9月18日(土)に日比谷野外音楽堂で、Caravan主催のライブが行なわれる。出演はCaravanと、GOMA & The Jungle Rhythm SESSION。「このコロナ禍で飲食店もミュージシャンもみんな大変な思いをしているなか、それでもカラダひとつでクリエイティブに活動を続けているひとと一緒にやりたいと思って、真っ先に浮かんだのがGOMAちゃんだった」。そんなCaravanの思いから実現するスペシャルなツーマン・ライブだ。

Caravanは言葉とメロディを大事にしながらギターを弾いて歌うシンガー・ソングライター。一方、GOMAはオーストラリア大陸の先住民アボリジニが作った伝統的かつ神聖な楽器であるディジュリドゥをダンスミュージックにミックスさせて吹き鳴らすミュージシャン。「歌」の表現と「振動」の表現、叙情の表現と躍動の表現といった具合に、それぞれのスタイルは一見全く違うものに見える。だがしかし、異なる部分以上に、実は共通する部分が多いのだ。それはどういったところなのか。二人に話を聞いて解き明かし、それを理解した上で野音のライブに臨もうではないか。

対談:
Caravan × GOMA

「旅」、「光」、「波動」 | 歌とディジュリドゥ、スタイルが異なる2人から浮かぶ共通項を探る━━対談:Caravan × GOMA interview210823_caravan-goma-06

旅を感じることができる音楽だった

━━お二人が知り合ったのはいつ頃なんですか?

Caravan いつだろ? 明確には覚えてないけど、14~15年経ってるのかな。もう移転してなくなっちゃったけど、藤沢に「California General Store」というサーフショップがあって、そこでお互いにライブをやったり、サーフィンしたりしていたんですよ。一緒にサーフィンした記憶はないけど、共通の知り合いが多くて、自分が行くと「さっきまでGOMAちゃんもいたんだよ」なんて言われたりして。定期的に連絡を取り合って遊ぶというような距離感ではないにしても、GOMAちゃんが個展をやれば観に行くし、ライブもお互い観に行くし。会ってなくてもオレの頭のなかには常にGOMAちゃんの存在があって、よく「いまどうしてるかな?」って考えたりしているんです。

━━同じフェスに出ることも結構ありますよね。

Caravan そうですね。あと、GOMA & The Jungle Rhythm Sectionのドラマーの椎野さんが自分のバンドでも叩いているっていうのもあって。

━━お二人の共演は、2016年の<FUJI ROCK FESTIVAL(以下、フジロック)>だけですか?

Caravan あと、横浜の「THUMBS UP」というライブスペースでツーマンをやったことがある。それは確かフジロックの前だったかな。それが楽しかったので、フジロックで一緒にやることになった記憶があります。

━━2016年に「Caravan&GOMA」の名義でフジロックに出たときは、Caravanが自分の曲を歌って、GOMAさんがディジュリドゥで伴奏するという形だったんですか?

Caravan いや、自分の曲は確か1曲くらいで。

GOMA 何曲か一緒に作ったよね。

Caravan ライブ用に作った曲がほとんどだったね。で、キチキチには決めずに流れだけなんとなく組み立てて、リフを決めて、それがきたら終わろうという感じで。

GOMA あれは気持ちよかった。この前、そのときのリハーサルの音を聴き直したら、やっぱりすごくよくて。今のステイホームの時間にもぴったりハマる感じ。メロウで、アコースティックで。

━━そもそもCaravanがGOMAさんの音楽を好きになったきっかけは何ですか?

Caravan GOMAちゃんの噂は様々な方面から届いていたんですよ。「大阪の岸和田にごっついディジュリドゥ吹きがいるんだぜ。おっかないから気をつけろよ」って言われたりしてて(笑)。当時はGOMAちゃんって、トガっていて、迂闊なこと言うと怒られるんじゃないかって雰囲気だったんだけど。

GOMA 僕、アフロでしたから。

Caravan なんか、やさぐれた感じだったよね(笑)。でも、話したら優しかった。その頃はGOMAちゃんがひとりでダブみたいなことをやっていて。野外で聴くと、まっすぐ立っていられなくなるくらい重力でもっていかれる感じ。衝撃でした。

━━GOMAさんがCaravanを意識したのは?

