すでにQetic誌上でアパレルブランド「UNFOLLOW」とのコラボレーション・ムービーを公開するなど、インディペンデントな音楽ユニットとしては稀有な形で、カルチャー全方位的な側面を見せているcitrusplus。未だ謎な部分も多い彼らだが、今回、初めてメンバーのヨロズユイ(Vo)、藤牧宗太郎(DJ/Key)、森惇平(VJ/Dr)にインタビューを敢行した。
“didn’t exist.” Vol.1 with『UNFOLLOW』LOOK1 “off to”
ダンサブルなフューチャーポップユニットとして、12月に3タイトルの楽曲を連続リリースするというユニークな手法をとり、続いてコンテンポラリーダンサーの水村里奈をフィーチャーしている1stシングル「fall」のミュージックビデオも配信。このビデオのディレクターは、これまで主に大手クライアントの広告を手がけてきた株式会社エレファントストーンのセクションであるフィルムメイキングチーム/メディアの「bacter」を束ねる山部哲也だ。
citrusplusメンバーから映像のメインイメージを提起し、シナリオやロケ地、カメラワークはbacterが担当するという、一つの楽曲=テーマを元にしたチームでの制作と言える新しい手法によって、アイデア一発のローコストなMVとは一線を画すクオリティを実現している。正直、ライブハウスに複数で出演する規模感の音楽ユニットがなぜこうしたクオリティを担保できるのか。citrusplusの戦略とはなんなのか。いや、もっと言えばcitrusplusとはなんなのか?
今、欲しいけれどないものは自分たちで作るしかない。しかも自分たちだけで作らなければならないわけじゃない。そのことをcitrusplusと山部哲也のクリエイティブの作り方から読み解く。
Interview:
citrusplus&山部哲也(bacter)
——まずcitrusplusとはなんぞや?というところから伺っていくんですが、DJとVJとボーカルというトリオで、あからさまに人物が特定できない、この方針はどういうところから?
藤牧 最初はスタジオでの遊びから始まってるんですけど、自分が打ち込みをやってて、彼(森)が映像をやっててというところで、そもそもバンドとしてやるというよりは、「何か作ってみたい」というところから始まったんです。だから逆に楽器を使おうという発想にならずに、パソコンとかVJ機材を使って、どこでもライブできるとか、ネットで発信できるという方向で今の形になったところはありますね。
——音楽が真ん中にあるけど、最初から見せ方を考えていたと。そこにはカルチャー的な背景があるんですか?
森 そうですね。僕がファッションが好きで、今、仕事でもファッションメディアにいるんですけど、ファッションの映像とかーーちょっと僕個人的なところになっちゃうんですけど、ファッションのスチールだったり、言葉の使い方だったりが「いいな」と思っていて。耳で聴くものなんですけど、やっぱり聴覚と視覚でいうと視覚からくるものもすごく大事かなと思って。そこでいいと思ったものを聴くっていう時代になって来てるのかなと。逆転してるような時代なんで、そうなった時に「いいな」と思って貰えるものは音だけじゃなくて、作ってる人誰かな?っていうのも僕は思うので、そこは意識してますね。
——視覚的要素も込みでcitrusplusというブランドを信用してもらう?
森 そうですね。ブランドだと思ってます。
——なるほど。歌の部分ではどうですか?いわゆるシンガーソングライターでもバンドでもないスタイルだと思うんですが。
ヨロズユイ(以下、ヨロズ) そうですね。自分があまり「歌!歌!」というような主張をするというよりは、今二人が言ったように、総合的な供給であるべきというか。需要が総合的なライフスタイルみたいなものとか、カルチャーとか、そういうものになりつつあるというか。歌に関してはその一要素だと、このユニットに関しては思っています。
——エレクトロミュージックでありつつ、すごくポップミュージックでもあり、割と歌詞がふんわり聴こえてくる曲もあれば、今回の「fall」みたいに明快に聴こえる曲もあるという。その辺はどういう割合で考えているんですか?
