2017年より韓国・ソウルを拠点に活動するフリー・セッション・バンド「カデホ(CADEJO)」。ソウル、ジャズ、ロック、レゲエなどジャンルを自在に駆けめぐりながら奏でる即興音楽は自由そのもの。彼らの活動や作品のキーワードである「FREE」を、音楽でそしてライブパフォーマンスで常に表している。

カデホは、イ・テフン(Gr. / Vo.)、キム・ジェホ(Ba.)、キム・ダビン(Dr.)という3ピースバンドだが、もう一人クリエイティブ・ディレクターのイ・スンジュンも正式メンバーとしてクレジットされている4人組のバンド。音源制作、ライブ、イベントという音楽活動のルーティンはベースにありながら、カデホがユニークなのはインディペンデントでありながらもファッションブランドとのコラボレーション企画や、〈VANS〉や〈Maker’s Mark〉などさまざまなメーカーのスポンサーシップイベントなど音楽関連以外のチームとの協業、コラボレーションも活発に行っているところだ。

音楽面では、カデホのほかにもメンバー3人が個々にさまざまなミュージシャンとバンドを組んだり、サポートで参加するなど柔軟に動いている。常に最大限の情報量をもつバンドなのに、音楽は風通しよく、メンバーはいつも自然体。こうして、流動しながらも「カデホらしい」オリジナルのスタイルはどうやって築いてきたのだろう? そのヒントを知るために、ギター&ボーカルのイ・テフンとクリエイティブ・ディレクターのイ・スンジュンに話を聞いた。

INTERVIEW
CADEJO

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左から、イ・スンジュン(クリエイティブ・ディレクター)、キム・ダビン(Dr.)、キム・ジェホ(Ba.)、イ・テフン(Gr. / Vo.)

ミュージシャン+クリエイティブディレクター
というチームだからこそ進化できること

──カデホはどのように結成されたのですか?

イ・テフン(以下、テフン):2017年10月に<SEOUL FOREST JAZZ FESTIVAL>というフェスが開催されたのですが、直前にフェスのスタッフから「出演予定のバンドがキャンセルになったので、代わりにバンドで出演できませんか?」と依頼があって。それで、当時よくジャム・セッションをしていた、キム・ジェホ(Ba.)とチェ・ギュチョル(Dr. / 過去のメンバー)を誘って、フェスに出演するために3人でバンドを組んだことがきっかけで始まりました。

イ・スンジュン(以下、スンジュン):僕は、もともとテフンさんと知り合いで、会ってご飯を食べる仲でした。僕はビジュアルメイキングの仕事をしていたので、いつもメイクやスタイリングなどアーティストのビジュアルを作り込んでいたのですが、テフンさんは、ライブ本番にラフなサンダル姿でふらっと現れて、そのままステージに上がって演奏し始めて。その姿がすごく格好良く感じたんです。僕は仕事柄どんなビジュアルが人の目を惹くのか、ということを常に考えているけれど、テフンさんのステージは「この人と一緒にもっと面白いことができる」と感じさせるパワーがあったんです。テフンさんは、ボーカリストのサポートギターや、色々なバンドのセッションに参加していましたが、「もっと売れるバンドをやってみませんか?」と声をかけてスタートしましたね。

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──ストレートなお誘いですね(笑)。テフンは、急遽組んだバンドではあったけれど、良い手応えを感じたのですね。

テフン:ほかの2人とは、フェスに出る前からよくジャムセッションをしていたのですが、いつも何も準備していないはずなのに、不思議とすごく良いライブができる。その感覚はみんなそれぞれ感じていたので、フェスの出演をきっかけに「まあ、なんかやってみるか」という流れですね。

──スンジュンは、カデホのメンバーでありながら、クリエイティブ・エージェンシー〈Teleport〉共同創業者でもありますよね?

スンジュン:はい。協業しているブランドとしては韓国内の〈NIKE〉、〈VANS〉、お酒の〈火尭(ファヨ)〉、不動産系の〈今日の家(オヌレチプ)〉、〈現代(ヒョンデ)カード〉とか。大手企業のブランドイメージに関わる事業をしています。カデホが〈Teleport〉に所属しているわけではないので、僕がカデホと〈Teleport〉に同時に所属しているからこそ、互いにサポートし合いながら、相乗効果が生まれるよう両立させながら動いています。

僕はカデホのメンバーですがミュージシャンではないので、役割が曖昧でした。最初はスケジュール管理など、いわゆるマネージャー的な動きをしようと思っていたけど、自分が得意なビジュアル・ディレクションなどできることを全てやるようになっていって。でも僕は実際にステージに上がっていないし存在として見えないので、周りから違和感をもたれたり、バンドにとっても良くないイメージがつくかもしれないと当時は懸念もありました。でも、みんなでシェアしないといけない収益ができた時に、テフンさんが「スンジュンはメンバーだよ」と言ってくれて。

テフン:僕たちは、弘大(ホンデ)の音楽シーンなど、現場でやれることは、ほぼ全てやっていました。でも、スンジュンがMVやアルバムジャケットのビジュアル作りを手掛けてくれて、ブランドとのタイアップ、フェスへの出演など、これまで通りやっていたらできなかった仕事をとってくれてきて。カデホとしてスンジュンが担う仕事の割合が多くなっていけば、それはバンドのメンバーだし、そのおかげで活動範囲も広がっていったんです。

──その後ドラマーがキム・ダビンに代わって現体制になり、カデホの活動が加速していきましたね。メンバーにクリエイティブディレクターがいるユニークな編成ですが、バンドの活動は順調に進んでいったのですか?