GOMA 僕は海繋がりでCaravanのことを知ったのかな。さっきCaravanが言ってたように、藤沢の「California General Store」の仲間たちからCaravanのことを聞いていて。すごく海にハマる音楽をやっているなっていうのが最初の印象だったと思う。その頃はCaravanも打ち込みをやっていて、自分もちょうど打ち込みでやっていた時期だったから、打ち込みでこんなに気持ちいい音を出すひとがいるんだなぁって。

あと、旅を感じることができる音楽だった。歌詞もメロディもそうだけど、Caravanの存在そのものから旅を感じられて、僕もずっと旅をテーマに活動を続けているので、そういうところに興味を持ちました。それでインタビューを読んでみたら、幼少期からずっとあちこち旅していて、そういう旅から言葉やメロディが出てくると言っていて。僕も海外に住んでいた時期があったので、すごく共感できたんです。

━━もともとお互いに興味を抱いていて、実際に会ってみたら、やはり通じ合うものがあったわけですね。

Caravan 世代的にも一緒なので、時代感とか空気感で共通するものがあるだろうし、聴いてきた音楽も似ているところがあるだろうし。

━━いくつ違いなんですか?

GOMA 僕は48です。

Caravan あ、GOMAちゃんが一個上だ。オレは74年10月生まれ。GOMAちゃん、何月?

GOMA 73年の1月。

Caravan 世代的にはほぼ一緒だね。だからなんか気持ちがわかるというか。自分もGOMAちゃんのインタビューを読んで、同じようなことを考えてるんだなって思ったし。それこそ旅に関しては、GOMAちゃんは巡礼のように深い旅をしてきてるひとだから。

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Caravan

カラダ一つで何を伝えられるか

━━音楽表現の方法とスタイルに関しては、お二人は異なるわけですが、共通するところもたくさんあると思っているんです。まず、二人とも電子楽器ではなくナマの楽器で音楽を奏でている。打ち込みをやられていた時期もあったとはいえ、基本的には電気を使わない生楽器の響きを大切にしている。そもそも生楽器に拘るようになった理由はなんですか?

Caravan もちろん電子楽器で鳴らす音楽にもコンピューターで作った音楽にも素晴らしいものはたくさんあるわけで、生楽器の音楽だから素晴らしいんだというわけではない。ただ自分としては、生ギター1本と声だけで何が伝えられるのかっていうところに興味があって。究極、ひとりぼっちで演奏して何も届けられないようだったら、バンドでやっても一緒なんですよ。

カラダひとつで何を伝えられるかってところが大事だし、シンガー・ソングライターである自分にとってはそこが基本だと思っているんです。そういう意味では、スタイルは違うけど、GOMAちゃんがディジュリドゥを自分のカラダと一体にして鳴らすことにもきっと通じているはずで。超ミニマルだけど無限大っていう、そういうところが共通しているのかなという気がします。

━━自分のカラダと楽器を一体にして鳴らす。GOMAさんはまさしくそうですね。

GOMA だから自分の状態がよくなかったら、それがそのまま音に出るし、自分が気持ちいいと思える状態のときは、その気持ちよさが音に出る。それに、ディジュリドゥは旅先でもパッと吹けるのがいいところで。電気が必要でコンセントが必要でっていう楽器だと、旅に持っていって海を見ながら吹くこととかできないですからね。あと、ディジュリドゥには木の独特の温もりがあるんです。鉄の楽器からは生まれない響きがある。言葉やメロディが生まれる前の世界の音というか。

━━初めて吹いたときから「これは自分の楽器だ」というような感触があったんですか?

GOMA ディジュリドゥを吹くために絶対マスターしなければいけない呼吸法があるんです。循環呼吸法といって、吐きながら吸って、ずーっと音を途切れさせずに吹く呼吸法なんですけど、初めて吹いたときからそれができたんですよ。

Caravan すごいよね。やり方聞いても、自分にはまったくできる気がしない。頭で考えないで、こんな感じかなって吹いたらできたの?

GOMA そう。

Caravan それがすごいよな。

GOMA 最初は独学でやり始めたんだけど。始めた当時は日本になんの情報もなかったから。楽器屋さんでさえ、ディジュリドゥって言っても通じなかった。それでオーストラリアのディジュリドゥ屋さんに修行で入って、そこで楽器を作るところから勉強して。そうすると、楽器の成り立ちとか、木のちょっとした厚みとか曲がり具合とかで音が全然変わってくることが手に取るようにわかってきて、「ああ、アコースティックの楽器って面白いな」って思ってね。オーストラリアに渡って修行を始めてから、尚更そういう気持ちが深まったかな。

━━そんなディジュリドゥという楽器を、ダンスミュージックに用いるという発想はどうして生まれたんですか?

