盛り上がりを見せた2017年の日本のHIPHOPシーン。フリースタイルラップのブームがその火付け役だったことに異論はないが、業界自体がその追い風を受け、新旧のアーティストが良質な作品を数多く発表した。
そんな中、作品の裏方としてアーティスト以上に注目を集めたふたりの男がいる。
Chaki Zulu from YENTOWN。そして、弱冠21歳の映像監督・Spikey John。
Chaki Zuluに関しては近年というくくりでもあるが、特に今年、このふたりの質と量を伴った仕事ぶりは目覚ましいものがあった。リスナーに「今年No.1のプロデューサーと映像監督は?」というアンケートをもし取ったとしたら、きっとこのふたりの名前が挙がることだろう。
今回は、そんなふたりによるスペシャルな対談が実現。それぞれの詳細なプロフィールなどはググるかタグるかしてもらって、ここではふたりがそろっているからこそ聞ける内容を中心に話を聞いた。
ふたりの出会いや作品にまつわるエピソード、互いに抱く印象やそれぞれの今後など。11月某日、渋谷のとあるバー。深夜0時過ぎにインタビューは始まった。
Interview:Chaki Zulu×Spikey John
——年内にインタビューできてよかったです。今日はふたりの対談だからこそ聞けるお話を伺えればと。まずふたりが最初に会ったキッカケは?
Spikey John(以下、Spikey) YDIZZYさんの紹介です。最初のアルバムの一発目のビデオを撮ることになって……メシ食いに行ったっすよね。
Chaki Zulu(以下、Chaki) そうね。アルバムが出来上がるぐらいにYDIZZYとハンバーグ屋で「ビデオどうしよう」って話をしていて、その時にYDIZZYが「Spikeyがいい」って。俺は面識なかったんで「今から来てくれる?」ってお願いしたら、急な呼び出しなのに来てくれたんだよね。
——Spikeyくんへの第一印象はどうでしたか?
Chaki イメージ通りでしたね。
——イメージとは?
Chaki 若いピチピチの学生で、かわいい感じなんだろうなって。
Spikey けっこうギャングっぽいって言われるんですけどね。
Chaki どこが? ギャング要素ゼロじゃん。
Spikey いや……けっこう怖い感じに思われがちなんですよ。この前(加藤)ミリヤさんも、僕のこと40歳ぐらいのイカツイ外国人かと思ってたらしくて。ビックリしたって言ってました。
加藤ミリヤ 『新約ディアロンリーガール feat. ECD』
——名前から来るイメージですかね。SpikeyくんのChakiさんの第一印象は?
Spikey えぇ……怖い人。HIPHOP界の闇の人っていうか、SEEDAさんの曲(“BUSSIN”)とかのイメージがあったんで。
Chaki トンネルの中ってだけじゃん。何にも怖くない。
——ふたりが最初に絡んだ作品は?
Chaki YDIZZYの“YES”。
——その時のSpikeyくんの仕事ぶりはどうでしたか?
Chaki よかったですよ、イメージ通り。計画してやる感じではなく、その場のノリをうまく切り取るんだろうなっていうのは、他の作品を見てわかってたので。そういう曲調のものをあえてお願いしました。
——その撮り方が今の時代、今のラッパーにハマったんでしょうね。Spikeyくんは学生なんですよね?
Spikey 学校は……あんまり行ってない。卒業まであと3年ぐらいあるんですけど、辞めようかな……とも。
——これだけ評価されて、忙しくなったらそういう考えも出ますよね。Chakiさんもリスナーにとっては謎が多い印象ですが。
Spikey 謎な部分は出さないんですか?
Chaki いや、昔は出してたっすよ。今は俺ぐらいの年齢のヤツが、自分のプライベートをブツクサ言うのもサブいなと思って。
——MONYPETZJNKMNやAwichさんにインタビューした時などを含め、今年は周りの人が語るChakiさんの印象をけっこう聞いていて。“先生”って言う人もいれば、Awichさんは“天使”と言ってました。
Chaki マジっすか? 天使感ある?
Spikey ないっす。
——SpikeyくんがChakiさんを例えるとしたら?
Spikey えー……うーん……。
Chaki Spikeyらは基本的にバカにしてるんですよ。
Spikey してないっすよ! ……クリエイティブな、お兄さんって感じです。
——Chakiさんはどんな音楽を聴いて育ったんですか?
Chaki みんなといっしょだと思いますよ。俺ら世代だとNasとかJAY-Z、(The)Pharcyde、(The)Rootsとか、ローリン(・ヒル)とかも聴いてたし。2000年代になったらウェッサイやべーみたいになって、(Dr.)Dreがカムバックしたなとか。日本語ラップも含め、順当に聴いてましたね。
——出身はどちらですか?