藤牧 ジャンルレスに行こうっていうのはあって。カルチャー系の人達に刺さるような中でジャンルレスで行くっていうのは考えていて。それぞれ好きな曲の背景も違ったりするんですね。僕は結構、歌謡曲とかポップスが好きで、で、森は……。
森 エレクトロの中でもヨーロッパのドイツとか重いテイストが好きで。だけどポップスも聴いてたりしてて、ヨロズはなんだろね? 面白いよね。
ヨロズ 多岐に渡りますね。パンクが元々好きだったりとか(笑)。それこそ演歌も好きだったりします。
——これは勝手なイメージですけど、citrusplusはタイトルがあってそこから曲ができるのかな?と思ったり。
藤牧 ああ。
森 結論から言っちゃうと実はそうじゃないです、実際の作り方は。だけど、そう感じてもらえたのはやってる者からするといいことかなと思って。そういう風に思ってもらえるようにビジュアルとかすごいこだわってたりするんですね。だけど実際はやりたい音楽をやってるんですけど。
ヨロズ 藤牧がゼロイチでトラックを生んでくれて、それを叩いて叩いて、100とか120とかにしていって、自分が言葉乗せてっていう中でいうと、おっしゃっていただいた「タイトルから考えてるんじゃないか?」っていうのは嬉しくて。いかにそれに適切なラベリングをするかっていうのが私の最後の仕事、っていうような認識でいるので。
——「surface」とか「fall」「melt」っていう物質の入った瓶が並ぶみたいな。
3人 あー
ヨロズ 嬉しい。それはまさに狙いたいところかもしれないです。
——それって例えばアパレルだと、シーズンごとのテーマや実際のプロダクトだったりするイメージなのかな?と。
森 はい。そういうことで考えると、曲ごとにグッズとかあってもいいのかなとか、そういうこともやっていきたいなと思いますね。
——今って音楽を聴くきっかけが、どこから入ってくるか選択肢や導線が多い時代じゃないですか。
藤牧 そうですね。ある程度コンセプチュアルであって、ちゃんとブランドは意識しながらも、とっつきにくいものにはしたくないと思ってて。やっぱりシーンから離れた友達も「あ、いいね」って音だったり、ライブに行きたいって思えるような、そういうところは絶対忘れないようにして行きたい。それとブランド感の両立はこれから挑戦して行きたいですね。意外とそこをやり切れてるアーティストは少ないかな?と思うので、そこで突出したいなと思ってます。
森 よく売れてから何々のブランドさんとコラボしましたっていうのは多いなと思っていて。売れてないからといって別にコラボしちゃいけないってことはなくて、その前から全然できるコラボはするべきだと思っていて。ちっちゃいからこそ少しでも波を起こしていかないといけないんだなっていう意識はあります。
藤牧 結構それはユニットの中でも刺激になりますね。「その話取って来てくれたんだ、自分も頑張らなきゃ」みたいな、そういった作用はあります。
——考えてみたら一人1部署みたいなもんですもんね。
森 (笑)。「口、耳、目」みたいな話ですけど、責任持ってクオリティを高く届けようと思ってますね。
——しばしcitrusplus概論みたいな話をお聞きしましたが、そういう風に活動してる彼らの音楽や活動の仕方を山部さんはどういう風に見てらっしゃいますか?
山部哲也(以下、山部) 最初に「fall」って曲を聴かせてもらった時に、視覚的な音楽だなっていう風に聴覚的に感じたというか。いろんな曲の音で色だったり空間みたいなものが頭に浮かぶなぁって印象を受けて。実際お会いしてそれぞれが分業されていて、現代的だなって印象は受けましたね。それこそ多様化してる現代において、ユニット内で多様な面を持ってる人たちがいるユニットなんだなと思ったので、いろんな意味で今っぽいなと。
——実際に今回の「fall」のミュージックビデオを作ることになった経緯はどういうところなんですか?
藤牧 また僕らの話になっちゃうんですけど、音楽ユニットでもあるけど、総合的な表現を担うユニットだなと思っていて。なので影の存在ではなくPRスタッフも前に出ていたり、ビデオグラファーもどんどん前に出すようなスタンスのユニットなんですね。それでビデオグラファーが映像の勉強をするために、山部さんの会社のエレファントストーンさんでアルバイトとして働いていて。その時に映像を作りたいと僕らが言った時に、ビデオグラファーが「ボスがめちゃくちゃかっこいい映像作るから」と。で、山部さんとお話しして、めっちゃセンスあるなと思ってお願いすることになりました。
——会社名の「エレファントストーン」に反応してしまいました(笑)。みなさん音楽が好きな方が多いんですか?
山部 多いです。社長がそれこそストーン・ローゼズが好きで。たまたま会社の名前何にしよう? ってことで出てきた会社名なんです。
——やはり。これまでは主に広告を?