GOMA  それ以前に僕は打ち込みをやっていて。ディジュリドゥと出会ってオーストラリアで修行することにしたわけですけど、そのあと今度はロンドンに引っ越したんです。そこでイギリスのダンスミュージックにショックを受けて、ディジュリドゥとトラックをミックスさせることを始めました。ちょうどその当時、ジャミロクワイ(Jamiroquai)が爆発的にヒットしていて。

Caravan ジャミロクワイでディジュリドゥを知ったひとはすごく多いよね。

Jamiroquai – When You Gonna Learn?

GOMA 多い。ちょうどイギリスにそのブームが来た頃なんだけど、その少し前からヨーロッパはディジュリドゥ・バブルで。

Caravan へえ~。

GOMA ディジュリドゥ・バブルが始まった頃は、僕はまだオーストラリアのディジュリドゥ屋さんにいたんだけど、オーストラリアからヨーロッパへ配送する数があるときからめちゃくちゃ増えて、値段が10倍くらいに上がったんですよ。それまでは日本円にして1万円くらいで取り引きされていたのに、一気に10〜20万って価格が上がったんです。

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GOMA

ライブというのはスーパー・波動の集まり

━━因みにイギリスで衝撃を受けたというダンスミュージックは、どういった種類のものだったんですか? トランスとか?

GOMA トランスのイメージをもたれることが多いんですけど、もうちょっとハウスとかテクノに寄ったもの。もともと僕はブレイクダンスをやっていたからブラックミュージックが好きで、テクノもデトロイト・テクノとかそういうのを聴いていて。ダブも大好きでしたね。マッシブ・アタック(Massive Attack)のライブを観に行ったときに、すごい食らった。

あとは<ノッティング・ヒル・カーニバル(ロンドン西部ノッティングヒルで毎年開催される100万人規模のストリートカーニバル)>に行ったときに、みんなが自前のサウンドシステムを道端にダーっと並べて音を出していて、それを体感したときに、これはすごいと。もともとベース音が好きなんですよ。低音をカラダで感じるのが好きで、ディジュリドゥもロウが特徴的な楽器だから、そこに惹かれたというのもあった。未だにそこは変わってないですね。

━━なるほど、今の話でGOMAさんの音楽の成り立ちがわかった気がします。何より重要なのは、ロウの響きであり、振動だと。

GOMA はい。

━━自分はライブが何より好きで、一昨年までは年に平均140本くらい観に行っていたんですが、コロナ禍になって観に行けなくなって。5ヶ月ぶりくらいに会場で観たとき、強く感じたのが、「ああ、ライブって振動だな」ということだったんです。楽器の音や歌声が空気と混ざり合って、振動としてカラダに伝わるあの感じ。それはPCで配信ライブを見たんじゃ得られないもので。そういう意味で、GOMAさんのライブは絶対にナマで体感してこそだし。Caravanも優しい歌声だけど倍音で響くところがあって、アコギの響きもそう。振動とか波動がとても重要であるように感じます。

Caravan そうですね。そういう意味では、ライブというのはスーパー・波動の集まりというか。それが弾けあっちゃうものもあれば、重なって大きくなるものもある。もちろんこっちから送る波動だけじゃなく、お客さん側の波動というのもそこにはあって。やっぱりお客さんがつまらなそうにしていると、こっちもいいヴァイブスにはならないからね。こっちの波動とお客さんの波動が混ざり合って上っていく感じがライブの醍醐味だと思う。振動の結晶体というのかな。

だから同じセットリストでやっても、そこにいるひとが違えば絶対に同じ結晶体にはならなくて、それがライブの面白いところだし。あと野外だったりすると、山があったり、海があったり、そういうシチュエーションによっても違う波動、違う振動が生まれるものだから。

━━確かに。同じフェス内であっても、ステージが違えば振動の仕方も変わりますからね。

Caravan うん。あと時間帯もあるよね。日比谷の野音は東京のなかでも有数のオアシスみたいな場所で、演奏しているときにだんだん日が暮れてきて、ビルに電気がつき始めて、空には鳥が飛んでいたり。そういう景色と時間の移り変わりを感じながら演奏できるし、すごくいいヴァイブスを感じられるところなんです。だからあの場所でやるのが大好きなんだけど、去年は急遽、無観客配信ライブということになってしまった。

