次世代のショッピング体験ができるバーチャル空間「Cross.St 360」が2021年12月17〜27日にオープンした。
■Cross.St 360とは
新進気鋭の6ブランドが集まる次世代のショッピング空間。個性あふれる店内空間と最新テクノロジーでスキャンされた3D商品で、ブランドの世界観を演出。店内には時間帯限定のギミックや隠しコンテンツなど、さまざまな仕掛けが施され、3D空間ならではのショッピング体験をすることができる。
今回、参加したブランドは〈DISCOVERED〉、〈AYÂME〉、〈WAGAMAMA TOKYO〉、〈nori enomoto〉、〈SUBLATIONS〉、〈MIDWEST〉の6ブランド。
この新しいショッピング体験の紹介を兼ねて「Cross.St 360」の企画構想からブランドアサインまで携わるファッショニスタ・PR・クリエイティブディレクターの山田慎にインタビューを行った。彼の眼に映るファッション業界の未来とは?
Interview:
山田 慎
「便利さを全部ぶっ壊しにかかる」勢いがデジタルでの店舗体験には必要
━━フリーランスになるまでの山田慎さんの略歴について教えてください。
会社員時代は、広告代理店のマーケティング部にずっといたので、クリエイティブに関して考えられる立場ではなかったんです。クリエイティビティのある仕事がしたかったんですが、代理店だとクライアントが決まっているので、クリエイティブの幅がどうしても狭くなってしまいます。ファッションが大好きだったこともあり、自分でクライアントを取って、かつクリエイティビティのある仕事がしたいと思って独立しました。
━━フリーになってから携わって来られたブランドPRやディレクション領域における施策にはどのようなものがありますか?
主にファッションショーにおけるディレクションや、データベースに基づいたコンサルティングですね。ファッションのスケジュールは毎年一緒で、新作発表のタイミングが世界でルール付けされて決まっているので。春夏の新作は6〜9月の間に発表されますし、秋冬は1〜3月の間に発表されたりと、ある程度ルールが決まっています。
━━そういうルールの中で、コロナ禍以降新しい施策としてデジタル領域にフォーカスしていく流れが今加速してるというお話ですもんね。
加速していることには間違いないですが、多分ファッション業界って思っている以上に進んでいるようで、実はすごくトラディショナルですね。
━━今回のプロジェクト「Cross.St 360」であったり、メタバース的な仮想空間における施策をやっていかないと立ち行かない部分もでてくると感じますか?
そもそもECが加速する中で、実店舗での体験をEC上に持たせることが難しかったし、不可能に近かったんです。例えばEC上にチャット機能を入れているブランドさんや、「24時間、お問い合わせ対応します」みたいなサービスはあるんですが、例えばエルメスの実店舗で、担当の方がついてくれて勧めてくれるのと、ECのレコメンドで勧められるのって同じ提案でも全然価値が違って感じるじゃないですか? だからこそラグジュアリーブランドや歴史のあるブランドこそデジタル化が難しいんです。
━━そんな中にあっても、購買意欲をオンライン上で高めることに成功しているブランドはありますか?
「Cross.St 360」で言うと、〈nori enomoto〉はそもそも実店舗がないので、そういう視点においてもB to C施策に入り込みやすいかなと。逆を言えば、状況として店舗を持っていなかったほうがブランド側としてアプローチできるやり方が増えるのかもしれません。
ラグジュアリーブランドにおける消費者側の需要として、高額な買い物をするならお店でシャンパンでも飲みながら買いたいという気持ちもあると思っていて。それがデジタル上で別の需要に置き換えられると、ブランド側から喚起させることも難しい。そして消費者側から需要を喚起させることも同じくらい難しい。
━━そういう前提がある中で、購買意欲を高めるために必要なことはなんだと思いますか?
お客さんに対しての需要喚起をブランド側からできるかが重要だと思います。お客さんにとって、デジタルで便利なことは当たり前。だからあえてその逆を行く。
例えば、〈nori enomoto〉の施策では、購入ページに遷移するためにバーチャル空間の天井にあるパスワードを見つけなければ行けない。このように便利さを全部ぶっ壊しにかかるような需要喚起を自然にやれるブランドが強いんです。そういうところを進めていけるブランドって必ずしも多くないので、ディベロッパーとブランドがそうしたギミックを一緒に考えていける仕組みが整っていくとEC体験はファッション業界で変わってくるんじゃないかなと思います。「Cross St. 360」はそういった仕組みを提供する場として価値があったと感じています。
店舗でできない体験をEC上で実現するには
━━ECが実店舗に追従するための施策はどのようなことがあると思いますか?
