ニューアルバム『Baby Bump』では、現行のUSのR&B、生音とエレクトロを融合したヒップホップなどとも共振するダンスミュージックを届けてくれたChara。キャリア初期からその時代ごとにクラブDJから注目される作品をコンスタントに発表してきた彼女のアップデートされ続けるセンスがここ最近の作品の中で最もジャストに反映された内容でもある。

本作のサウンドプロデュースには、長年、Chara作品に関わってきたmabanuaを始め、フレッシュなところではKai Takahashi(LUCKY TAPES)、TENDRE、Seihoらが名前を連ねる。彼らとのコラボレーションの経緯を始め、新しい音楽やアーティストと感性が共振する理由とはなんだろう。ちなみにこの取材後に入ったインフォメーションとして、後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)が主宰する音楽アワード「APPLE VINEGAR-Music Award」の選考委員も務める。

まずは4月に開催されるTOKYO FMをはじめとするJFN主催イベント<TOKYO FM&JFN present EARTH×HEART LIVE 30th Annivaersary〜SONG OF MOTHER EARTH〜>出演に際する思い、今期、出演するフェスティバルへの抱負から、デビュー27年目を迎えた今も彼女がフレッシュかつオルタナティブなアーティストであり続ける真意を紐解く。

Chara -『愛のヘブン』MUSIC VIDEO

Interview:Chara

——<EARTH×HEART>には「アースコンシャス〜地球を愛し、感じるこころ〜」というコンセプトがあり、30回目を数える今回は「SONG OF MOTHER EARTH(母なる地球をつなぐ歌)というテーマで開催されますが、Charaさんが共感する部分はどういうところですか?

まぁ、生きていたら愛しかないから。別にそんなに宗教心がなくても、お母さんになったら特に感じやすいことだと思うし、子供の未来のことも不思議と考えるようになる。散歩で通り過ぎてた道端で、コンクリートの隙間から一生懸命生えてるタンポポとかも気になるというか、そこから自分の生命力とかいろいろなことを考えると思うし。こういうイベントだと、普段音楽を愛する人だったら、生きてて当然のことを触れやすいし理解しやすいから、いいことだなと思うし。

——あまり大げさなことより日常的なことにより関心が?

そうですね。自分自身の音楽活動で世界は変えられない。中には革命家みたいなタイプの人もあり得ると思うんだけど、私はそのタイプじゃない。一人一人、たまたま私の音楽を聴いてくれるとか、このイベントで時間や音楽を共有できる仲間の方たち、足を運んでくださる方たちと触れ合うことができると、もしかしたらほんのちょっとのことなんですけど、心を燃やすお手伝い、勇気を与える仕事? 私はそっちのタイプだから。世界は変えられないけど、そういう“光”がたくさん集まると、すごく明るくなったりするから。

——確かに。

あとは全然関係ないようであるようなちょっと神様っぽい感じ——神様には会ったことないけど、自分の中の信じる心が神様なのかもしれない。なんかそういう見えないものに似てる。音楽もゼロから作って、自分の力を信じてクリエイトしていくから、全然違うわけではなくて、神秘的な感じだから、そういう共通点が少し感じられるのかなと思うけど。

——人間も自然の一部ですし。

そうそう。自分でもうわかるでしょ? っていうか、自分の中の“マザー感”じゃないけど、それが人間には大事かなと。誰に教わらなくてもわかるでしょ? そういうのかなと思いますね。

——そういう意味で男性にも母性はありますし。

変わってきてるかもね。特に日本だと育てられ方、教育でだいぶ違うのはみんなわかると思うけど、「男は男らしく」とかさ。でもよくよく考えたら、すごく繊細なお仕事とか、男性に素晴らしい才能を持った方がたくさんいたり。育ち方で圧をかけなければ、いろいろな個性があるんだろうなっていうのは思う。女の人の場合は機嫌がいいのがいいと私は思ってるから、機嫌のいい女が増えたらいいよねっていうのは思うかな(笑)。あと、昔だったらそんな遠くのことまで知らなかったけど、今ってメディアの発達で、いろいろな情報があるから大変じゃないですか。いっぱい考えなくちゃいけないけど、でもそれがストレスじゃなくて、イマジネーションっていうか、さっきの話に戻るけど自分で「わかるでしょ?」っていうことだと思うから。

