レーベル契約前にも関わらず米人気テレビ番組「デイヴィッド・レターマン」に出演! さらに<FUJI ROCK FESTIVAL’13(以下:フジロック’13)>にも出演することが決定し、今世界中から大注目されていると言っても過言で無い新人、ドーター。その最新作『イフ・ユー・リーヴ』が3月27日(水)にリリースされ、英国の老舗インディーレーベル〈4AD〉から堂々のデビューを飾った。
3ピース・バンド、ドーターは、ロンドンを拠点に弾き語りのシンガー・ソングライターとして音楽活動をスタートさせたエレナ・トンラのソロ・ユニットとして始まった。エレナを支えるもう一人の重要人物がギターのイゴール・ヒーフェリ。大学在学中に意気投合した彼らがデュオをはじめ、そこでサポートドラムをしていたレミ・アギレラが加わって、結成されたのがドーター。音楽を制作する上で良きパートナーである、エレナとイゴールは、実際に恋人同士でもあるんだとか。
本作はメンバーのイゴールの他にロディ・マクドナルド(アデル、ザ・エックス・エックス)、ジョリヨン・ヴォーン・トーマス(マップス)がプロダクションを担当、ミックスケン・トーマス(シガー・ロス、M83)が手掛けている。マスタリングにはアビイ・ロードのエンジニア、ジェフ・ペスケ(コールドプレイ、ブラー)を起用しオリジナル・サウンドが完成。
Qeticではこのバンドの司令塔であるエレナ・トンラにインタビューを敢行。最新作『イフ・ユー・リーヴ』のコンセプトとともに、<フジロック’13>の意気込み、彼女の幼少期等、多岐に渡る質問から、ドーターと言うバンドの隠された魅力に迫る。
Interview:Elena Tonra(Daughter)
Daughter-“Still”
――Daughterと言うバンド名は、『The Wild Youth EP』、『His Young Heart EP』に写っている幼いころのエレナのような「娘」からインスピレーションを受けているのかなと感じたのですが、実際のバンド名の由来を教えてください。
ただ単にその言葉が気に入って付けたの。色々な受け取り方が出来る言葉っていうか、意味合いとしてはフェミニンな感じがするけど、ミステリアスな雰囲気もあって、そのうえスペルを見ると子音だらけで強そうな単語でもあるし、実際に発音してみてもなんだか堅くて重々しい感じ。でも、「娘」って守る対象っていう脆さも感じさせるから、なんだか音から受ける印象と実際に言葉から連想するイメージが真逆じゃない? だから、すごくオープンな意味を持った言葉だと思う。あと、私達はバンドであって、私だけのプロジェクトじゃないから、自分の名前とかは使いたくなかったの。あのEPのカバーに使っている写真も私自身の恥ずかしい子供時代の写真なんだけどね(笑)。
――でもどちらもとっても可愛い写真ですよね!
そう、いい写真だと思うんだけど、私が写真を勝手に使ったから兄は「どうしてあの写真を使ったの?!」って怒ってたわ(笑)。実家で昔の家族写真から見つけた写真だから、すごく家族感があるっていうか、ある種の守られている安心感みたいなものがあって、それが初めて音楽をリリースする事とバランスをとっているような面も感じていて。私とイゴールとレミで一緒に楽しく音楽を作ってみて、その時点では誰がそれを聴いてくれるのか、好きになってくれるのかすら分かっていなかったけど、それをリリースして、いわば未知の世界に送り出すときに、そこに親しみのある写真を載せることでどこか安心感が生まれたの。それにバンドの名前だけじゃなくて、EPのタイトルもどちらもアートワークと関連してるわ。
――そうなんですね。どちらも…特に『The Wild Youth EP』のジャケットを見ると、幼いころのエレナは外で元気に遊んでいるわんぱく少女のような雰囲気が伺えますが、幼いころからも作曲活動をしていましたか?
いいえ、私子供の頃はすごくシャイだったの・・・(声が小さくなる)。いや、今もまだシャイなんだけど・・・でも歌うのは好きだったの。おじいちゃんがよく歌っていたから、一緒に歌っていたわ。まだ小さくて自分の歌もなかったから、歌っていたのは幼稚園や小学校で習った歌とかだったけど。あと、誰かがこっちを向いている間は恥ずかしくて歌えなかったから、歌うときには部屋にいる人皆に後ろを向いてもらっていたの(笑)。でも、その頃は音楽よりも、絵を描いたりする方が好きだったな。人の絵を描くのが好きで、よく部屋中を回ってみんなの絵を描いていたわ。その頃から創作・・・というか作ることは好きだったんだけど、曲を書き始めたのは10代になってからね。
――幼いころはどんな音楽を聞いていましたか?
