「2020年に“猫”の大ヒットを経て、一気に知名度を上げたロックバンド」というのが、多くの人が持つDISH//へのイメージではないだろうか。もちろん、それも間違いではないが、彼らの魅力の一端にすぎないと強く念を押したい。なぜならDISH//は、どんな音楽も自分たち色に調理して、盛りつけて魅せるスーパーなお皿だから。昨今では自分たちで作詞作曲を手掛ける場面も増え、より一層メンバーの個性が伝わる楽曲も増えてきている。

そんな彼らが7月14日にシングル“プランA”をリリースした。TVアニメ『逃げ上手の若君』のオープニングテーマとして書き下ろされ、作品の世界観を反映した和テイストなロックナンバーは、“猫”や“沈丁花”の印象が強いリスナーには新鮮に映るかもしれない。しかしながら、これも紛うことなきDISH//の一面。なんなら、メンバーに言わせると「懐かしい」という印象すらあるという。

今回のインタビューでは新作の“プランA”についてだけでなく、先日まで行われていた<DISH// HALL TOUR 2024「GARDEN」>や昨今のフェス出演についても語ってもらった。ここからさらに面白くなっていく予感しかないロックバンドの片鱗を感じ取っていただけたら幸いだ。

INTERVIEW
DISH//

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泉大智(Dr), 北村匠海(Vo/Gt) , 橘柊生(DJ/Key), 矢部昌暉(Cho/Gt)

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楽曲に水を上げて育てる2024年の夏

──先日まで行われていた全国ツアー『DISH// HALL TOUR 2024「GARDEN」』は「今までライブでやれてこなかった楽曲に改めて水をやって育てよう」というテーマでした。そもそも、なぜこのようなテーマになったのでしょうか。

北村:「ここでいっちょライブのプロットを全部壊して、育てたいものを育てて、ライブを広げよう」と思ったんです。僕らが10代のときって持ち曲が5曲くらいしかないから、1回30分のフリーライブをその5曲で回していたんですよね。すると、コールが生まれたりして、その5曲はライブでどんどん完成されていって。それしかやってないから、当たり前っちゃ当たり前なんですけど(笑)。それが今では、持ち曲が150曲くらいあるんですよ。でも、1回のライブやれるのは20曲前後になってしまうし、残りの100曲以上はやらないわけで。しかも、毎年コンスタントに楽曲を出していて、なおかつ昔のように毎週ライブをやれるわけでもないとなると、1曲あたりの演奏できる機会ってすごく少ない。それに、「聴く人によっては新曲だよな」っていう曲だと、一体感を得るのが難しくなってしまう。初めてライブへ行く人にとっては全部が新曲だとは思うんですけど、今後は「楽曲をどうやって育てていくか」という悩みの連続なのではないかと感じているんです。

──セットリストを決めるうえで、どのようなことを意識しましたか。

北村:自分たちが「今後ライブでやりたいよね」とか「ステージでの正解を見いだせていないよね」と思っている楽曲を中心に選んでいきました。セットリストに“猫”をいれなかったのも、爆発力がある曲を改めてライブというナマモノで育てていこうという想いがあったからなんです。『THE FISRT TAKE』以降からの4年間で、ここまで連れてきてくれたので、いったんここで“猫”には休憩していただこうと。なので、ライブの方向性としては、いつもとは全然違うものだったと思います。“朝、月面も笑っている”や“プランA”のリリースはあったけど、そこに重点を置くわけではなかったですし、かなり自由度が高かったですね。アルバムやシングルを引っ提げたツアーだと、収録曲をすごく大事にして曲順を決めますが、今回はそういった縛りもなかったですし。

──みなさんにとって『DISH// HALL TOUR 2024「GARDEN」』は、どのようなツアーでしたか。

北村:ツアーって毎度有意義なものだし、ゴールの感情としてはどのライブも同じなのかもしれないんですけど、今回は「今までライブでやれてこなかった楽曲に改めて水をやって育てよう」みたいなツアーだったので、僕らとライブ会場に来てくれる人たちの目的がひとつになっていて。いつもとライブ後の感情というか、余韻が違ったんだろうなって思います。

:「GARDEN」という名前の通り、すごく水やりができていたと思うし、コンセプトがちゃんとお客さんにも浸透していたように感じました。俺ら、セットリストを作る段階でツアーのタイトルやテーマを決めるんですけど、お客さんには明確に伝えないことが多くて。「自由に楽しんでください」や「あなたの感じるように」ってなりがちなんですが、「GARDEN」に関しては「楽曲に水をやり、育てる」っていうテーマが共有できていたなと。ライブ翌日のラジオにも、「水やり行きました!」みたいなメッセージがいっぱい来ていたんですよ。メンバーも、観てくれている方たちも同じ気持ちでライブを作れたのが、今回のツアーのいいところでしたね。