見てくれたひとには喜んでもらえたし、なかなかできない経験をさせてもらったなという思いはあるけど、やっぱり振動感とか、お客さんが目の前にいることで生まれる波動の大事さは改めて強く感じたところで。その野音を含め、去年から何度か配信ライブをやってみたけど、そのよさもわかりつつ、ある意味限界を感じているところも正直あるんです。

GOMA 無観客のライブはもう、別ものだよね。僕も去年はいろんなアーティストの配信ライブを見ていたけど、もう見なくなった。友達のミュージシャンと喋っていてもみんな同じような感じになっていて、ただのライブ配信だと、Caravanが言うように限界を感じるというか。ちょっと演劇的なものとして作り込んでいるものを見ると面白いなって思ったりしますけど。

━━配信に向いている音楽とそうじゃないものがありますよね。PCで聴いたときに音がクリアに聴こえるからいいという音楽もあるし、ざわざわした感じやノイズがあるからいいという音楽もある。

GOMA ディジュリドゥは、配信ライブには向いてないですね。

Caravan この前会ったときも言ってたよね。「Caravanはいいよね、言葉がある音楽だから」って。

GOMA そこは大きいですよ。配信ライブでディジュリドゥだけだと、何やってんだろって感じになる。振動を体感してもらってこそだから。

━━もっともそういう性格の強い楽器ですもんね。

GOMA  そうなんですよ。

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「GOMAちゃんが復活したとき、袖で笑顔で泣いていた」

━━お二人に共通するところとして、演奏する場所に拘りを持っているというところもあると思うんです。室内のライブももちろんいいけど、とりわけ野外のライブで音楽が映える。そこに吹いている風だったり、陽光だったり、そういうものがすごく効力を発揮するというか。場所を味方につけてライブをする二人という印象があります。

Caravan 確かに場所というのはすごく重要なファクターだと思う。同じ音楽でも場所によって全然違う聴こえ方をするものだよね。どっかで聴いたときにそれほどピンとこなかったものが、別の場所で聴いたらすごく心に響いて泣けちゃったりとかさ。

GOMA それはある。Caravanの音楽もやっぱり野外で聴くと気持ちよさが倍増するからね。

━━演奏する場所に行ってすぐ、「ああ、ここはいいヴァイブスがあるな」みたなことを感じたりするものですか?

GOMA 僕はけっこう感じますね。ディジュリドゥという楽器自体がもともと外で吹く楽器だから。オーストラリアとかの乾いた大地で吹くと、すごく音がヌケるんですよ。湿度感とかを気にするひともディジュリドゥ・プレイヤーにはいて、そういうひとは中に水を流しこんで湿度を調整したりする。それによって微妙に音が変わるから。

━━なるほど。標高の高いところと低いところでも鳴り方が違うんでしょうね。

GOMA 全然違いますね。

Caravan 酸素の量で呼吸法も変わるだろうしね。

━━これまでに演奏した場所で、あそこはよかったなとか、あの景色は忘れられないなっていうところはありますか?

Caravan いっぱいあるけど、GOMAちゃんと一緒にやったフジロックのピラミッド・ガーデンはすごい気持ちよかった。CANDLE JUNEのステージの装飾もよかったし。あと、フジロックで言うとフィールド・オブ・ヘヴンがオレは好きで、特に客として観たなかで忘れられないのがGOMAちゃんが復活したときのフィールド・オブ・ヘヴン。オレらの仲間は袖に集まって観ていたんだけど、みんなが笑顔で泣いていて。ふと見ると、モニターのひととか照明のひともみんな笑いながら泣いててね。祝福の波動に満たされている感じで、「なんだ、この多幸感は!?」っていう。あれは忘れられない光景でした。

GOMA 僕自身はもう、あんまり覚えてないんだよね。

Caravan 真ん中で誰よりもグチャグチャに泣いていたのがGOMAちゃんだったけどね(笑)。

━━GOMAさん、ヘヴンでは度々出演されてますよね。僕も何度か観ましたけど、それこそ山を背景にしたあの場所ならではの波動と振動があって、必ず「ああ、最高だな」と思える。