——ストレスに感じるのではなく、遠いどこかの誰かのことも想像できるということですね。大きな問題も身近なことも結局繋がってるし、自分がそれに対してどう接するか? だと。

そうですね。私の場合、割と音楽的に生きてるから、一つずつ接するって今おっしゃったみたいに、「この方がいいと思うな」っていう自分のイメージがあったら諦めないんですね。そういうのってちっちゃいことでもいいんだけど、諦めないで達成するところまで決めて、信じる力を動かすというのは自分の成長——それが地球の成長というか(笑)、それに繋がるかなと思うから。どんな仕事しててもどんな人でも多分、行いとか似てると思う。と、いうのが50を超えた私の気持ちですね(笑)。

——このイベント後も今年はこれからいろんなフェスへの出演が決まっています。<GREENROOM>や<森、道、市場>、<ARABAKI ROCK FEST>と全てカラーが違いますが、何か楽しみにしてることはありますか?

あ、全部楽しみです。

——<GREENROOM>のラインナップはいいですね。

1日目はLeon Bridges(レオン・ブリッジズ)が出るから普通に見に行きたい(笑)。Tom Misch(トム・ミッシュ)は単独公演も行きますし。今年、いいですよね。

——Charaさんが出演される日はTom MischにCorinne Bailey Rae(コリーヌ・ベイリー・レイ)という素晴らしい流れが予想されます(笑)。全部楽しみということは野外フェスはお好きですか?

そうですね。時々、雨ザーザーとかあるけど、皆さんそれでも一生懸命だし笑顔で。楽器のスタッフが一番大変ですけどね。あと、会場で何か事故が起きないようにとか。でも、それは……しょうがないよね、自然だから。だからなんとなく「山の神様、すいません、お騒がせしてます」とかよく思うの(笑)。

——(笑)。大きい音出してますからね。フジロックでも苗場の山の神様もびっくりしてるんだろうなって、ちょっと感じます。

フジロックは私も毎年、割と家族旅行みたいになってる(笑)。

——お子さんが小さい時から行ってるんですか?

行ける時は行ってますね。留学でいない時とかもあるけど。下の子は去年、彼女と一緒に行ったの。

——あまり小さいお子さんだと耳によくないところもありますが。

家族で行ってる人もたくさん見かけるけど、でもそういう時にさ、お母さんやお父さんが守ってくれた、それもいい記憶だと思うんだよね。ちょっとしたことだけど、そこに出るじゃないですか、人間の「守られたな」って記憶が大事だからいいと思う(笑)。

——Charaさんが色々なライブを見に行ってらっしゃるというお話はよく聞きます。

今週も一個行く。若手とかも気になったらちらっと行くから。情報は自然と入ってきますね。「早耳でいよう」とかいう感じではないんですけど、偶然聴いただけでも気になることってあるし。昔より色々便利なものいっぱいあるし、シャザムとかで調べられるしね。あと、息子とも共有してるし、世代が違う音楽を愛してる人たちが発信してる情報も見てるし。

——20歳ぐらいの若い人たちって90年代の音楽を好きだったりしますし。

そう、好きね。なんかそんな話をちょうどKing Gnuの(常田)大希と対談で話してたんだけど、うちの息子も山下達郎さんなんかはフレッシュに感じるみたいで、弾いたり歌ったりしてる。ただ、PCとかケータイが進化してるから、それで音楽を聴くと音の構造がCDと違うから——耳の進化がそこまであるかわからないけど、音のバランスは90年代とはちょっと違う。体には悪くなさそうな気がするというか、あんまりガンガンする感じではなく、今はちっちゃいスピーカーでもバランスよく聴こえるような時代になってるから。

Charaが常にフレッシュであり続ける理由|「音楽愛」が紡ぐ、若手アーティストとの感性の共振 interview-chara-2

——そして最新作『Baby Bump』はもう去年のリリースになりましたし、ツアーも終えられましたが、今回もまた新しい座組みで、新たなサウンドプロデューサーも参加しています。mabanuaさんはもう長くご一緒されていますが。

mabanua、長い(笑)。もうほんとに長くて、彼の人気はすごいね。これもやってる、あれもやってる、映画のサントラも! びっくりしちゃう。

——mabanuaさんの日本語詞のアプローチはCharaさんの影響があると思います。

それはね、多分あると思うけど、そうすると何言ってるか60%ぐらい分かんなくなっちゃうから(笑)。彼、英語の響きが好きだから、そういうのはあるかもね。

——アルバムタイトルが『Blurred』=曖昧でしたから。

そうだよね。

——今作にはLUCKY TAPESの高橋海さんやTENDREさんがサウンドプロデュースで参加していますが、その経緯は?