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北村:エンタメって娯楽だし、ライブで目の前の人に言葉や歌を届けて、「受け取ってくれた人たちの未来がちょっとでも明るくなればいいな」って思いながら活動しているんですけど、今回は僕らから何かを与えるだけでなく、一緒に曲たちへ水を与えることができました。ある意味、いつもとは目標が違うツアーだったので、ツアーをする意味が最後までずーっとあったなと。普段とは違う達成感があると同時に「この先の自分たちのライブが、こう変化していくぞ!」っていう道標にもなるツアーでした。DISH//っていう名前に立ち返った感じもあったし。

矢部:そうだね。

北村:僕らってお皿(dish)じゃないですか。お皿ってそれだけだと機能としては何もない、ただのオブジェクトでしかないんですけど、食材があってこそ成り立つことができる。だから、楽曲に水をやれてよかったなって。昔は「グループ名がダサい」ってブーブー言ってた時期もあったんですけど、もはや「DISH//という名前でよかった」とすら思いますから(笑)。

──ライブという点では、昨今のDISH//はフェスの常連といっても過言ではない存在になってきていますよね。ご自身では、どのように感じていますか。

北村:お客さんとしてフェスというものが昔から大好きだったので、出る側になるのはすごく嬉しいですし、「このフェスに出られんの!」っていう感動が毎回あります。いい意味で緊張感がなく、力を抜いてやれているかな。僕らってショッピングモールでのフリーライブあがりなので、自分たちを知らない人がたくさんいる環境は得意というか。すごく楽しいんですよね。

それに、ある意味での度胸がついたのかなとは思います。フェスはリハが極端に短いので、最初の頃は環境づくりが下手くそすぎて。盛り上がってはいたけど俺らの耳中がやばかった、みたいなことも結構あったんです。でも、どんな環境でも意外とやれちゃうバンドになったというか。

矢部:本当にフェスは自由にできる感じがする。どちらかというとワンマンライブのほうが、「やるぞ!」という感じになるというか。

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北村:選曲もワンマンライブとは、全く違ってきますよね。みんなが知ってくれているであろう曲たちで構成しつつ、遊びをいれてみたりとか。今年は「フェスでも遊ぼう」というタイミングだったので、今までとはちょっと違うセトリなんですけど、初めて観る人に「DISH//のライブって楽しい!」っていうのが伝わるようには常に考えています。

──フェスに出るうえでのこだわりってありますか。

北村:みなまで見せないっていうのは、あるかもしれないですね。余白がすごくあるというか。言い方はアレかもしれないですけど、「ただのロックバンド」みたいな印象をもってもらったほうが、俺らとしては逆に美味しいなって。それで、ワンマンライブに来て「なんじゃこりゃ!」って思ってもらいたい。だから、みなまで見せないし、フェスバンド然としたアーティストの感じを、ボーカルとしてすごく意識しています。

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「DISH//のロックってこれだよね」を確認できた“プランA”

──続いて“プランA”についてもお伺いさせてください。今作はTVアニメ『逃げ上手の若君』のオープニングテーマとして依頼があり、制作された作品だそうですね。

北村:最近はずっと(橘)柊生と(泉)大智がふたりで共作曲をやっていて。“プランA”は『逃げ上手の若君』からオファーをいただき、改めてふたりがいろいろ作り始めたなかの1曲って感じでした。

:うちで「どうする、どうする」って言いながら、1から作りあげていくんですよ。テンポだったりドラムのパターンだったりを「こうしてく?」って話し合って。

北村:アニメサイドから提示されたリファレンスが“勝手にMY SOUL”だったので、僕らとしてはちょっと懐かしい感じもするというか。“勝手にMY SOUL “って、僕らが19歳くらいのときにアニメ『銀魂』『銀魂』銀ノ魂篇の主題歌をやったときの楽曲なんです。だから“プランA”を作っている時は「DISH//のロックってこれだよね」って立ち返ったような感覚でした。“猫”の印象からは、けっこうかけ離れているから、人によっては新しく感じるかもしれないですね。

勝手にMY SOUL (in 2022)

──楽曲を作るうえで、どのようなことを意識しましたか。

:リファレンスとしてあがった“勝手にMY SOUL”は、今回アレンジで関わってくださった新井(弘毅)さんが作った曲なので、新井さんの作る曲の空気感をイメージしながら作っていきました。それと、和のテイストを大事にしました。

:和っていうところと、コメディ要素。あとは、主人公がずっと走り回っているので、疾走感。どこかお祭り感があるというか。和・コメディ要素・疾走感を意識しながら作りました。

──歌詞では、どのようなことを意識しましたか。

北村:ギミック的なことでいうと、歴史に巻き起こる匂いを感じさせたりというのを意識しました。また、僕は歴史って匂いがするものというか、匂いが物語るものだとすごく思っているので、《アロマチックな歴史》とか《ドラマチックな教科書》みたいな表現にしていますね。

