Interview:Carlos Nunez
――カルロスさんが主に演奏するガイタは他のジャンルや楽器とも親和性の高い楽器だと思うのですが、まずその来歴について教えてください。
ガイタというのは1000年以上の歴史を持った楽器なんだ。ガリシアがそれだけ長い歴史を保ち続けてきた土地柄だからね。音楽学的に言えばバロックとかルネッサンスよりもっと古いシステムを持った楽器で、たとえばJ.S.バッハ以降の長調、短調といった和声を備えた楽器より古いわけで、自然のヒエラルキーを備えた楽器と言えると思う。通奏低音はこの部分(通奏管・ドローン)でずっと鳴っていて、こっち(主唱管・チャンター)でメロディを奏でるんだ。これがガイタがガイタたる部分なんだけど、通奏低音とメロディの音の作り方は自然の戒律というものとちゃんと調和していて、理論や理詰めではない、どこか自然のカプリチオーゾ(気まぐれ)な息吹を備えてる。で、そういったすべての魔法的なものを僕は愛してるんだ。
――なるほど。最初にガイタに触れたのはお幾つの時なんですか?
僕は8歳のときにこの楽器を吹き始めたんだけど、もしアンダルシアに生まれていたらギターを弾くのが普通なようにガイタを手にとることが当たり前だった。何よりまず魅力的なのはこの楽器が携えているエネルギーだね。それに子どもの頃に恋してしまったのさ。
——それは運命的な出会いですね。
そうだね。僕が人前で行った最初のコンサートを今でも覚えてるんだけど、それは10歳の時で、僕の父の家族がフィエスタで集まってくるような場所だったんだ。そして演奏をはじめるとお年寄りたちが大騒ぎでトランス状態になって、「カリーニョ(小さなカルロス)、カリーニョ!やめるんじゃない、吹き続けなさい!」って言われて、ひとつのメロディを繰り返し吹き続けることになったんだよ(笑)。それから自ずとガイタの扱い方もわかっていった部分はあるね。
――カルロスさんのメロディを聴くと、日本人の多くは郷愁を感じると思うんです。逆にカルロスさんが日本の音楽にそういう思いを抱くことはありますか?
もちろんあるよ。沖縄に行くと、自分たちが持っているリズムと同じリズムを発見するし、一昨日、三陸の小石浜海岸っていうところに行って、そこの漁師さんに会ったんだけど、ガリシアと小石浜のホタテを贈り合って、子どもたちが僕の演奏で一緒にホタテを鳴らしてくれたんだ。なんだか新しい伝統ができた気がしたね。(カルロスは2011年の東日本大震災で東北が被災した際、日本の友人に長文のメッセージを送り、今年6月にスペイン・日本交流400周年記念で日本の皇太子殿下がガリシアを訪問した際、御前演奏を行った。その際、小石浜のホタテの貝殻が贈られた)
――そうした体験は世界各地でも?
そうだね。音楽というのは人と人を結びつけるものだと思う。ガリシアのような地方性の高い地域には、地中海からくるエネルギー、大西洋、ヨーロッパ、南米と海を越えていろんなところからくるエネルギーが集約されてくるんだ。だから例えばラテンアメリカに行くと、僕はそこにケルティックの音楽を発見したりするし、それはさまざまな国で実感してきたことなんだけど。
――なるほど。小石浜海岸での体験も人類が世界に旅していった歴史にもとづいているのかもしれませんね。
まちがいなくそうだと思うよ。たとえばガリシアにもリアス式海岸っていうのはあって、小石浜で太鼓の音を聴いていたら何か共通する気持ちを味わったし。
――ガリシアでも音楽は海などの自然への感謝に基づいているんですか?
もちろん。自然に対する感謝、それは神道と同じで、古代ケルト人と一緒なんだなと感じたよ。