ーーD[diː]さんはダーシーに会わずして、この絵本でダーシーの絵を描き上げたわけですけど、実際に絵になったダーシーをご覧になっていかがでしたか?
塚本 他の絵を拝見していても、動物の優しい表情を描く方だということはわかっていたので、ダーシーが僕の手の上で眠そうな顔している写真をD[diː]さんに描いてもらったらどうなるんだろうって思っていたんです。なので描かれたものを見て、本当に素晴らしくて。そういう期待通りの部分と、写真の並べ方とかも自分自身のイメージを超えて伝わるような構成になっているのが驚きでした。
D[diː] 未公開の写真は、かなり限られていたのでその中から構成しなくちゃいけなくて。でも、苦労は全然しなかったです。塚本さんとダーシーの写真を見ていたら、勝手に転がっていった感じです。
塚本 僕の友達がストーリーに登場して、ダーシーにすごく嫌われていたのは面白かったです。
D[diː] そうそう。飼い主のことが好きすぎて、他のもの全てが邪魔に思えちゃうんじゃないかなって。ダーシーは。でも、塚本さんとダーシーが持っていた世界観が壊れちゃわないかっていうのが一番心配でした。
ーーこの絵本にはいろいろなタッチで描かれたダーシーが収められていますよね、一つの作品の中でたくさんのスタイルを用いたのはなぜですか?
D[diː] 私がどんなにうまく描いても、実物の可愛さとか写真の良さにはかなわないんですよ。どうせ勝てるわけがないから、だったらいろんなタッチで描くことで違う一面を見せてあげられたらなって思ったんです。とにかく、可愛くって、見ている側が癒される、ダーシーの一番いいところを描きたかったんですね。
ーー絵本の中では文章に英語と日本語の対訳を載せられていますが、これはなぜですか?
D[diː] Instagramのダーシーアカウントには、海外からのフォロワーもすごく多いのが特徴で。なので、せっかく作品として作るんだから、そういう海外のダーシーファンたちにも読んでもらえたらいいよねって話になって。Instagramのコメント欄を見ていても、海外のフォロワーたちが、すごく盛り上がっているから。こんなに可愛いハリネズミは、こんなこと考えていたかもしれないんだよってことを写真だけじゃなくて、ストーリーでも伝えられたら、もっとみんなダーシーが好きになっちゃうだろうな、って。
ーー作品の中には他にもD[diː]さんらしいかわいらしいタッチで描かれた動物や植物が出てきますが、これはどのようなところから着想を得たんですか?
D[diː] ダーシーはよく小物と写っていて、小物のアヒルやフクロウが飼い主以外の唯一の友達という設定で膨らませていきましたね。でも、ハリネズミは針とか描き込みが多いから腱鞘炎になりそうになりました(笑)。
ーー愛情がありすぎると、動物を作品にするのは難しいのかなと思うのですが、D[diː]さんはダーシーが塚本さんのハリネズミだからこそやりやすかった部分っていうのはありましたか?
D[diː] それはありますね。自分が飼っていたペットを描いたことはあんまりないです。
塚本 自分としては、写真でのダーシーは「オン」のダーシーだと思って撮っていたんですね。だから、普段の家にいる「オフ」のダーシーは一切見せてない。まだ有名になる前、最初の頃は「オフ」のダーシーもアカウント内で載せていたのですが途中から「オン」だけにしたので。
D[diː] だからこそ、今回の作品ではその「オフ」っぽいダーシーの姿を収めたかったんですね。塚本さんの膝の上でくつろいでいるような。そういう空気感がいいなぁと思って、他人のわたしが第三者の目で介入する事によってできることだと思うんだよね、そういうのは。プライベート丸出しになっちゃうわけだから、本人がやると気恥ずかしくなっちゃうと思うの。ていうか、自分が、ウサギを飼っていたときそうだった。
ーー塚本さんはこの本のあとがきで「ダーシーのこれから」について触れていらっしゃいましたが、もういなくなってしまった「ダーシーのこれから」って、具体的にどういうものでしょうか?
塚本 ダーシーはいなくなっちゃったけど、思い出してあげないとどんどんダーシーが生きていた時間が冷たくなってしまうような気がして嫌なんです。「今、どんな夢を見ているんだろうな」って想像してあげれば、ずっと忘れないし。こう言う絵本のような形にすれば読み返せば蘇ってくるものもありますよね。「これから」って書いたのは、ダーシーが生きるかもしれなかった長い時間を想像してあげることが大事かなと思ったからなんです。
D[diː] この本を通じて、ハリネズミに興味をもつ人がもっと増えたらいいな。ダーシーのおかげで増えてきたとは言っても、まだまだハムスターとかに比べたら市民権はないわけだし。こういう何考えているかわからないような難しい生き物は、分かり合えた……「かもしれない」みたいな瞬間がすごい喜びなんですよ。ある意味、とんでもなく「ツンデレ」なわけ。何を考えているのかわからない……でも、あるときふっと甘えてきたとか、萌えるでしょ。普通に。それって人間関係を築く上でもよくあることだし。
あとは、塚本さんにもっともっと好かれたいと願う健気なダーシーの可愛らしさに触れて欲しいなって思います。きっとあなたのおうちにいるペットもダーシーのように飼い主さんのことを想っているはずだから。
interviewed by Jin Otabe
photo by Koichi Ogasawara
撮影協力:珈琲とお菓子「き」
※通常はペットをつれての入店はご遠慮いただいております。今回は特別に許可を得て撮影しています。
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