GOMA フィールド・オブ・ヘヴンは自分にとって、ちょっと特別な場所って感じがあるかな。あそこで復活ライブをやらせてもらえたから。そのときの自分がフラッシュバックする。まだまともにライブができるかどうかわからないという状態だったのに、それでも僕を信じてブッキングしてくれたフジロックのチームのみんなには、本当に感謝してます。

━━それからお二人とも、バンドでやるにしても基本的にはシンプルな編成ですよね。シンプルで、ダイレクト。ホーン・セクションやストリングスを入れて膨らませたりする必要がない音楽というか。

Caravan でも僕の場合は、ホーン・セクションはないけど、トランペッターのイッチー(市原“icchie”大資)に入ってもらっていたことがあるし、チェロの子と一緒にやったりしたこともあって。とはいえ、オーケストラみたいな大所帯の編成よりはこじんまりした形のほうが好きですね。10人とかの楽器が混ざるよりも、ひとりひとりの音が聞き分けられるくらいのサイズ感が好きなんですよ。いまこのひとはこれを演奏しているっていうのが見えるサウンド。そのほうがドキドキするし。

━━GOMAさんのThe Jungle Rhythm Sectionは、ドラムとパーカッションとで、ギターなどの上物の楽器はない。

GOMA でも、やかましいですよ(笑)。

Caravan だけど、ひとりひとりの役割がはっきり見えるよね。それが絡み合ってひとつの生き物みたいな音楽になっていく感じがある。

GOMA そうだね。僕がやっているバンドは本当にお祭りバンドみたいなところがあって、お客さんとの兼ね合いでどんどんグルーヴが膨れていくものだから。ステージ上の人数はそんなに多くなくていいんです。

Caravan GOMAちゃんがいろんなひととデュオでやったりするのも面白いよね。(中村)達也さんとGOMAちゃんとか、U-zhaanとGOMAちゃんとか。ミニマルだけど強力で。場所を選ばずにできるでしょ。

GOMA うん。結局、僕は隙間が多い音楽が好きなのかもしれない。そこはCaravanと共通するところですね。

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自分のなかで旅をする

━━それから、言葉のあるなしという違いはあれども、お二人とも光だったり水の流れだったり緑の力といったものを音楽を通して表現しているところがある。あるいはそういうものから得られるエネルギーを音楽にしているところがある。文明の力よりも、自然を感じて生きるなかでの思いだったり意味だったり。とりわけ光は重要で、Caravanは《光》という言葉を歌詞に入れ込むことが多いですよね。

Caravan うん。意識してというよりは、歌詞を書くときに自然とその言葉が織り込まれるというか。それは目に見える光だけじゃなくて、何かを象徴する意味での光だったりすることもある。風とか水といった言葉もそうやって使うことが多いですね。無意識にそういう言葉選びをしている感じ。

━━ 一方GOMAさんは、音楽だけでなく絵画もそうですけど、まさしく光の世界をそのまま表現されています。

GOMA 僕は事故のあと、光の世界をすごく意識するようになりました。その世界のなかで生きているような感じがありますね。自分の意識がなかった間に見ていた光の世界を、あれからずっと絵として描き続けているし、今もそう。で、事故のあとはしばらく音楽がまったくできなくなった。

だけど、徐々に回復するなかで、いろんなひとに会ったり、いろんな新しいものを見たりすることで、自分のなかの近い記憶と遠い記憶が繋がってきた。事故前の世界の感覚と、事故後の新しい感覚とが、事故からの10年でようやくミックスされつつある感じがしているんです。最近はやっとそのバランスがとれてきたかなって思っていて。少しシンプルになりましたね。光や風が好きだったことが大きかった。

━━事故以前から、光や水や風が好きだなという気持ちを持っていたんですか?

GOMA もちろん嫌いではなかったけど、事故の前はトガっていたから、今のような感じではなかったと思います。事故のあとですね。しばらく外に出れずに家にこもっている時間が長かったから、家の近くの多摩川でリハビリしてたんですけど、そのときに常に同じようにある光の存在や流れてくる風にすごく救われたんです。救われたし、すごいなって思って。ちょっと壮大な話になるけど、地球ってすごいな、みたいな。僕はこのなかで単純にひとつの生き物として生かされてるんだなって思ってね。こんなこと言うと、おかしなひとみたいに思われるけど。

━━そんなことないですよ。特にウイルスのパンデミック以降はそういうことを考えないままではいられなくなったし、今そういうことを考えなくてどうする? ってところもある。