Chaki 静岡です。高校卒業した後に一回アメリカに行って。諸事情があってすぐに戻ってきたんですけど、そこから東京住んでずっと居座ってる感じです。
——Chakiさんは動画のインタビュー(NI Japan)が公開されていて、最近知った人にとってはあのイメージが強いと思うんですが。
Chaki あれめっちゃ言われるんですよね。あの時のインタビュアーが友だちなんですよ。だから友だちと喋ってる感じになっちゃって。
——自然体でしたね。Spikeyくんは今年もう30本くらいは撮ってますか?
Spikey 30……40、50ぐらいですね。ペースが早いのはウリにしてたので、2週間に7本とか撮ってた時期もありました。今は月に3〜4本とか。
——制作のスピード感は意識してますか?
Spikey そうっすね。Chakiさんもそうだと思うんですけど、タイミングとかも意識します。“Remember”の時とかも少し早めに出来てたんですけど、Chakiさんが……何月でしたっけ?
Chaki 初夏になるまで待てって。
Spikey そっちの方が絶対良かったですけど、僕は完成したら出来るだけ早く出したいっていう気持ちはあります。
Remember – Awich feat. YOUNG JUJU (Prod. Chaki Zulu)
——Chakiさんもスピード感は意識されますか?
Chaki スピード感も大事ですけど、見る人の状況を考えて、季節感やイベント事とかに照らし合わせて提供したいっていうのはあるっすね。こっちのエゴだけでモノを出すんじゃなくて、需要と供給が合う瞬間があるとは思います。まあ全部が全部そうはいかないですけど。
——Awichさんにインタビューした後にベトナムへ行ったんですけど、向こうでもばっちりハマって聴きまくりました。あの曲は最初からSpikeyくんに撮ってもらおうと思ってたんですか?
Chaki Spikeyには何かで撮ってもらおうと思ってたけど、どの曲をやってもらうかは作ってる段階では考えてなくて。でも“Remember”はあのアルバムの中で一番チャラいじゃないですか? やっぱチャラいんで、Spikeyは。
Spikey フフフ……僕ちょうど学校行く時に「沖縄行ってくんない?」みたいに連絡来て。行ったのはその2〜3週間後でした。
Chaki あまりこちらから指示もせず、とりあえず必要最低限の金は振り込んどくから撮ってきてって。
——あの撮影に関しては、地元の方にめちゃくちゃ協力してもらったみたいな話を聞いたんですが。
Spikey あのライティングは俺らの中で過去最高でした。照明のプロを使わずに、花火とか屋台用の照明をレンタルする店を地元の人が紹介してくれて。それをみんなでひたすら配置するっていう。
Chaki KANDY(TOWN)のメンバーも手伝ってくれたんでしょ?
Spikey そうっす、KANDYのメンバーもぞろっと来てて。
——その構図面白いっすね。Chakiさんから見て、Spikeyくんのスペシャルなところはどこだと思いますか?
Chaki 与えられた状況を10点だとして、Spikeyが撮ると15点、20点……って上がっていくんですよ。その状況をエフェクトとかは使わずに盛って見せられるし、場面の切り取り方が上手いなと思う。人によっては、フレームの中に入れた瞬間に8点とか7点とかに下がるパターンも往々にしてあると思うんですけど、Spikeyの場合は映像で見て、「その現場行ってみたいな」と思わせるモノの見方みたいなものがある。
Spikey あざっす。
——逆にSpikeyくんから見たChakiさんのスゴイところは?
Spikey なんすかね……クオリティが高いっていうのはもちろんで、安っぽくないっていうか。壮大なやつもあればシンプルなやつもあって、ドープなのもあればキャッチーなのもある。
——確かに幅広いですよね。Spikeyくんの最初の頃のビデオは、見た瞬間に“Spikeyカラー”みたいなものを映像から感じましたが、先日公開されたSKY-HIさんの“Marble”は、Spikeyくんの新たな一面を見た気がしました。
SKY-HI / Marble
Spikey あれは僕の曲のイメージを、照明を使ってシンプルにカッコよく見せる映像を撮ろうと思いました。だーちゃん(SKY-HI)もそんな感じだったので。
——今までのどちらかというとノリで作っていたものから、今回はよりチームで作り込んでいる印象を受けました。
Spikey 基本、制作チームはみんな仲の良い人たちだけでやりたくて。初めての人も現場で大抵仲良くなります。