常に若手の人は色々な方面からチェックをしていて(笑)。ライブ行ったり。あと、人柄もありますし、仕事でただお願いするというより「一緒に作りたいですね!」みたいのがある方がいいし。私が指示して「こんな感じにして」っていうのは面白みがないし、お互いに分かんない部分があってやる方が面白いから。すごくやってみたいとか、そういう気持ちとか、「あ、この人は音楽めっちゃ愛してるな」って人だったら大体できると思うんですけど。まぁもっとやりたい人もいたけど、たまたまつかまるとか、でもそれは運がいいとか、そういうことなんだろうっていうのもあるから。どうだったっけな? 海くん、どうだったっけな? 忘れちゃった(笑)。

——(笑)。

レコード会社を移籍して、担当ディレクターから、「ディスコとかCharaなりのダンスミュージックで印象の強いものをうちとしてはやってほしい」ってリクエストがあったから。私もともとそういうの大好きだから、「あ、OK〜」って感じで始まって。10曲ぐらいのボリュームってなると、「あの人と、あの人と」ってピックは自分でやって。

——今回のサウンドプロデュースなどで関わった彼らに寸評をいただきたいんですが、まずは高橋海さん。

海くんはね、『22』だっけ、あのアルバムがすごく良くて、「ちゃんとしてるな」って。しかもバンドのキーマンは彼だから。話したり色々すると、いろんな音楽すごく聴いてて。海くんはボーカルディレクションとかちゃんとしてて。「やってもらってるよ、私。言いにくいかもしれないけどどんどん言って」って言ったのね。だからちゃんとプロデュース力がある。もっとできると思う。幅の広い曲作りが色々できるなって、やってみて思った。現場で年上の先輩にビビって言わないとか、「ちょっとCharaさんの様子を見て」みたいなタイプの方もいるけど、最初から彼はプロで自分を信じる力があるなと思ったから、「あ、これはプロデューサーとして彼は成功していくかもな」って思いました。

——ではツアーメンバーとしても参加したTENDREさんは?

TENDREはちょっとシャイなのね。ただ、実際はすごいプロデュース力があるのよね。言葉で言うのが、海くんと違ってまろやかな雰囲気でやっていくから。逆になんで彼をバンマスに? って言うと言葉で言わなくても音で出すっていうようなことが理由かな。彼も今頑張ってるから、実は二人ともおんなじで成功していくと思う。

——もう一人はジャンル的には違いますけどSeihoさん。

Seiho、頑張ってるよね。ほんとに時間ない中で家に来てくれて。二人でタイ料理のデリバリーを頼んで、もぐもぐしながら(笑)。「もっとやりたいね」って昨日とかも言ってたんだよね。

——彼のような人がいると自然とみんなが楽しくなりそうです。

いやもう、社交的だけど紳士だしいい男ですよね。

——音楽性や人間性が1曲1曲に出ていて楽しめるのはそういう理由かもしれないですね。

ほんとにみんな音楽愛があるよねと思って。そうすると自分とかも、リラックスはしてると思うんです。リラックスして仕事するけど、そういう「よし、やったる!」っていう人たちが持ってるものを感じると、「私、まだできるわ」じゃないけど、もうちょっと進化できるって思える。その人たちがピュアだから。私がピュアじゃないってわけじゃないけど、そういうエネルギーの若い人といると、自分もちょっと「ピュアエネルギー」になるんで、若い世代の方が私は合ってると思うんです。

——納得です。ところでCharaさんがここ最近よく聴いている曲を3曲教えていただけますか?