GOMA そうですね。気軽に旅にも行けない時代になったからね。だからか最近、Spotifyとかでいろんなひとの曲を聴いていると、みんな音楽のなかであちこち旅をしている。ミクスチャー感がすごいなって感じるんですよ。いろんな国の音楽をみんながどんどん取り入れるようになってきたというか。みんなきっと、同じような思いでいるんだろうなって感じますね。ミュージシャンはツアーができないし、海外と日本を行き来しながら表現していたひとはそういうことができない状況だし。その分、自分のなかで旅をするようなサウンドがどんどん出てきている感じがします。

Caravan 音楽のいいところは、そうやってその場にいながら、行ったことのない国に行けた気がしたり、見たことのない景色が見えた気がしたりするところで。世の中がこういう状況になってもう1年以上経って、確かに旅はできないけども、だったら自分のなかで旅をするしかない。音楽を聴くとか本を読むとか映画を観るとか絵を見るとか、そういう全てがインナートリップで、それも旅だと思うしね。

これだけこういう状況が長く続くと、やっぱり落ち込むときは落ち込むけど、そうならないようにするためにも心のなかでは旅をしていたいという気持ちがある。だってここまで長引くともう、コロナのせいだとか政府のせいだとか言ってることにも疲れてくるし飽きてもくるし。だったら自分の好きなこととか理想とか、ノーじゃなくてイエスの部分をもっと発酵させることに集中したいと思ったりもするんですよね。

GOMA 僕は、やってることがシンプルになった。いまは点を打つか棒を吹くかしかやってない。考えてる暇があったら点を打つ、みたいな。そんな感じになってますね。あとはやっぱり健康第一。カラダが動かなくなると本当になんにもできなくなるっていうことを僕は身をもって体験したので、みんなカラダをちゃんとケアしながら楽しんでほしいなって、こういう時代になった今、つくづく思いますね。

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巡礼を繰り返しながら生きていく

━━GOMAさんがひとりで点を打ったりディジュリドゥを吹いたりするのって、瞑想に近い感覚があるんですかね?

GOMA 近いと思いますね。瞑想がどういうものなのかはまだ自分で解読できてないけど、無の境地に向かうために点を打ったりディジュリドゥを吹いたりってことをしている気がする。何も考えないで打ったり吹いたりしています。考えてるときはよくないというか、点が乱れたり流れちゃったりする。そういうときは頭のなかでどっか混乱してるってことなんでしょうね。誰かのためにやるわけではないんですよ。

誰かに見せたいからやるんじゃなくて、自分ともうちょっと向き合いたいというか。去年からステイホームでみんな家にいる時間が長くなって、始めはまだ何かのための準備期間みたいに考えているところもあったと思うけど、予想を超えて長引いてきてから、今はもうちょっと自分に向き合って答えを絞り出していくような段階に入ってきているんじゃないかと感じていて。だから僕自身としてはもっと作品のクオリティをあげたい。シンプルにそこに集中したいというか。どんどんそういう考えにはなってきてますね、音楽も絵も。

━━表現の目的、向き合い方、生きているなかで自分はなんのために何をどう表現するのか。コロナ禍がこれだけ長引くとどうしたってそれが変わってくるところもあるだろうし、常に自分に問いかける必要も出てくる。

GOMA うん。それは本当にそうで。

━━Caravanは昨年11月に『Bittersweet Days』というアルバムを出して、最後に“Stay Home”という曲を入れました。それは2020年という特別な1年を通していろんなことを問いかけながら辿り着いた、あの時点でのひとつの答えだったと思うんですが、今はどうですか? 今年になって状況はさらに悪化し、オリンピックもあって人々の分断も加速してしまったわけですが、そうしたなかで目的や向き合い方が変化したところはありますか?

Caravan 去年、コロナが始まって、自分としては「負けてたまるか」じゃないけど、今までだって決してラクな状況でやってきたわけではないから「このくらいのことで止まってたまるか」というような意地があって、ひたすら制作に没頭したんですね。そのなかで「元気かな?」「どうしてるかな?」って浮かんでくる顔がいっぱいあって、自分がこうして音楽をやれているのはやっぱりひとありきというか、みんながいてくれるからだなって感じることもできた。それは再確認だったし、すごくよかったんだけど。