テフン:音楽的な部分だと、ジェホと前のドラマーのギュチョルと3人でやっていた時は、お互いのことを知り過ぎて好みも似ているからこそ、自分たちは楽しんでいても客観的に見ることができなかったと思います。ドラマーがダビンに代わったことで音楽的にも変化して、さらにアルバム『FREEBODY』の制作時にスンジュンから「こんなに曲数があるのに、なんでタイトル曲がないの!?」と言われて。そんなこと今まで誰にも言われてこなかったので、ちょっとイラつきながらも、“Love Your Harmony”を作ったんです(笑)。

CADEJO – Love Your Harmony

──なんと! “Love Your Harmony”は、カデホのライブに欠かせないお客さんとのコール&レスポンスがハイライトになるアンセムですよね。

テフン:はい(笑)。

スンジュン:生意気なことを言って(笑)。楽曲制作については、3人に95%くらい任せています。5%は自分もカデホと一緒にいることで受けた音楽の影響を反映している部分です。

テフン:スンジュンがいたからこそ、自分たちの音楽にも大衆的な目線を加えることができたし、進化できたんだと思います。

──カデホのチームのバランス感覚がつかめてきた気がします。きっと周りにも同じような活動をチームでしたいミュージシャンもいますよね。

スンジュン:最近だと、韓国のバンドJisokryclubが、バンドのマネージメントを彼らの音源流通会社〈THE VAULT〉の担当者が始めると発表していました。より自分たちらしく活動しようとする動きだろうし、カデホの活動スタイルとも近いなと感じました。

テフン:今は、レーベルやメーカーに頼らずにアーティストが主体的に動けるネットワークがオンライン上にあるので、特にHIP HOPのアーティストや、バンドだとバーミングタイガー(Balming Tiger)などは幅広く、自由度も高く活動しているなと感じます。

──そうですね。カデホは大手のブランドや企業とのコラボレーションも積極的に行なっていますよね。日本だとインディペンデントなバンドが大手とタイアップすることはまだ少ないイメージがあります。

テフン:2019年に〈VANS〉の音楽部門のコンペティションで優勝してスポンサーができたことは、バンドにとって大きな影響がありましたね。

スンジュン:そうですね。〈VANS〉主催の<Vans Musicians Wanted>というミュージシャンのコンペティションがあって、多数の応募ミュージシャンの中から優勝すれば、イベント出演やグローバルでの音楽配信などさまざまな音楽活動のサポートが受けられるというものでした。

テフン:コンペの決勝の時、僕はバカンスでイタリアに行っていたのですが、スンジュンに「決勝に出場しないといけないから、早く帰ってきて!」って言われて、実際に出たら優勝できたんです(笑)。

スンジュン:最終まで残ることができて、これは勝てるという確信があったので、テフンさんを海外から呼び戻してでも出演しました。僕たちが出場した2019年のラインナップには今バーミングタイガーのメンバーとして活動するラッパー、マッド・ザ・スチューデント(Mudd the student)もいましたね。

テフン:思い返してみると、このコンペで優勝したことがバンドのイメージを良くしてくれるものだし、こういう初期のポートフォリオが自主企画をするうえで力になってくれることは多くあると思います。

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自分たちのエッセンスを蓄積して、
流れにそって動き続ける

──バンドとしての活動も精力的ですが、同時にメンバー個人の音楽活動も多岐に渡ります。今年だと、テフンはBTSのRMの2ndアルバム『Right Place, Wrong Person』に参加し、ミュンヘンのアーティスト・イン・レジデンスで制作活動をしていましたね。ジェホとダビンは、民謡歌手のチュ・ダヘ(ex. Ssing Ssing)のバンド・チュダヘ・チャジス(CHUDAHYE CHAGIS)と、サックス奏者のキム・オキのバンド・キム・オキ・ファッキング・マッドネス(Kim Oki Fucking Madness)のメンバーでもあり、ジェホはエレクトロニックアーティスト・シピカ(CIFIKA)のサポート、ダビンはフランスのアーティストLewis Ofmanとコラボ、テフンとダビンは俳優でアーティストのペク・ヒョンジンのバンドのメンバーでもあり……たくさんあって挙げきれません!