両親がニール・ヤングやボブ・ディランが好きでよく聴いていたから、音楽を聴く環境は子供の頃から恵まれていたと思う。学校の他の子たちが皆ポップ・ミュージックばっかり聴いている中で、その子達の誰も知らないような古いロックを聴いて育っていたの。だから今もニール・ヤングを聴く度にお父さんがレコードを聴いていたことを思い出して懐かしくなるわ。
――最新作『イフ・ユー・リーヴ』はサウンド的にはフォークだけでなく、エレクトロやアンビエントな要素も感じられました。そこにエレナの憂いを秘めた歌声と、冬の外気ようにピンと張りつめた綺麗なアコースティックギターの音が絡み合って、とても魅力的な作品になっていると思いました。本作を制作するうえでテーマやコンセプトはありましたか? また制作中のエピソードなどがあれば教えてください。
はっきりしたコンセプトっていうものはないんだけど、歌詞の中にテーマがあるわ。歌詞の中には「死」に対する興味や示唆みたいなものが沢山出てくるの。少しダークではあるけど、必ずしも陰鬱な意味ではなくて、死というものに対する純粋な好奇心ね。死んだ後に何が起きるか、私たちの精神はどうなってしまうのか、誰も答えを知らない訳だから、無限に想像して曲が書けるテーマなの。その他にも、人間同士の繋がりや、人々やそれぞれの状況の観察についての曲もあって、「人間」についてのアルバムでもあるわね。「生」と「死」両方を理解しようとしていて、去年あたりに私が色々と考えていたことの集大成みたいなものかもしれない。
サウンド面で言えば、私達全員エレクトロニックな音に興味を持っていたから、それを上手く元々の私達の音に織り込もうとしたわ。それはEPの時点でも既に少しずつ始めてはいたんだけど、本格的にやったのはこのアルバムになってからね。まだまだそういう方面への興味はあるし、もっとエレクトロニックなものにすることも出来たと思うけど、まずは元々の曲に合ったアレンジっていうものが大事だから、バランスを取ったの。でも全体的には、あんまり深く考え過ぎる時間がなかったっていうか、色々とアイデアが出てきて「これもやってみよう、あれもやってみよう」って感じで進めていったから、自然と生まれてきたテーマはあっても、具体的に計画されたコンセプトみたいなものはなかったわ。
――作品の中で、特に思い入れのある曲はありますか?
うーん、難しい質問ね。個人的には、“Lifeforms”に思い入れがあるかな。それまで扱った事のないテーマについての曲なの。人が生まれる前とその儚さっていうものにずっと興味があったんだけど、ヘヴィなテーマだしそれについての曲をどう書いていいか分からなかった。でもある日ギターを弾いていてあのリフが出てきて、歌詞とメロディーも一緒に出てきたから、まずイゴールに聴かせてみたら、とても気に入ってくれたの。今はもっと色々なパートが入ってドラムやギターのボウイングとかも入っているけど、どれも曲にしっくりはまっているところが好き。
実はこの曲が完成する前、ある時スタジオを24時間通しでブッキングしてずっとぶっ続けでやっていたんだけど、私は途中でどうしても眠くなってミキシングデスクの下で1時間くらい寝ることにしたの(笑)。それで目が覚めた後に、ふと“Lifeforms”をやってみよう、と思いついて、イゴールがギターに使う弓を出してとりあえず録音ボタンを押してみた。そしたら彼があのギターパートをぱっと弾いてみせて、それがそのまま曲になったわ。ときどきある、全く計画も予期もしていなかった時に突然自然に生まれてしまったような曲なの。そういうのってエキサイティングだし、特に私達は長いスタジオ・セッションでかなりアドレナリンが出ている状態だったから、余計に「時間がかかったけどできた! すごい!」ってものすごくテンションが上がって一気に目が覚めたわ(笑)。だからサウンドの面でも、歌詞のテーマっていう部分でも、とても気に入っている曲ね。
――本作はメンバーのイゴールの他に、ザ・エックス・エックスを手掛けたロディ・マクドナルド、シガーロスを手掛けたケン・トーマスによって制作されたそうですが、実際にシガー・ロスやザ・エックス・エックスから影響を受けていますか? それ以外にも、影響を受けたアーティストがいれば教えてください。
シガー・ロスは私達全員10代の頃から好きだし、今でも彼らのアルバムをリピートで聴いて、新しく発見できることがあるわ。それにイゴールはヨンシーがやっているのと同じボウイング(チェロ等の弓を使った奏法)を使っているから、結構影響を受けていると思う。ザ・エックス・エックスも好きだし、音の間に空間があるっていうか、音と音の間に息継ぎの出来る時間的な空白がある所とかは、私達が持っている考えと通じるところがあるのかなとも思ったりする。
最初はイゴールが1人でプロデュースをしていたんだけど、ロディやケン、それにケンの息子のジュリアンも参加してくれて、彼らみたいな経験も知識も豊富な人達が外側からの意見やアドバイスを持ち込んでガイドしてくれたことで、イゴールも沢山学ぶことができてとても良かったわ。他に影響を受けたアーティストは…うーん、レディオヘッドはイゴールも私も好きだし、プロダクションの面でも影響を受けているかもしれないわね。
――本作を楽しみにしているファンに向けて、あなた達がお勧めする作品の楽しみ方を教えてください!
うーん…そうね、ちょっと悲しい感じのするアルバムだし、かなり隔離された環境で作られたものだから、多分一人で聴くとか(笑)。でも他の人と一緒に聴くのも悪くないと思うけど・・・私自身は旅行中や移動中に電車とかで音楽を聴くのが好きだから、そういう風に旅の道中にヘッドホンで聴いてもらうのもいいかもしれないわ。それか暗い部屋で聴くとか?(笑) でもとにかく、聴く人がそれぞれに曲から感じられるものを見つけて、曲が語りかけてくるような感覚を持ってもらえるといいなと思う。他の人たちが聴いて、「この感覚分かるな」とか思ってもらえたら嬉しいな。私達は悲しげな音楽ばっかり作っちゃうから、ライヴでやるときも、楽しげなディスコ・ミュージックとかとは違って皆がダンスしたり楽しんでるっていうことが一見して分かりにくいことが多いんだけど、観ていた人が終わった後で話しかけてくれて「この曲にすごく共感した」とか言ってもらえるのってすごく素敵なことなの。そうすると、そういうことを考えていたのが私だけじゃない、私の気がふれている訳じゃないんだ、って感じられるから(笑)。一種のセラピーみたいなものね。でも、聴いてもらえるだけで嬉しいしどこでも聴いてもらいたいわ!