アイロンがけとかするときに聴く曲があって。ちなみに私、明後日この人(Clairo)のライブ行く、初来日だから。この子の声が好き(曲は“Bubble Gum”)。

clairo – bubble gum

後は“Pure Imaginetion”って、いろんな人がカバーとか、XXX Tentacionはサンプリングしてたんだけど、このDiana Pantonのバージョンがいい。これの詞が好きでピアノの弾き語りの練習もしてる。こういうテンションの低いちょっとリラックスしたやつを片付けしながらとか、そういう時に聴いてるんだけど。

Diana Panton – Pure Imagination

あと、“Like Someone in Love”ってのがあって、これもいろんな人のバージョンがあるんだけど、Bruno Majorって人のを聴いてる。これもピアノ弾き語りの練習してて。これビョークもカバーしてたりしてて、トラディショナルな曲だけど、好きですね。この冬はほんとはクリスマスアルバム作りたかったけど、色々忙しくてできなかったから、いつか出したいなと思って。そういう曲はいっぱいある、若い人のもいっぱい聴いてる。こないだmabanuaとCharaの(プレイリストを)ファンの人に言ったら作ってくれて。

Like Someone In Love

——ツイッターで公開してましたね。そしてまたツイッターネタで恐縮ですが、おうちにプリプロルームを作るというお話が……。

あ、作った。前からあるんだけどリビングに移動したから。

——ボーカルマイクソムリエもやられるとか。

何人か集めて、ライブで使うマイクロフォンを集めて。私、ちょっと変わった声なんで、今使ってるマイクはもう廃番になっちゃって、新しいのを探してて、いろんなマイクのメーカーに問い合わせて試すっていうのをやるんです。だから何人か、若い女の子とかボーカリストを呼んで、一緒に試す、みたいな。でもこれほんとにやんないと、どっかにエンドースされてるけど、ほんとはあのマイクの方が合うとか、色々、エンジニアと音の回り込みも確認したいから。自分でやらないとなかなかやってもらえないからなんですけどね。

——音作りの場所も共有しているんですね。

六畳一間でヘッドホンでやんないとできない、それでもすごいいい音作れるけど、ずっと何十年もそれじゃなくて、こういうやり方もやったら違うものができるよっていうのは知って悪いことじゃないし。豊かに音楽と生活が密着した感じは、私がまず実践していくから前に進めるというか。だから家のプリプロルームも、将来的には若手とか使いたかったら使っていいよみたいな感じにしたいなと思ってて。夢の一つでは、キッチンで私とかミュージシャン——料理好きなミュージシャンいっぱいいるから、キッチンで賄いのおばあちゃんとして料理作ってあげて(笑)、優秀なミュージシャンの子達のレコーディングスタジオっぽく使ってもらって、時々意見言うみたいな(笑)。

——NPRのTiny Desk Concertを想像しました。

ああ、そうそう! うち、ちょっとそれ考えてるけど、色々できると思う。今、リビングの左がキッチンなの。だからもう、空とグリーンとキッチンと……だからお茶が1日に何回もできるし、とても素晴らしいの。スポンサー、誰かつけたいと思ってる。自主的にはちょっとはできるけど、続けるのには大変だから。「Tiny Desk Concertみたいのやらないの?」って若い子たちに聞くと、WONKの(荒田)洸とかやってるけど、限界があるから。もっと企業さんとかにも声をかけて協力してもらって、それで音楽を愛してる人に向けてやりたいなって、そういう話は若い子たちといるといつも出るんです。

——Charaさんの周りにいる人たちやCharaさんのキャリアを掛け合わせると実現できそうに思うので期待しています。ありがとうございました。

Charaが常にフレッシュであり続ける理由|「音楽愛」が紡ぐ、若手アーティストとの感性の共振 interview-chara-3

EVENT INFORMATION

「TOKYO FM&JFN present EARTH×HEART LIVE 2019」

2019年4月15日(月) 開場18:00 / 開演19:00
一般発売3月16日(土)
会場 TOKYO DOME CITY HALL 
出演 Chara/BONNIE PINK/MINMI

指定席 6,500円(税込・ドリンク代不要、3歳未満は膝上にて無料)  
枚数限定親子席 9,500円(保護者1名様と小学生以下のお子様1名様のペアチケット)
※ライブの利益の一部を「鎮守の森のプロジェクト」への寄付とさせていただきます

主催 TOKYO FM/JFN      
企画制作 TOKYO FM/JFN
制作協力 サンライズプロモーション東京

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Chara

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Photo by haruka yamamoto

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Interview & Text by 石角友香

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