山部 広告が多いですね。なので、今回のアプローチの仕方も、制作過程というのも曲を聴いた上であって、何度かヒアリングをしました。3回くらいしまして、「どういうイメージ?何がしたいの?」っていうのは掘り下げた上で作って行った感じですね。割と詰め方としては仕事の感覚と近かったのかなと思うんです。アプローチとしてはその中で具体的なイメージを掘り下げていって、それで出てきたのが水中だったりとか、ダンス・モデルの方の資質もあるんですけど、そういったところから作って行った感じですね。
——キーワードみたいなものはあったんですか?
森 それは逆に山部さんが導いてくれたような(笑)。
——水だったり?
森 あと暗いとか重いとかっていうようなワードはありつつみたいなところですかね。
藤牧 どちらかというと、なんか水中と踊るぐらいしかなくて、それを広げてくださって。
山部 抽象度の高い会話を拾って。
——そこであまり具体的になると制限が生まれますからね。でも不思議と歌詞の世界ともリンクしていますね。
ヨロズ 大体の解釈が共鳴するものだったので、信頼してお任せして。打ち合わせの時に「わかってくださってるなぁ」みたいな感じがすごいあって。すごい嬉しかった。
藤牧 ちなみにメンバーの僕らが聞いてもはっきりした回答返ってこないんです。
ヨロズ ああ、私のことね?
藤牧 結構、こういうことをこう考えてますよというより、世界観が強かったりするので、それを導き出して映像に落とし込めるのはすごいなと。
山部 何百回か聴かせてもらって(笑)。
ヨロズ うなされてたりして(笑)。
——(笑)。水村里奈さんが普通に夜の街の中で踊るシーンがメインですが、夜に全く人がいない時の自由さが伝わってきました。シナリオやロケ地など具体的なことは山部さんが詰めていったんですか?
山部 そうですね。ロケ地はご提案してみたいな感じで、「ここで撮ったらいいと思います」とか。カメラワークに関しては結構、こっち主導でやらせてもらってた部分があったんですけど。手持ち感というか、ドキドキ感みたいなものが出せるのかなと思って、そういう風な撮り方をしていますね。
——水村さんのコンテンポラリーダンスはアドリブなんですか?
山部 アドリブですね、完全に。もうその場で。
藤牧 すごいっす、あの迫力。
山部 演出っていうところは言ってないけど、「ここのBメロのところではこんな感情がいいかなと思います」ぐらいの話しかしてなくて、その場で踊ってくれて。すげえなぁと(笑)。
——citrusplusの皆さんから見た山部さんのクリエイティブに対する印象はいかがですか?
森 淡々と静かに撮られてたんですね。チームのメンバーの方に強く指示するわけでもなく、モデルさん、踊られてるダンサーさんにも強く言われるわけでもなく、その場の緊張感を使いつつなのか、その人たちの本来の力を出すというか。僕らも初めてだったので、他の人がどうとか比較できないんですけど、淡々と冷静にその場でいいものを映し出していくっていう印象はありました。
——撮影現場で広がって行ったことはありますか?
山部 照明や撮り方も、もっとこうしようっていうアイデアとか、そういう感じですかね。ダンスを見ながらどんどんやりたいことが広がっていったというか。あと、水の中とかも想定してたカット以外にも「あ、もっとこういうのもあったら面白いよね」というのは水村さんありきで広がって行った世界なのかなと思いますね。
——水の中なんて特に不確実性の塊じゃないですか?
藤牧 そうですよねぇ。
ヨロズ でも水がすごい似合うよね。
森 青い感じもかっこよかったし。
——水ってただの水じゃ青には見えないというか。
山部 そうなんです。その辺は難しかったところですね。
——でもクリエイティブのためのクリエイティブじゃなくて目的意識をちゃんと持ってらっしゃる感じがして。
ヨロズ 奇抜さとかじゃなく?
——はい。見たことのないもの作ろうとするとそうなりがちじゃないですか?
藤牧 一番最初ということもあるので、それこそ曲もポップス要素の王道なものを作りつつ、ちょっとエレクトロ要素を入れているように、ミュージックビデオも最初は奇を衒うっていうよりはスッて入ってくるかっこいいものがいいなとは思っていて。
——いいクリエイティブの定義ってなんだと思われますか?