元も子もないですが、実店舗以上に世界観を作り込める場所ってないんですよ。ハイブランドは表参道に何千万もかけて路面店を出して、どれだけ現場における付加価値を提案できるかということなので。そうなるとECがいかに実店舗に近づけるかみたいな文脈になると思います。
あるいはECが唯一勝てるのは、地球上ではできないことをいかにやるかということ。店舗内に花を増やすとか店舗の中で花火を打ちあげるなど、メタバースだからこそできる表現の強みはあります。けれど、結局世界観の追随・追求だと思うので、やってることは変わらない。
ただ、表現手段はEC上だと変わってくる。今まで店舗デザインをしていた人たちや若い人たちをECの運営に入れた方が面白いアイデアが出てくると思うので、最近は良い意味で循環はできる気がしています。
従来のECコンサルの方はグーグルアナリティクス(GA)を使って、いかに滞在時間と直帰率を少なくさせるのか。どの商品が一番長く見られてたかで分析をされる方がすごく多いと思うんです。でも、その視点で分析を短絡化させることは、ブランド価値の創出にはつながらない。だから、あえて「注意喚起」させる、「不便さを作る」といった価値を創出するための表現が重要になってくるのかなと。
━━実際のブランドで作り上げた世界をどうECに展開していくべきですか?
世界観を言葉や表現で作り出すことはコレクションブランドが上手だと思います。シーズン毎のコレクションによって雰囲気が左右されることが多い中で、アプローチが上手くいったブランドに〈ANREALAGE〉があります。僕はZoom接客をやる上でのフローをご提案させてもらったんですが、Zoomでは1対1でお客さんと話ができるので普段足を運ばない人も気軽に入っていけるメリットがあるんです。その結果、購買率も良いんですよ。
でも、その人が纏う雰囲気とか洋服とか、身長とか個性って対面じゃないとわからないことも多いので顧客のデータ管理ができないんです。
━━なるほど。ブランドにとっては接客した時に分かるお客さんの空気感だったり、お客さんが世界観に浸るブランド体験など、購入時のストーリー部分をいかにオンライン上で実現できるかっていうことですよね。
そうですね。各ラグジュアリーブランドはLINEを活用しながら、1対1のコミュニケーションをするなどデータを集めて、お客様がどういう人なのか1人ずつ作っていくことを本当に四苦八苦しながらやってると思うんです。デジタルで見えづらい、対面での情報量がデジタル接客、メタバースの今後の課題になってくると思います。
━━ファッションブランドがインスタグラムのIGTVでアイテムを紹介するコミュニケーションがスタンダードになっていったり、着回しの提案をする場所にオンラインが使われたりすることは増えてきそうですか。
それもD2Cが強いんですよ。コレクションブランドのIGTVの使い方って、コレクションムービーをIGTV用に編集したり、リール用に編集したものを投稿することが多い。
D2Cだと着回しや商品にフォーカスしたり、質疑応答をしたりしています。ただ、こういうスタンスは5年単位で新しいものが出ては消えていくと僕は思っています。新しいものがどんどん出てくる世界観のものと、クラシックな世界観の提案の二極化にはなるかもしれないですね。
━━いずれにしてもメタバースの活用は体験としてのクオリティをいかに上げるのかだと思ってしまいますね。
今は誰かと一緒にショッピングしようとなっても、デジタル上では難しいじゃないですか。だから人と会えなくなる中で「一緒にブラブラしてみる?」みたいなことがメタバースを活用しながら気軽にやれるようになると面白いと思います。メタバースとECサイトの架け橋として新たな価値が付け加えられる未来に期待したいですね。
Cross. St 360
Text:Hiroyoshi Tomite
Photo:Kohichi Ogasahara
INFORMATION
Cross.St 360
Cross.St 360は、新進気鋭の6ブランドが集まる次世代のショッピング空間です。
個性溢れる店内空間と、最新テクノロジーでスキャンされた3D商品で、
ブランドの世界観を演出します。
店内には、時間帯限定のギミックや隠しコンテンツなどさまざまな仕掛けも。3D空間ならではのショッピング体験をお楽しみください。