でもアルバムを出したあとは、リリース・ツアーもやれないし、みんなに届いているのかどうかもわからないっていうところで、ぽっこり穴に落ちちゃったような感じを味わった。ちょっと空虚な気分になっちゃったんですよ。それで気分を変えるためにも山に行こう、海に行こう、田んぼに行って育ってる稲を見ようってやっていて。そうやってバランスをとってるうちに、最近また頭のなかで音楽が鳴り出して、まだまだいけるって思いだしているところなんです。今までだったら、そういう波が自分のなかにあることをそんなに気づかないでいられたけど、時間があるだけにちょっとわかった。そういう意味で確かに表現に対する向き合い方を考え直したところもあると思います。

Caravan – Stay Home

━━そういうときもやっぱり海とか田んぼとか自然に救われるっていうのがある。

Caravan うん。自分のなかの毒出しみたいな感じなのかな。

━━GOMAさんもそんな感じですか?

GOMA うーん、僕が点を打つのはほぼ日課なんですよね。ディジュリドゥもそうで。

Caravan 毎日何かしら作品作りに向かうの?

GOMA 毎日やってる。

Caravan 決まった時間があるの?

GOMA 朝起きて、コーヒーを飲んで、その日に描きたいもののイメージがそこで頭のなかにぼんやりできてきて。というか、朝起きたら頭のなかに張り付いている。その張り付いたものを「なんだろ、これ」って見つめるところから始まるかな。それはだいたい光の感じなんだけど。寝て起きるということもそうだけど、人間って意識のないところから目覚めるわけでしょ。

オレの場合は事故があって外からの傷で強制終了になって、そこから時間が経って意識が戻ったわけだけど、それが毎回デジャヴしてるの。眠りから目が覚めるときに毎回、事故のあとに脳が再生されて意識が戻ったときがデジャヴして、だから毎朝起きたら、そこに光の世界がある。それを、コーヒー飲みながら見つめるの。それがハッキリしてきたら、アトリエに行って、ダーって描く。

Caravan ダーって描いて、その日のうちにできたりすることもあるの?

GOMA サイズにもよるけど、その日のうちに完成することはまずないかな。

━━完成形のビジョンがあって、そこに向けて点を打っていくんですか?

GOMA いや、やりながら。でもだいたいのビジョンは変わらない。そのビジョンにいかに自分を近づけていけるかっていう作業です。打っては乾かしての作業だから、乾かしている間に音楽のことを考えたり。その行ったり来たりがいいバランスになっている。で、煮詰まったときには、さっきCaravanが言ってたように、山に行ったり海に行ったり田んぼを見たりとかして。自然から受ける得体の知れないエネルギーってやっぱりあるんですよね。それで音楽を聴いたり。この前、Caravanの“サンティアゴの道”を聴いていたんだけど、あの歌詞、今にぴったりだなって思った。本当にこう、巡礼のような。

Caravan そうだね。

Caravan – サンティアゴの道

GOMA コロナ禍になって、みんながそれぞれ巡礼のような毎日を繰り返している。生まれ育った環境も家庭も、培ってきた文化も違うそれぞれが、ただそれぞれの毎日を繰り返す以外にないというか。僕らはいま40代で社会の崩壊を経験していて、年齢的にもあと何年生きるかわからないですからね。

そう考えたときに、結局はやっぱり自分が培ってきたものを信じて、巡礼を繰り返しながら生きていくっていう、そういうことしかないんじゃないかと。だから、それぞれが自分の環境のなかでベストを尽くして、ぞれぞれの道を歩む。あとはもう、祈ることしかできないですから。亡くなるひとが一人でも減ってほしいから。

Caravan うん。それぞれがいろんなことを問い直して、再確認し直して、じゃあここからどうするかっていうのが今なのかなって気がすごくするよね。外側に救いを探していても出口はない思うし、GOMAちゃんが言うようにそれぞれがこれまで培ってきたものを大事にしながらまた歩いていくというのが鍵なのかなと。

━━では最後に、9月18日の日比谷野音のライブの話をしましょう。当日はGOMA & The Jungle Rhythm SESSION とCaravanのステージがそれぞれあって。共演もあったりするんですか?

Caravan できたらやりたいなと思ってます。現実的に野音は音を出せる時間が決まっていて、音を出し始められる時間も決まっているからサウンドチェックもタイトなんだけど、それでも一緒に音を出せる時間を作りたいと思っていて。

━━いつもと違う試みなんかも考えていたりしますか?

GOMA なんか考えてる? トークする?