あとは、僕ら目線から曲に入っていくというのは、絶対にやりたくて。マンガのページをめくっていくのは僕らだから、僕らのスピードで(北条)時行(『逃げ上手の若君』の主人公)の物語は進んでいく。もちろんアニメは秒数で進んでいくけど、それでも僕らがいくらでも操作できる媒体なので。現代を生きている僕たちの目線から物語へ入っていくような構成にしました。

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「結局、生きてなきゃダメだろ」

──楽曲のメッセージ性としては、どのようなことを意識しましたか。

北村:日本に生きている僕らって、どうしても逃げるということがマイナスなイメージとして植え付けられているなと。「逃げるな、立ち向かえ」みたいなのが正義というか。そういうイメージが僕のなかにもあったし。一方で、2番の歌詞にもあるように、善悪でなく全部がそれぞれの正義であっていいとも感じていて。たとえば、大坂の陣とか断片的に見ると、攻めやられている側がなんとなく弱きものに見えるから、そっちの目線で見てしまうけど、両方に必ず正義がある。そうなったとき、物事から逃げるのは、ちゃんと正しい選択であり、プランBやCだと思うんです。何か出来事が起こったとき、最善を取るのが僕の常でもあるから。時行がそうであるように「逃げることの何が悪いんだよ」というメッセージを込めました。

矢部:『逃げ上手の若君』の良さが反映されている、第1期のオープニングに相応しい歌詞になったとすごく思いますね。

TVアニメ『逃げ上手の若君』ノンクレジットオープニングムービー|DISH//「プランA」

──『逃げ上手の若君』の要素もありながら、しっかりとDISH//感もある歌詞ですよね。

北村:『逃げ上手の若君』とDISH//で重なっている部分もあるけど、それぞれ持ち帰れるお土産があるようには意識しました。タイアップをやらせていただくうえで、作品の世界観をお借りするのはもちろんなんですが、そこから離れた自分たちのライブでは『逃げ上手の若君』のオープニングテーマでもありつつ、単なる自分たちの楽曲としても披露するわけなので。

タイアップのときも、僕は必ずDISH//としてのメッセージを入れるようにしています。それは「結局、生きてなきゃダメだろ」ということ。僕が常日頃から思っているからかもしれないんですけど、「生きる」みたいなテーマは、どの楽曲にも落としこんでいる部分でもあるので。“プランA”なら、「死ぬぐらいなら逃げろ。ヤバいと思ったら、ちゃんと逃げろ。」というメッセージです。サビにある《生きてこそだろ》や《生きなきゃダメだろ》は、「生きることに対して迷いなんてないでしょ」と思ってほしくて書いている部分もあります。最後はDISH//のメッセージとして、昇華した感じでしたね。

矢部:ここ数年、俺らは4人で話し合いながら「楽しい選択をしていこう。やりたくないことは、無理にやらなくていい」というスタンスでやってきたんですけど、そこと「逃げるが勝ち」はすごくリンクするところがあるように思いますね。

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──では最後に。今のDISH//は、どのようなモードだと思いますか。

北村:楽曲を作り続けることは変わらず、たぶん悩むんだろうなと思いますね。今までは「DISH//は、こう進んでいきたいけどできない」みたいな悩みだったんですけど、これからは「DISH//が生み出すものとして、もっといいものがあるよな」って悩むような気がしていて。僕らが今必要な楽曲ってなんなのか。DISH//としてどのようなことが求められているのか。今のDISH//のライブには、必要なものはなんなのか。僕たちが引き続きワクワクする選択をするために、どんなピースが必要なのか。より考える脳を培っていくんじゃないかな。音楽活動って自由そうに見えるし、わりと縛られずにやってきたけど、これからは、自分たちに何かを課す瞬間が来るような気がしています。なんとなく、勘ですけどね(笑)。

それに、作曲をしたり、音を作ったり、歌詞を作ったり、自分たちでクリエイティブするからこそ、立ちはだかる壁がメリメリと少しずつ上がってきてて。誰かから与えられた課題ではなく、自分自身に課すハードルがメリメリメリメリ大きくなっていて、ちょっと見上げそうになってる。ただ、それすらも楽しめる状況にいられるのが現在地なのかな。今までもそうだったけど、お互いのすごく光っている部分をきちんと言語化できている気がしていて。今までちゃんと見えていた各々の良さを、僕らも良さとして認識しながら進んでいる感じがします。だから、お互いに頼るものは頼る。より団体芸になってきた感じもあるので、楽しいですね。

──次の取材の際は、ぜひどうなったかを教えてください。

北村:そうですね。絶賛悩んでいるんじゃないですか。もしかしたら、みんなして下を向いてるかも。「あー!」とか言って(笑)。

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Interview&Text:坂井彩花
Photo:寺内 暁
Hair&Make Up:Keiji Udagawa (heliotrope)
Styling:Shinya Tokita

DISH// – プランA [Official Video]|TVアニメ「逃げ上手の若君」 オープニングテーマ

INFORMATION

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プランA

2024年7月14日(日)配信リリース
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