロダクトに大きな影響を与えている物は何ですか?
僕たちは、あらゆる文化、カウンターカルチャー、政治、創造的または対立的なムーブメントから大きな影響を受けている。スケート、グラフィティ、ヒップホップ、ストリートウェア、様々なDIYシーンやジン、ジャズ、ダブレゲエ、ジャングル、テクノ、アンビエントやサイケデリック音楽、アートやデザイン、建築、バイクやサイクリング、過去半世紀のインディーズレコードレーベル、犬かき、あらゆるサンプルベースの実験音、その他もろもろ。僕たち2人は10代の頃からこれを続けている。手に入るものはすべて吸収してきた。二人とも退屈な郊外で育ったので、エキゾチックなものなら何でも、高尚なものでも低俗なものでも受け入れてきた。
これらの要素は、僕たちの日常生活や物事への取り組みに大いに役立っている。僕たちは、人間の最も奇妙な側面にまで受け入れるよう、チャンネルを広く保つように努めている。耳を傾け、心を開くんだ。
──レーベルにおけるリリースがあなたのDJプレイに与えている影響はどの様な物ですか?
DJとして、またレーベルオーナーとして、新曲や未発表曲を人前でプレイして、大きな反響を得られるのは何よりの喜びだ。まだ誰も聴いたことのない音楽だから、地元のレコードショップの壁に貼ってあるトップ10のレコードをプレイするよりも意義のあることだと思う。特別なものをプレイして、人々を楽しませる事が出来るんだ。自分のレーベルからリリースされる作品でみんなを楽しませる。これ以上に素晴らしい事はないよ。とても特別な立場である事を自覚して、作品を尊敬し、大切に扱っている。贅沢な気分だよ。
──あなたは相当なレフトフィールド・レコードのディガーと伺っておりますが、お気に入りおのレコードを数点教えてください。
僕にとってのなレフトフィールドとは、それ自体が確固たるある種の音というよりも、精神的、様式的なアプローチの事を指している。それはアプローチの問題なんだ。物事と物事の間にある目に見えないつながりを見て、それを繋ぎ合わせるということ。どんなにバラバラなつながりでもいい。自分のアプローチの上で、なレフトフィールドという言葉を使っているだけなんだ。最近、この言葉が間違って使われていることが多いように感じている。僕の勘違いかもしれないけど。
DJとはどんなジャンルのレコードでも自由にかけることができ、しかもそれをある種の理にかなった形で提示することができる。DJプレイというのは、僕にとって自由そのものなんだ。自分にとって、それを象徴する10枚のレコードを紹介しよう。この内の5曲は昨日と今日で大きく変わるかもしれないけど、今の僕にとってこの10枚は間違いなく重要な10枚だ。
Alphonso Johnson – Pandora’s BoxEpic, 1976)
Michael Bundt – The Brain Of Oskar Panizza(Offers Musik Produktion, 1977)
Meat Beat Manifesto – Mad Bomber/The Woods(PIAS, 1996)
Blistering Moments – 77 Seven, I Guess(Dead Man’s curve, 1986)
The Blue Men – Valley Of The Saroos(RPM Records, 1960)
Close Up Over – Caz(Warp, 1993)
iO – Claire(Mo Wax, 1995)
Camberwell Butterflies – Butterflyswing(Chill Out Label, 1994)
Xes Noiz – Suntan, Black Or White?(Nation Of Noise, 199?)
Barry Reynolds – Till The Doctor Gets Back(Island Records, 1982)
Michael Bundt – The Brain of Oscar Panizza
iO – “Claire”
Barry Reynolds – Till The Doctor Gets Back(1982)
──今回あなたを召喚したYoshinori Hayashiについて、彼の音楽やDJプレイの印象を教えてください。
Yoshiが最初に連絡をくれたとき、とてもクールな曲を送ってくれたんだけど、その時点では100%自分たちのレーベルに合っているとは思えなかったんだ。そのことを伝えると、彼は「わかった、もっと送るよ!」とクールに言ってくれた。このスタンスが好きだったんだ。だから、次に彼から連絡があったときは、きっと特別なものになるだろうと思っていた。その直感は正しかったよ。数ヵ月後、Yoshiは今や名盤となった『End Of The Edge EP』を送ってきたんだ。
私たちは何週間も彼の音楽を何度も聴き、頭をかきむしりながら「この音楽は何だ!」と問いかけていた。明らかに、僕らにとって完璧なレコードだったよね? 日本の音楽と文化の長年のファンとして、日本の誰かが私たちのレーベルからリリースされることに興味を持ってくれたことを光栄に思っている。この作品は、僕らが関わったリリースの中でもベスト盤のひとつだし、みんなに一番聞かれるレコードのひとつでもあるんだ。DJとしての彼は、本当に独創的なスタイルを持っていると思う。彼の音楽はサイケデリックで、サンプルを多用し、最高に奇妙なんだ。僕らが好きなディープ・ディギング・スタイルだね。彼のプレイがとても楽しみだ。
Yoshinori Hayashi – “Geckos/守宮”(GOOD-07 Snippet)
──今回が初来日と伺っておりますが、どのようなDJプレイを予定しておりますか?
初来日はマジで心躍る提案だったよ。ずっと前から行くのが夢だったんだ。とてもとてもエキサイティングだ。正直に言うと、僕はDJセットの計画を立てたことがないんだ。音楽を聴いて選ぶのに多くの時間を費やしているが、そこまでが限界で、それ以外のことは、その場、そのクラブで決めている。その場の雰囲気に合わせて、次に何をやるかを決めるんだ。あまりに計画を立てすぎると、ハッピーアクシデントや新しい体験ができる余地がなくなってしまう。僕は、そういったものに対して、ドアを少し開けておきたいんだ。様々なスタイルで、様々なサウンドをプレイし、人々がそれを楽しみ、何か特別なものを作り出すことができればと思っているよ。
Photo by Merve
Provided by ジ・異常クルー
Edited by Koichiro Funatsu
INFORMATION
Light In Harlem Special
2022.12.16(金)
OPEN 23:30
ENTRANCE ¥2,000(Inc.1 Drink)/UNDER 23 ¥1,000(Inc.1 Drink)
KYOTO MUSE(〒600-8006 京都市下京区四条通柳馬場西入 ミューズ389)
Brian Not Brian
42Texture
ntank
Ryogo
Utano
ジ・異常
2022.12.17(土)
OPEN 21:00
ENTRANCE ¥3,000
CUBE(東京都港区麻布台3-4-11)
Brian Not Brian(Going Good)
Yoshinori Hayashi(Going Good)
GOLD 43
DJ Tap water