Caravan ははは(笑)。吹かないで、喋るとか。

GOMA 楽器、交換しようか?

Caravan ムリ! 吹けない!

GOMA フジで前にやったときのセットのなかから、ちょっとでもできたらいいね。

Caravan ああ、そうだね。あと、GOMAちゃんのバンドは今回、辻コースケ(Per)くんが都合で参加できないので、「The Jungle Rhythm Section」 じゃなくて「The Jungle Rhythm SESSION」になるんだけど、フルバンドじゃないのに受けてくれたことがオレは嬉しかったし、いつもとちょっと違うものになるだろうからそれも楽しみにしててほしいね。

━━では、来てくれるひとたちにもう一言。

Caravan 今のこの状況のなかでライブに来てくれるってことは本当にライブ・ラヴァーだと思うんですよ。気軽にフラっと遊びに行こうっていうことができなくなってるわけですから。だから、やるほうも観るほうも覚悟を持って注意しながらってことになるわけだけど、でもライブを求めているひとがいる限り、オレたちは全力で答えたいと思ってます。

GOMA 声を出したり騒いだりはできないし、飲食とかもきびしいだろうけど、それでもナマのライブでしか感じられないものが絶対にあるから、観に来てくれたら嬉しいです。家でじっとしていることも多い時期だと思うけど、たまには外に出て音楽のヴァイブスを全身で浴びてもらえればと。

Caravan ほんと、みんないろんな意味でストレス溜まってると思うんですよ。無意識に溜め込んじゃってるひともいるだろうし。そんななかで無責任に大声で「みんなで楽しもうぜ!」と言えないのが切ないけど、でもやるからには絶対楽しんでもらえるものにするから。無事に開催できることを僕らも祈ってます。

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Bittersweet Days – Caravan

STARTING OVER – GOMA&JUNGLE RHYTHM SECTION

Text:内本順一
Photo:Kana Tarumi

PROFILE

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Caravan

一台のバスで北海道から種子島までを回る全国ツアーや、数々の野外フェスに参加するなど、独自のスタンスで場所や形態に囚われない自由でインディペンデントな活動が話題を呼ぶ。

2011年には自身のアトリエ”Studio Byrd”を完成させ、2012年プライベートレーベル“Slow Flow Music”を立ち上げた。独自の目線で日常を描く、リアルな言葉。聞く者を旅へと誘う、美しく切ないメロディー。様々なボーダーを越え、一体感溢れるピースフルなLive。
世代や性別、ジャンルを越えて幅広い層からの支持を集めている。

これまでにDonavon Frankenreiter、Calexico、Tommy Guerrero、Ray Barbee、Beautiful Girls、SLIP、Sim Redmond Band等、多くの来日アーティストのサポートアクトや共演を果たし、YUKI「ハミングバード」「Wagon」、SMAP「モアイ」、渡辺美里「Glory」「Hello Again」を始め、楽曲提供も手掛けている。

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GOMA

オーストラリア先住民族の伝統楽器「ディジュリドゥ」の奏者・画家
97年オーストラリアに単身で修行の旅に出発。その後世界各国を廻り2002年に帰国。同年アルバム「Million Breath Orchestra」を発表。全編ディジュリドゥの音のみで製作されたトラックでトランスからブレイクビーツまで吹きこなす高度な技術とオリジナリティ溢れる高いセンスで幅広い層から支持を獲得。
2004年GOMA & The Jungle Rhythm Section結成。電子楽器を用いずに怒涛のリズムとディジュリドゥによる野生のグルーヴを生むパフォーマンスが、野外フェスやパーティシーンで大ブレイク。

海外にも活動の幅を拡げ勢いに乗っていた2009年交通事故に遭い高次脳機能障害と診断を受け活動を休止。退院2日後より突然描きはじめた絵が評価され画家として活動を開始。2011年再起不能と言われた事故から苦難を乗り越え音楽活動を再開。12年GOMAを主人公とする映画「フラッシュバックメモリーズ3D」が東京国際映画祭にて観客賞を受賞。19年詩人の谷川俊太郎との共著。自身初の画集として「Monadモナド」を出版。

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HARVEST 14th Anniversary Special “The Blessing”

2021年9月18日(土)
日比谷野外大音楽堂
指定席 ¥5,700(tax incl.)
OPEN 16:45 /START 17:30
出演:Caravan/GOMA & The Jungle Rhythm SESSION
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