山部 僕が思うのはスタートとゴールが一貫してることに対して素直だったり、その人が持ってる生き様みたいなものが出てくるのがクリエイティブだなと感じますね。その人の個性が表れてるものを表現しようとし続けることがクリエイティブだなと思います。
藤牧 見た人聴いた人の価値観を広げる、「自分こういうの好きだったんだ」って新たに気づきを与えるとか。例えば我々でいうと、音楽にそんな興味なかったけど、ファッションとかそういったクリエイティブが好きで入ってきたとか、逆に音楽好きだけどファッションだったり映像だったり、そういうところに興味持ってくれるとか、そういった気づきを与えるのもクリエイティブの一つかなと思ってたりしますね。
森 僕は瞬間的にかっこよさを伝えられるか?っていうのがすごくあるかなと思っていて。3分とか4分、楽曲はあるんですけど、3秒聴いたらもう「これはすごい」ってなるとか。今ってどんどんクリエイティブに対して接触時間が短くなってきてると思うんで、最初の3秒ぐらいでかっこいいなと思わせるような力が必要になってくるのかなと思います。だから自分たちの話でいくと、今回、ちょうどタイトルを入れていただいてるんですけど水村さんが水中に落ちていく瞬間を切り取った瞬間に、客観的に「素敵だな」と思える、そこの絵で勝負できるかどうか。それは音、言葉、写真にもあるというのがすごい大事かなと思いますね。
ヨロズ 発想が言葉よりになっちゃうんですけど、翻訳性みたいなものかな? と、自分が思いつく良いクリエイティブに関しては。自分とか消費者の人とかが、まだ名前のない感情やよく分からないモヤモヤとか、なんかわかんないけど気持ちいい、ホットスポットみたいなものがあった時に、それにはまる「あ、これが言いたかった」とか「これ、欲しかった」とかっていう、まだないところに、その言葉を与える、そういう経験を提供できるのが私は素晴らしいクリエイティブだなと思うんですね。なので、自分の潜在的な何かに対する気づきを得られるような媒体が優秀なクリエイティブかなと思います。
——連続してリリースされる3曲についてもお聞きしたいんですが3曲とも方向性が違ってて。この3曲を連続リリースする意図はどういうところですか?
藤牧 一応、今年の初めぐらいから毎月作ってて、今、13曲ぐらいあるんですけど、年内に5曲ぐらい揃えて、ユニットとしてもちゃんと体裁整えた上で来年勝負に出たいなと思ってまして、それでまず5曲出したいなって。それを出す上で普通に出すより3曲連続で、いろんなクリエイターの方にアートワークも協力してもらってるんですけど、毎回話題を出していく形でリリースしていくのが面白いかなと思ったからなんです。
——なるほど。
藤牧 その3曲っていうのは13曲の中でもライブでも人気の3曲で、1曲目の「surface」っていうのは乗りやすくてダンサブル要素もあるけどポップス要素もある、いわばcitrusplusっぽい曲かなと思ってます。2曲目の「drawing」はどっちかというとエレクトロに寄った感じで、3曲目の「melt」はチル系、それぞれ違った側面出していきたいなと思って、それを年内に出したいと思ったのが経緯です。
——そして気になる今後の山部さんとの関係はどうなっていきそうなんですか?
森 僕らの映像もそうなんですけど、周りのアーティスト、知り合いの音楽アーティストもかっこいい映像を作りたいって言ってて、「どうしよう」って僕に相談が来るぐらいなんですね。でも僕が作っちゃうと、bacterさんみたいなレベルで作れないんで、bacterさんの映像が若いアーティストの作品としていろんなところで出るようになればいいなと。
——そこがcitrusplusがメディア的でもあるところですね。
森 いい意味で僕らのユニットって、それこそクリエイティブユニットみたいな感じで動いていて、有難いことに周りで仲良くしてくれている方達の中には、デザイナーさんもいればスタイリストさんもいれば、ファッション系の方々もいる。映像を作りたいと思ってる方達がbacterさんと繋がって行って、かっこいい映像コンテンツが世の中に出ていくのはいいことだと思いますね。
ヨロズ クリエイティブユニットみたいにちょっと偉そうなこと言ってますけど、自分の解釈ではあり方としてはプラットフォーマーというか。今、我々にとって一番強いコンテンツは音楽ですけど、そこに関わってる人が出会ったりするのはすごい面白いことで。そんな関わり方で今後、色々なクリエイターさんともやっていけると面白いかなと思ってますね。
EVENT INFORMATION
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#Clamping Force
2018.12.26(水)
OPEN 19:00|CLOSE 24:00
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Entrance Door ¥2,000
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DJ XVIDEO(JUSTICE inc.)
redeyes
Qetic Crew(Yuuzirou Nakamoto & Norio Maeda)