山並んでいる洋服の中からお気に入りの一着を手に取って、わくわくした気持ちでフィッティングルームに向かう。ところが袖を通してみると、なんだかアンバランス。鏡に映った自分の姿を確認しなければ、正面以外の後ろ姿や肩周りがどう見えているのかまでは分からない。そこではじめて気付くのだ。自分に似合う洋服とかっこいい洋服は違うということに。

「好き」と「かっこいい」は違う。それは音楽にも同じことが言えると思う。時代の最先端の音楽をかっこいいと感じても、僕らが本当に好きなものは別のところにあったりする。いろいろなことを試していく中でそれに気付き、素直に好きなことと向き合いたくなる、とCurly Giraffeはインタビューの中で語ってくれている。

Curly Giraffeは元GREAT3のベーシスト、高桑圭によるソロプロジェクトだ。今でこそ180cmを優に超える長身にハットという出で立ちを思い浮かべるが、2005年のデビュー当初は、プロフィール文はおろかアーティスト写真すら公表されていなかった。日本人か外国人なのかも分からない、その得体の知れないアーティスト像は不気味だったけれども、彼が歌い紡ぐ音楽は本当に心地よいものばかり。自身の好みでもある70年代の王道ポップスなどから影響を受けてきた、何年聴いても色褪せないエヴァーグリーンな手触りは、1stアルバム『Curly Giraffe』から6枚目の最新作『Fancy』(2014年8月6日[水]リリース)まで一貫としている。さりげないのに強烈な個性を感じる、素晴らしいポップスである。

本当に自分の好きなものだけを突き詰めようとする、そのぶれない音楽性はどのようにして獲得できたものなのか。Curly Giraffeは自身の紆余曲折を踏まえた経験談を話してくれた。沢山の寄り道をしてきたからこそ辿り着いた真っ直ぐな球は、彼にしか投げられない。

Curly Giraffe – “Fake Engagement Ring”(『Fancy』)

Interview:Curly Giraffe

【インタビュー】Curly Giraffeが語る紆余曲折―自分らしさを濃く表現すれば、それが個性と新しさになる intervie140804_culrygiraffe__07851

––––Qetic初登場ということで、基本的なところから聞かせてもらえればと思います。まずは個人的な話なんですが、僕はCurly Giraffeの1stアルバム(『Curly Giraffe』)を洋楽だと思い込んで買ったんですね。僕みたいなリスナーは他にも沢山いると思っていて。

1stのときはプロフィールもアーティスト写真も無かったから、尚更そう思って買ってくれた人が相当いたみたいで。それこそ、解散してしまったriddim saunterの古川太一くんがHi-STANDARDのツネちゃん(恒岡章)に、日本に呼びたいバンドがいると話したときに、太一くんは「Curly Giraffeっていうんですけど、日本に呼べますかねー」と言っていたらしく。そしたらツネちゃんが「友達だよ」って返したら、太一くんはものすごく驚いたという話もあるくらいですよ(笑)。

––––僕もまさにその一人です(笑)。そもそも匿名のミュージシャンとして、ご自身を一歩二歩と後ろに退く形で活動しようと思った理由を教えてもらえますか?

僕はGREAT3というバンドに在籍していたんですけど、Curly Giraffeを始めるにあたって、当初はソロ自体を始めるつもりすらなかったんです。僕自身、趣味が作曲というぐらいに暇を見つけては曲を作り続けていて、世に出ていない未発表曲がものすごく溜まっていたんですよ。ただ、そのときはGREAT3のメンバーだったので、バンド用にと思って作っていた曲も沢山あったんですけど、そうではない曲も同じくらいにあって。それで、インディーズ時代のレーベルの人に会ったときに、「ソロみたいなことをやってみない?」と言われて、全然そんな気持ちはなかったけど、曲は沢山あるということは話したんです。「ちょっと聞かせてよ」と言われたもんだから、30曲くらい集めて聴かせたんです。そしたら、その人が気に入ってくれて。

––––そこからCurly Giraffeとしての活動が始まっていくんですね。

けれども、仮歌で歌詞も全然出来ていなくて、僕の場合は全部のデモがニセモノ英語みたいな感じに歌が軽く入っているんですよ。日本語で歌うという選択肢もあったけれども、そもそも僕は洋楽しか聴かないので、このまま英語の歌詞がいいなと思って録り始めたんです。なおかつ、もともと僕はグラフィックデザイナーだったので、自分でジャケットを作ろうと思っていたから、それこそ70年代の隠れた名盤が再発されたみたいな感じのデザインにしようと思って。そういったコンセプトを考えていくうちに、日本人だということも除外して作品を出したら面白そうだなと。なので、Curly Giraffeは悪戯心から始めたというか。それがプロフィールを無くすという設定の所以ですね。

【インタビュー】Curly Giraffeが語る紆余曲折―自分らしさを濃く表現すれば、それが個性と新しさになる intervie140804_culrygiraffe__0668

––––なるほど。ぼやけていたCurly Giraffe像をはっきりと出していくようになった心変わりとしては何が大きかったんですか?

もともとCurly Giraffeはアルバム1枚で終わる予定だったんですよ、思い出作りというか(笑)。活動するという発想がなかったから、ライブをやろうという気持ちもなかった。1枚目はとにかくバンドで演奏するという想定もなしに作っていたので、それこそ打ち込みもあれば生っぽい曲もあるというバラバラな感じになっていて。アルバム1枚で終了のつもりだったから、アルバムタイトルもずばり『Curly Giraffe』だったっていう。

––––そうだったんですか。でも、1枚目の反応ってめちゃくちゃ良かったですよね。

思いのほかね(笑)。そこからライブをやったほうがいいのかなと思うようになって。すごく他力本願だけど、求められているならば、もっとやろうかなという感じでした。

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