テフン:それぞれ気ままにやっています(笑)。僕たちはプランを立てて動くのが好きではないので、自分たちがやりたいことをやりたいタイミングでやっていたらこうなっていますね。バンドのスタイルは色々あると思います。例えば、水が溜まって深く広がる湖のように、コンセプトにあわせて自分たちの形を維持しながら広げていくバンドがいるとしたら、カデホは常に流れに沿って進んでいく川のようなバンドが目標なんです。

イ・テフンが作曲で参加したRM(BTS)の楽曲”Nuts”

キム・ジェホとキム・ダビンが参加するチュダヒェ・チャジス”Ritual Dance”のパフォーマンス動画

──カデホは、毎週末のようにライブを行なっているようなイメージですが、たくさんのオファーがある中でどんな基準で出演を決めているのですか?

テフン:まず自主企画の<FREESEASON>が最優先で、仲の良いバンドにも誘われたら出たいと思っているけれど、最近スケジュールが厳しくなってきました。<FREESEASON>は、回を重ねるごとに自分たちのエッセンスが蓄積されているのを感じるし、今後はもっと力を入れていきたくて。

スンジュン:僕の視点で言うと、まず視覚的にカデホのスタイルと合うのか。どんなハイブランドからのお誘いがあったとしても、カデホに似合わないものは断ります。あとは、相手がカデホというアーティストをどのように考えているかも大事ですね。リスペクトし合える関係でいたいので。最後は一応小声で言いますが、対価です。お金はすごく大事ですね(笑)。

──とても大事です(笑)。<FREESEASON>はvol.09まで開催していますが、最初はどのようなコンセプトで始まったのですか?

テフン:正直、カデホのストリーミングの再生回数はあまり良くありません。理由は明確で、カデホがエネルギーを注いで売りにしている音楽的な要素は「音圧」だから。MP3やヘッドフォン、家のスピーカーの環境では聞くには表現しづらい部分だし、ストリーミングでその良さを理解しもらうことは無理だからこそ、自分たちの音圧を最大限に表現するために、自分たちが思い描くライブを沢山やっていこうと始まりました。

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スンジュン:昼間にお酒を飲みながら日差しの下にいるのが大好きな人たちなので、その環境を実現できるのが<FREESEASON>なんです。それと、自分はバンドのマーケターでもあるからこそ、観客に新しい経験を提供したいと考えていて。カデホの音楽だけでももちろん新しい経験は作っていけるけれど、例えばハンバーガー店を会場にしたり、装飾を面白くしたり……色んな合わせ技を効かせていきたいんです。4月に聖水洞で行った<FREESEASON>は、〈VANS〉と〈Maker’s Mark〉がサポートしてくれて無料で開催できました。若い人がたくさん集まるエリアで、偶然通りがかった人も気軽に入ってこられる会場にして。自然光がたっぷり入る広い環境で、センターにステージがあるという演出も今までやってきた<FREESEASON>の中でベストでしたね。

テフン:毎月こんな<FREESEASON>ができたらカデホとしては成功です!

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──今年は、3月に東京3days公演も成功させ、日本で初となる単独公演ではサウンドエンジニアの内田直之さんと共演しました。11月は〈BEAMS RECORDS〉とのコラボレーション企画で来日し、浅草の「フグレン」や阿佐ヶ谷の「Roji」というユニークな場所でライブをやるなど日本での活動も面白くなってきましたね。

スンジュン:カデホとしても、ノクサル×カデホ(NUCKSAL×CADEJO)としても公演ができたし、〈BEAMS RECORDS〉とのコラボもそうですが、今後も自らきっかけをつくって日本で活動したいです。日本のプロモーションチームとも信頼関係を築けているし、もっと日本で活動を広げていけるという可能性も感じています。ライブの共演をきっかけに制作する内田さんとの新作は日本での活動によりフォーカスを当てるものなので、来年はさらに楽しみです。

〈BEAMS RECORDS〉で行ったインストアライブ

テフン:来日公演で印象的だったのが、ライブのあとにお客さんからの音楽に対する具体的なフィードバックをたくさんもらったことです。カデホというチームに対しても、ライブに対しても真剣に向き合ってくれているのを感じてすごく嬉しかった。カデホはより良い音楽を探求しながら続けていきたいので、音楽についての話ができるファンが増えてくれるのはすごく良いことだし、日本ではそういうファンの方と出会えると思っています。あと個人的な目標としては、<FREESEASON>公演だけで成り立つバンドになること。ソウル、東京、台北などアジアを周って年に12回できたらいいですね。それができるくらいの<FREESEASON>というブランドを作りたいです。日本はその目標に近づくことができた場所。来年は日本のフェスにも出演したいし、自分たちが目指す音楽活動につながるよう進んでいきたいですね。

Interview&Text:AJIMI
Translation:Kim Dejong

INFORMATION

バンドの概念を自在に変えていく──CADEJO(カデホ)というアーティストたちのチーム・ワーク Cadejo_Album_Tuple_Cover

Tuple

2024.11.27
CADEJO
 
Track List
1. Image #4
2. sun in my eyes
3. Don’t Break My Heart
4. Eye On The Ceiling
5. today
6. sunken island
7. Jamerson Rock
8. Woo-Woo-Ah-Ah

詳細はこちらCADEJO